半導体というと、設計のNVIDIAや製造のTSMCが注目されます。しかし、その製造ラインで実際に回路を「塗り、削り、洗い、検査する」装置の多くは、日本企業が作っています。「半導体とは何か」で見た製造工程の一つひとつに、日本の装置メーカーが深く食い込んでいます。半導体産業の全体像は「半導体まとめ・入門ロードマップ」で俯瞰できます。日本の復活シナリオそのものは「日本成長戦略が掲げる売上40兆円の中身」で扱います。
この記事で動かせる図解
- 01日本の装置メーカー × 工程マップ各社をクリックして、担当工程・世界シェア・売上を見る
半導体を作る『装置』の多くを日本企業が握っています。たとえば回路を塗る工程の装置は東京エレクトロンが世界の約9割、チップを切る装置はディスコが約7〜8割。だから日本がなければ最先端のチップは作れません。
構造で言うと(投資家向け)も見る
日本は製造装置で世界シェア約30%(米に次ぐ2位)、材料でも高シェア。中心はTEL(前工程の広範)・アドバンテスト(テスタ、AI/HBMで急成長)・ディスコ(後工程)。リスクは先端露光での後退(ASML約94%)、対中輸出規制(2023年7月)、中国売上比率の高さ(TEL約38%)です。
なぜ「半導体は日本の装置がないと作れない」のか
理由は、製造装置と材料が日本に集中しているからです。日本は半導体の製造装置で世界の約30%を占め、米国に次ぐ第2位です。さらに、塗布・現像の材料で約88%、シリコンで約53%、フォトレジスト(回路を焼き付けるための感光材料)で約50%と、材料でも高いシェアを持ちます。
下のマップで、各社が製造工程のどこを握っているかを確認できます。企業をクリックすると、担当工程・世界での地位・売上が表示されます。
日本の装置メーカー × 担当する工程(クリック)
各社が、半導体の作り方のどの工程を握っているかが分かります。
東京エレクトロン
- 主な装置
- コータ/デベロッパ・成膜・エッチング・洗浄装置
- 世界での地位
- 製造装置で世界3〜4位。塗布・現像(コータ/デベロッパ)は世界約9割
- 売上
- 2025年3月期 売上 約2.43兆円(過去最高)
露光装置は作らないが、前工程の多くの工程を幅広くカバー
出典: Tokyo Electron(IR)(2025-05)出典: 米商務省 trade.gov「Japan – Semiconductors」。シェアは品目・年・出典で変動します。
どの会社が、どの工程を握っているのか
日本の装置メーカーは、それぞれ特定の工程に深く特化しています。下の表で、各社の担当工程・装置・世界での地位・売上を整理しました。
| 企業 | 担当する工程 | 主な装置 | 世界での地位 | 売上(会計年度) |
|---|---|---|---|---|
| 東京エレクトロン | 塗布・現像/成膜/エッチング/洗浄 | コータ/デベロッパ・成膜・エッチング・洗浄装置 | 製造装置で世界3〜4位。塗布・現像(コータ/デベロッパ)は世界約9割 | 2025年3月期 売上 約2.43兆円(過去最高) |
| アドバンテスト | 検査(テスト) | 半導体テスタ(ATE) | テスタはTeradyneとの2強。AI・HBM向けテスト需要で急成長 | 2026年3月期 売上 約1.13兆円(前年比+44.7%) |
| ディスコ | 後工程(切る・削る) | ダイシング装置・グラインダ(研削) | ダイシング装置で世界約7〜8割(出典により幅) | 2025年3月期 売上 約3,933億円(過去最高) |
| SCREEN | 洗浄 | 枚葉式ウェーハ洗浄装置 | 枚葉式洗浄でトップ級(約45%、2024年・媒体集計) | 公開情報では一次確認できず |
| KOKUSAI ELECTRIC | 熱処理・成膜(バッチALD) | 縦型炉・バッチALD装置 | バッチALDで世界約7割(媒体集計) | 売上 約1,808億円(2023年に東証プライム上場) |
| 荏原製作所 | 平坦化(CMP) | CMP(化学機械研磨)・めっき装置 | CMP装置で世界2位(首位はApplied Materials)、約27〜28% | 全社 2025年3月期 約8,667億円(半導体単独ではない) |
| キヤノン | 露光(成熟ノード+ナノインプリント) | i線/KrF/ArFステッパ・ナノインプリント(NIL) | 先端EUVは作らず成熟ノードに注力。2023年に世界初のNIL装置を発表 | 露光単独の売上は非開示 |
| ニコン | 露光(DUV) | ArF液浸などのステッパ/スキャナ | 先端ではASML(露光市場約94%、2024年)に後退。2028年度に新ArF投入計画 | 露光単独の売上は非開示 |
中心にいるのが東京エレクトロンです。・・洗浄に加え、回路パターンを塗る「塗布・現像」装置で世界約9割を握り、前工程の広い範囲をカバーします。2026年3月期の売上高は2兆4,435億円(前年度比0.5%増)で、前期に続き2期連続の過去最高を更新しました(Tokyo Electron)。
後工程ではディスコが、ウェハーを薄くする・切り分ける装置(グラインダ・ダイシング)で世界約7〜8割を握ります。検査ではアドバンテストが、完成チップを検査するで米Teradyneと2強を形成し、AI・向けテスト需要で売上を急拡大させています(2026年3月期 約1.13兆円、前年比+44.7%)。このほか、洗浄のSCREEN、膜を一層ずつ積む成膜装置のKOKUSAI ELECTRIC、表面を平らに磨く工程の荏原など、工程ごとに強い企業が並びます(Advantest)。
日本勢の弱みとリスクは何か
最大の弱みは、最先端の装置です。回路を焼き付けるこの最重要工程では、オランダのASMLがを独占し、露光市場全体でも約94%を握ります(2024年)。かつて主役だったニコンは先端から後退し、2028年度に新型の露光装置で巻き返しを図る計画です。また、キヤノンは光を使わない「ナノインプリント」という別ルートで先端を狙っています(TrendForce)。
もう一つのリスクが地政学です。日本は2023年7月、米国に歩調を合わせ、先端半導体製造装置23類型を輸出許可の対象に加えました。そのため、中国売上比率の高い企業(東京エレクトロンは約38%)は、規制強化の影響を受けやすくなっています(Hogan Lovells / METI)。
一方で、露光を独占するASMLも日本国内の体制を拡充しています。「ASMLジャパン、社員を700人へ4割増」では、ラピダス支援を含む増員計画を解説しています。
投資家は日本の装置メーカーの何を見ればよいのか
見るべきは、各社が握る工程の「代替の効かなさ」と、需要のドライバー、そして規制リスクです。下のチェックリストは確認すべき項目と資料を整理したものです。
- 01売上構成(製品・地域・顧客別)どの需要に依存しているかが分かる。対中比率は規制リスクの目安になる各社 決算説明資料・10-K / 有価証券報告書
- 02営業利益率・粗利率価格決定力と参入障壁の強さを映す。先端ファウンドリやEDAは高粗利各社 損益計算書(IR)
- 03顧客依存度上位顧客への集中は、失注時のダウンサイドを大きくする10-K(顧客集中の開示)・決算質疑
- 04設備投資(CAPEX)先端化は巨額投資を要する。需要サイクルと投資のズレが業績を揺らす各社 CAPEXガイダンス・キャッシュフロー計算書
- 05在庫サイクル(在庫日数)半導体は好不況の波が大きい。在庫の積み上がりは調整局面の予兆各社 貸借対照表・受注残の開示
- 06技術優位性(ノード・歩留まり)最先端を握れるかが長期の競争力を決める各社 技術ロードマップ・量産スケジュール
- 07競合環境(シェア推移)寡占か競争激化かで利益率の持続性が変わるTrendForce・Counterpoint等の市場調査
- 08規制・地政学リスク輸出規制・補助金条件・生産地の集中が一夜で前提を変えるBIS規則・各国政府発表・各社のリスク開示
- 09バリュエーションの前提高成長期待が織り込まれた局面では、成長鈍化の感応度が高い。前提を点検する各社ガイダンス・コンセンサス予想(複数ソースで照合)
※ これは確認すべき項目の整理であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
特に、アドバンテストはAI・HBMテスト需要、東京エレクトロンとディスコはAI半導体の生産・後工程需要に連動します。一方で、中国売上比率と対中規制の動向、そして先端露光での構造的な弱みは、必ず確認すべき点です。なお本記事は投資助言ではありません。
装置需要全体の勢いは世界統計にも表れています。SEMIが発表した「世界の半導体製造装置、2四半期連続で過去最高——2026年4-6月期405億ドル、前年比23%増」では、AIインフラ投資が市場をけん引する構図を確認できます。
これから何に注目すればよいか
注目は、AI半導体の生産拡大が装置需要をどこまで押し上げるか、対中輸出規制がさらに強まるか、そしてキヤノンのナノインプリントやニコンの新型露光が先端で存在感を取り戻せるかです。半導体を「装置と材料」の視点で見ると、ニュースの裏側にいる日本企業の重要性が見えてきます。技術の基礎は「半導体とは何か」、産業全体は「半導体産業はどう動くのか」へ戻って確認できます。
この記事のまとめ
- 日本は半導体製造装置で世界シェア約30%(米国に次ぐ2位)。前工程・後工程・検査・材料に強い企業が揃う(出典:米商務省)。
- 東京エレクトロンは前工程の広範な装置を持ち、塗布・現像で世界約9割。ディスコは後工程の切る/削るで約7〜8割。
- アドバンテストはテスタ2強の一角で、AI・HBM向けテスト需要により2026年3月期 売上約1.13兆円(+44.7%)。
- 弱みは先端露光。ここはASMLが約94%を握り、キヤノン・ニコンは後退(キヤノンはナノインプリントで別ルートを狙う)。
- リスクは対中輸出規制(2023年7月、先端装置23類型)と、中国売上比率の高さ(東京エレクトロン約38%)。
よくある質問(FAQ)
Q.なぜ日本は半導体の製造装置に強いのですか?+
日本企業は精密加工・材料・装置で長年の蓄積があり、半導体製造装置で世界シェア約30%(米国に次ぐ2位)を占めます(出典:米商務省 trade.gov)。塗布・現像装置、洗浄、後工程の切る/削る、検査、表面を平らに磨く研磨など、工程ごとに高いシェアを持つ企業が揃っているためです。
Q.東京エレクトロンは何を作っているのですか?+
前工程の幅広い装置(塗布・現像、成膜、エッチング、洗浄など)を手がけます。塗布・現像装置では世界約9割のシェアを持つとされます。一方、露光装置は作りません。2026年3月期の売上高は2兆4,435億円(前年度比0.5%増)で、2期連続の過去最高を更新しました(出典:TEL IR)。
Q.日本は露光装置を作れないのですか?+
成熟ノード向けはキヤノン・ニコンが作りますが、最先端のEUV露光装置はオランダのASMLが独占し、露光市場全体でもASMLが約94%を占めます(2024年、TrendForce)。キヤノンは光を使わないナノインプリント(NIL)という別ルートで先端を狙っています。
Q.アドバンテストはなぜ伸びているのですか?+
完成したチップを検査するテスタで、米Teradyneと2強を形成しています。AI半導体やHBM(広帯域メモリ)の性能テスト需要が急増し、2026年3月期の売上は約1.13兆円(前年比+44.7%)に達しました(出典:Advantest IR)。
Q.日本の装置メーカーのリスクは何ですか?+
最大は対中輸出規制です。日本は2023年7月、先端半導体製造装置23類型を輸出許可の対象に加えました(出典:METI/Hogan Lovells)。中国売上比率の高い企業(東京エレクトロンは約38%)は影響を受けます。先端露光でASMLに後れている点も構造的な弱みです。
用語集
- 露光(リソグラフィ)/ lithography
- 回路の原版(マスク)を通して光を当て、回路パターンをチップに転写する工程。半導体製造の心臓部。
- 成膜(せいまく)・塗布/ deposition / coating
- ウェハー表面に、配線や絶縁体になる薄い膜を一様につける工程。液体を塗る『塗布』も含む。
- エッチング/ etching
- レジストに覆われていない部分の膜を、気体や薬液で削り取り、回路パターンを膜に刻む工程。
- 後工程(OSAT)/ back-end / OSAT
- ウェハーから切り出したチップを検査・組み立て・パッケージする工程。
- EUV/ Extreme Ultraviolet 極端紫外線
- 波長の短い光で微細な回路を焼き付ける最先端の露光技術。装置はASMLが独占。
- ファウンドリ/ foundry
- 他社が設計した半導体を、受託して製造する工場。代表はTSMC。
- HBM/ High Bandwidth Memory
- DRAMを積み重ねて広帯域にした高性能メモリ。AI半導体とセットで使われる。
- パッケージング(先端パッケージング)/ advanced packaging
- 切り出したチップを基板に載せ、配線し、保護する工程。複数のチップを高密度につなぐ先端版もある。
参考資料・引用元
- 東京エレクトロン 2025年3月期 決算(FY2025 Financial Results)一次情報Tokyo Electron(IR)(2025-05)— 使用箇所: TEL 2025年3月期 売上約2.43兆円(過去最高)・コータ/デベロッパ世界シェアhttps://www.tel.com/ir/library/report/
- 東京エレクトロン 2026年3月期 決算短信・決算説明会資料一次情報Tokyo Electron(IR)(2026-04)— 使用箇所: TEL 2026年3月期 連結売上高 約2兆4,435億円(前年度比0.5%増、2期連続の過去最高)・用途別構成・R&D約3,000億円・2027年3月期上期予想 売上高1兆5,700億円(前年同期比+33.1%)https://www.tel.co.jp/ir/library/report/index.html
- アドバンテスト 決算ハイライト(FY2025)一次情報Advantest(IR)(2026-04)— 使用箇所: アドバンテスト 2026年3月期 売上約1.13兆円(+44.7%)・テスタ事業https://www.advantest.com/en/investors/financial-highlights/review/
- DISCO 企業分析(IR数値に基づく集計)報道Senrigan Analytics(2025-09)— 使用箇所: DISCO 2025年3月期 約3,933億円・ダイシング装置の世界シェア(要一次確認)https://senrigan.tech/en/report/6146_20250906
- Canon、世界初のナノインプリント半導体製造装置 FPA-1200NZ2Cを発表一次情報Canon(公式ニュース)(2023-10-13)— 使用箇所: キヤノンのナノインプリント露光(14nm相当)・成熟ノード注力https://global.canon/en/news/2023/20231013.html
- Nikon aims to close the gap on ASML with new ArF lithography system in FY28調査会社TrendForce(2025-02-21)— 使用箇所: 露光市場のASML約94%・ニコンの後退と2028年度の巻き返し計画https://www.trendforce.com/news/2025/02/21/news-nikon-aims-to-close-the-gap-on-asml-with-new-arf-lithography-system-in-fy28/
- Japan – Semiconductors(Country Commercial Guide)公的機関U.S. Department of Commerce / trade.gov(2024)— 使用箇所: 日本の製造装置 世界シェア約30%(米に次ぐ2位)・材料シェア(コータ88%/ウェーハ53%/レジスト50%)https://www.trade.gov/country-commercial-guides/japan-semiconductors
- Japan's New Chip Equipment Export Rules Take Effect(先端装置23類型の輸出規制)公的機関Hogan Lovells / METI(経済産業省)(2023-07-23)— 使用箇所: 2023年7月23日施行・先端半導体製造装置23類型の輸出許可対象化https://www.hoganlovells.com/en/publications/japans-new-chip-equipment-export-rules-take-effect
- Best Semiconductor Equipment Suppliers 2024調査会社TechInsights(2024)— 使用箇所: 世界SPEランキング(ASML>AMAT>Lam>TEL>KLA)でのTELの位置づけhttps://www.techinsights.com/blog/best-semiconductor-equipment-suppliers-2024
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