大陸をまたぐ通信のほぼすべてが海底ケーブルを通ることは、「海底ケーブルの総まとめ」で扱いました。その「線」は意外ともろく、しかし驚くほど人手をかけて守られています。
海底ケーブルは、漁網や錨に引っかかってよく切れます。切れたら、修理船がフックで海底からケーブルを釣り上げ、船の上でつなぎ直して海に戻します。直すのに10〜20日かかるので、最初から何本も通して『1本切れても大丈夫』にしておきます。
構造で言うと(投資家向け)も見る
障害は年150〜200件(主因は漁業/錨、浅海中心)。修理はグラプネル回収→船上融着→再敷設で10〜20日、修理船は世界約60隻と希少。MTTRが長いため、ルート多重化(複数システム)と地域保守契約が可用性設計の要です。
海底ケーブルはどれくらい切れるのか
海底ケーブルの障害は、決して珍しくありません。世界全体で年に150〜200件ほど起きているとされます(ICPC=国際ケーブル保護委員会の推計。TeleGeographyは「年100件以上」と表現)。
原因の約3分の2〜8割は、漁船の網や船の錨です。その多くは、水深200mより浅い、陸に近い海域で起きます。ほかに海底地震や土砂崩れ(混濁流)などの自然要因もあり、意図的な切断はまれです。細いケーブル(深海部で直径17〜21mm)が広い海に横たわっているのですから、人の活動とぶつかるのは避けきれません。ケーブルの構造は「日本のどこに海底ケーブルは上がっているのか」で扱っています(ICPC / Submarine Networks)。
切れたケーブルはどう直すのか
切れたケーブルの修理は、船と人の手による大がかりな作業です。手順を順に見てみましょう。
切れた海底ケーブルはどう直すのか(手順をクリック)
ケーブルのどこが切れたかを、電気的な測定で数km単位まで絞り込みます。修理船が現場海域へ向かいます(移動だけで数日かかることも)。
この図が示すこと:海底ケーブルの修理は、船がフックで釣り上げて船上でつなぎ直す地道な作業です。だからこそ、1本切れても困らないよう経路を二重化し、修理船を地域ごとに配置しておくことが欠かせません。
まず、電気的な測定で故障した場所を数km単位まで絞り込みます。次に、修理船が現場海域へ向かい(移動だけで数日かかることも)、グラプネル(錨のような形のフック)を海底へ下ろしてケーブルを引っ掛けます。深い海では、いったん切ってから片端ずつブイで浮かせて船上へ引き上げます。水深8,000mからの引き上げには1日以上かかります。
引き上げた両端は、船の作業室で(光ファイバーの断面を合わせ、放電の熱で溶かしてつなぐ)します。新しいケーブルを継ぎ足して長さを補い、試験して問題なければ海底へ戻します。全体で概ね10〜20日。1本のケーブルを直すのに、これだけの時間と手間がかかるのです(OneStepPower / Hackaday)。
修理船はどれくらいあるのか
この修理を担う専門の船は、世界に約60隻しかありません。しかも船は高齢化が進んでいます。そのため、海域ごとに保守の担当を決める「地域保守契約」で運用されています。
日本とその周辺は「横浜ゾーン」が担当で、KDDIケーブルシップの「KDDIケーブルインフィニティ」などが、24時間365日・最大50日連続で出動できる体制を取っています。誰がケーブルを作り敷設・保守するのか(メーカーと敷設船の違い)は「海底ケーブルは誰が作り、誰が持っているのか」で詳しく扱っています(KDDIケーブルシップ)。
だから「二重化」が要る
修理に10日以上かかり、修理船も限られている——だからこそ、最初から備えておくことが重要になります。同じ区間に複数のケーブルを通して経路をし、1本切れても別のケーブルで通信を維持できるようにしておくのです。
これは、陸上の通信網が網目状に二重化され自動で迂回する考え方(「なぜ日本の通信は簡単に止まらないのか」)と、まったく同じ発想です。海でも陸でも、「切れること」を前提に、止めないための備えを重ねているのです(KDDIケーブルシップ / KDDIニュースリリース)。
この記事のまとめ
- 海底ケーブルの障害は世界で年150〜200件。原因の約2/3〜8割は漁網や錨で、多くは浅い海域。
- 修理は、故障特定→グラプネルで引っ掛け→両端を船上へ引き上げ→融着接続→試験して再敷設の順。
- 深海8,000mからの引き上げは1日以上、修理全体は概ね10〜20日かかる。
- 敷設・修理船は世界で約60隻と限られ、地域ごとの保守契約で担われる(日本周辺は横浜ゾーン)。
- 修理に時間がかかるため、複数本での経路の二重化(冗長化)が通信を止めない鍵になる。
この記事のまとめ
- 海底ケーブルの障害は世界で年150〜200件。原因の約2/3〜8割は漁網や錨で、多くは浅い海域。
- 修理は、故障特定→グラプネルで引っ掛け→両端を船上へ引き上げ→融着接続→試験して再敷設の順。
- 深海8,000mからの引き上げは1日以上、修理全体は概ね10〜20日かかる。
- 敷設・修理船は世界で約60隻と限られ、地域ごとの保守契約で担われる(日本周辺は横浜ゾーン)。
- 修理に時間がかかるため、複数本での経路の二重化(冗長化)が通信を止めない鍵になる。
よくある質問(FAQ)
Q.海底ケーブルはどれくらいの頻度で切れるのですか?+
世界全体で、年に150〜200件ほどの障害が起きているとされます(ICPCの推計。TeleGeographyは『年100件以上』と表現)。原因の約3分の2〜8割は、漁船の網や船の錨によるもので、その多くは水深200mより浅い海域で発生します。地震などの自然要因もあり、意図的な切断はまれです。
Q.切れた海底ケーブルはどうやって直すのですか?+
まず故障した場所を電気的な測定で絞り込み、修理船が現場へ向かいます。グラプネルという錨型のフックを海底へ下ろしてケーブルを引っ掛け、両端を船上へ引き上げます。船の上で光ファイバーを融着接続(熱で溶かしてつなぐ)し、試験してから海底へ戻します。全体で概ね10〜20日かかります。
Q.なぜ海底ケーブルは複数本必要なのですか?+
1本が切れても通信が途絶えないようにするためです。修理には日数がかかり、修理船の数も世界で約60隻と限られています。そのため、同じ区間に複数のケーブルを通して経路を二重化し、1本切れても別のケーブルで通信を維持できるようにしておくことが欠かせません。
用語集
- 海底ケーブル/ submarine cable
- 海の底に敷かれた光ファイバーで、国際通信の大半を運ぶ。陸揚げする場所(陸揚局)の近くは通信が速い。
- 融着接続/ fusion splicing
- 2本の光ファイバーの断面を合わせ、放電の熱で溶かしてつなぐ技術。海底ケーブルの修理は船の上でこれを行う。
- 冗長化(N+1・2N)/ redundancy
- 1か所が壊れても止まらないよう、電源や設備を多めに用意しておく考え方。電気を2系統引くのもこれ。
参考資料・引用元
- 海底ケーブルの障害・修理に関する統計業界団体ICPC / Submarine Networks(2024)— 使用箇所: 海底ケーブルの障害は世界で年150〜200件(TeleGeographyは『年100件以上』)。原因の約2/3〜8割が漁業・錨で、多くは水深200m未満の浅海。意図的切断はまれhttps://www.submarinenetworks.com/en/nv/insights/statistics-on-subsea-cable-fault-and-repair
- 海底ケーブルの修理プロセス(グラプネル・船上融着)報道OneStepPower / Hackaday(2024)— 使用箇所: 修理船が故障箇所を特定し、グラプネル(錨型のフック)で海底のケーブルを引っ掛けて切断・引き上げ、船上で両端を融着接続し試験して再敷設。所要は概ね10〜20日。世界の敷設・修理船は約60隻https://www.onesteppower.com/post/subsea-cable-repair
- 海底ケーブルの保守(横浜ゾーン・KDDIケーブルシップ)一次情報KDDIケーブルシップ(KCS)(2024)— 使用箇所: KCSは横浜ゾーンを中心に保守。水深8,000mからの引き上げは1日以上を要する。KDDIケーブルインフィニティ等は24時間365日・最大50日連続運用https://www.k-kcs.co.jp/english/solution/cable_maintenance.html
- ケーブルシップ「KDDIケーブルインフィニティ」一次情報KDDIケーブルシップ / KDDIニュースリリース(2018-09-04)— 使用箇所: KDDIケーブルインフィニティ=通信・電力・観測対応の多目的敷設船。全長133.16m・幅19.6m・ケーブルタンク2,300m³・乗員83名、三菱重工下関建造・2019年就航。NEC=メーカー、KCS=敷設/保守オペレーターhttps://www.k-kcs.co.jp/cableship/cable_infinity.html
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