最先端チップを生む露光装置は、いまやASMLの独占です。しかし、ほんの20年ほど前まで、この市場の主役は日本のニコンとキヤノンでした。なぜ王座を明け渡したのか。ASMLの強さは「1台300億円超。最先端チップを生む露光装置とASML」で扱いつつ、敗れた日本勢の現在地を見ていきます。
チップは『露光装置』という機械で、回路の模様を焼き付けて作ります。昔はニコンとキヤノンが世界一でした。でも『EUV』という超難しい次世代の露光装置を、オランダのASMLが先に完成させ、最先端の王座を奪われました。いまニコンは少し前の世代の装置で、キヤノンは『型を押し付ける』まったく別の方法で、巻き返しを狙っています。
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露光は半導体capexの最大単価。日本勢はArF→EUVの世代転換でASMLに敗退(EUVの巨額・長期投資に踏み切れず)。ニコンはArFi/i線とメンテ・成熟需要で残存、キヤノンはナノインプリント(NIL)でEUVを迂回する低コスト微細化に賭ける。NILは欠陥・スループットが課題で先端ロジック本流は遠いが、メモリ等の特定用途で芽。最先端露光の寡占リスクの是正という地政学的含意も。
露光装置とは何か、なぜ最重要なのか
露光装置とは、半導体チップの回路パターンを、光を使ってウェハーに焼き付ける装置です。半導体製造の中で最も重要かつ高価な装置です。
チップ作りは、回路の“原版”であるマスクに光を当て、その模様をに転写することの繰り返しです。このとき、どれだけ細かいパターンを焼けるかが、チップの性能を直接左右します。だから装置は、微細化競争の心臓部なのです。プロセスの細かさの意味は「「2nm」はもう長さじゃない。プロセスノードの正体」で扱っています。
かつて、この最重要装置の世界市場を握っていたのが、日本のニコンとキヤノンでした。
なぜニコン・キヤノンはASMLに負けたのか
日本勢がASMLに敗れた決定的な理由は、最先端のEUV露光装置の開発で先を越されたことです。
は、波長13.5nmという極端に短い光を使う、桁違いに難しい技術です。光源、反射鏡、真空——あらゆる要素が従来の限界を超える必要がありました。ASMLは20年以上をかけ、巨額の投資と、ツァイス(独)や米国の研究機関など世界中の技術を結集して、これを実用化しました(CNBC)。
一方、ニコンとキヤノンは、このEUVへの巨額かつ長期にわたる賭けに踏み切れませんでした。成果が出るか分からない技術に、会社の命運を懸けるほどの投資を続けるのは難しい判断でした。結果として、最先端の主導権をASMLに明け渡すことになったのです(ニコン/キヤノン IR・媒体集計)。
ニコンはいま何をしているのか
ニコンは、最先端のEUVではなく、ArF液浸(レンズとウェハーの間を液体で満たして細かく焼く方式)など一世代前の露光装置を継続して手がけています。
ArF液浸は、EUVが普及する前の最先端だった技術で、いまも成熟世代のチップや特定用途では現役です。最先端では作らないものの、世の中には成熟世代のチップが大量に必要です。だからこそニコンは、ASMLと最先端で正面から競うのではなく、こうした成熟分野や、得意とする精密光学の技術を生かせる領域で事業を維持する戦略を取っています。また、装置の保守・サービスも安定した収益源です。
キヤノンのナノインプリントとは何か
キヤノンは、まったく別の発想で再起を狙っています。それが「ナノインプリント(NIL)」です。
ナノインプリントとは、光で焼き付けるのではなく、回路パターンを彫った型を、ウェハーに直接“押し付けて”転写する技術です。判子をぐっと押すように、物理的にパターンを写し取ります。高価なEUV露光装置を使わずに微細なパターンを作れる可能性があり、キヤノンはこれを最先端への“迂回路”として開発しています。
ただし課題は、押し付けるときに生じる欠陥と、生産スピードです。最先端ロジックの本流をすぐに置き換えるのは難しいものの、メモリなど特定用途で芽が出る可能性があります。とはいえ、EUVを握るASMLへの一極集中というリスクに対し、別ルートを用意する意味でも注目される挑戦です。ASMLの独占の詳細は「最先端チップを生む露光装置を独占するオランダ企業」で扱っています。
この記事のまとめ
- 露光装置は回路をウェハーに焼き付ける半導体製造の最重要装置で、かつてニコン・キヤノンが席巻した。
- 最先端EUVの開発でASMLに先を越され、日本勢は最先端の主導権を失った。
- EUVは波長13.5nmの極めて難しい技術で、ASMLが20年以上かけて実用化した。
- ニコンはArF液浸など成熟世代の露光装置を継続し、得意領域で事業を維持する。
- キヤノンは型を押し付ける**ナノインプリント(NIL)**で、EUVを使わない別ルートに挑む。
この記事のまとめ
- 露光装置は回路をウェハーに焼き付ける半導体製造の最重要装置で、かつてニコン・キヤノンが席巻した。
- 最先端EUVの開発でASMLに先を越され、日本勢は最先端の主導権を失った。
- EUVは波長13.5nmの極めて難しい技術で、ASMLが20年以上かけて実用化した。
- ニコンはArF液浸など成熟世代の露光装置を継続し、得意領域で事業を維持する。
- キヤノンは型を押し付けるナノインプリント(NIL)で、EUVを使わない別ルートに挑む。
よくある質問(FAQ)
Q.露光装置とは何ですか?+
露光装置とは、半導体チップの回路パターンを、光を使ってウェハーに焼き付ける装置です。半導体製造の中で最も重要かつ高価な装置で、回路をどれだけ細かく焼けるかがチップの性能を左右します。かつてはニコンとキヤノンが世界市場を席巻していましたが、現在はオランダのASMLが最先端を独占しています。
Q.なぜニコン・キヤノンはASMLに負けたのですか?+
最先端のEUV露光装置の開発で、ASMLに先を越されたためです。EUVは波長13.5nmという極端に短い光を使う極めて難しい技術で、ASMLは20年以上をかけ、巨額の投資と世界中の技術を結集して実用化しました。日本勢はこのEUVへの巨額・長期の賭けに踏み切れず、最先端の主導権を失いました。
Q.ニコンはいま何をしていますか?+
ニコンは、EUVより一世代前のArF液浸やi線といった露光装置を継続して手がけています。最先端ではありませんが、成熟世代のチップや特定用途では今も需要があります。最先端のEUVでASMLと正面から競うのではなく、得意な領域や成熟分野で事業を維持する戦略です。
Q.キヤノンのナノインプリントとは何ですか?+
ナノインプリント(NIL)とは、光で焼き付けるのではなく、回路パターンを彫った型をウェハーに直接“押し付けて”転写する技術です。高価なEUV露光装置を使わずに微細なパターンを作れる可能性があり、キヤノンはこれを最先端への別ルートとして開発しています。光を使う従来の露光とは根本的に異なる発想の挑戦です。
用語集
- 露光(リソグラフィ)/ lithography
- 回路の原版(マスク)を通して光を当て、回路パターンをチップに転写する工程。半導体製造の心臓部。
- EUV/ Extreme Ultraviolet 極端紫外線
- 波長の短い光で微細な回路を焼き付ける最先端の露光技術。装置はASMLが独占。
- ウェハー/ wafer
- 半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
- ノード(プロセス)/ process node
- 製造プロセスの世代を表す呼び名(例:3nm)。小さいほど高性能・省電力になりやすい。
参考資料・引用元
- ニコン・キヤノンの半導体露光装置(ArF/ナノインプリント)一次情報ニコン/キヤノン IR・媒体集計(2025)— 使用箇所: かつて露光装置を席巻した日本勢がEUVでASMLに敗退・ニコンはArF/i線で継続・キヤノンはナノインプリント(NIL)で別路線https://www.jp.nikon.com/company/ir/
- An exclusive look at High NA: ASML's new $400 million chipmaking colossus報道CNBC(2025-05-22)— 使用箇所: High-NA EUV 1台約4億ドル・Intelが世界初導入(報道ベース)https://www.cnbc.com/2025/05/22/exclusive-look-at-high-na-asmls-new-400-million-chipmaking-colossus.html
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