半導体産業は、設計・EDA・IP・製造装置・材料・製造(前工程)・後工程に分かれた国際分業で、価値は『代替の効かない工程』に集中します。1社でも1国でも完結しません。

「半導体とは何か」で技術の正体を見たら、次は「誰がどこで作っているのか」という産業の地図です。この記事では、バリューチェーン・主要企業・市場規模を図と表で読み解きます。

この記事で動かせる図解

  1. 01バリューチェーン・インタラクティブ図工程をクリックして主要企業・地域・参入障壁を見る
  2. 02市場規模グラフ2024→2026の世界半導体売上の推移を見る
ひとことで言うと(初心者向け)

半導体は、設計する会社・製造する会社・装置を作る会社などが世界中で分担して作っています。中でもTSMC(製造)やASML(露光装置)のように『そこしかできない工程』を持つ会社が、とても強い立場にあります。

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構造で言うと(投資家向け)

価値はバリューチェーン上の代替困難な工程に集中します。EDAはSynopsys/Cadence/Siemensで約75%、EUVはASML独占、先端製造はTSMC(ファウンドリ世界67.1%、4Q24)。市場は2025年7,917億ドル(+25.6%)、2026年に約1兆ドル見込みで、AIが牽引します。

半導体産業はどんな分業でできているのか

半導体は1社でも1国でも完結しません。設計・設計ツール()・回路資産()・製造装置・材料・製造(前工程)・後工程・最終製品という長いバリューチェーンを、世界中の企業が分担しています。なお、DRAMやNANDといったメモリは「工程」ではなく、ロジックと並ぶ製品カテゴリです(種類の整理は「半導体とは何か」を参照)。下の表と図で、各工程の役割と主要企業を確認できます。

バリューチェーン上の位置づけ
工程役割主要企業参入障壁地政学リスク
設計(ファブレス)チップの仕様・回路を設計する。製造は外部に委託するNVIDIA / AMD / Apple / Qualcomm / Broadcom高米国に集中。先端設計の人材・ツール依存
EDA / 設計ツール数百億個のトランジスタを設計するためのソフトウェアSynopsys / Cadence / Siemens EDA極めて高い米系3社で世界の約75%。輸出規制の対象になりやすい
IP(回路設計資産)CPUコアなど再利用可能な設計図を提供するArm / SiFive高Armは英国籍。標準アーキテクチャの供給に依存
製造装置露光・成膜・エッチングなどの製造装置を供給するASML / Applied Materials / Tokyo Electron / Lam Research極めて高いEUVはASML(蘭)の独占。日米蘭の輸出管理が直結
材料シリコンウェハー・フォトレジスト・特殊ガスなどを供給する信越化学 / SUMCO / JSR / 東京応化高高純度材料は日本に集中。代替が難しい
ファウンドリ(製造)設計図どおりにシリコン上へ回路を作り込む(前工程)TSMC / Samsung / Intel / SMIC極めて高い最先端は台湾TSMCに集中。地政学リスクの中心
後工程 / OSAT切り出したチップの検査・組み立て・パッケージングASE / Amkor / JCET中台湾・中国に集中。先端パッケージングが新たな要衝
最終製品完成した半導体を組み込んだ機器・サービスApple / データセンター / 自動車 / 産業機器中世界中。需要はAI・自動車・スマホに連動
メモリ(別カテゴリ)データを記憶するDRAM・NAND。ロジックとは別の製品の種類で、設計から製造まで自社で行う会社が多いSamsung / SK Hynix / Micron / キオクシア高韓国に大きく依存。HBMはAI需要で逼迫

半導体バリューチェーン(工程をクリック)

上流から下流へ、工程をクリックすると主要企業が表示されます。

ファウンドリ(製造)参入障壁 極めて高い台湾 / 韓国

設計図どおりにシリコン上へ回路を作り込む(前工程)

主要企業
TSMC / Samsung / Intel / SMIC
地政学リスク
最先端は台湾TSMCに集中。地政学リスクの中心

色は主たる生産地域。半導体は1社・1国で完結しない国際分業です。
※ メモリ(DRAM/NAND)は「工程」ではなく製品の種類なので、この流れには含めていません。

たとえばのNVIDIAは設計に集中し、製造はのTSMCに委託します。設計にはEDAソフトが不可欠で、Synopsys・Cadence・Siemensの3社で世界の約75%を占めます。

さらに、製造装置のうち最先端の露光装置はオランダのASMLが唯一供給します。こうした「代替の効かない工程」に、産業全体の価値と交渉力が集まります。

主要企業はどこで戦っているのか

半導体の主要企業は、それぞれバリューチェーン上の異なる場所で強みを持っています。下の比較表で、各社の事業領域・強み・弱み・リスクを整理しました。

主要企業・競争環境
企業事業領域強み弱み主なリスク出典
TSMCファウンドリ(受託製造)最先端プロセスで圧倒的。ピュアファウンドリ世界シェア67.1%(4Q24)生産が台湾に集中。地政学リスクを一身に背負う台湾有事・対中規制・設備投資の巨額化TrendForce
NVIDIAAI GPU設計(ファブレス)AIアクセラレータでほぼ独占。CUDAソフト資産が参入障壁。DC売上475億ドル(FY24,+217%)製造をTSMCに全面依存。需要変動が激しい対中輸出規制・競合参入・在庫サイクルNVIDIA / U.S. SEC
ASML露光装置(製造装置)EUV露光装置を独占供給。最先端製造に不可欠顧客が少数の先端ファウンドリに集中対中輸出規制・受注の波・装置の複雑化CNBC
Samsung Electronicsメモリ+ファウンドリ(IDM)DRAM/NANDの最大手。ファウンドリも展開先端ファウンドリでTSMCに後れ。HBMで競争激化メモリ市況の変動・歩留まり・対中規制TrendForce
ArmCPU IP(設計資産)世界の99%超のスマホがArmベース。省電力設計の標準ライセンス料モデルで売上規模は相対的に小さいアーキテクチャ移行・大口顧客の自社設計・地政学Arm Holdings / U.S. SEC
Synopsys / CadenceEDA(設計ソフト)Siemens EDAと合わせ世界の約75%。設計に必須顧客が半導体設計企業に限られる対中輸出規制(EDAは規制対象になりやすい)BIS(米商務省産業安全保障局)

ここで重要なのは、強い会社ほど特定の工程に深く特化していることです。TSMCは製造に、ASMLは露光装置に、NVIDIAはAI向け設計とソフトに集中し、それぞれが高い参入障壁を築いています。一方でその特化は、対中輸出規制や台湾集中といった固有のリスクと隣り合わせでもあります。

半導体市場はどれくらい大きいのか

世界の半導体市場は急拡大しています。2025年の世界半導体売上高は7,917億ドルで前年比25.6%増となり、過去最高を記録しました。そして2026年には約1兆ドルに達する見込みです。

(SIA)

かつて「2030年に1兆ドル」とされていた業界の長期目標は、生成AI向け需要の急拡大によって前倒しされつつあります。ただし半導体は好不況の波が大きい産業です。AIデータセンター向けが牽引する一方で、スマホやメモリ向けは循環するため、市場全体の数字だけでなく、どのセグメントが伸びているかを見る必要があります。

次に読むと、リスクと投資が見えてくる

産業の地図が見えたら、最後はリスクとお金の流れです。半導体は技術であると同時に、規制と安全保障の対象でもあります。「米中半導体摩擦2026年の全体像」で、米中規制・台湾リスクを整理します。技術の基礎を振り返りたいときは「半導体とは何か」へ戻れます。

この記事のまとめ

  • 半導体は1社・1国で完結しない国際分業。設計→EDA/IP→装置/材料→ファウンドリ→後工程→最終製品と続く。なお、メモリ(DRAM/NAND)は工程ではなく別の製品の種類。
  • 価値は『代替の効かない工程』に集中。EDAはSynopsys/Cadence/Siemensで約75%、EUV露光はASMLが独占、先端製造はTSMC(ファウンドリ世界シェア67.1%、4Q24)。
  • 主要企業は特定工程に深く特化して高い参入障壁を築く(TSMC=製造、ASML=露光装置、NVIDIA=AI設計)。
  • 世界市場は2025年に約7,917億ドル(+25.6%)、2026年に約1兆ドル見込み。AIが牽引する一方でメモリ・スマホは循環する。
  • 産業を読むには『どのセグメントが伸びているか』と『各社がどの工程を握るか』の2点を見る。
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よくある質問(FAQ)

Q.半導体のバリューチェーンとは何ですか?+

設計・EDA・IP・製造装置・材料・製造(前工程)・後工程・最終製品という、半導体ができるまでの一連の分業のことです。世界中の企業がそれぞれの工程を分担しており、1社・1国では完結しません。なお、メモリは工程ではなく、ロジックと並ぶ製品カテゴリです。

Q.なぜTSMCや台湾が重要だと言われるのですか?+

TSMCはピュアファウンドリ(受託製造)で世界シェア67.1%(2024年第4四半期、TrendForce)を握り、最先端チップの大半を台湾で製造しています。世界の10nm未満ロジック生産能力の約92%が台湾に集中している(BCG×SIA、2021年)ため、産業の要衝になっています。

Q.ASMLのEUV露光装置はなぜそれほど重要なのですか?+

EUV(極端紫外線)露光装置は最先端チップの製造に不可欠で、ASMLが世界で唯一供給しています。次世代のHigh-NA機は1台約4億ドルとされ(CNBC、2025年、報道ベース)、バリューチェーン上で最も代替の効かない工程の一つです。

Q.バリューチェーンのどこに価値が集まるのですか?+

設計・EDA・EUV露光装置・先端製造など『代替の効かない工程』に、産業全体の価値と交渉力が集中します。EDAはSynopsys・Cadence・Siemensで世界の約75%、EUVはASMLが独占、先端製造はTSMCに集中しています。

Q.半導体市場はこれからも伸びるのですか?+

世界半導体売上は2025年に7,917億ドル(前年比+25.6%)で過去最高を記録し、2026年には約1兆ドルに達する見込みです(SIA、2026年2月)。ただし半導体は好不況の波が大きく、AI需要が牽引する一方でメモリやスマホ向けは循環します。

用語集

ファウンドリ/ foundry
他社が設計した半導体を、受託して製造する工場。代表はTSMC。
ファブレス/ fabless
自社で工場を持たず、設計だけを行う会社。製造はファウンドリに委託する。
EDA/ Electronic Design Automation
半導体の回路を設計するための専用ソフトウェア。これなしに最新チップは作れない。
IP(設計資産)/ Intellectual Property
再利用できる回路の設計図。CPUの基本設計などを各社にライセンスする。
EUV/ Extreme Ultraviolet 極端紫外線
波長の短い光で微細な回路を焼き付ける最先端の露光技術。装置はASMLが独占。
後工程(OSAT)/ back-end / OSAT
ウェハーから切り出したチップを検査・組み立て・パッケージする工程。
HBM/ High Bandwidth Memory
DRAMを積み重ねて広帯域にした高性能メモリ。AI半導体とセットで使われる。

参考資料・引用元

  1. Global Annual Semiconductor Sales Increase 25.6% to $791.7 Billion in 2025業界団体
    SIA(米半導体工業会)(2026-02)— 使用箇所: 世界半導体市場規模 2024年6,305億ドル・2025年7,917億ドル(+25.6%)・2026年約1兆ドル見込み
    https://www.semiconductors.org/global-annual-semiconductor-sales-increase-25-6-to-791-7-billion-in-2025/
  2. WSTS Semiconductor Market Forecast(市場予測の推移)業界団体
    WSTS(世界半導体市場統計)(2025)— 使用箇所: 市場規模の年次予測と上方修正の推移
    https://www.wsts.org/76/Recent-News-Release
  3. 4Q24 Global Top 10 Foundries Set New Revenue Record, TSMC Leads in Advanced Process Nodes調査会社
    TrendForce(2025-03-10)— 使用箇所: ファウンドリ市場シェア(4Q24) TSMC 67.1%・Samsung 8.1%・SMIC 5.5%
    https://www.trendforce.com/presscenter/news/20250310-12510.html
  4. NVIDIA Form 8-K(四半期業績)一次情報
    NVIDIA / U.S. SEC(2024)— 使用箇所: NVIDIA データセンター部門 FY2024売上475億ドル(+217%)
    https://www.sec.gov/cgi-bin/browse-edgar?action=getcompany&CIK=0001045810&type=8-K
  5. Arm Holdings Form F-1(新規上場目論見書)一次情報
    Arm Holdings / U.S. SEC(2023-08-21)— 使用箇所: 世界の99%超のスマートフォンがArmベース(2022暦年)
    https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1973239/000119312523216983/d393891df1.htm
  6. 2024 OSAT Industry Revenue Ranking調査会社
    TrendForce(2025-05-13)— 使用箇所: OSAT世界シェア(2024) ASE 44.6%・Amkor 15.2%
    https://www.trendforce.com/presscenter/news/20250513-12577.html

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