半導体づくりは版画に似ています。前回のリソグラフィが板に下絵を写す作業だとすると、今回のエッチングは彫刻刀で板を彫る作業です。下絵(レジスト)に覆われた所は守られ、覆われていない所だけが削られて、回路の形が膜そのものに刻まれます。彫り方は2つ。薬液にひたして溶かす「ウェット」は、お風呂に角砂糖を沈めたように全方向へ丸く溶けるので細かい回路には不向き。主流の「ドライ」は、プラズマ(電気を帯びたガス)のイオンを真上から打ち込むので、壁が垂直のまま深く彫れます。
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エッチング装置市場は2024年に約200億ドルで、Lam Research・東京エレクトロン・Applied Materialsの上位3社が約9割を握る寡占構造。首位LamはFY2025売上約184億ドル・システム売上の27%がNAND向け。3D NAND積層数増加が競争軸で、極低温で彫るクライオエッチングをTELが2026年量産で追う。中国AMECは国産化の担い手。個別分析は company-lam-research / company-tokyo-electron 参照。
この記事で動かせる図解
- 01エッチングの断面3Dモデルレジストの型→ウェット(丸く横にも溶ける)→ドライ(垂直に深く彫れる)→型を外すと回路が残る、の4状態を切り替えて見る
エッチングとは何か
エッチングとは、レジストに覆われていない部分の膜を削り取り、回路パターンを膜そのものに彫り込む工程です。ここまでのシリーズで、ウェハーの上には酸化膜や配線材料の膜が付き(成膜)、その上のレジストに回路の設計図が焼き付けられました(リソグラフィ)。しかし膜自体はまだ一面ベタのまま、どこも削られていません。そもそも半導体とは何かから知りたい場合は「「半導体とは何か」」が入口です。
版画を思い浮かべてください。板に下絵を写しただけでは、インクを乗せても絵は刷れません。下絵に沿って彫刻刀で彫り、残す所と削る所を分けて初めて「版」になります。
半導体ではレジストが下絵、エッチングが彫刻刀です。彫り終えて型を外せば、膜に刻まれた回路の形だけが残ります。
つまり、成膜で「つけて」、リソグラフィで「描いて」、エッチングで「彫る」。この3点セットを何十回も繰り返して、半導体の多層回路は積み上がっていきます。装置の視点から見たエッチングは「「削って回路を刻む。エッチング装置で世界首位のLam Research」」でも扱っています。
ウェットとドライは何が違うのか
彫り方には大きく2つあります。アイアール技術者教育研究所の工程解説を手がかりに整理すると、違いは「何で削るか」と「どの方向に削れるか」です。
ウェットエッチングは、膜を溶かす薬液にウェハーをひたす方法です。装置が簡単で、何十枚もまとめて処理できるため安くて速い。ただし薬液は液体なので、開いた穴の中であらゆる方向へ均等に溶かします。
これを等方性(とうほうせい)と呼びます。真下だけでなく横にも溶けるため、レジストのふちの下まで丸くえぐれる「アンダーカット」が起き、彫り上がりは型より一回り太ってしまいます。回路が数nm〜数十nmまで細くなった現在、この誤差は致命的です。
そこで主流になったのがドライエッチングです。薬液の代わりに、反応しやすいガスをプラズマ——電気のエネルギーでガスの分子がイオン(電気を帯びた粒)などに分解された状態——に変え、そのイオンを電気の力でウェハーへ垂直に加速してぶつけます。
粒が真上からだけ降ってくるので、削れる方向も真下だけ。壁が垂直に立った溝や穴を、型どおりの寸法で彫れます。これが異方性(いほうせい)です。
なぜプラズマなら「まっすぐ深く」彫れるのか
言葉だけでは違いが伝わりにくいので、断面の3Dモデルで見比べてください。方式Aと方式Bは順番に行う手順ではなく、狙う形に応じてどちらか一方を選ぶ関係です。
ウェット(方式A)では薬液が型の下まで丸く回り込むのに対し、ドライ(方式B)ではイオンの粒が垂直に降り、開口部の真下だけが掘り進みます。ドライエッチングの巧妙なところは、イオンの物理的な「衝突」とガスの化学的な「反応」の合わせ技になっている点です。化学反応だけなら等方的に進んでしまいますが、垂直に打ち込まれるイオンが穴の底だけを叩き続けるため、底では削りが速く、壁ではほとんど進みません。さらに彫っている最中に壁へ保護膜を付けながら進む工夫もあり、深く彫っても壁が崩れない仕組みになっています。
3D NANDの穴は、どれくらい「異常」なのか
この垂直に彫る技術が極限まで試されるのが、スマホやSSDに入る3D NANDです。3D NANDは記憶素子を数百層も積み上げ、その全層を貫く「チャネルホール」という穴を開けて縦につなぎます。
首位メーカーLam Researchの技術解説によると、この穴は直径約100nm・深さ5〜6μmで、深さ対幅の比(アスペクト比)は50〜60倍。先端品では100倍を超えます。直径1mの井戸を、壁を垂直に保ったまま深さ100mまで掘るような比率の穴を、1枚のウェハーに何十億個、すべて同じ形で開けるわけです。
ここで登場したのが、ウェハーを氷点下まで冷やして彫る「クライオ(極低温)エッチング」です。Lam Researchは2019年に量産適用し、従来比2.5倍のエッチング速度と2倍のプロファイル精度を実現しました。追う東京エレクトロンも、400層超に対応し、速度2.5倍・消費電力40%以上減を掲げるクライオエッチング技術を発表し、アスペクト比100倍の工程を組み合わせて将来は200倍を目指すとしています。積層数の競争は、そのまま「どれだけ深く垂直に彫れるか」の競争です。
エッチング装置は誰が握っているのか
エッチング装置の世界市場は2024年に約200億ドルで、Lam Research・東京エレクトロン・Applied Materialsの上位3社が約9割を占める寡占市場です(調査会社集計)。
首位のLam Researchは、エッチングと成膜に絞って世界上位に立った専業型の装置メーカーです。FY2025(2025年6月期)の売上は約184億ドルで、向けがシステム売上の27%を占めます。3D NANDの深穴加工はほぼ独壇場です。詳しくは「「半導体を“削る・盛る”ことに特化して世界上位に立った会社」」で分析しています。
2位の東京エレクトロンは塗布・現像からエッチング・成膜まで前工程を幅広く手がける日本の装置最大手です。クライオエッチングで首位を追っており、詳しくは「「半導体の“塗って・削って・盛る”工程は、この日本企業が握っている」」で解説しています。3位のApplied Materialsは露光以外ほぼ全工程を手がける世界最大の装置メーカーです(「「半導体装置の“何でも屋”にして世界最大。露光以外はほぼ手がける」」参照)。
注目株は中国のAMEC(中微公司)です。Applied Materials元幹部のGerald Yin氏が創業したエッチング専業メーカーで、5nm対応品を開発済み、2024年売上は約82億元。米中の輸出規制で先端装置を買えなくなった中国が、国産化の切り札として育てている会社です。
彫り上がったウェハーには、役目を終えたレジストがまだ残っています。次回は、このレジストを取り除き、ウェハーを徹底的に洗う「除去・洗浄」の工程を歩きます。
この記事のまとめ
- エッチングとは、レジストの型に守られていない部分だけを削り、回路の形をウェハー上の膜に彫り込む工程。露光が「下絵」なら、エッチングは「彫刻刀」に当たる。
- ウェットエッチングは薬液で溶かす方法。あらゆる方向へ均等に溶ける等方性のため、レジストの下までえぐれるアンダーカットが起き、細かい回路には向かない。
- ドライエッチングはプラズマから生じたイオンを電気の力で垂直に加速してぶつける方法。まっすぐ深く彫れる異方性で、現在の微細加工の主流。
- 3D NANDのチャネルホールは直径約100nm・深さ5〜6μmで、深さが幅の50〜60倍。先端品では100倍を超え、極低温で彫るクライオエッチングが速度を約2.5倍に引き上げた。
- エッチング装置は2024年に約200億ドル市場。Lam Research・東京エレクトロン・Applied Materialsの上位3社で約9割を占め、中国AMECが国産化で追う。
よくある質問(FAQ)
Q.エッチングとは何ですか?+
エッチングとは、リソグラフィで作ったレジスト(感光する膜)の型に守られていない部分だけを削り取り、回路の形をウェハー上の膜そのものに彫り込む工程です。露光・現像はレジストに設計図を描くだけで、膜はまだ無傷のまま。エッチングで初めて回路が実際の形になります。版画にたとえると、下絵に沿って彫刻刀で板を彫る作業に当たります。
Q.ウェットエッチングとドライエッチングは何が違いますか?+
ウェットエッチングは薬液で化学的に溶かす方法で、安く大量に処理できる一方、あらゆる方向へ均等に溶ける(等方性)ため、レジストの下まで丸くえぐれてしまい、細かい回路には向きません。ドライエッチングはプラズマ(電気を帯びたガス)から生じたイオンを電気の力で垂直に加速してぶつける方法で、まっすぐ深く彫れる(異方性)ため、現在の微細な回路づくりの主流です。
Q.異方性エッチングとは何ですか?+
異方性エッチングとは、削る反応が特定の方向——ふつうは真下——にだけ進むエッチングのことです。イオンがウェハーに対して垂直に打ち込まれるため、壁が垂直に立った溝や穴を型どおりの寸法で彫れます。反対に、全方向へ均等に削れるものは等方性エッチングと呼ばれ、レジストの下がえぐれるアンダーカットが起きます。回路が微細になるほど、異方性の高いドライエッチングが必須になります。
Q.エッチング装置はどの会社が強いのですか?+
世界首位は米Lam Researchで、東京エレクトロン、Applied Materialsが続き、上位3社で市場の約9割を占めます(2024年・調査会社集計)。エッチング装置市場は2024年に約200億ドル規模です。とくにLam Researchは3D NAND向けの深い穴を彫る高アスペクト比エッチングに強く、中国ではAMEC(中微公司)が国産化の担い手として追い上げています。
用語集
- ウェハー/ wafer
- 半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
- NAND(NANDフラッシュ)/ NAND flash
- 電源を切ってもデータが消えない記憶装置。SSDやスマホのストレージに使われる。
参考資料・引用元
- 【半導体製造プロセス入門】エッチングの基礎知識(ドライ/ウェット、等方性/異方性など)報道アイアール技術者教育研究所(2023)— 使用箇所: ウェット=薬液で化学的に溶かす・バッチ処理で高スループット・等方性でアンダーカット発生/ドライ=反応ガスのプラズマでラジカル・イオンを反応させる異方性加工が主流https://engineer-education.com/semiconductor-processes-15_etching-basic/
- How Etch Breakthroughs Are Tackling 3D NAND Scaling Challenges on the Path to 1,000 Layers報道Semiconductor Digest(Lam Research寄稿)(2024-07)— 使用箇所: 3D NANDチャネルホール=直径約100nm・深さ5〜6μm(アスペクト比50〜60:1)・先端は100:1超・Lamのクライオエッチング2019年量産適用で速度2.5倍/精度2倍https://www.semiconductor-digest.com/how-etch-breakthroughs-are-tackling-3d-nand-scaling-challenges-on-the-path-to-1000-layers/
- クライオジェニックエッチング——東京エレクトロンが挑む、半導体製造装置の「デジタル&グリーン化」一次情報東京エレクトロン(公式ブログ)(2024-10-21)— 使用箇所: TELのクライオエッチング=極低温プロセスで3D NAND 400層超対応・エッチング速度2.5倍・消費電力40%以上減・2026年本格量産予定https://www.tel.co.jp/blog/all/20241021_001.html
- Semiconductor Etch Equipment Market Outlook 2025-2032調査会社Intel Market Research(2025)— 使用箇所: エッチング装置市場2024年約200億ドル・上位3社(Lam Research/東京エレクトロン/Applied Materials)で約9割・ドライエッチングが89%https://www.intelmarketresearch.com/semiconductor-etch-equipment-market-market-16371
- Lam Research Form 10-K (FY ended June 29, 2025)一次情報Lam Research / U.S. SEC(2025-08)— 使用箇所: FY2025連結売上約184億ドル(+23.7%)・地域別(中国34%/韓国22%/台湾19%/日本10%/米7%)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/0000707549/000070754925000075/lrcx-20250629.htm
- Lam Research Reports Financial Results for the Quarter Ended June 29, 2025一次情報Lam Research (PR Newswire)(2025-07)— 使用箇所: FY2025システム売上 用途別(ファウンドリ52%/NAND27%/DRAM14%/ロジック7%)・粗利率48.7%・R&D約21億ドルhttps://www.prnewswire.com/news-releases/lam-research-corporation-reports-financial-results-for-the-quarter-ended-june-29-2025-302517706.html
- Advanced Micro-Fabrication Equipment(AMEC / 中微公司)Corporate Overview一次情報AMEC(公式)(2025)— 使用箇所: AMEC(中微公司・上証688012)の事業概要:CCP/ICP方式エッチング装置・5nm対応品・Gerald Yin(創業者、Applied Materials元VP)・NAND/ロジック向け採用・2024年売上約82億元(要確認・公式ウェブサイト)https://www.amec-inc.com/en/
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