ふつうの材料は温めると膨らむ。だが温めると縮む材料がある。三菱ケミカルはその粉を半導体パッケージ用に事業化する。狙いは、チップを積み重ねたときに起きる「反り」を止めることだ。

発表は2026年8月27日である。三菱ケミカルグループは、半導体パッケージ材料向けの負膨張フィラーを開発し、ブランド名「M-Filleris NTE」で事業化すると公表した。地味な粉の話に見えるが、先端パッケージの歩留まりに直結する領域である。

ひとことで言うと(初心者向け)

半導体のチップは、樹脂で固められて基板の上に載っています。ところがチップ・基板・樹脂は、温めたときの膨らみ方がそれぞれ違います。だから電源を入れて熱くなったり冷えたりを繰り返すと、全体がゆがんで反ってしまいます。反ると接続部分が外れ、不良品になります。三菱ケミカルが作ったのは『温めると縮む粉』で、これを樹脂に混ぜると全体の膨らみ方を抑えられます。2027年度の後半から量産品を売る予定です。

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構造で言うと(投資家向け)

①三菱ケミカルGは2026-08-27、負膨張フィラー「M-Filleris NTE」の事業化を発表②2026年度中にパイロット品販売、顧客評価・認証を経て2027年度下期に量産品販売開始の予定③室温〜400℃の広い温度域で負膨張特性、球状粒子で樹脂への流動性・分散性を確保④想定用途は封止材・アンダーフィル材・ビルドアップフィルム材料⑤背景はAIサーバ・HPC普及に伴うチップレット化と3Dスタッキングで、発熱増と材料間の熱膨張差によるパッケージ反りが歩留まり課題化⑥日本の化学メーカーが後工程材料で押さえる領域がまた一つ増える形。

半導体パッケージは、なぜ熱で反るのか

原因は材料ごとの膨らみ方の違いにある。パッケージはシリコンのチップ、樹脂の封止材、基板という異なる材料の重ね合わせでできている。温度が上がると、それぞれ違う割合で膨らむ。

この違いを表す指標が熱膨張係数(温度が1度上がったときに何割伸びるかを示す値)である。係数の違う材料を貼り合わせて加熱すると、伸びの差が内部の力になる。バイメタルが曲がるのと同じ理屈で、パッケージ全体が反る。

初心者向け
ざっくり言うと、伸び方の違う板を貼り合わせて温めると、必ずどちらかに反ります。半導体のパッケージでも同じことが起きています。

反り自体は昔からある課題だ。ただし製造時と使用時の加熱・冷却が繰り返されると、接続部分に力が集中する。はんだの接合が外れたり、微細な配線が切れたりして、が落ちる。

チップレットと3D積層で、なぜ問題が深刻になったのか

材料の種類と接続点が増えたためである。「1つの大きなチップを分割して組み合わせる方式」が広がり、複数のチップを横に並べたり縦に積んだりする構成が主流になった。

「横に並べる2.5Dと縦に積む3Dの違い」を思い出すと分かりやすい。どちらの方式でも、チップ同士をつなぐ接続点の数は従来より桁違いに多い。接続点が増えれば、反りによって外れる箇所も増える。

さらにAIサーバや高性能計算向けのチップは発熱が大きい。温度の振れ幅が大きいほど、熱膨張差による歪みも大きくなる。MONOistは、こうした高密度実装の進展がパッケージの反りを課題化させたと伝えている。

温めると縮む材料は、どういう仕組みなのか

負膨張フィラーは、加熱すると収縮する無機材料の粉である。ふつうの物質は温度が上がると原子の振動が大きくなり、体積が増える。負膨張材料では結晶構造の変化がこれを打ち消し、全体として縮む方向に働く。

この粉を単独で使うわけではない。エポキシ樹脂などに混ぜ込むことで、樹脂全体の熱膨張係数を引き下げる。膨らむ樹脂と縮むフィラーを組み合わせ、差し引きで動きを小さくする発想である。

三菱ケミカルは無機材料設計の技術を使い、室温から400℃までの広い温度域で負膨張特性を示す材料に仕上げたとしている。さらに粒子を球状にすることで、樹脂に混ぜたときの流動性と分散性を確保したという。

どの材料に混ぜて使うのか

想定用途は3つ挙げられている。封止材、アンダーフィル材、そしてビルドアップフィルム材料である。いずれもチップの周囲を固めたり埋めたりする樹脂系の材料だ。

封止材はチップを樹脂で包む材料で、「黒い樹脂の中身が実は石の粉を大量に含んでいる」ことは以前から知られている。フィラーを混ぜて熱膨張を抑えるという発想自体は、封止材の世界では標準的な手法である。今回はそのフィラーを、膨らむ側から縮む側へ置き換える提案になる。

アンダーフィル材はチップと基板のすき間を埋める樹脂で、接続部分を保護する役目を持つ。ビルドアップフィルムは基板の絶縁層を作る材料で、「ABFに代表される先端基板の中核部材」にあたる。どれもで使われる材料である。

半導体そのものの基本から確認したい場合は、「半導体とは何かを整理した入門記事」から読むと、これらの材料がどの段階で登場するかがつかみやすい。

事業としてはいつ立ち上がるのか

スケジュールは2段階で示されている。まず2026年度中にパイロット品の販売を始める。次に顧客での評価と認証を経て、2027年度下期に量産品の販売を開始する予定である。

材料ビジネスでは、この「評価と認証」の期間が長い。半導体メーカーは材料を1つ変えるだけで信頼性試験をやり直す必要があるため、採用判断は慎重になる。発表から量産まで1年以上を見込むのは、この業界では標準的な進み方だ。

日本経済新聞は、封止材向け素材として販売する位置づけを伝えている。まず封止材から入り、用途を広げる形になる可能性がある。

この技術は何を変えるのか

変わるのは、反り対策の主戦場である。これまで反りは、パッケージの構造設計や工程条件の調整で抑え込む対象だった。材料そのものの膨張を打ち消せるなら、設計側の制約が緩む。

もっとも、効果は配合比率や既存材料との相性に左右される。実際にどこまで反りが減るかは、顧客での評価結果を待つ必要がある。現時点で数値としての改善幅は公表されていない。

確認点は3つある。第1に、2027年度下期の量産品販売が予定どおり進むか。第2に、封止材以外のアンダーフィルやビルドアップフィルムへ用途が広がるか。第3に、競合となる低膨張フィラーに対して価格でどこまで折り合えるかである。

この記事のまとめ

  • 三菱ケミカルグループが2026年8月27日、半導体パッケージ材料向けの負膨張フィラーを事業化すると発表した。ブランド名は「M-Filleris NTE」。
  • 負膨張フィラーは加熱すると縮む充填材で、樹脂に混ぜて材料全体の熱膨張係数を下げ、パッケージの反りを抑える。
  • 室温から400℃までの広い温度域で負膨張特性を示し、球状の粒子形状で樹脂への流動性と分散性を確保したとしている。
  • 想定用途は封止材・アンダーフィル材・ビルドアップフィルム材料で、先端パッケージの後工程材料に位置する。
  • 2026年度中にパイロット品、2027年度下期に量産品の販売開始を予定する。背景はチップレット化と3D積層による発熱と熱膨張差の増大である。

この記事のまとめ

  • 三菱ケミカルグループが2026年8月27日、半導体パッケージ材料向けの負膨張フィラーを事業化すると発表した。ブランド名は「M-Filleris NTE」。
  • 負膨張フィラーは加熱すると縮む充填材で、樹脂に混ぜて材料全体の熱膨張係数を下げ、パッケージの反りを抑える。
  • 室温から400℃までの広い温度域で負膨張特性を示し、球状の粒子形状で樹脂への流動性と分散性を確保したとしている。
  • 想定用途は封止材・アンダーフィル材・ビルドアップフィルム材料で、先端パッケージの後工程材料に位置する。
  • 2026年度中にパイロット品、2027年度下期に量産品の販売開始を予定する。背景はチップレット化と3D積層による発熱と熱膨張差の増大である。
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よくある質問(FAQ)

Q.負膨張フィラーとは何ですか?+

負膨張フィラーとは、加熱すると膨らむのではなく縮む性質を持つ粉状の充填材です。ふつうの材料は温めると膨張しますが、この材料は逆に収縮します。樹脂に混ぜ込むと、樹脂全体の熱膨張係数(温度が1度上がったときに何割伸びるかを示す値)を下げられます。結果として、温度変化による寸法のずれを抑えられます。

Q.半導体パッケージの「反り」はなぜ問題になるのですか?+

反りが出ると接続部分に力がかかり、はんだの接合が外れたり、微細な配線が切れたりするためです。チップと基板と樹脂は熱膨張の度合いがそれぞれ違うので、加熱と冷却を繰り返すと歪みがたまります。チップを積み重ねる先端パッケージほど材料の種類が増え、この差が効きやすくなります。

Q.三菱ケミカルは何を発表したのですか?+

2026年8月27日、半導体パッケージ材料向けの負膨張フィラーを開発し事業化すると発表しました。ブランド名は「M-Filleris NTE」です。2026年度中にパイロット品の販売を始め、顧客での評価と認証を経て、2027年度下期に量産品の販売を開始する予定としています。

Q.この材料はどこに使われるのですか?+

封止材、アンダーフィル材、ビルドアップフィルム材料などが想定用途です。いずれもチップを固めたり、チップと基板のすき間を埋めたり、基板の絶縁層を作ったりする樹脂系の材料です。これらにフィラーとして配合し、材料全体の熱膨張を抑える使い方になります。

用語集

後工程(OSAT)/ back-end / OSAT
ウェハーから切り出したチップを検査・組み立て・パッケージする工程。
チップレット/ chiplet
1つの大きなチップを、小さな複数のチップに分けて1パッケージに集める設計手法。歩留まりとコストを改善できる。
歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。

参考資料・引用元

  1. 三菱ケミカルグループ ニュースリリース(半導体パッケージ材料向け負膨張フィラー「M-Filleris NTE」の事業化)一次情報
    三菱ケミカルグループ(公式)(2026-08-27)— 使用箇所: 2026年8月27日発表。負膨張フィラーをブランド名「M-Filleris NTE」で事業化すること・2026年度中にパイロット品販売、2027年度下期に量産品販売開始の予定・室温〜400℃の広い温度域で負膨張特性・球状粒子で樹脂への流動性と分散性を確保
    https://www.mcgc.com/news_release/
  2. 三菱ケミカル、加熱すると縮む半導体向けフィラーを事業化 - パッケージの熱膨張を低減報道
    マイナビニュース TECH+(2026-08-27)— 使用箇所: 技術詳細(無機材料設計技術を活用・球状形状・室温〜400℃対応)と、封止材/アンダーフィル材/ビルドアップフィルム材料という想定用途
    https://news.mynavi.jp/techplus/article/20260827-4875925/
  3. 半導体パッケージの反りを抑制、三菱ケミカルが「負膨張フィラー」量産へ報道
    MONOist(2026-08)— 使用箇所: AIサーバ・HPC普及に伴うチップレット化・3Dスタッキングで発熱と熱膨張差が増し、パッケージの反りが課題になっている背景
    https://news.yahoo.co.jp/articles/4b7d130c932c1dbcdebb927858e6e44b4e6ff3ea
  4. 三菱ケミカルG、半導体封止材向け素材を販売 熱膨張を低減報道
    日本経済新聞(2026-08-27)— 使用箇所: 封止材向け素材として販売する位置づけ・エポキシ樹脂等に配合して材料全体の熱膨張係数を下げる用途
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC274Z00X20C26A8000000/

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