各装置が製造工程のどこに位置するかは「半導体は、日本の装置がなければ作れない」で全体像を確認できます。本記事はその中の一社、東京エレクトロンを事業として深掘りします。なお本記事は技術と産業の分析であり、株式・投資に関する内容は扱いません。
東京エレクトロンは、半導体を作る『製造装置』の日本最大手です。レジストを塗って現像するコータ/デベロッパで世界の約9割を握り、削る(エッチング)・盛る(成膜)・洗う(洗浄)でも世界上位。チップを作るうえで欠かせない装置メーカーです。
構造で言うと(投資家向け)も見る
東京エレクトロンは装置世界4強の一角(AMAT・Lam・ASML・TEL)。コータ/デベロッパで事実上独占し、成膜・エッチングでも上位。顧客は先端ファブに集中し、参入障壁は技術と実績で高い。一方で装置市況の波と対中規制が構造的なリスクです。
東京エレクトロンとはどんな会社か
東京エレクトロンとは、1963年創業の日本最大の半導体製造装置メーカーです。社名の通り装置の専業メーカーで、前工程(チップを作り込む工程)の幅広い装置を手がけます。略称はTEL。本社は東京で、製造・開発拠点は宮城・熊本・山梨などに広がります。
事業の中心は「コータ/デベロッパ(塗布・現像装置)」「エッチング(削る装置)」「成膜(膜をつける装置)」「洗浄(洗う装置)」の4本柱で、これらが装置売上の大半を占めます。AMAT(Applied Materials)・Lam Research・ASMLと並び、半導体製造装置の「世界4強」の一角とされます。装置売上では世界第4位です(Nomad Semiconductor)。
東京エレクトロンの事業はどんな構成か
東京エレクトロンの事業は、半導体製造装置が売上の9割超を占めます。2026年3月期(FY2026)の連結は約2兆4,435億円で、過去最高水準を更新しました。販売先の用途別では、ロジック・受託製造向けが過半、高速化のための積層メモリを含むメモリ向けが次ぎ、書き換え可能な不揮発性メモリ向けが続く構成です(Tokyo Electron)。
装置種別ごとの世界シェアと位置づけは下表の通りです。東京エレクトロンは個別工程の単独首位ではなく、複数工程で上位を占める「総合型」である点が特徴です。
| 装置種別(工程) | 役割 | 東京エレクトロンの世界シェア | 位置 |
|---|---|---|---|
| コータ/デベロッパ(塗布・現像) | レジストを塗り・現像する | 約90〜92%(EUV用はほぼ100%) | 世界首位(独占) |
| 成膜・CVD(膜をつける) | ガスから膜を堆積させる | 約38% | 世界上位 |
| 拡散炉・酸化 | 高温で膜・拡散層を作る | 約37% | 世界上位 |
| ウェハープローバ(検査の接触装置) | チップに針を当て電気検査する | 約38% | 世界上位 |
| エッチング(削る):ドライエッチ | 膜を削り回路を刻む | 約27% | 世界2〜3位 |
| 洗浄(洗う) | 工程間で汚れを落とす | 約21% | 世界2位前後 |
(出典:BALD Engineering)
なお年度や調査会社により数値には幅があります。各工程の役割は「エッチング装置とLam Research」・「成膜装置とAMATの強さ」・「洗浄装置とSCREEN」で個別に解説しています。
なぜコータ/デベロッパで独占できるのか
コータ/デベロッパとは、ウェハーにフォトレジスト(光で硬化・溶解する感光膜)を均一に塗り、後に現像する装置です。東京エレクトロンはこの分野で世界シェア約9割、最先端の露光装置向けではほぼ100%を握り、事実上独占しています(BALD Engineering)。
独占の理由は、露光装置との「密結合」にあります。コータ/デベロッパは露光装置と直結して動くため、ASMLの最先端露光機に合わせた塗布・現像の精度と安定性が決定的に重要です。そして長年の量産実績で(良品率)を支えてきた信頼が、新規参入をほぼ不可能にしています。なお露光そのものはASMLが担うため、東京エレクトロンはASMLの「競合」ではなく「補完」の関係です。
サプライチェーンでどんな役割を担うのか
東京エレクトロンは、最先端チップの前工程ラインに装置を供給する「縁の下の主役」です。顧客はTSMC・Samsung・Intelといった先端の受託製造・総合大手、そしてMicron・SK hynix・Samsungなどメモリ各社で、世界の先端ファブが主要顧客です。
前工程は、塗る(コータ/デベロッパ)→焼く(露光・ASML)→削る(エッチング)→盛る(成膜)→洗う(洗浄)を何十回も繰り返します。そして東京エレクトロンはこのうち露光以外の多くを供給できるため、ファブ立ち上げ時に複数工程をまとめて任される強みがあります。装置の世界市場(WFE=前工程装置)はAMAT・ASML・Lam・TEL・KLAの「ビッグ5」で約7割を占め、東京エレクトロンの全体シェアは概ね9〜12%です(TechInsights)。
競争構造はどうなっているか
東京エレクトロンの競争環境を、5つの力(ファイブフォース)で整理すると下表のようになります。総じて参入障壁が極めて高く、優位は強固ですが、買い手集中と規制という外圧を抱えます。
| 力 | 内容 | 東京エレクトロンへの影響 |
|---|---|---|
| 競合(既存) | AMAT・Lam・ASMLと4強で市場を分け合う | 中〜高。工程ごとに住み分けつつ成膜・エッチで競合 |
| 買い手(顧客)の力 | TSMC・Samsung・Intel等の先端ファブに集中 | 高。少数の巨大顧客の投資判断に売上が左右される |
| 供給者(部材)の力 | 精密部品・光学・ガス供給など多岐 | 中。特定部材の逼迫はあるが調達は分散 |
| 新規参入の脅威 | 技術・量産実績・特許の壁が高い | 低。とくにコータ/デベロッパは参入ほぼ不可能 |
| 代替品の脅威 | 工程を飛ばす代替技術は限定的 | 低。微細化・積層化が進むほど装置の価値は増す |
最大の論点は「買い手の集中」です。先端ファブは世界に数社しかなく、そのサイクルに業績が大きく振れます。一方で参入障壁の高さが、東京エレクトロンの長期的な優位を支えています。各社の役割の全体像は「半導体メーカーは、6つの役割で見るとわかる」で確認できます。
弱み・リスクは何か
東京エレクトロン最大のリスクは、装置市況の波と対中輸出規制の2つです。
第一に、装置需要はファブの設備投資に連動し、そのためメモリ市況の好不調で大きく上下します。第二に、対中輸出規制です。日本は2023年7月に先端半導体製造装置23類型を輸出許可の対象に加えており、中国向け売上の比率が高い同社は影響を受けやすい構造です。東京エレクトロンの中国売上比率は近年3割台半ばで、地場メーカーの台頭もあり減速傾向にあります(日経クロステック)。
加えて、エッチングではLam Research、成膜では一部AMATが上位を占めるなど、コータ/デベロッパほどの独占を全工程で持つわけではありません。特定工程(塗布・現像)への依存度が高い点も、裏返せば構造的な弱みといえます。
最近の動向はどうか
東京エレクトロンは、AI向け半導体の需要を追い風に先端投資を強化しています。2026年3月期の研究開発費は約3,000億円規模に拡大し、宮城・熊本に新たな開発・製造拠点を整備しています。ロジックや受託製造の微細化と、高速化のための積層メモリの需要拡大が、成膜・エッチング・コータ/デベロッパの需要を押し上げています(Tokyo Electron)。
中期的には、AI需要を背景に売上3兆円超を視野に入れた成長計画を掲げています。微細化・積層化が進むほど、塗布・現像と成膜・エッチングの工程数は増えるため、東京エレクトロンの装置価値は構造的に高まる見通しです。
この記事のまとめ
- 東京エレクトロン(TEL)は1963年創業の日本最大の半導体製造装置メーカーで、装置売上は世界第4位の総合大手。
- コータ/デベロッパ(塗布・現像)で世界シェア約9割・最先端の露光装置向けはほぼ100%という独占が最大の強み。成膜・エッチング・洗浄でも世界上位。
- 2026年3月期 売上は約2兆4,435億円で過去最高水準。用途別はロジック・受託製造向けが過半、メモリ向けが次ぐ。
- 顧客はTSMC・Samsung・Intel・メモリ各社など先端ファブに集中。AMAT・Lam・ASMLと並ぶ装置世界4強の一角。
- リスクは装置市況の波と対中輸出規制(中国売上比率は3割台半ば)。一方で参入障壁の高さが長期優位を支える。
この記事のまとめ
- 東京エレクトロンは1963年創業の日本最大の半導体製造装置メーカー。装置売上で世界第4位の総合大手(出典:TechInsights等)。
- 塗布・現像(コータ/デベロッパ)で世界シェア約9割・EUV用ほぼ100%という独占。成膜・エッチング・洗浄でも世界上位。
- 2026年3月期 売上は約2兆4,435億円で過去最高水準。ロジック/ファウンドリ向けが過半、DRAM(HBM含む)が次ぐ(出典:TEL IR)。
- 顧客はTSMC・Samsung・Intel・メモリ各社など先端ファブ。AMAT・Lam・ASMLと並ぶ装置「世界4強」の一角。
- リスクは装置市況の波と対中輸出規制。中国売上比率は3割台半ばで、規制の影響を受けやすい構造(出典:TEL IR)。
よくある質問(FAQ)
Q.東京エレクトロンとはどんな会社ですか?+
1963年創業の、日本最大の半導体製造装置メーカーです。前工程の塗布・現像(コータ/デベロッパ)、エッチング、成膜、洗浄などを幅広く手がけ、世界では装置売上で第4位の総合大手です。2026年3月期の売上は約2兆4,435億円で過去最高水準です(出典:TEL IR)。
Q.東京エレクトロンの一番の強みは何ですか?+
塗布・現像装置(コータ/デベロッパ)で世界シェア約9割、EUV用ではほぼ100%という事実上の独占です(2024年、TEL/業界資料)。加えて成膜(CVD約38%)やエッチングでも世界上位で、前工程の複数工程を一社で押さえる「総合力」が強みです。
Q.東京エレクトロンは露光装置(EUV)を作っているのですか?+
作っていません。EUVなどの露光装置はオランダのASMLが独占しています。東京エレクトロンは露光の前後で必要なコータ/デベロッパ(レジストを塗り・現像する装置)を供給し、ASMLとは競合ではなく補完の関係にあります。
用語集
- エッチング/ etching
- レジストに覆われていない部分の膜を、気体や薬液で削り取り、回路パターンを膜に刻む工程。
- 成膜(せいまく)・塗布/ deposition / coating
- ウェハー表面に、配線や絶縁体になる薄い膜を一様につける工程。液体を塗る『塗布』も含む。
- 露光(リソグラフィ)/ lithography
- 回路の原版(マスク)を通して光を当て、回路パターンをチップに転写する工程。半導体製造の心臓部。
- ウェハー/ wafer
- 半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
- 歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
- 1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。
- フォトレジスト/ photoresist
- 露光で回路パターンを写すために、ウェハーに塗る感光性の薬剤。これがないと回路を焼けない。
- 売上高/ revenue / net sales
- 会社が商品やサービスを売って得た金額の合計。利益を引く前の数字。
- 設備投資(capex)/ capital expenditure
- 工場や機械など、長く使う設備を買うためにかけるお金。
参考資料・引用元
- 東京エレクトロン 2026年3月期 決算短信・決算説明会資料一次情報Tokyo Electron(IR)(2026-04)— 使用箇所: TEL 2026年3月期 連結売上高 約2兆4,435億円(前年度比0.5%増、2期連続の過去最高)・用途別構成・R&D約3,000億円・2027年3月期上期予想 売上高1兆5,700億円(前年同期比+33.1%)https://www.tel.co.jp/ir/library/report/index.html
- Tokyo Electron 装置種別 世界シェア(CY2024、TEL公表データ集計)調査会社BALD Engineering(2025-05)— 使用箇所: コータ/デベロッパ約90〜92%(EUV用ほぼ100%)・CVD約38%・拡散炉約37%・ドライエッチ約27%・洗浄約21%https://www.blog.baldengineering.com/2025/05/tokyo-electron-delivers-record-fy2025.html
- Tokyo Electron Deep Dive(沿革・製品ポートフォリオ)調査会社Nomad Semiconductor(2025)— 使用箇所: 1963年創業・前工程4本柱が製品売上の約95%・装置売上で世界第4位https://www.nomadsemi.com/p/tokyo-electron-deep-dive-part-1
- 東京エレクトロン 営業減益、開発費増・中国向け減速(FY2026決算報道)報道日経クロステック(2026-04)— 使用箇所: 中国売上比率3割台半ば・地場メーカー台頭による減速・対中規制の影響https://xtech.nikkei.com/
- WFE Market Share — ビッグ5(ASML/AMAT/Lam/TEL/KLA)で約7割(2024)調査会社TechInsights(2024)— 使用箇所: WFE市場はビッグ5で約7割・TELの全体シェア概ね9〜12%・2024年WFE規模約1,330億ドルhttps://www.techinsights.com/
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