光の粒(光子)に暗号の鍵を載せて送る「量子鍵配送(QKD)」は、盗み見ると光子の状態が変わるため、盗聴があれば原理的に必ず検知できます。SF のような話ですが、日本のNICTや中国の量子衛星で、すでに実用化が進んでいます。その仕組みと最前線を見ていきます。

私たちの通信は暗号で守られていますが、その安全は「鍵を相手にどう安全に渡すか」にかかっています。データが世界の網を渡る話は「あなたのメッセージは世界の網を渡っていた」で扱いました。ここでは、その通信を守る最先端の技術を扱います。

ひとことで言うと(初心者向け)

量子暗号は、光の粒に暗号の鍵を載せて送る方法です。誰かが途中で盗み見ると、光の粒の状態が変わってしまうので、『盗聴された』と必ず気づけます。だから、こっそり盗み見ることができません。

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構造で言うと(投資家向け)

QKDは量子力学(観測が状態を擾乱)を安全性の根拠にする鍵共有。盗聴はQBER上昇として検知され鍵を破棄。距離は損失律速で数百km・信頼中継が必要。量子計算機による既存公開鍵暗号の危殆化に対し、QKD(物理)とPQC(数学・NIST標準2024)が併走します。

量子暗号(QKD)とは何か

量子鍵配送(QKD)とは、光の粒である光子(こうし)に暗号の鍵のビット(0と1)を載せて送るしくみです。送信者と受信者が、安全に同じ「鍵」を共有することを目的にしています。

代表的な手順は、1984年に提案されたというプロトコルです。光子の振動の向き(偏光)などに0と1を対応させて送り、受信側がそれを測定して鍵を組み立てます。ふつうの通信と違うのは、その安全性が「数学の難しさ」ではなく「物理法則」に支えられている点です(東芝)。

なぜ盗聴すると必ずバレるのか

カギは、量子の世界の不思議な性質です。量子の状態は、観測(測定)すると変化してしまうのです。さらに、量子の状態はそっくりコピーすることができません(複製不可能)。

つまり、盗聴者が途中で光子をのぞき見ようと測定すると、その光子の状態が乱れてしまいます。下の図で「盗聴あり」に切り替えてみてください。

なぜ盗聴すると必ずバレるのか(盗聴を切替)

送信者光子で鍵を送る受信者鍵を受け取る光子はそのまま届く(鍵が一致)

送信者は光子(光の粒)に鍵のビットを載せて送ります。誰も盗み見なければ、光子はそのまま届き、両者の鍵が一致します。

この図が示すこと:量子鍵配送(QKD)は、「観測すると状態が変わる」という量子の性質を逆手にとり、盗聴を原理的に検知できる通信です。盗み見た瞬間に痕跡が残るのが、ふつうの暗号との決定的な違いです。

受信側で鍵を照合すると、盗聴があった場合はエラーが増えます。これにより「誰かが盗み見た」と分かり、その鍵は使わずに破棄されます。盗み見た瞬間に痕跡が残る——これが、ふつうの暗号にはないQKDの決定的な強みです(ただし現実の装置には実装上の弱点もあり、原理上の保証とは区別されます)。

どこまで実用化されているのか

QKDは、研究室の中の話ではありません。実際、日本では、NICT(情報通信研究機構)が東芝・NEC・NTTらと2010年に「Tokyo QKD Network」を構築し、45kmの秘匿映像伝送を実証しました。いまもIOWNとの連携などで発展を続けています。

一方、世界で先行するのが中国です。2016年に打ち上げた量子衛星「Micius(墨子号)」を使い、衛星と地上の間で約1,200km、さらに北京とウィーンの間 約7,600kmにわたる鍵共有を実証しました。地上でも北京〜上海の約2,000kmの幹線が築かれています。衛星を使う通信という点では、「衛星インターネット」とも通じる発想です(NICT)(Liao et al., PRL 120, 030501 / arXiv:1801.04418)。

なぜいま量子暗号なのか

背景にあるのが、量子コンピューターの脅威です。将来の強力な量子コンピューターは、いま広く使われている暗号(RSAなど)を短時間で破ってしまう恐れがあります。さらに、いま盗み取った暗号データを保存しておき、量子コンピューターが実用化されてから解読する「ハーベスト・ナウ・デクリプト・レイター(先に収穫し、後で解読する)」という脅威も指摘されています。

この備えには2つの方向があります。ひとつが本記事のQKD(物理法則で守る・専用の機器が必要)。もうひとつがPQC(耐量子計算機暗号=量子でも破られにくい新しい数学の暗号。既存のネットワーク上で動く)です。NISTは2024年にPQCの最初の標準を公表し、ChromeやiMessageではすでに導入が始まっています。PQCの全体像と移行スケジュールは「いま盗まれた暗号データは、10年後にまとめて解読される」で詳しく解説しています。海底ケーブルなど「通信インフラ」の安全保障とあわせ、通信を「将来も守れる」ようにする取り組みが世界で進んでいます(NIST)。

この記事のまとめ

  • 量子鍵配送(QKD)は、光子に暗号の鍵を載せて送る通信。代表は1984年提案のBB84。
  • 「観測すると状態が変わる」量子の性質で、盗聴があれば原理的に必ず検知できる。
  • 日本はNICTがTokyo QKD Networkを2010年に構築。中国は量子衛星Miciusで約7,600kmの鍵共有を実証。
  • 距離は数百kmが限界で、長距離には信頼中継が必要という課題がある。
  • 量子コンピューターが既存暗号を破る脅威への備えで、QKD(物理ベース)とPQC(数学ベース)が並行して進む。

この記事のまとめ

  • 量子鍵配送(QKD)は、光子に暗号の鍵を載せて送る通信。代表は1984年提案のBB84。
  • 「観測すると状態が変わる」量子の性質で、盗聴があれば原理的に必ず検知できる。
  • 日本はNICTがTokyo QKD Networkを2010年に構築。中国は量子衛星Miciusで約7,600kmの鍵共有を実証。
  • 距離は数百kmが限界で、長距離には信頼中継が必要という課題がある。
  • 量子コンピューターが既存暗号を破る脅威への備えで、QKD(物理ベース)とPQC(数学ベース)が並行して進む。
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よくある質問(FAQ)

Q.量子暗号(QKD)とは何ですか?+

量子鍵配送(QKD)とは、光の粒(光子)に暗号の鍵を載せて送る通信です。量子力学の性質を利用し、盗聴があれば必ず検知できるのが特徴です。1984年に提案されたBB84というプロトコルが代表で、日本のNICTや中国の量子衛星などで実証が進んでいます。

Q.なぜ盗聴すると必ずバレるのですか?+

量子の世界では「観測すると状態が変わってしまう」からです。盗聴者が途中で光子を測定すると、その光子の状態が乱れます。受信側で照合するとエラーが増えるため、盗聴があったことが分かり、その鍵は使わずに捨てられます。これがふつうの暗号にはない特徴です。

Q.なぜいま量子暗号が注目されているのですか?+

将来の量子コンピューターが、現在広く使われている暗号(RSAなど)を破ってしまう恐れがあるからです。いま盗み取った暗号データを保存し、後で解読する『ハーベスト・ナウ・デクリプト・レイター』という脅威も指摘されています。その備えとして、量子暗号や耐量子暗号(PQC)の整備が進んでいます。

用語集

量子鍵配送(QKD)/ Quantum Key Distribution
光の粒(光子)に暗号の鍵を載せて送る通信。盗み見ると光子の状態が変わるため、盗聴があると必ず分かるのが特徴。
海底ケーブル/ submarine cable
海の底に敷かれた光ファイバーで、国際通信の大半を運ぶ。陸揚げする場所(陸揚局)の近くは通信が速い。

参考資料・引用元

  1. 量子鍵配送(QKD)とBB84プロトコル一次情報
    東芝(2020)— 使用箇所: QKDは光子に鍵を符号化するBB84(1984、Bennett & Brassard)等を用い、量子力学により盗聴を原理的に検知できる
    https://www.global.toshiba/ww/technology/corporate/rdc/rd/topics/20/2012-04.html
  2. Tokyo QKD Network公的機関
    NICT(情報通信研究機構)(2010-10)— 使用箇所: NICTがNEC・三菱電機・NTT・東芝らと2010年にTokyo QKD Networkを構築。45kmの秘匿映像伝送を実証。現在もIOWN連携等で継続
    https://www.nict.go.jp/en/press/2010/10/14-1.html
  3. Satellite-relayed intercontinental quantum network(Micius)調査会社
    Liao et al., PRL 120, 030501 / arXiv:1801.04418(2018)— 使用箇所: 中国の量子衛星Micius(2016打上げ)で衛星-地上QKDを約1,200km実証、北京-ウィーン間 約7,600kmで鍵共有。北京-上海は約2,000kmの地上幹線(信頼中継32か所)
    https://arxiv.org/pdf/1801.04418
  4. NIST、初の耐量子計算機暗号(PQC)標準を公表(FIPS 203/204/205)公的機関
    NIST(2024-08)— 使用箇所: 量子コンピューターがRSA等を破る脅威への備え。PQCは数学ベースで既存ネットワーク上で動く点がQKD(物理ベース・専用機器要)と異なる
    https://www.nist.gov/news-events/news/2024/08/nist-releases-first-3-finalized-post-quantum-encryption-standards

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