ロームは、次世代パワー半導体SiC(炭化ケイ素=電力ロスを大きく減らせる半導体材料)を2010年に世界で初めて量産した、京都発のメーカーです。電気自動車のモーターやデータセンターの電源など、大きな電力を扱う場面で電気のムダを減らす部品を作っています。基板から自社で一貫して作る垂直統合と車載・産業向けの強さを武器に、欧米大手がひしめくSiC市場で上位5社の一角を占めるこの会社を、事業構成・技術・競争構造から読み解きます。

「EVと電力網を支える、もう一つの半導体(SiC・GaN)」で見たように、パワー半導体は電力を効率よく変換するための「電気の関所」です。その最先端であるSiCを早くから手がけてきたのがロームです。半導体業界全体での位置づけは「半導体メーカーは、6つの役割で見ると一気にわかる」も合わせて読むと理解が深まります。そもそも半導体とは何かは「半導体とは何か。スマホもAIも、すべてここから始まる」で整理しています。

ひとことで言うと(初心者向け)

ロームは、電気のムダを減らす「パワー半導体」を作る京都の会社です。中でもSiC(炭化ケイ素)という次世代材料を世界で初めて量産した先行者で、電気自動車や工場の機械で活躍しています。基板という土台から自社で作っているのが強み。売上は4,484億円規模の半導体メーカーです。

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構造で言うと(投資家向け)

2025年3月期は連結売上高4,484億円・営業損益▲401億円。売上はLSI約45%・半導体素子(ディスクリート)約42%・モジュール約7%・その他約6%。SiC上位5社の一角だが、首位ST・インフィニオンに規模で劣後する。垂直統合と車載信頼性が参入障壁。一方、車載市況の悪化とSiC増産投資の先行で利益が一時的に圧迫される構造にある。

ロームとはどんな会社か

ロームとは、パワー半導体・アナログIC・ディスクリート部品を手がける京都発の半導体メーカーです。1958年に京都で「東洋電具製作所」として抵抗器の製造から創業し、後に社名をロームへ改めました。社名は主力だった抵抗器(Resistor)の「R」と単位のオーム(ohm)に由来します。

ロームの大きな特徴は、メモリや先端ロジックのような微細化競争(より細いを追う競争)には主軸を置かず、パワー半導体やアナログ・ディスクリート部品といった「電力を扱う・信号を整える」領域に集中している点です。とりわけ車載(自動車)と産業機器に強く、品質や信頼性を重視する顧客と長く取引してきました。

そして同社を象徴するのが、次世代パワー半導体SiC(炭化ケイ素)への早期投資です。2010年にSiC(電流をオン・オフするスイッチ素子)の量産を世界で初めて開始し、以来SiCを経営の柱に育ててきました(ローム株式会社)。

ロームの売上はどの事業で構成されているか

ロームの事業は、大きく「LSI」「半導体素子(ディスクリート)」「モジュール」「その他」の4区分で報告されています。LSIはアナログIC(電源や信号を扱う集積回路)など、半導体素子はトランジスタやダイオード(電流を一方向に流す素子)など個別部品、モジュールは複数部品をまとめた製品です。

2025年3月期(FY2024)の連結売上高は4,484億円、営業損益は401億円の赤字でした。車載・産業の在庫調整やSiC増産投資の先行が重なり、減収・赤字となりました。セグメント別売上高は次の通りです。

セグメント主な製品売上高(2025年3月期)構成比
LSIアナログIC・電源IC・ロジックIC約2,038億円約45%
半導体素子(ディスクリート)SiC・トランジスタ・ダイオード・抵抗器約1,870億円約42%
モジュールパワーモジュール・プリントヘッド等約325億円約7%
その他受託加工など約250億円約6%

(出典:ローム株式会社)

注目すべきは、SiCを含む半導体素子セグメントです。同セグメントは用途別で自動車向けが約57%を占め、車載パワー半導体が収益の中核にあることがわかります。LSIも電源・信号系のアナログ製品が中心で、ロームの売上は「電力と信号を扱う部品」に集中している構造が読み取れます(ローム株式会社)。

ロームの技術的な強みはどこにあるか

ロームの技術的な強みは、SiC(炭化ケイ素)パワー半導体での先行と、基板から作る垂直統合にあります。SiCはシリコンより高い電圧・高い温度に耐え、電力ロスを大きく減らせる次世代材料です。そして、ロームは2010年にSiC MOSFET(炭化ケイ素を使うスイッチ素子の一種)を世界で初めて量産し、同年にはSiC製のダイオード(高速に電流を整える整流素子)も国内初で量産しました(ローム株式会社)。

もう一つの柱が垂直統合です。ロームはドイツのSiCrystal(サイクリスタル)社を傘下に持ち、SiC(チップの土台となる円板)の製造から、デバイス構造の設計、製造プロセス、パッケージ(封止)、品質管理まで自社で一貫して行います。SiCは結晶に欠陥が出やすく品質の作り込みが(良品の割合)を左右するため、上流の基板から押さえることが特性と供給安定の両面で効いてきます(ローム株式会社)。

この一貫体制を背景に、ロームは世界初の「フルSiCパワーモジュール」量産など、SiCを実装した製品でも先行してきました。微細化を追うロジック半導体とは別の土俵で、材料・素子・実装を束ねた作り込みが差別化の源泉になっています。

サプライチェーンの中でロームはどんな役割か

ロームはサプライチェーンの中で、車載・産業向けパワー半導体の供給者という役割を担います。電気自動車のインバータ(モーターを駆動する電力変換装置)や、産業機器・データセンターの電源など、大電力を効率よく変換する場面でロームのSiCやパワーデバイスが使われます。

特徴的なのが、東芝デバイス&ストレージとの製造連携です。2023年12月、両社が共同で進めるパワー半導体の供給確保計画が経済産業省に認定されました。総額3,883億円規模の投資計画で、ロームがSiC(炭化ケイ素)パワー半導体、東芝がシリコン系パワー半導体に重点投資し、互いの生産能力を融通し合う枠組みです。経産省は最大1,294億円の助成を見込みます(東芝デバイス&ストレージ / ローム)。

この連携により、SiCとシリコンという異なる材料のパワー半導体を、日本国内で安定供給する体制づくりが進みます。ロームは単独でSiCを担うだけでなく、国の経済安全保障政策とも結びついた供給網の一角を占める存在になっています。

ロームの市場ポジションと競争構造はどうなっているか

ロームはSiCパワー半導体で世界上位5社の一角を占めます。インフィニオン(独)、STマイクロエレクトロニクス(欧)、ウルフスピード(米)、オンセミ(米)、ロームの5社で、SiCパワー半導体の世界売上の9割超を握る寡占市場です。首位はSTで、2023年時点で約33%とされ、ロームは2022年時点で約8%・5位前後と見られます(TrendForce)。

この市場の競争構造を、「誰と、どんな力関係で戦っているか」という5つの視点で整理すると次のようになります。

力主体強さ理由
競合インフィニオン・ST・三菱電機・富士電機・オンセミ等高SiCは欧米大手が大規模投資。シリコン系では三菱・富士など国内勢とも競合
買い手の交渉力自動車メーカー・Tier1・産業機器メーカー中〜高大口で価格圧力はあるが、車載認定済みのSiCは乗り換えが難しい
供給者の交渉力SiC基板・原料・製造装置低〜中ロームは基板を自社(SiCrystal)で内製し供給者依存を抑制
新規参入—中量産には巨額投資と車載信頼性の蓄積が要る高い壁。ただし大手の能力増強は活発
代替品GaN・シリコンIGBT中低電圧域はGaN、汎用域はシリコンが残る。SiCは高電圧域で優位

最大の参入障壁は、車載グレードの信頼性の作り込みと巨額の設備投資です。自動車に載るパワー半導体は故障が許されず、採用前に長期の評価を経て品質を作り込みます。ロームは2010年からの量産実績で車載の信頼を積み上げてきました。一方で、SiCは欧米大手も大規模投資を進めるため、競争は価格と供給能力の両面で激しさを増しています。

ロームが抱える弱み・リスクは何か

最大の弱みは、欧米大手に対する規模の劣後です。SiCで首位のSTやインフィニオンは半導体全体で数兆円規模の売上を持ち、研究開発や設備投資に投じられる体力が大きく違います。そのため、売上4,484億円のロームは技術では先行しても、投資総額の規模で押し負けるリスクを抱えます。

二つ目が、車載市況への連動です。ロームの収益はパワー半導体に偏り、半導体素子セグメントは自動車向けが約6割を占めます。電気自動車(BEV)の普及ペースが鈍ると、SiC需要も想定より伸びにくくなります。実際に2025年3月期は車載・産業の在庫調整が響き、営業赤字に転落しました。

三つ目が、SiC投資の負担です。ロームは2021〜2027年度に数千億円規模をSiC増産に投じる計画で、宮崎県の旧国富工場を取得して8インチSiCの主力拠点に育てています。成長への先行投資ですが、需要回復が遅れれば償却負担が利益を圧迫します。データセンターやBEVという成長市場に賭ける一方で、その波に収益が振られやすい構造です(EE Times Japan)。

ロームの最近の動向はどうか

最近のロームは、SiCの増産と国内供給網づくりを前面に出しています。2023年に宮崎県のソーラーフロンティア旧国富工場を取得し、グループのラピスセミコンダクタ宮崎第二工場として8インチSiCの主力拠点に整備を進めています。生産能力は2021年度比で2025年度に約6.5倍、2030年度には約35倍へ拡大する計画です(EE Times Japan)。

技術面でも歩みを止めていません。オン抵抗(電流を流すときの損失)を世代ごとに下げる新しいSiC MOSFETの開発を続け、車載での採用を広げています。前述の東芝との製造連携と合わせ、ロームは「SiCの先行者」というポジションを、量産能力と国内供給体制の両面で固めにかかっています。

派手なロジックチップを作る会社ではありませんが、電気自動車やデータセンターで電力効率がますます重視されるなか、電力ロスを減らすロームの存在感は静かに高まっています。

この記事のまとめ

  • ロームは1958年に京都で創業した半導体メーカーで、2010年にSiC(炭化ケイ素)パワー半導体を世界で初めて量産した先行者である。
  • 2025年3月期の連結売上高は4,484億円で、LSI約45%・半導体素子(ディスクリート)約42%・モジュール約7%・その他約6%の構成である。
  • 強みはSiCウエハー(基板)から最終デバイスまで自社で作る垂直統合と、車載・産業向けに磨いた信頼性にある。
  • 東芝デバイス&ストレージと製造連携し、ロームがSiC・東芝がシリコンのパワー半導体に投資を分担する(経産省認定計画)。
  • リスクは欧米大手に対する規模の劣後、車載市況の変動、巨額のSiC投資が利益を一時的に圧迫していることである。

この記事のまとめ

  • ロームは1958年に京都で創業した半導体メーカーで、2010年にSiC(炭化ケイ素)パワー半導体を世界で初めて量産した先行者である。
  • 2025年3月期の連結売上高は4,484億円で、LSI約45%・半導体素子(ディスクリート)約42%・モジュール約7%・その他約6%の構成。
  • 強みはSiCウエハー(基板)から最終デバイスまで自社で作る垂直統合と、車載・産業向けに磨いた信頼性にある。
  • 東芝デバイス&ストレージと製造連携し、ロームがSiC・東芝がシリコンのパワー半導体に投資を分担する(経産省認定計画)。
  • リスクは欧米大手に対する規模の劣後、車載市況の変動、巨額のSiC投資が利益を一時的に圧迫していることである。
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よくある質問(FAQ)

Q.ロームとはどんな会社ですか?+

ロームは、パワー半導体やアナログIC、ディスクリート部品を手がける京都発の半導体メーカーです。1958年に京都で抵抗器メーカーとして創業し、現在は車載・産業向けに強みを持ちます。最大の特徴は、次世代パワー半導体SiC(炭化ケイ素)を2010年に世界で初めて量産したことです。2025年3月期の連結売上高は4,484億円でした。

Q.ロームのSiCパワー半導体はなぜ強いのですか?+

ロームは2010年に世界初でSiC MOSFET(炭化ケイ素を使うトランジスタの一種)を量産し、早くから車載グレードの製品を揃えてきた先行者です。さらにドイツのSiCrystal社を買収し、SiCウエハー(基板)の製造からデバイスまでを自社で一貫生産する垂直統合体制を持ちます。素材から作り込むことが、特性と供給安定の両面で強みになっています。

Q.ロームの競合はどこですか?+

SiCパワー半導体ではインフィニオン(独)、STマイクロエレクトロニクス(欧)、オンセミ(米)、ウルフスピード(米)が主な競合で、この5社で世界売上の9割超を占めます。シリコン系のパワー半導体では三菱電機や富士電機など国内勢とも競合します。ロームは上位5社の一角ですが、売上規模では欧米大手に水をあけられています。

用語集

トランジスタ/ transistor
電気のスイッチ。オン/オフで「0と1」を表し、計算と記憶の最小単位になる。
ウェハー/ wafer
半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
データセンター/ data center
大量のサーバーをまとめて置き、24時間動かし続ける施設。クラウドやAIの計算はここで行われる。
歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。
ノード(プロセス)/ process node
製造プロセスの世代を表す呼び名(例:3nm)。小さいほど高性能・省電力になりやすい。

参考資料・引用元

  1. 2025年3月期 決算短信(連結)一次情報
    ローム株式会社(2025-05)— 使用箇所: 2025年3月期 連結売上4,484億円・営業損益▲401億円
    https://www.rohm.co.jp/ir/library/financial-report
  2. 事業セグメント別売上一次情報
    ローム株式会社(2025-05)— 使用箇所: LSI約45%・半導体素子約42%・モジュール約7%の構成
    https://www.rohm.co.jp/ir/financial/net-sales
  3. ロームが世界初でSiCトランジスタ(DMOSFET)量産開始一次情報
    ローム株式会社(2010-12)— 使用箇所: 2010年に世界初でSiC MOSFETを量産
    https://www.rohm.co.jp/
  4. SiCパワーデバイスの垂直統合(SiCrystal買収)一次情報
    ローム株式会社(2024)— 使用箇所: SiCrystal買収でウエハーからデバイスまで一貫生産
    https://www.rohm.co.jp/analogpower/interview/02
  5. SiC power device share 2023 (ST 32.6% top)調査会社
    TrendForce(2024-06)— 使用箇所: SiC上位5社寡占・ロームは上位5社の一角
    https://www.trendforce.com/presscenter/news/20240620-12196.html
  6. ロームと東芝のパワー半導体供給確保計画が経産省認定一次情報
    東芝デバイス&ストレージ / ローム(2023-12)— 使用箇所: 総額3,883億円・経産省助成最大1,294億円、ローム=SiC/東芝=Si分担
    https://toshiba.semicon-storage.com/jp/company/news/news-topics/2023/12/corporate-20231208-1.html
  7. ロームが宮崎工場取得・8インチSiC導入報道
    EE Times Japan(2023-11)— 使用箇所: 旧国富工場取得・8インチSiC化・能力2025年度比6.5倍/2030年度35倍
    https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2311/08/news061.html

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