ロームは2026年9月17日、SiC(炭化ケイ素)を使ったパワー半導体がBMWの第6世代電動パワートレインに採用されたと発表しました。日本のパワー半導体メーカーが、欧州プレミアムEVの主力プラットフォームに入った形です。半導体の基本は「半導体とは、電気を「通す・通さない」を切り替えられる物質」で確認できます。
この記事で動かせる図解
- 01EVの電力の流れとインバータSi(IGBT)とSiC(MOSFET)、400Vと800Vを切り替え、発熱・切替速度・電流の太さを比べる
EVの中には、電池の電気をモーター用に変える『インバータ』があり、電気を高速で入り切りするスイッチ(パワー半導体)が入っています。このスイッチは動くたびに熱を出し、電気をムダにします。素材をシリコンからSiCに替えると、熱が減って速く切り替えられます。ロームのSiCがBMWの新型EVに採用されました。
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ロームのSiC MOSFETがBMW第6世代(Neue Klasse)に採用(2026年9月17日発表、報道では初採用)。型番・搭載機器・数量は非公表。BMWは800V化・円筒形セル電池を含む第6世代eDrive全体で充電速度・航続距離を各約30%向上させる見込みで、SiC単独の寄与は不明。採用の意義は数量ではなく、欧州大手の主力車種でのデザインウィン(設計採用)にある。
インバータの中で、パワー半導体は何をしているのか
インバータとは、電池の直流をモーターを回す交流に変える装置です。電池は一方向に流れる電気しか出せません。一方、モーターは向きと大きさが周期的に変わる電気で回ります。
この変換を担うのが、インバータ内に並ぶ6個のスイッチです。スイッチの正体は、電流を通したり止めたりするの仲間で、パワー半導体と呼ばれます。6個が順番にオンオフを繰り返し、交流に近い波形を作ります。
図1で、まず「Si(IGBT)」の状態のまま様子を見てください。6個のスイッチが黄色く順に光り、電流の粒が電池からモーターへ流れます。同時に赤い熱の粒がスイッチから立ち上ります。この熱が、損失そのものです。
損失はどこで生まれるのか
損失は、大きく2種類あります。1つ目は導通損失で、スイッチがONの間に電流が抵抗を流れて熱になる分です。電流の2乗に比例するため、電流が大きいほど急に増えます。
2つ目はスイッチング損失で、ONとOFFを切り替える一瞬に生じる熱です。切替の途中では電圧と電流が同時にかかり、その積が熱になります。切替の回数が多く、切替に時間がかかるほど損失は膨らみます。
図1の「SiC(MOSFET)」を押すと、赤い熱の粒が減り、点滅が速くなります。ヒートシンク(熱を逃がす金属の板)も小さくなります。切替が速いほど、熱の出る時間が短くなるためです。左下の「損失 大/小」は定性的な表示で、実測値ではありません。
EVが800Vになると、何が変わるのか
800V化の狙いは、同じ電力を半分の電流で送ることです。電力は電圧と電流の積なので、電圧を2倍にすれば電流は半分で済みます。BMWは第6世代eDriveで800V技術と円筒形セルの電池を採用し、充電速度と航続距離をそれぞれ約30%向上させる見込みだと公表しています。最初の量産車BMW iX3は、最大充電出力400kW、10%から80%まで21分とされています。
図1で「400V」と「800V」を切り替えてください。800Vでは電流の粒が細く、数も減ります。導通損失は電流の2乗に比例するため、抵抗が同じなら電流半分で損失は約4分の1です。配線も細くできます。
ただし、代償があります。電圧が上がるので、スイッチにはより高い電圧に耐える能力が求められます。一般に800V系では1200V級の耐圧が使われます。この「高耐圧」が、Siの弱点を浮き彫りにします。
なぜSiでは800Vが苦しく、SiCなら解けるのか
Siで高耐圧を確保するには、素子の中の電圧を支える層を厚くする必要があります。厚い層は電流にとって長い道のりで、MOSFETでは抵抗が大きくなりすぎます。そのため高耐圧のSiでは、IGBTという別の構造が主流になります。
IGBTは抵抗を低く抑えられる反面、OFFにした後もしばらく電流が残る性質があります。この「切れ残り」が切替を遅くし、スイッチング損失を増やします。図1でSi(IGBT)の点滅が遅く、発熱が大きいのは、この性質を模したものです。
SiCは物性が違います。電圧を支える力(絶縁破壊電界)がSiの約10倍とされ、同じ耐圧でも素子の層を大幅に薄くできます。薄いので、MOSFETのままでも抵抗が低く、切替も速くなります。さらにSiCは熱に強く、高温でも動作しやすい素材です。
つまりSiCは、高耐圧・低抵抗・高速を1つの素子で両立できます。冷却器を小さくでき、インバータ全体の小型・軽量化にもつながります。この仕組みは「EVもデータセンターも、電気の“ムダ”を減らす半導体で動いている」でも詳しく扱っています。
ロームは何を、どこまで供給するのか
確認できた事実は限られています。ロームは、同社のSiC MOSFETがBMWの第6世代電動パワートレイン(Neue Klasse)に採用されたと発表しました。ローム・セミコンダクターGmbH社長は、SiC MOSFETの統合がロームの車載パワーエレクトロニクスにおける技術力を示すと述べています。
一方、採用された型番・世代・搭載する機器・供給数量は明らかにされていません。BMWは第6世代のインバータが800V技術とSiC半導体を採用すると公表しています。ただし、ロームの製品がそのインバータ用だと明記した一次情報は確認できていません。
BMWへの採用は日本経済新聞が初採用と報じた(報道ベース)とされています。また、「充電400kW・航続距離3割増」は第6世代eDrive全体の数値です。ロームがSiC単独の改善率を示した事実は確認できていません。ロームの成り立ちは「SiCを世界で初めて量産した、京都発のパワー半導体メーカー」で解説しています。
日本のSiC勢は、EV向けでどこにいるのか
EV向けSiCを手がける日本勢は複数あります。ロームは2010年にSiC MOSFETを世界で初めて量産しました。三菱電機は電動車向けに自動車用SiCパワーモジュール(J3シリーズ)を展開しています。
デンソーは2023年3月、同社初のSiCインバータをレクサス「RZ」向けに発表しました。Siと比べ、特定条件で電力損失を半減以下にできると報じられています(報道ベース)。
ロームと三菱電機は、東芝との統合協議でも注目されています。背景は「東芝・ローム・三菱電機が統合へ——世界2位連合が生まれた3つの理由」にあります。車載品質の要求水準は「車載半導体が「スマホより高く・古い」のは、命がかかっているからだった」が扱っています。
今後、何を見ればよいのか
注目点は3つです。1つ目は、ロームが搭載機器や供給規模を今後明かすかどうかです。2つ目は、BMWが第6世代を他の車種へ広げる際に、SiCの採用がどこまで増えるかです。3つ目は、SiCウエハーの供給とコストです。SiCは結晶が作りにくく、ウエハー(半導体の土台となる円盤)の価格が普及の壁になってきました。
この記事のまとめ
- ロームは2026年9月17日、SiC MOSFETがBMWの第6世代電動パワートレイン「Neue Klasse」に採用されたと発表した。型番・搭載機器・数量は明らかにされていない。
- インバータの損失は、切替の瞬間に生じるスイッチング損失と、ON中の抵抗で生じる導通損失の合計で決まる。
- 800V化は同じ電力を半分の電流で送れるが、耐圧の高いスイッチが必要になる。SiはIGBTの切替損失が課題となり、SiCは薄い素子で高耐圧と高速性を両立できる。
- BMWは第6世代eDriveで充電速度・航続距離を各約30%向上させる見込みで、iX3の最大充電出力は400kW。これはSiC単独の効果ではない。
- 日本ではロームのほか、三菱電機(自動車用SiCモジュール)やデンソー(自社初のSiCインバータをレクサスRZに搭載)がEV向けSiCを手がける。
この記事のまとめ
- ロームは2026年9月17日、SiC MOSFETがBMWの第6世代電動パワートレイン「Neue Klasse」に採用されたと発表した。型番・搭載機器・数量は明らかにされていない。
- インバータの損失は、切替の瞬間に生じるスイッチング損失と、ON中の抵抗で生じる導通損失の合計で決まる。
- 800V化は同じ電力を半分の電流で送れるが、耐圧の高いスイッチが必要になる。SiはIGBTの切替損失が課題となり、SiCは薄い素子で高耐圧と高速性を両立できる。
- BMWは第6世代eDriveで充電速度・航続距離を各約30%向上させる見込みで、iX3の最大充電出力は400kW。これはSiC単独の効果ではない。
- 日本ではロームのほか、三菱電機(自動車用SiCモジュール)やデンソー(自社初のSiCインバータをレクサスRZに搭載)がEV向けSiCを手がける。
よくある質問(FAQ)
Q.EVのインバータとは何ですか?+
インバータとは、電池の直流電力をモーターを回す交流電力に変換する装置です。中にはパワー半導体のスイッチが並び、1秒間に数千〜数万回のオンオフを繰り返して交流の波形を作ります。加速や回生ブレーキの強さもこの装置が制御します。
Q.EVが800Vになると、なぜSiCが向いているのですか?+
800Vのシステムでは1200V級など耐圧の高いスイッチが必要になり、Siでは高耐圧を保つと損失の大きいIGBTが主流になるためです。SiCは絶縁破壊電界がSiの約10倍とされ、高耐圧でも素子を薄く作れます。その結果、MOSFETでも抵抗が低く、高速にスイッチングでき、発熱と冷却器を小さくできます。
Q.ロームはBMWのどの部品にSiCを供給するのですか?+
ロームの発表は、同社のSiC MOSFETがBMWの第6世代電動パワートレイン(Neue Klasse)に採用されたという内容です。採用された型番・世代・搭載する具体的な機器・供給数量は、確認できた範囲では明らかにされていません。BMWは第6世代eDriveのインバータがSiC半導体を使うと公表していますが、ロームの製品がそのインバータ用だと明記した一次情報は確認できていません。
Q.「急速充電400kW・航続距離3割増」はSiCだけの効果ですか?+
いいえ、SiC単独の効果ではありません。BMWは第6世代eDrive全体(800V化・円筒形セル電池・新モーター・インバータなど)で充電速度と航続距離をそれぞれ約30%向上させる見込みだと公表しています。最初の量産車BMW iX3の最大充電出力は400kWです。ロームはSiCによる個別の改善率を公表していません。
用語集
- トランジスタ/ transistor
- 電気のスイッチ。オン/オフで「0と1」を表し、計算と記憶の最小単位になる。
- ウェハー/ wafer
- 半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
参考資料・引用元
- ROHM's Silicon Carbide contributes to the "Neue Klasse" Electric Powertrain Architecture of BMW一次情報ローム株式会社(ROHM Co., Ltd.)(2026-09-17)— 使用箇所: ロームのSiC MOSFETがBMWの第6世代電動パワートレイン(Neue Klasse)に採用されたこと(2026年9月17日発表)。公式ページ本体は取得できず、発表内容は下記の転載・報道(Semiconductor Today・マイナビ)で確認https://www.rohm.com/news-detail?news-title=2026-09-17_news_bmw&defaultGroupId=false
- ROHM's silicon carbide used in electric powertrain of BMW's 'Neue Klasse' Gen 6 EVs報道Semiconductor Today(2026-09-17)— 使用箇所: ロームのSiC MOSFETがBMW第6世代EV(Neue Klasse)に統合されたこと、ローム・セミコンダクターGmbH社長の発言。電圧・充電出力・航続距離の数値は記載なしhttps://www.semiconductor-today.com/news_items/2026/sep/rohm-170926.shtml
- ロームのSiC MOSFET、BMWの次世代EVコンセプト「Neue Klasse」に採用報道マイナビニュース TECH+(2026-09-18)— 使用箇所: 採用されたSiC MOSFETの型番・世代・搭載機器・供給数量が明らかにされていないこと(要約取得での確認。搭載機器としてインバータが明記されているかは確認できず)https://news.mynavi.jp/techplus/article/20260918-4988549/
- ロームのパワー半導体、独BMWのEV部品に初採用報道日本経済新聞(2026-09-17)— 使用箇所: ロームのパワー半導体がBMWのEV部品に初採用されたとの報道(見出しのみ確認・報道ベース)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF177M80X10C26A9000000/
- Charge faster, drive further: BMW Group reveals revolutionary electric drive concept with 800V technology for the Neue Klasse一次情報BMW Group PressClub(2025-02-21)— 使用箇所: 第6世代BMW eDriveの800V技術・円筒形セル電池、インバータが800V技術とSiC半導体を採用すること、充電速度・航続距離の各30%向上(BMWの見込み値)、エネルギー損失40%減(第5世代比)https://www.press.bmwgroup.com/global/article/detail/T0448099EN/charge-faster-drive-further:-bmw-group-reveals-revolutionary-electric-drive-concept-with-800v-technology-for-the-neue-klasse?language=en
- The start of a new era: the new BMW iX3一次情報BMW Group PressClub(2025-09-05)— 使用箇所: 最初の量産Neue Klasse車BMW iX3の最大充電出力400kW、10分で最大372km分の充電、10→80%が21分、WLTP航続距離最大805km、充電速度30%向上https://www.press.bmwgroup.com/global/article/detail/T0451998EN/the-start-of-a-new-era-the-new-bmw-ix3?language=en
- デンソー、SiCパワー半導体を用いたインバーターを初開発 レクサスの新型「RZ」に搭載報道Car Watch(デンソー発表の報道)(2023-03-31)— 使用箇所: デンソーが2023年3月31日に同社初のSiCインバーターをレクサスRZ向けに発表し、Siと比べ特定条件で電力損失を半減以下にしたこと(検索結果の要約で確認・報道ベース)https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1492065.html
- 三菱電機 パワーデバイス:SiC一次情報三菱電機株式会社(2026)— 使用箇所: 三菱電機が電動車向けに自動車用SiCパワーモジュール(J3シリーズ)を展開していることhttps://www.mitsubishielectric.co.jp/semiconductors/powerdevices/topics/sic/
- Wide Bandgap Semiconductors for Power Electronics: Comparative Properties of GaN and SiC Devices調査会社MDPI (Power Electronics & Drives)(2025)— 使用箇所: 絶縁破壊電界(SiC約3MV/cm=Siの約10倍)など物性比較https://www.mdpi.com/2813-6640/4/1/6
- ロームが世界初でSiCトランジスタ(DMOSFET)量産開始一次情報ローム株式会社(2010-12)— 使用箇所: 2010年に世界初でSiC MOSFETを量産https://www.rohm.co.jp/
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