リソグラフィとは、光を使って回路のパターンをに転写する工程です。感光する薬(フォトレジスト)を塗り、回路の設計図(フォトマスク)越しに光を当てて焼き付け、現像液で溶かして模様を浮かび上がらせる——やっていることはフィルム写真の現像と同じ原理です。このサイクルは、1枚のチップを作る間に何十回も繰り返されます。「半導体ができるまで」を工程の最初から歩くシリーズ、第4回は前工程の主役・リソグラフィの話です。
ひとことで言うと(初心者向け)

チップのナノメートル単位の回路は、彫って作るのではなく「焼き付けて」作ります。手順は3つ。①光に反応する薬(レジスト)をウェハーに薄く塗る、②回路の設計図を描いた原版(フォトマスク)越しに光を当てる、③現像液に浸すと、光が当たった部分だけが溶けて模様が現れる。昔のフィルム写真の現像とそっくりの原理です。この「塗る→焼き付ける→現像」を1枚のチップに何十回も重ねて、回路は立体的に積み上がっていきます。

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構造で言うと(投資家向け)

リソグラフィは前工程の中核で、装置・材料とも極端な寡占市場。露光装置はASMLが市場の約94%でEUVは同社の独占、日本勢(ニコン・キヤノン)は成熟世代とニッチに後退。露光装置とセットで動くコータ・デベロッパ(塗布・現像装置)は東京エレクトロンが世界シェア約9割・EUV向けはほぼ100%で、露光工程の投資が増えるほど同社に需要が落ちる構図。レジスト材料はJSR・東京応化・信越化学など日本勢が約9割。工程の3要素(露光装置・塗布現像装置・感光材)それぞれに“代替の効かない1強〜数強”がいる点が投資対象としての特徴。個別分析は company-asml / company-tokyo-electron / company-jsr / company-tok 参照。

この記事で動かせる図解

  1. 01リソグラフィ3Dモデルスピンコート(塗布)→露光→現像→パターン完成の4工程を切り替えて見る

リソグラフィとは何か

リソグラフィとは、感光材を塗ったウェハーに光を当てて、回路のパターンを転写する工程のことです。手順は大きく3つ。感光材(フォトレジスト)を薄く塗る「塗布」、設計図の原版(フォトマスク)越しに光を当てる「」、光の当たった部分と当たらなかった部分を薬液で選り分ける「現像」です。露光装置を作るASML自身も、この塗布→露光→現像の流れをリソグラフィの基本形として説明しています。

原理は、フィルム写真の現像とまったく同じです。フィルム(ネガ)に光を通して印画紙に像を焼き付け、現像液に浸すと写真が浮かび上がる——あの仕組みの「印画紙」がレジストを塗ったウェハーで、「ネガ」がフォトマスクにあたります。違いは精度だけです。写真は目に見える像を写しますが、リソグラフィはナノメートル(100万分の1mm)単位の回路を、レンズで縮小しながら焼き付けます。

まず、塗って・焼き付けて・現像するまでの一連の流れを、3Dモデルで見てください。

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感光する薬は、どうやってナノの薄さに塗るのか

最初のステップは、レジストをウェハー全面に薄く均一に塗ることです。使うのは意外なほど原始的な方法で、ウェハーの中心に液体のレジストを垂らし、ウェハーごと高速回転させて遠心力で塗り広げます。スピンコートと呼ばれる方法で、回転数を変えることで膜の厚さを調整します。ろくろの上で回る粘土に釉薬を垂らすと薄く広がっていく、あのイメージです。

もちろん、ただ回せばいいわけではありません。塗る前にはウェハー表面を薬品で処理してレジストの密着性を高め、塗ったあとは加熱(ベーク)して溶剤を飛ばし、膜を安定させます。ナノ単位の回路の土台になる膜なので、厚さのムラもホコリ一粒も許されません。このレジストという「光の薬」自体が驚異的な化学製品で、その中身は「「半導体の回路を焼き付ける「光の薬」を、日本4社が世界の9割で独占していた」」で詳しく扱っています。

露光では何が起きているのか

露光とは、フォトマスク越しに光を当てて、回路のパターンをレジストに焼き付けることです。フォトマスクは、チップ1層分の回路パターンを描いたガラスの原版で、いわば「回路のネガフィルム」。露光装置はこのマスクに光を通し(では反射させ)、レンズやミラーでパターンを縮小してウェハーに投影します。

原版そのものの作り方は「「チップの“原版”はどう作られるのか。フォトマスクという縁の下」」をどうぞ。

このとき、レジストの中では化学変化が起きています。光が当たった部分だけ、現像液に溶けやすい性質に変わるのです。つまり露光が終わった時点で、目には見えない「潜像」——写真でいう、現像前のフィルムに写った見えない像——がレジストに刻まれています。

使う光の波長が短いほど、細かいパターンを焼き付けられます。最先端はEUV(極端紫外線)と呼ばれる特殊な光で、この装置を出荷できるのは世界でオランダのASML1社だけです。

EUVの仕組みと1台300億円超の中身は「「1台300億円超。最先端チップを生む露光装置とASMLの独占」」で解説しています。本稿では深入りせず、工程の流れを先に進めます。

現像すると、模様はどう現れるのか

現像とは、露光でできた「見えない像」を、薬液で目に見えるパターンにする仕上げの一手です。現像液をかけると、光が当たって溶けやすくなった部分だけが溶けて流れ、当たらなかった部分のレジストが残ります。これで、マスクに描かれていた回路パターンが、レジストの「型」としてウェハーの上に立ち上がります。写真の現像とそっくりの原理で、名前がそのまま「現像」なのはこのためです。

なお、レジストには2つのタイプがあります。光が当たった部分が溶けるポジ型と、逆に光が当たった部分が固まって残るネガ型です。どちらを使うかで、同じマスクから白黒反転したパターンができます。

大事なのは、この時点ではまだ回路そのものは出来ていない、ということです。出来たのはレジストの「型」だけ。この型をマスク代わりにして下の膜を削ったり不純物を打ち込んだりする加工が続き、役目を終えたレジストは最後に剥がして捨てられます。型枠を使ってコンクリートを流し、固まったら型枠を外す——建築のあの手順と同じです。

なぜ「塗って・焼いて・現像」を何十回も繰り返すのか

チップの回路が、何十もの層を積み重ねた立体構造だからです。1回のリソグラフィで作れるのは1層分のパターンだけです。だから層を1つ積むたびに、膜を積み(前回歩いた「成膜」です)、レジストを塗り、露光し、現像し、加工する——このサイクルを最初からやり直します。最先端のチップでは配線だけで10層程度に及び、を作る層も合わせると、露光を伴うサイクルは1枚のチップで何十回にもなります。

前工程全体の工程数が数百に達するのは、この繰り返しが理由です。全体像は「「1枚のシリコンが、チップになるまでの数百工程をたどる」」で見渡せます。そもそも半導体とは何か、から知りたい場合は「「半導体とは何か」」が入口です。そして毎回の露光では、前の層とのズレをナノメートル単位で合わせ続けなければなりません。

1回でも大きくずれれば、その上に積む層がすべて無駄になります。リソグラフィが前工程の主役と呼ばれるのは、微細さと積み重ねの両方を、この工程が一手に背負っているからです。

この工程は、どの企業が握っているのか

リソグラフィは、工程の3つの要素——露光装置・塗布/現像装置・レジスト材料——のそれぞれに、代替の効かない寡占企業がいます。

露光装置は、オランダのASMLが市場の約94%を握り、最先端のEUV露光装置に至っては世界で同社しか作れません。かつて王者だった日本のニコン・キヤノンは成熟世代の装置や独自技術で戦っており、その攻防は「「かつて露光装置の王者だった日本勢は、どこで負け、どこで挑むのか」」で追っています。企業としてのASMLの分析は「「1台数百億円。この1社がなければ最先端チップは作れない」」をどうぞ。

塗布と現像を担う装置——コータ・デベロッパは、東京エレクトロンが世界シェア約9割、EUV向けに限ればほぼ100%という圧倒的な存在です。ASMLの露光装置はこの装置と直結して1つのラインとして動くため、露光への投資が増えるほど東京エレクトロンにも需要が落ちる構図になっています。詳しくは「「半導体の“塗って・削って・盛る”工程は、この日本企業が握っている」」で。

そしてレジスト材料は、日本勢が世界シェアの約9割を占める、日本の独壇場です。東京応化工業が世界シェア24.7%で首位、JSRがトップクラスで続き、信越化学工業も約830億円を投じた新工場でEUVレジストを増産中です。企業分析は「「ゴムから始まった会社が、最先端露光の“感光材”を握っている」」と「「世界の回路の4分の1は、川崎の“感光する液体”から生まれていた」」をどうぞ。

初心者向け
フィルム写真の現像に例えると分かりやすい工程です。フィルムに光を当てて印画紙に像を焼き付け、現像液に浸すと絵が浮かび上がる——リソグラフィも同じ手順で、光の当たった部分だけを化学的に変化させ、回路の模様を浮かび上がらせています。

次回は、現像で浮かび上がったレジストの型に沿って、下の膜を削り出す「」の工程を歩きます。

この記事のまとめ

  • リソグラフィとは、感光材(レジスト)を塗る→フォトマスク越しに光を当てる(露光)→現像液で溶かす、の3ステップで回路パターンをウェハーに転写する工程。原理は写真の現像と同じ。
  • レジストはウェハーを毎分数千回転で回すスピンコートで、ナノメートル単位の薄く均一な膜に塗り広げる。
  • 露光で光が当たった部分は化学変化を起こし、ポジ型レジストなら現像液に溶けて消える。残ったレジストが次の加工の「型」になる。
  • チップは何十層もの積層構造なので、このサイクルを1枚のチップに何十回も繰り返す。前工程全体では数百ステップに達する。
  • 露光装置はASMLが約94%(EUVは独占)、塗布・現像装置は東京エレクトロンが約9割、レジスト材料は日本勢が約9割——工程の要所ごとに寡占企業がいる。
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よくある質問(FAQ)

Q.リソグラフィとは何ですか?+

リソグラフィとは、光を使って回路のパターンをウェハーに転写する工程です。感光する薬(フォトレジスト)をウェハーに薄く塗り、回路の設計図を描いた原版(フォトマスク)越しに光を当て、現像液で溶かしてパターンを浮かび上がらせます。原理はフィルム写真の現像と同じで、半導体前工程の中心にある工程です。

Q.フォトレジストとは何ですか?+

フォトレジストとは、光が当たると化学変化を起こす感光材(液体の薬品)です。ウェハーを毎分数千回転で回しながら垂らし、遠心力でナノメートル単位の薄く均一な膜に塗り広げます。光が当たった部分が現像液に溶けるポジ型と、逆に光が当たった部分が残るネガ型があり、最先端の量産ではポジ型が主流です。

Q.なぜ露光は1枚のチップで何十回も繰り返すのですか?+

チップの回路が、何十もの層を積み重ねた立体構造だからです。1回のリソグラフィで作れるのは1層分のパターンだけなので、成膜→塗布→露光→現像→加工のサイクルを層の数だけ繰り返します。最先端チップでは配線だけで10層程度に及び、トランジスタ層も合わせると露光を伴うサイクルは何十回にもなります。工程全体では数百ステップに達します。

Q.リソグラフィ工程ではどの企業が強いのですか?+

露光装置はオランダのASMLが市場の約94%を握り、最先端のEUV露光装置は世界でASML1社しか出荷できません。日本勢ではニコン・キヤノンが一部の用途で装置を供給しています。レジストの塗布・現像を担うコータ・デベロッパは東京エレクトロンが世界シェア約9割(EUV向けはほぼ100%)、フォトレジスト材料はJSR・東京応化工業・信越化学工業など日本勢が世界の約9割を占めます。

用語集

露光(リソグラフィ)/ lithography
回路の原版(マスク)を通して光を当て、回路パターンをチップに転写する工程。半導体製造の心臓部。
ウェハー/ wafer
半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
EUV/ Extreme Ultraviolet 極端紫外線
波長の短い光で微細な回路を焼き付ける最先端の露光技術。装置はASMLが独占。
トランジスタ/ transistor
電気のスイッチ。オン/オフで「0と1」を表し、計算と記憶の最小単位になる。
エッチング/ etching
レジストに覆われていない部分の膜を、気体や薬液で削り取り、回路パターンを膜に刻む工程。
成膜(せいまく)・塗布/ deposition / coating
ウェハー表面に、配線や絶縁体になる薄い膜を一様につける工程。液体を塗る『塗布』も含む。
フォトレジスト/ photoresist
露光で回路パターンを写すために、ウェハーに塗る感光性の薬剤。これがないと回路を焼けない。

参考資料・引用元

  1. フォトレジスト塗布・露光・現像プロセスについて業界団体
    ウシオ電機(ライトエッジ)(2007-08)— 使用箇所: スピンコートの原理(高速回転・遠心力で膜厚制御)・プリベーク/ポストベーク・ポジ型(露光部が現像で溶ける)とネガ型(露光部が残る)の違い
    https://www.ushio.co.jp/jp/technology/lightedge/200708/100334.html
  2. 【How we innovate】02:半導体の製造プロセスとASMLが誇る露光技術一次情報
    ASMLジャパン(公式note)(2024-01-24)— 使用箇所: リソグラフィの流れ(レジスト塗布→露光→現像→剥離)・EUV露光装置を出荷できるのは世界でASML一社・先端チップの配線は10層程度に及ぶ
    https://note.com/asmljapan/n/nfab0d5a20ad1
  3. 半導体のフォトリソグラフィとは?工程フローと原理業界団体
    Semi Journal(不明)— 使用箇所: フォトリソグラフィ工程フロー(HMDS前処理・スピンコート・プリベーク・露光・現像・ポストベーク)
    https://semi-journal.jp/basics/process/photolitho.html
  4. Nikon aims to close the gap on ASML with new ArF lithography system in FY28調査会社
    TrendForce(2025-02-21)— 使用箇所: 露光市場のASML約94%・ニコンの後退と2028年度の巻き返し計画
    https://www.trendforce.com/news/2025/02/21/news-nikon-aims-to-close-the-gap-on-asml-with-new-arf-lithography-system-in-fy28/
  5. Tokyo Electron 装置種別 世界シェア(CY2024、TEL公表データ集計)調査会社
    BALD Engineering(2025-05)— 使用箇所: コータ/デベロッパ約90〜92%(EUV用ほぼ100%)・CVD約38%・拡散炉約37%・ドライエッチ約27%・洗浄約21%
    https://www.blog.baldengineering.com/2025/05/tokyo-electron-delivers-record-fy2025.html
  6. JSRに見る、「半導体材料」で日本が躍進する訳報道
    東洋経済オンライン(2023-03)— 使用箇所: 世界の半導体の約3分の1にJSRレジスト使用、日本5社で世界シェア約9割、JSRはトップクラス
    https://toyokeizai.net/articles/-/646194
  7. 東京応化工業 フォトレジスト世界シェア・業績(決算説明)報道
    ログミーファイナンス(TOK決算説明書き起こし)(2025-11)— 使用箇所: フォトレジスト世界シェア24.7%で首位・EUVレジストは首位級(調査により首位〜2位・シェア3割弱)・2024年売上2,000億円超で過去最高・EUVレジストは年率30%級成長見込み
    https://finance.logmi.jp/articles/383459
  8. 信越化学が国内に新生産拠点、半導体露光材料事業の拡大に向け報道
    EE Times Japan(ITmedia)(2024-04)— 使用箇所: 群馬県伊勢崎市の新工場(ArF/EUVレジスト・フォトマスクブランクス、約830億円、2026年度下期稼働)
    https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2404/10/news090.html

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