ルネサス エレクトロニクスは2026年9月30日、AIデータセンターの電源用に、650V級のGaN(窒化ガリウム)パワーデバイスのサンプル提供を始めました。製品名は「TP65H020G4PLSGBD」です。上下の両面から熱を逃がす8×8mmのパッケージで、従来のTOLT(10×15mm)より実装面積が57%小さく、量産は2027年半ばの予定です。

GaNが使われる電源の段と、パッケージの工夫が解決する問題は、ルネサスの発表文から読み取れます。パワー半導体の全体像は、「EVもデータセンターも、電気の“ムダ”を減らす半導体で動いている」が入口です。

ひとことで言うと(初心者向け)

サーバーに電気を送る電源の中には、電圧を下げるスイッチの半導体が入っています。ルネサスは、そのスイッチを上下の両面から冷やせる形にして、場所をとらない小さな部品にしました。AIサーバーのラックは消費電力が急に増えており、電源の部品を小さくできれば、その分だけ計算機を置く場所が空きます。ただし、価格や採用する会社は、発表にまだ出ていません。

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構造で言うと(投資家向け)

ルネサスは2026年9月30日、650V GaN(20mΩ、最大700V、8×8mm両面冷却PQFN)のサンプル提供を発表。TOLT比で実装面積57%減、上面熱抵抗10%減。6kW・800Vから48Vのリファレンス設計は2.6kW/in³。量産は2027年半ば。価格・顧客名・売上見通しは発表文に記載なし。筆者の見方では、売上への寄与は量産が始まる2027年半ば以降で、量産の実施と採用顧客の発表が次の判断材料になる。

ルネサスの新GaNは、両面冷却にして実装面積をTOLT比で57%減らした

発表文は、この製品を「業界初の両面冷却650V GaN」と位置づけています。パッケージは8×8mmのPQFN(端子を底面に並べた小型の封止形状)で、TOLT(従来の10×15mmの封止形状)より57%小さくなりました。主な仕様は次のとおりです。

項目内容
製品名TP65H020G4PLSGBD
耐圧・動作電圧650V、最大700Vで動作
オン抵抗20mΩ
パッケージ8×8mm 両面冷却PQFN
熱抵抗片面冷却の従来パッケージより、上面側で10%低い
供給時期サンプル提供中、量産は2027年半ば

オン抵抗とは、スイッチが入っているあいだの電気の通りにくさで、小さいほど発熱が減ります。20mΩは、ルネサスが650V級で最も低い水準の一つと説明している値です。EDN Japanによれば、素子は「Gen IV Plus」世代で、電源を入れた状態が標準のD-mode(ノーマリーオン)型です。

日本経済新聞も同日、ルネサスが次世代データセンター用の半導体を開発したと報じています。本文は有料のため、本稿は日経の記事の数値を使っていません。

AIデータセンターの電源では、800Vを48Vなどへ下げる段にGaNが入る

発表文が挙げる用途は、800Vの直流から48V・12V・6Vへ電圧を下げる中間バスコンバーター段です。サーバーラックの横に置く専用の電源棚、サイドカーラックの中にある2つの段も対象です。1つはバッテリーバックアップ(BBU、停電時にラックを支える蓄電池の段)、もう1つはコンデンサーバンク(CBU)の段です。

背景には、(サーバーを縦に収める棚)の消費電力の急増があります。ルネサスの公式ブログは、AIデータセンターが1ラックあたり50〜300kWで動き、翌年にも1MWを超えると書いています。従来のデータセンターは30kW程度です。

電力は電圧と電流の積なので、電圧を上げれば同じ電力を少ない電流で送れます。同じブログは、配電が415V交流から800V直流へ移りつつあると述べています。交流を直流に変える装置も、サーバーの筐体からサイドカーラックへ移ります。ラックの電力密度の推移は、「AIサーバーラックが1棚120kWになった」で扱っています。

高速で切り替えるGaNは、電源の部品を小さくできる

GaNを電源に使う利点は、スイッチの切り替えを速くできることです。ルネサスのブログによれば、GaNはMHz(毎秒100万回)の帯域で切り替えられ、シリコンは通常それより低い周波数で動きます。素子の内部にたまる電気の量(寄生容量)がシリコンより小さく、切り替えのたびに失う電気も少なくなります。

電圧を変換する電源は、コイルとコンデンサーに電気を一時的にためて動きます。切り替えが速いと、1回にためる量が少なくて済み、コイルやコンデンサーを小さくできます。ここまでは電源設計の一般的な説明です。ブログは、GaNの適所を800Vから48V、場合によっては12Vへ下げる変換段としています。

両面冷却は、小さくした素子の熱を上下に分けて逃がす

小型化には、熱の問題がついて回ります。パッケージが小さくなると、熱を逃がす面も狭くなるからです。従来の片面冷却パッケージは、上面か下面のどちらか一方から放熱します。

新製品は上下の両面から熱を逃がします。発表文は、この構造で上面側の熱抵抗(熱の伝わりにくさ。小さいほど熱が逃げやすい)を片面冷却のパッケージより10%下げたと説明しています。10%の測定条件は、本稿が確認できた範囲の発表文に書かれていません。

初心者向け
フライパンを上からも下からも水で冷やす場面を思い浮かべてください。片側だけのときより、同じ時間で多くの熱が逃げます。

この構造が解く問題を、筆者は次のように見ています。実装面積を57%減らしても、放熱の経路が上下に2本あれば、素子を高温にせずに使えます。これは発表文の範囲外の解釈で、同じ電力を扱うときの素子の温度は、発表文に出ていません。

57%という数字は、パッケージ1個の面積をTOLTと比べた値である

57%の出どころは、2つのパッケージの面積の差です。TOLTは10×15mmで150mm²、新製品は8×8mmで64mm²です。差の86mm²を150mm²で割ると約57%になります[計算:(150−64)÷150]。発表文の数字と一致します。

この57%は、素子1個の実装面積の比較です。電源全体の体積が57%縮むという意味ではありません。コイルやコンデンサー、基板が占める面積は含まれていません。

電源全体の小ささを示すのは、リファレンス設計の数値です。ルネサスが示した6kW・800Vから48Vの変換器は、電力密度が2.6kW/in³(1立方インチあたり2.6kW)で、TOLTを使う同等の設計より満載時の効率が0.21%高いとされています。0.21%が効率の差(ポイント)なのか相対値なのかは、本稿が確認できた発表文からは読み取れません。比較に使った設計の条件も、確認できていません。

GaNの技術は、ルネサスが買収したTransphormに立っている

ルネサスは、GaN企業のTransphorm(トランスフォーム)を買収し、そのSuperGaN技術をパワー事業に取り込んでいます。ブログは、この買収で、電源システム全体を組み立てて提供する力が増したと説明しています。買収の時期と金額は、今回確認した資料に出ていません。

発表文は、業界標準のPQFN配置(フットプリント)を使い、800Vの設計に向けて1社から部品を調達できる経路を示すと述べています。ルネサス全体の事業構成は、「あなたの車の中で何十個も動く“頭脳”を作る、日本の半導体大手」で分析しています。車載など制御用の半導体が中心の同社にとって、GaNは電源側の事業です。

SiCは高い電圧、GaNは高速と小型を受け持つ

パワー半導体には、GaNのほかにSiC(炭化ケイ素)もあります。「EVもデータセンターも、電気の“ムダ”を減らす半導体で動いている」は、SiCを600〜1200V以上の高耐圧・大電流に、GaNを高速スイッチングによる小型化に向くと整理しています。

EVの800V系では、一般に1200V級の耐圧が求められ、SiCが選ばれます。ロームのSiCがBMWの新世代EVに採用された経緯は、BMW新世代EVにロームのSiCで解説しています。

ここで疑問が残ります。耐圧650Vの素子を、800Vの直流を扱う段へ、どう組み込むのでしょうか。発表文は最大700Vの動作に対応すると書いていますが、800Vの段での素子の接続方法は、本稿が確認できた範囲に書かれていません。本稿はこの点を確認できていません。

今後は、量産時期と採用する顧客、そして10月のOCPでの展示を見る

サンプルは2026年9月30日に始まり、量産は2027年半ばの予定です。ルネサスの発表文によれば、この製品は10月12〜15日に米国サンノゼで開かれるOCP Global Summitで展示されます。

発表文には、価格、採用する顧客名、リファレンス設計の測定条件がありません。筆者の見方では、データセンターの電源は設計から量産まで時間がかかるため、採用の有無は2027年半ばの量産開始後の出荷から確認するのが現実的です。

読者が次に確かめる点は2つあります。1つは、OCPの展示で、顧客や電源メーカーとの共同設計が示されるかどうかです。もう1つは、0.21%の効率差の測定条件が公開されるかどうかです。

この記事のまとめ

  • ルネサスは2026年9月30日、650V GaN「TP65H020G4PLSGBD」(オン抵抗20mΩ、最大700V)のサンプル提供を始めた。
  • 8×8mmの両面冷却PQFNで、TOLT(10×15mm)より実装面積が57%小さく、上面の熱抵抗は10%下がる。
  • 用途は800V直流の中間バスコンバーター段と、サイドカーラックのBBU・CBUである。
  • 6kW・800Vから48Vのリファレンス設計は2.6kW/in³で、TOLT採用の設計より満載時効率が0.21%高い。
  • 量産は2027年半ばの予定で、価格と採用顧客は発表文にない。

この記事のまとめ

  • ルネサスは2026年9月30日、650V GaN「TP65H020G4PLSGBD」(オン抵抗20mΩ、最大700V)のサンプル提供を始めた。
  • 8×8mmの両面冷却PQFNで、TOLT(10×15mm)より実装面積が57%小さく、上面の熱抵抗は10%下がる。
  • 用途は800V直流の中間バスコンバーター段と、サイドカーラックのBBU・CBUである。
  • 6kW・800Vから48Vのリファレンス設計は、2.6kW/in³の電力密度で、TOLT採用の設計より満載時効率が0.21%高い。
  • 量産は2027年半ばの予定で、価格と採用顧客は発表文にない。
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よくある質問(FAQ)

Q.ルネサスが発表したGaNパワーデバイスは何が新しいのですか?+

650V GaNとして初めて、8×8mmのPQFNパッケージで上下の両面から熱を逃がす構造にした点です。ルネサスの発表文は、従来のTOLT(10×15mm)より実装面積が57%小さく、上面の熱抵抗は10%下がると説明しています。

Q.GaNはAIデータセンターの電源のどこに使われますか?+

発表文が挙げる用途は、800Vの直流を48V・12V・6Vへ下げる中間バスコンバーター段と、サイドカーラックのバッテリーバックアップ(BBU)・コンデンサーバンク(CBU)の段です。サイドカーラックは、電源機器をサーバーラックの外に移した専用の棚です。

Q.実装面積57%減は、電源全体が57%小さくなるという意味ですか?+

いいえ。発表文の57%は、パッケージ1個の面積を従来のTOLT(10×15mm)と比べた値です。電源全体の体積の比較ではありません。全体の比較に近いのは、リファレンス設計の2.6kW/in³(6kW・800Vから48V)という電力密度です。

Q.いつから買えるようになりますか?+

サンプルの提供は2026年9月30日に始まっています。量産は2027年半ばの予定です。価格と採用する顧客名は、発表文に書かれていません。

用語集

ラック/ server rack
サーバーを縦に積み重ねて収める棚。高さの単位は「U」(1U=約4.4cm)で、42Uサイズが一般的。
マイコン/ MCU(マイクロコントローラ)
演算・記憶・入出力を1チップにまとめた小さなコンピューター。家電・車・産業機器の「頭脳」として組み込まれる。

参考資料・引用元

  1. Renesas Unveils Industry's First 650V GaN in Dual-Side Cooled 8x8mm Package for Megawatt-Scale AI Data Centers一次情報
    ルネサス エレクトロニクス(プレスリリース、英語版)(2026-09-30)— 使用箇所: TP65H020G4PLSGBD(650V・20mΩ・最大700V・8x8mm両面冷却PQFN)、TOLT(10x15mm)比57%の実装面積減、上面熱抵抗10%低減、対象用途(800V DC/DC中間バスコンバーター段、サイドカーラックのBBU・CBU)、6kW・800V-48Vのリファレンス設計(2.6kW/in3、効率0.21%上)、サンプル提供開始・量産2027年半ば、OCP Global Summit(10/12-15)での展示、John Wiggenhorn氏のコメント(WebFetchの要約経由で確認、全文の直接確認はできていない。日本語版は特定できていない)
    https://www.renesas.com/en/about/newsroom/renesas-unveils-industrys-first-650v-gan-dual-side-cooled-8x8mm-package-megawatt-scale-ai-data
  2. When It Comes to Powering AI Data Centers, GaN Is Taking Center Stage一次情報
    ルネサス エレクトロニクス(公式ブログ、Tom Truman氏)(2026-04-02)— 使用箇所: AIラックの電力(50〜300kW、1MW超へ)、415V交流から800V直流への移行、GaNのMHz帯スイッチングによる受動部品の小型化、GaNの適所(800Vから48V・12Vへの変換段)、AC/DC変換のサイドカーラックへの移動、Transphorm買収(WebFetchの要約経由で確認)
    https://www.renesas.com/en/blogs/when-it-comes-powering-ai-data-centers-gan-taking-center-stage
  3. ルネサス、両面冷却パッケージの650V GaN発表:AIデータセンター向け報道
    EDN Japan(2026-09-30)— 使用箇所: 発表内容の日本語報道(二次報道)。D-mode(ノーマリーオン)、Gen IV Plus世代、10月のOCP Global Summit発表予定の記述を確認(WebFetchの要約経由)
    https://edn.itmedia.co.jp/edn/articles/2609/30/news097.html
  4. Renesas 650V GaN Enables High-Density 800V AI Power報道
    Power Electronics News(2026-09-30)— 使用箇所: 発表内容の英語報道(二次報道)。一次情報(プレスリリース)の数値との照合に使用(WebFetchの要約経由)
    https://www.powerelectronicsnews.com/renesas-650v-gan-enables-high-density-800v-ai-power/
  5. ルネサスは次世代データセンター用の半導体を開発報道
    日本経済新聞(2026-09-30)— 使用箇所: 同じ発表を日経が2026年9月30日に報じた事実(見出しのみ確認。本文は有料で取得できず、記事の数値には使っていない)
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC307PE0Q6A930C2000000/

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