Orbray(オーブレー、旧アダマンド並木精密宝石)は、レコード針や光通信用フェルール(光ファイバーをつなぐ精密な筒状部品)などの精密加工で80年以上を歩んだ日本の老舗が、“究極の半導体材料”といわれる単結晶ダイヤモンドの基板づくりに挑む会社です。2023年に社名をOrbrayへ改め、いまは世界最大級の(111)単結晶ダイヤモンド自立基板を量産する技術を確立し、ダイヤモンド半導体エコシステムの川上を狙っています。本記事では、その沿革・事業・技術・競争構造を公式発表と佐賀大学との連携実績から読み解きます。

ダイヤモンドがなぜ“究極の半導体”と呼ばれるのかは「“究極の半導体”はダイヤモンドだった。シリコンを桁違いに超える理由」で詳しく解説しています。半導体材料における日本企業の立ち位置は「チップの土台も塗る薬も、ほとんど日本製だった」、業界全体の役割分担は「半導体メーカーは、6つの役割で見ると一気にわかる」も合わせて読むと、Orbrayの位置づけがより鮮明になります。

ひとことで言うと(初心者向け)

Orbrayは、小さくて硬いものを精密に「切る・削る・磨く」のが得意な日本の老舗メーカーです。もとはレコードの針や光ファイバーの部品を作っていましたが、いちばん硬いダイヤモンドを大きな板(基板)に育てる技術で世界の先頭を走っています。このダイヤの板は、次世代の半導体を作る土台になると期待されています。

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構造で言うと(投資家向け)

非上場で連結売上306億円(2025年12月期)の精密部品メーカーが、レコード針・光通信フェルール等の祖業から単結晶ダイヤ基板へ展開する川上プレーヤー。20mm角(111)自立基板の量産技術と佐賀大連携の世界記録で技術先行するが、ダイヤ半導体市場は黎明期で需要は未立ち上がり。競合はEDP・大熊DD等の少数で、大口径化・コスト・n型実用化・実用化時期が律速。2026年の(111)製品化が試金石。

Orbrayとはどんな会社で、どんな沿革をたどったか

Orbray(オーブレー)とは、精密加工を強みとする日本の老舗メーカーです。源流は1953年8月に設立された並木製作所で、人工サファイアを使った電気メーター用の軸受宝石(細い軸を支える宝石部品)づくりから始まりました。以来80年以上にわたり「切る・削る・磨く」の超精密加工を磨いてきた会社です。

祖業はレコード針です。Namiki(並木)のレコード針は低価格・長寿命を実現し、世界中で広く使われるヒット商品になりました。その後、光ファイバーをつなぐフェルール(精密な筒状部品)、微小ベアリング、DCコアレスモーター、医療・歯科用部品など、宝石・セラミックスの精密加工技術を軸に事業を広げてきました(Orbray株式会社)。

2023年1月1日、同社はアダマンド並木精密宝石株式会社からOrbray株式会社へ社名を変更しました。新社名は、地球や天体を表す「Orb」と光を意味する「Ray」を掛け合わせた造語です。この改称は、精密部品の会社から、ダイヤモンドや量子技術など先端材料を担う会社へという自己定義の転換を映しています(Orbray株式会社)。

Orbrayの事業はどのように構成されているか

Orbrayの事業は、精密宝石部品・光通信部品・DCコアレスモーター・医療装置・ダイヤモンド・その他精密部品という複数の柱で構成されています。ダイヤモンド半導体基板は、この多角的な事業群のなかで将来を担う成長分野という位置づけです。

公表されている事業規模は次の通りです(2025年12月期)。

区分内容規模・備考
連結売上高グループ全体約306億円(2025年12月期)
単体売上高Orbray株式会社単体約220億円(2025年12月期)
従業員数連結約2,300名(2026年1月1日現在)
設立並木製作所として1953年8月28日
主な事業精密宝石部品・光通信部品・DCコアレスモーター・医療装置・ダイヤモンド・その他精密部品非上場

(出典:Orbray株式会社)

主力製品の代表が、光通信用のフェルールやベアリングといった超微細な精密部品です。これらは祖業の宝石加工で培った「硬い素材を極限まで精密に仕上げる」技術の延長線上にあります。ダイヤモンド基板は、その究極形といえます。なお同社は非上場とみられ、ここで挙げた数値は公表ベースの事業規模です。

Orbrayの技術的な強みはどこにあるか

Orbrayの技術的な強みは、加工が極めて難しい単結晶ダイヤモンドを、大きな自立基板(土台として自立する円板・角板状の素材)として育てる量産技術にあります。ダイヤモンドは最も硬い物質ゆえに加工が難しく、大口径の高品質結晶を安定して作ることが長年の壁でした。

2025年3月、Orbrayは世界最大となる20mm×20mmサイズの双晶(結晶の向きがずれて生じる欠陥)のない(111)単結晶ダイヤモンド自立基板の量産に目途をつけたと発表しました。これは、サファイア基板の上にイリジウムの下地を介してダイヤモンドを育てるヘテロエピタキシャル成長(異なる材料の上に結晶を成長させる方法)によるものです。同社は産業応用に必要な直径2インチ(約50mm)の結晶成長にも成功し、4インチ化の開発も進めています(Orbray MAGAZINE)。

(111)という結晶面が鍵です。ダイヤモンド半導体を作るには、電気をプラスの担い手で運ぶp型と、電子で運ぶn型の両方をそろえる必要があります。(電気のスイッチ)を作るには両型が欠かせませんが、ダイヤモンドはn型が難物でした。

しかし、(111)面の自立基板はn型ダイヤを形成しやすく、Orbrayはこの基板の製品化と並行してn型基板の開発にも取り組んでいます。双晶のない高品質結晶は、デバイス製造時の(良品の割合)にも直結します(Orbray MAGAZINE)。

技術の実力を裏づけるのが、佐賀大学との共同研究です。両者は2022年5月、ダイヤモンド半導体パワーデバイスで出力電力875MW/cm²・動作電圧2568Vという当時の世界最高値を達成したと発表しました。CMP(化学機械研磨)でダイヤ表面を原子レベルに平坦化し、電気抵抗を約半分に下げたことが成果につながりました(Orbray MAGAZINE)。

サプライチェーンの中でOrbrayはどんな役割か

Orbrayはサプライチェーンの最も川上にあたる「基板材料の供給者」を担います。具体的には、ダイヤモンド半導体デバイスを作るメーカーや研究機関に対し、その土台となる単結晶ダイヤモンド基板(ウェハー素材)を供給する立場です。

ダイヤモンドは「究極のワイドバンドギャップ半導体」と呼ばれます。ワイドバンドギャップ半導体とは、電気を流す/止めるの切り替えに必要なエネルギーの幅(バンドギャップ)が広く、高い電圧・高温に耐える半導体のことです。ダイヤモンドはこの幅が約5.47eVとシリコンの約5倍で、絶縁破壊電界や熱伝導率でもシリコンを桁違いに上回ります。詳しくは「“究極の半導体”はダイヤモンドだった」で扱っています。

その究極材料の基板を供給するOrbrayは、SiCやGaNといった既存のワイドバンドギャップ材料の先にある世界の入口を握ります。先端ロジック半導体のような極小(回路の世代)の微細化競争とは異なり、ダイヤの世界は材料そのものの結晶品質と大口径化が競争力を決めます。基板の質が悪ければ、その上にどんなデバイスを作っても性能は出ません。だからこそ、Orbrayはエコシステムの「土台」を握る要の役割を担います。

Orbrayの市場ポジションと競争構造はどうなっているか

Orbrayは単結晶ダイヤモンド基板で量産技術を先行させる、世界でも数少ないプレーヤーです。ただしダイヤモンド半導体の市場そのものがまだ黎明期で、需要が本格的に立ち上がっていない点が前提になります。

この市場の競争構造を、「誰と、どんな力関係で戦っているか」という5つの視点で整理すると次のようになります。

力主体強さ理由
競合EDP(産総研発)・大熊ダイヤモンドデバイス等低〜中単結晶ダイヤ基板の量産プレーヤーは世界でも少数。技術アプローチが分かれ直接競合は限定的
買い手の交渉力デバイスメーカー・大学・研究機関中顧客はまだ研究開発主体で少数。実用化が進むと量産価格の圧力が増す
供給者の交渉力高純度原料ガス・サファイア・装置中CVD装置や高純度原料に依存するが、自社で結晶成長技術を内製
新規参入国内外の研究機関発スタートアップ中量産には長年の結晶成長ノウハウが要る高い参入障壁。一方で各国が国策で参入を後押し
代替品SiC・GaN(既存ワイドバンドギャップ)中〜高当面の量産パワー半導体はSiC・GaNが担う。ダイヤは超高耐圧・過酷環境のニッチ先行

国内の主な顔ぶれは、産総研発でモザイク結晶(単結晶を横に並べて大口径化する手法)を持つEDP(イーディーピー)、産総研・北海道大学発で京セラと量産工場を進める大熊ダイヤモンドデバイスなどです。各社は結晶を育てる技術アプローチが異なり、Orbrayはサファイア上のヘテロエピタキシャル成長で大口径(111)基板に強みを持ちます(電波新聞デジタル)。

最大の構造的特徴は、競合が少ない代わりに市場自体がこれから立ち上がる点です。当面のパワー半導体市場は「SiCやGaN」が担い、ダイヤは超高耐圧・宇宙・量子といった過酷・先端用途で先行します。Orbrayの勝負どころは、需要が本格化する前に量産技術と品質で先行ポジションを固められるかにあります。

Orbrayが抱える弱み・リスクは何か

最大のリスクは、ダイヤモンド半導体市場そのものの立ち上がりが不確実なことです。技術で先行しても、デバイス側の量産と最終製品の採用が進まなければ、基板の需要は大きく育ちません。実用化時期が2030年前後とされるなか、投資回収までの時間が長い点は宝石・部品事業とは異なる性質のリスクです。

技術面では、大口径化とコストが壁として残ります。現状の自立基板は20mm角・2インチ級で、シリコンの300mmとは桁が違います。基板が小さいほど1枚から取れるチップが少なく、コストが高止まりします。さらにn型ダイヤモンドの実用的な制御も道半ばで、p型とn型の両立がそろって初めて多くのデバイスが作れます。

ただしOrbrayにとって救いは、ダイヤモンドが祖業の精密部品(フェルールやベアリング)と並ぶ複数事業の一つであり、会社全体は約306億円規模の安定した本業を持つことです。一つの材料に全社を賭けたわけではないため、長期の研究開発を本業で支えながら進められる構造にあります。

Orbrayの最近の動向はどうか

最近のOrbrayは、(111)単結晶ダイヤモンド自立基板の製品化とn型開発を両輪で進めています。2025年3月に発表した世界最大級の20mm角(111)自立基板は、2026年内の製品化を予定しています。同社はこの基板の量産技術確立と並行して、デバイス実用化の鍵となるn型ダイヤモンド自立基板の開発にも取り組んでいます(Orbray MAGAZINE)。

研究の裾野も広がっています。Orbrayはサファイア基板上にヘテロエピタキシャル成長で高品質・高純度の(111)単結晶ダイヤモンド基板を作る技術について論文を発表し、双晶欠陥を抑える結晶成長の条件を明らかにしました。用途はパワー半導体だけでなく、量子コンピュータ向けの基板や、ヒートシンク・光学部品・音響部品など多岐にわたります(Orbray株式会社)。

レコード針から始まった老舗が、いま“究極の基板”でエコシステムの土台を握ろうとしています。市場が立ち上がる前に量産技術で先行できるか——日本のダイヤモンド半導体の行方を映す存在として、その動向は注目されています。

この記事のまとめ

  • Orbrayは1953年創業の並木製作所を源流とする日本の精密加工の老舗で、2023年にアダマンド並木精密宝石からOrbrayへ改称した。
  • レコード針・光通信フェルール・微小ベアリングなどが祖業で、連結売上は約306億円(2025年12月期)。ダイヤモンドはその一事業である。
  • 技術的強みは、世界最大級の20mm角(111)単結晶ダイヤモンド自立基板を量産する技術と、サファイア上のヘテロエピタキシャル成長による大口径化にある。
  • サプライチェーン上は“究極のワイドバンドギャップ材料”であるダイヤ基板を供給する川上で、ダイヤ半導体エコシステムの中核を狙う。
  • 競合はEDPや大熊ダイヤモンドデバイスなど少数で市場は黎明期。(111)自立基板の2026年製品化とn型開発、大口径化・コストが当面の焦点である。

この記事のまとめ

  • Orbrayは1953年創業の並木製作所を源流とする日本の精密加工の老舗で、2023年にアダマンド並木精密宝石からOrbrayへ改称した。
  • レコード針・光通信フェルール・微小ベアリングなどの精密部品が祖業で、連結売上は約306億円(2025年12月期)。ダイヤモンドはその一事業。
  • 技術的強みは、世界最大級の20mm角(111)単結晶ダイヤモンド自立基板を量産する技術と、サファイア上のヘテロエピタキシャル成長による大口径化。
  • サプライチェーン上は“究極のワイドバンドギャップ材料”であるダイヤ基板を供給する川上で、ダイヤ半導体エコシステムの中核を狙う。
  • 競合はEDPや大熊ダイヤモンドデバイスなど少数で、市場は黎明期。(111)自立基板の2026年製品化とn型開発が当面の焦点。
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よくある質問(FAQ)

Q.Orbray(オーブレー)とはどんな会社ですか?+

Orbrayは、精密加工を強みとする日本の老舗メーカーです。1953年創業の並木製作所を源流とし、人工サファイア軸受やレコード針、光通信用フェルール、微小ベアリングなどを手がけてきました。2023年1月1日に旧社名のアダマンド並木精密宝石からOrbrayへ改称し、いまは単結晶ダイヤモンド基板の量産技術で次世代半導体材料の分野に挑んでいます。連結売上高は約306億円(2025年12月期)です。

Q.Orbrayのダイヤモンド基板は何がすごいのですか?+

世界最大級となる20mm×20mmサイズの双晶のない(111)単結晶ダイヤモンド自立基板の量産技術を確立した点です。ダイヤモンドは加工が極めて難しく大口径化が壁でしたが、Orbrayはサファイア基板上に結晶を育てるヘテロエピタキシャル成長で直径2インチ(約50mm)級の結晶成長に成功し、4インチ化の開発も進めています。(111)面はn型ダイヤモンドを作りやすく、デバイス実用化の鍵とされます。

Q.Orbrayはダイヤモンド基板でどんな実績がありますか?+

佐賀大学との共同研究で、ダイヤモンド半導体パワーデバイスの出力電力875MW/cm²・動作電圧2568Vという当時の世界最高値を達成しました(2022年5月発表)。さらに2025年3月には世界最大級の(111)単結晶ダイヤモンド自立基板の量産に目途をつけたと発表し、2026年内の製品化を予定しています。同時にn型ダイヤモンド自立基板の開発にも取り組んでいます。

用語集

ウェハー/ wafer
半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。
トランジスタ/ transistor
電気のスイッチ。オン/オフで「0と1」を表し、計算と記憶の最小単位になる。
ノード(プロセス)/ process node
製造プロセスの世代を表す呼び名(例:3nm)。小さいほど高性能・省電力になりやすい。

参考資料・引用元

  1. アダマンド並木精密宝石は2023年からOrbrayに一次情報
    Orbray株式会社(2023-01)— 使用箇所: 2023年1月の社名変更(旧アダマンド並木)・Orb+Rayの由来・レコード針/精密加工の沿革
    https://orbray.com/special/
  2. 会社概要|Orbray株式会社一次情報
    Orbray株式会社(2026)— 使用箇所: 設立1953年・連結売上306億円/単体220億円(2025年12月期)・従業員約2,300名
    https://orbray.com/corporate/profile.html
  3. 高品質大口径(111)単結晶ダイヤモンド自立基板の量産に目途一次情報
    Orbray MAGAZINE(2025-03)— 使用箇所: 世界最大20mm角(111)自立基板の量産目途・2026年製品化予定・n型開発・ヘテロエピ/2インチ
    https://orbray.com/magazine/archives/9601
  4. ダイヤモンド半導体パワーデバイスの出力電力・電圧の世界最高値を更新一次情報
    Orbray MAGAZINE(2022-05)— 使用箇所: 佐賀大との共同研究で出力875MW/cm²・動作電圧2568Vの当時世界最高値
    https://orbray.com/magazine/archives/3080
  5. ダイヤモンド|Orbray株式会社一次情報
    Orbray株式会社(2025)— 使用箇所: 直径2インチ成長成功・4インチ開発・ヘテロエピ・用途(量子/パワー半導体/光学)
    https://orbray.com/product/jewel/material/diamond.html
  6. 「モザイク」で切り開くダイヤモンドの未来(EDP)報道
    電波新聞デジタル(2024-09)— 使用箇所: 競合構造(EDPのモザイク結晶・大熊ダイヤモンドデバイス)と各社の技術アプローチの違い
    https://dempa-digital.com/article/676582

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