NECは、世界の海底ケーブルを作れる4社の一角です。フランスのASN、米国のSubCom、中国のHMNと並び、この4社で世界の海底ケーブルの約98%を製造・敷設しています。私たちが「NEC」と聞いて思い浮かべるパソコンやシステム開発の裏側で、NECは日本と世界をつなぐ通信ケーブルそのものを海の底に敷いている稀少なメーカーです。本記事ではNEC全体ではなく、海底ケーブルと通信インフラのプレーヤーとしてのNECに焦点を当て、数値・技術・競争構造で読み解きます。

海底ケーブルの全体像は「あなたの動画も会議も、宇宙ではなく海の底を通っていた」で、ケーブルを作れる企業の少なさは「海底ケーブルを作れる会社は、世界に4社しかない」で詳しく解説しています。日本でケーブルが陸に上がる場所は「日本のインターネットは、千葉と三重の2か所に集まっていた」を、通信の仕組み全体は「インターネットは、どうやってつながっているのか」を合わせて読むと、NECの役割が立体的に見えてきます。

ひとことで言うと(初心者向け)

NECはパソコンやシステム開発の会社というイメージが強いですが、実は『海底ケーブルを作れる世界4社』のひとつです。海の底に沈める通信ケーブルや、信号を増やすための装置(中継器)を自社の工場で作り、船で敷いて、切れたら直すところまでできます。日本と世界をつなぐインターネットを、目に見えない海の底で物理的に支えている会社です。

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構造で言うと(投資家向け)

NEC全体の2025年3月期連結売上収益は3兆4,234億円で、海底ケーブルが属する社会インフラは1兆1,417億円。海底ケーブル単体の売上規模は大きくないが、戦略的価値は別格である。参入障壁は、水深8,000mの水圧に耐えるケーブル本体(子会社OCC)と光中継器(NEC山梨)を国産で作り、敷設・保守まで一貫できるwet plant製造力にある。世界の供給はASN・SubCom・HMN・NECの4社で約98%を占める寡占構造で、NECはアジア太平洋に強い。競争はASN(新設の約34%)が最大手。変動要因はAI需要による新設の波・地政学・経済安全保障の追い風と、IT/SI本体に比べた事業規模の小ささ。

NECとはどんな会社か

NECとは、システム開発・運用(ITサービス)から、ネットワーク機器・海底ケーブル・航空宇宙防衛(社会インフラ)までを手がける日本のIT・ネットワークインフラ企業です。2025年3月期の連結売上収益は3兆4,234億円、調整後営業利益は2,871億円でした(日経クロステック)。

多くの人にとってNECはパソコンやシステム開発の会社ですが、本記事が焦点を当てるのはその一面、海底ケーブルです。NECは海の底に沈める(光ファイバーで大陸間を結ぶ通信ケーブル)の本体と、数千kmごとに信号を増幅する(リピータ=減衰した光信号を増幅し直す装置、海底ケーブルでは光中継器と呼ぶ)を自社で製造できる、世界でも数社しかないメーカーの一つです。

つまりNECは、ソフトやシステムだけでなく、日本と世界をつなぐ物理的な通信路そのものを作って敷ける「縦に深い」インフラ企業です。本記事は、この海底ケーブルと通信インフラの軸に焦点を当てます。

NECのセグメント別売上はどうなっているか

NECの事業は、システム開発・運用を担うITサービスと、ネットワーク機器・海底ケーブル・航空宇宙防衛などを担う社会インフラの2つが柱です。海底ケーブルは社会インフラセグメントに含まれます。2025年3月期のセグメント別の数値は次の通りです。

セグメント主な中身売上収益(2025年3月期)調整後営業利益
ITサービスシステム開発・運用、デジタル基盤、DX支援2兆332億円2,371億円
社会インフラネットワーク機器、海底ケーブル、航空宇宙・防衛など1兆1,417億円—
連結(全社)上記合算・調整後3兆4,234億円2,871億円

(出典:日経クロステック)

ここで重要なのは、海底ケーブルの位置づけです。海底ケーブルは社会インフラの一部であり、その売上は1兆円超のセグメント全体から見れば小さな比率にとどまります。NECにとって海底ケーブルは、売上規模ではなく、世界4強という稀少性と経済安全保障上の戦略価値で意味を持つ事業です。

したがって、NECを「海底ケーブルで稼ぐ会社」と見ると規模を取り違えます。収益の柱はITサービスであり、海底ケーブルは技術的・戦略的な稀少資産として理解するのが正確です。

NECの技術的な強みはどこにあるか

NECの技術的な強みは、海底ケーブルの wet plant(ウェットプラント=海に沈む側の設備一式)を国産で製造し、敷設・保守まで一貫して担える点にあります。

wet plant とは、海底に沈むケーブル本体・光中継器・分岐装置(1本のケーブルを途中で複数方向に分ける装置)をまとめた呼び名です。これに対し陸側の通信機器は dry plant と呼ばれます。NECグループでは、子会社OCC(北九州市)がケーブル本体を、NEC山梨が光中継器を製造します。OCCは日本で唯一、水深8,000mの水圧に耐える光海底ケーブルを作れる工場とされます(日経クロステック)。

海底ケーブルは、光ファイバーを海中に這わせるだけでは大陸間の距離をまかなえません。なぜなら、数千kmにわたって減衰する光信号を、海底に沈めた光中継器で繰り返し増幅する必要があるからです。この中継器は数十年間、海底で無交換で動き続ける信頼性が求められ、製造できる企業は世界でも限られます。NECはこの中継器を内製できる稀少なメーカーです。

陸に上がったケーブルは(海底ケーブルが陸の通信網につながる施設)で受けられます。NECはケーブル本体・中継器の製造から、海上での敷設、切れた際の保守までを担えるため、設計から運用までを一貫して提供できる点が、機器の一部だけを供給する企業との違いです。

サプライチェーン・インフラの中でNECはどんな役割か

NECはインフラの中で、日本の対外接続(国際通信)を物理で支える数少ない国産メーカーという役割です。

日本の国際通信トラフィックの大半は海底ケーブルが運んでおり、衛星ではなく海の底が主役です。そして世界の海底ケーブルの製造・敷設は、フランスのASN(Alcatel Submarine Networks)、米国のSubCom、中国のHMN Technologies、そしてNECの4社で約98%を占めます。NECはこの4強の一角として、特にアジア太平洋地域で強い地位を持ちます(経済産業省 METI Journal ONLINE)。

この4社しかいないという構造は、経済安全保障の観点でも重要です。日本政府は2025年5月に改訂した経済安全保障の産業・技術基盤強化アクションプランで、海底ケーブルを重要な物資・技術に追加しました。海外勢に依存せず国産で海底ケーブルを作れることは、国の通信基盤を守るうえで戦略的な意味を持ちます。

1本のケーブルが切れても通信が止まらないよう、同じ区間に複数のケーブルを通して経路を(二重化)しておく考え方は海底ケーブルでも基本です。NECはこの冗長化された世界の通信網に、ケーブルという物理的な「血管」を供給し続けています。

そして海底から陸に上がったトラフィックは、最終的に各地の(スマホと通信網をつなぐ無線設備)や(サーバーを預かり通信回線につなぐ施設)へと流れていきます。

NECの市場ポジションと競争構造はどうなっているか

NECは海底ケーブルの新設市場で世界2割超のシェアを持ち、ASN・SubCom・HMNと競合します。市場の競争構造を、5つの視点による業界構造分析で整理すると次のようになります。

力主体強さ理由
競合ASN(仏・新設の約34%で最大手)/SubCom(米)/HMN(中)高製造・敷設できるのは実質4社のみ。大型案件をこの4社が奪い合う寡占競争
買い手の交渉力通信キャリア、ハイパースケーラー(Google等)、国際コンソーシアム高発注は数少ない大口顧客に集中。大手クラウドが自前で海底ケーブルに出資し発注力が増大
供給者の交渉力光ファイバー・部材メーカー、ケーブル敷設船中部材は限られた供給網。敷設船は世界的に逼迫し、確保が制約になる
新規参入新興国メーカー、HMNの台頭中〜高wet plant製造は水深8,000m対応の技術と実績で高い障壁。一方で地政学を背景に中国HMNが攻勢
代替品衛星通信(Starlink等)、地上ルート低〜中衛星は容量・遅延で大陸間の大動脈は代替できない。海底ケーブルが主役の構図は不変

最大の論点は、AIによる通信量の爆発を背景にした新設需要を、4強の誰が取り込むかです。大手クラウド事業者が自前で海底ケーブルに投資する動きが強まるなか、NECは国産で wet plant を一貫製造できる稀少性と、地政学的に「信頼できる調達先」という立場を強みに、ASN・SubCom・HMNと競う構図です。

NECが抱える弱み・リスクは何か

最大の弱みは、海底ケーブル事業がNEC全体から見れば規模が小さい点です。収益の柱はITサービスであり、海底ケーブルが属する社会インフラ全体でも売上は1兆円超にとどまります。技術的・戦略的に稀少でも、全社業績を押し上げる規模ではありません。NEC本体のIT/SI事業の収益性が、会社全体の浮沈を左右します。

第二に、受注の波です。海底ケーブルは1件あたり数千kmの巨大プロジェクトで、そのため案件の有無によって売上が大きく振れます。大型案件を逃すと事業が一気に細る一方、AI需要で新設が増えれば追い風になります。安定した収益基盤とは性質が異なります。

第三に、地政学リスクです。海底ケーブルは経済安全保障の焦点であり、ルートの設定や陸揚げ先が各国の政治的判断に左右されます。中国HMNの台頭や、特定国を避けるルート選定の動きは、受注の地理的な偏りやコスト増につながります。海洋システム関連事業はこれまで採算面の課題も抱えてきました。

NECの最近の動向はどうか

最近のNECは、AI需要による海底ケーブルの新設増を背景に、攻めの投資と大型案件の完工を進めています。

2024年12月、NECはアジア太平洋を結ぶ総延長約10,000kmの光海底ケーブル「Asia Direct Cable(ADC)」の建設を完了し、コンソーシアムに引き渡しました。日本・中国(香港・広東)・フィリピン・シンガポール・タイ・ベトナムを結び、160Tbps(テラビット毎秒)超の伝送能力を持ちます。日本とシンガポールを直接結ぶ新設ケーブルとしては約8年ぶりです(NEC)。

さらにNECは、ケーブル本体・中継器・敷設までを「オール国産」で完結させる体制を強化し、現在2割超の世界シェアを4割近くへ引き上げる目標を掲げています。そのために5年で1,000億円超を投じ、初めて自社でケーブル敷設船を保有する方針も打ち出しました(日本経済新聞)。

NEC全体としても、2025年度(2026年3月期)通期で売上収益3兆5,827億円・調整後営業利益3,868億円と、営業利益率が初めて2桁に到達しました。ITサービスと航空宇宙・防衛が牽引するなか、海底ケーブルは規模こそ小さいものの、AI時代に通信の大動脈を握る稀少資産として重みを増しています(クラウド Watch)。

派手なAIチップやクラウドの陰で、NECは海の底に物理的な通信路を敷き続けています。AIで通信量が爆発する時代に、海底ケーブルを国産で作れる4社の一角という立場の価値は、むしろこれから増していきます。

この記事のまとめ

  • NECは海底ケーブルを作れる世界4社(ASN・SubCom・HMN・NEC)の一角で、この4社で世界の海底ケーブルの約98%を製造・敷設している。
  • NEC全体の2025年3月期連結売上収益は3兆4,234億円で、ITサービス2兆332億円・社会インフラ1兆1,417億円。海底ケーブルは社会インフラの一部に位置づけられる。
  • 技術的強みは、ケーブル本体(子会社OCC・北九州)と光中継器(NEC山梨)を国産で作り、敷設・保守まで一貫して担えるwet plant製造力にある。
  • 市場ではASN(新設の約34%で最大手)・SubCom・HMNと競合し、NECはアジア太平洋に強い。日本の対外接続と経済安全保障を物理で支える。
  • リスクはIT本体に比べた規模の小ささ・受注の波・地政学。AI需要を背景に5年で1,000億円超を投じ、世界シェア4割へ引き上げを目指す。

この記事のまとめ

  • NECは海底ケーブルを作れる世界4社(ASN・SubCom・HMN・NEC)の一角で、この4社で世界の海底ケーブルの約98%を製造・敷設している。
  • NEC全体の2025年3月期連結売上収益は3兆4,234億円で、ITサービス2兆332億円・社会インフラ1兆1,417億円。海底ケーブルは社会インフラの一部に位置づけられる。
  • 技術的強みは、ケーブル本体(子会社OCC・北九州)と光中継器(NEC山梨)を国産で作り、敷設・保守まで一貫して担えるwet plant製造力にある。
  • 市場ではASN(最大手・新設の約34%)、SubCom、HMNと競合し、NECはアジア太平洋に強い。日本の対外接続と経済安全保障を物理で支える役割を持つ。
  • リスクはIT事業に比べ規模が小さい点・地政学・受注の波。AI需要での新設増を背景に、5年で1,000億円超を投じ世界シェア4割へ引き上げを目指す。
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よくある質問(FAQ)

Q.NECは海底ケーブルでどんな存在ですか。+

NECは、海底ケーブルの本体・光中継器を製造し敷設・保守までできる世界4社(フランスのASN、米国のSubCom、中国のHMN、そしてNEC)の一角です。この4社で世界の海底ケーブルの約98%を製造・敷設しています。NECの新設システムの世界シェアは2割超で、アジア太平洋地域では特に強い地位を持ちます。子会社OCC(北九州)がケーブル本体を、NEC山梨が光中継器を製造します。

Q.wet plant(ウェットプラント)とは何ですか。+

wet plant(ウェットプラント)とは、海底に沈む側の設備一式のことです。具体的には光ファイバーを束ねたケーブル本体、信号を増幅する光中継器(リピータ)、分岐装置(ブランチングユニット)が含まれます。これに対し陸側の通信機器は dry plant と呼ばれます。水深8,000mの水圧と数千kmの距離に耐える wet plant を作れる企業は世界でも数社に限られ、NECはその一社です。

Q.NECはどんな会社ですか。海底ケーブル以外の事業は。+

NEC(日本電気)は、日本を代表するIT・ネットワークインフラ企業です。2025年3月期の連結売上収益は3兆4,234億円で、ITサービス(システム開発・運用)が2兆332億円、社会インフラ(ネットワーク機器・海底ケーブル・航空宇宙防衛など)が1兆1,417億円を占めます。海底ケーブルは社会インフラの一部で、金額は大きくありませんが、世界4強という戦略的・経済安全保障的に重要な事業です。

用語集

海底ケーブル/ submarine cable
海の底に敷かれた光ファイバーで、国際通信の大半を運ぶ。陸揚げする場所(陸揚局)の近くは通信が速い。
陸揚げ局/ cable landing station
海底ケーブルが海から陸に上がってくる場所にある施設。日本では千葉県の千倉・三重県の志摩などが代表。
中継器(リピータ)/ optical repeater
海底ケーブルの途中に数十kmおきに置かれ、弱くなった光の信号を増幅して遠くまで届ける装置。電気は陸から送る。
データセンター/ data center
大量のサーバーをまとめて置き、24時間動かし続ける施設。クラウドやAIの計算はここで行われる。
冗長化(N+1・2N)/ redundancy
1か所が壊れても止まらないよう、電源や設備を多めに用意しておく考え方。電気を2系統引くのもこれ。
基地局/ base station
スマホと電波をやり取りするアンテナ設備。担当エリア(セル)ごとに置かれ、移動すると隣の基地局へ接続が引き継がれる(ハンドオーバー)。

参考資料・引用元

  1. NECの2025年3月期は減収も36%営業増益報道
    日経クロステック(2025-04)— 使用箇所: NEC 2025年3月期 連結売上収益3兆4,234億円・調整後営業利益2,871億円
    https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/24/02459/
  2. NEC FY2025 セグメント別売上報道
    日経クロステック(2025-04)— 使用箇所: ITサービス2兆332億円・社会インフラ1兆1,417億円
    https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/24/02459/
  3. データの大動脈 海底ケーブル 日本の信頼で世界シェア拡大公的機関
    経済産業省 METI Journal ONLINE(2025)— 使用箇所: 海底ケーブル世界4強(ASN/SubCom/HMN/NEC)で約98%・NECシェア2割超
    https://journal.meti.go.jp/p/40663/
  4. 海底ケーブルはこうやってつくられる(NEC子会社OCC工場)報道
    日経クロステック(2024-10)— 使用箇所: OCC(北九州)が水深8,000m対応ケーブル・NEC山梨が光中継器を製造(wet plant国産)
    https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00138/101801138/
  5. NEC、約10,000kmの光海底ケーブルADC建設完了一次情報
    NEC(プレスリリース)(2024-12)— 使用箇所: ADC 約10,000km・6か国地域・160Tbps超・2024年12月完工
    https://jpn.nec.com/press/202412/20241219_02.html
  6. NEC、海底ケーブル「オール国産」で世界シェア4割へ報道
    日本経済新聞(2026-05)— 使用箇所: オール国産化・5年で1,000億円超投資・世界シェア2割超→4割目標・自社敷設船
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC31AGW0R30C26A3000000/
  7. NEC 2025年度連結業績 増収増益・営業利益率初の2桁報道
    クラウド Watch(2026-04)— 使用箇所: 2026年3月期 売上収益3兆5,827億円・調整後営業利益3,868億円
    https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/2105495.html

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