「1Gbpsの光回線なのに、海外のサイトはなんだか遅い」。この違和感の正体は、回線の速さとは別のところにあります。データが世界を渡るしくみは「あなたのメッセージは、小さく刻まれて世界の網を渡っていた」で扱いました。ここでは「なぜ遠いと遅いのか」に絞ります。
ネットの『速さ』には2種類あります。一度にどれだけ運べるか(帯域)と、信号が往復するのにかかる時間(遅延)です。海外サイトが遅いのは後者。信号は光ファイバーの中を進むのに、地球の裏まで行って戻るには物理的に時間がかかるからです。回線を速くしても、この距離の時間は減りません。
構造で言うと(投資家向け)も見る
体感速度は帯域(bps)とレイテンシ(RTT)の二軸。ファイバー中の群速度は約2/3c(約204,000km/s、約4.9µs/km)で、長距離RTTには物理下限がある。スループットはBDPとTCP挙動にも縛られる。CDN/エッジキャッシュは配信元の地理的距離を縮め、レイテンシを構造的に削減する。
ネットの「速さ」には2種類ある
まず、混同しやすい2つを分けます。
帯域(たいいき)は、一度にどれだけのデータを運べるかの「太さ」です。「1Gbps」のような契約速度がこれにあたります。太い水道管ほど一度に多くの水を流せる、というイメージです。
レイテンシ(遅延)は、信号が相手に届いて返ってくるまでの「時間」です。pingの値(ミリ秒)で表されます。蛇口をひねってから水が出るまでの時間、と考えると分かりやすいでしょう。
つまり、海外サイトの「もたつき」は、帯域ではなくレイテンシが原因です。管をいくら太くしても、遠くの蛇口から水が届くまでの時間は変わらないのです。
| 帯域 | レイテンシ | |
|---|---|---|
| 意味 | 一度に運べる量 | 往復にかかる時間 |
| 単位 | bps(Gbpsなど) | ミリ秒(ms) |
| たとえ | 水道管の太さ | 水が届くまでの時間 |
| 海外サイトでは | 大きくしても効きにくい | これが体感を左右する |
なぜ遠いサイトは遅くなるのか
理由は、信号の速さに上限があるからです。データは「光ファイバー」の中を光ので進みますが、その速度は秒速約20万km。真空中の光速(約30万km/s)の3分の2ほどです。ガラスの中では光がやや遅くなるためで、距離1kmあたり約4.9マイクロ秒かかります。
たとえば日本から地球の反対側まで往復すれば、信号は数万kmを進みます。光の速さでも、この距離を往復すれば数百ミリ秒に達することがあります。これは物理法則による下限で、どれだけ回線技術が進んでも超えられません。海外サイトが「一瞬もたつく」のは、信号が本当に地球を半周しているからです(M2 Optics)。
どこを通って海外とつながっているのか
大陸をまたぐ通信は、ほぼすべてがを通ります。衛星ではありません。大陸間データトラフィックの99%超が海底ケーブル経由とされ、近年の幹線は1本で数十〜数百Tbpsの容量を持ちます(GoogleのGrace Hopperは16ファイバーペア)(Wikipedia)(TeleGeography)。
つまり帯域(管の太さ)は年々増えています。それでも遅延が減らないのは、ケーブルの長さ=物理的な距離が縮まらないからです。データを小さく分けて運ぶのしくみ(RFC 791)でも、1つ1つは結局この距離を旅します。途中の機器をまたぐ相互接続のしくみは「インターネットに「中心」はない」で扱っています(IETF)。
海外サービスが速く感じるのはなぜか
ではNetflixやYouTubeが海外発でも快適なのはなぜでしょう。答えは(コンテンツ配信網)です。CDNは、人気のデータを利用者の近くにあらかじめ置いておく仕組みです。
NetflixのOpen Connectは、人気の動画を各地に置いた専用サーバーに前もって配り、利用者が再生するときは海外の本社まで取りに行かず、近くのコピーから届けます。遠い大もとに毎回アクセスする代わりに、近くの保管庫を使う——だから遅延が小さくなるのです。詳しくは「Netflixは日本に動画をためている」で図解しています(Netflix Open Connect)。
逆に言えば、近くにコピーを置けないサービス——海外の本社サーバーに直接アクセスするしかないサイトや、リアルタイムの対戦ゲーム、海外との通話——では、距離による遅延がそのまま体感に出ます。これがCDNを使うサービスとの差になります。
衛星なら距離を超えられるのか
低軌道(高度約550km)を回るStarlinkは、地上の長いケーブルを経由しないぶん、長距離では低遅延になり得ます。実際、実測の遅延は中央値25〜50ms程度です(SpaceX / J. McDowell)。
理論研究では、宇宙空間(真空)を進むレーザー通信網は、ファイバー(光速の約2/3)より速く、経路も短くできるため、大陸間の長距離ではファイバーより低遅延になり得ると結論づけています。距離の遅延を縮める鍵は「より速い媒体」と「より短い経路」であって、回線の帯域を太くすることではない——ここでも同じ原理が効いています(arXiv 2106.07737)。
この記事のまとめ
- 海外サイトが遅いのは回線速度(帯域)ではなく、遅延(レイテンシ)が原因。
- 帯域は一度に運べる量、レイテンシは往復にかかる時間で、まったく別ものである。
- 信号は光ファイバー中を秒速約20万km(真空の光速の約2/3)でしか進めない。
- そのため距離が遠いほど遅延が増え、帯域を増やしても距離の遅延は消えない。
- CDNはデータを利用者の近くに置くことで、遠い大もとへのアクセスを避けて遅延を減らす。
この記事のまとめ
- 海外サイトが遅いのは回線速度(帯域)ではなく、遅延(レイテンシ)が原因。
- 帯域は一度に運べる量、レイテンシは往復にかかる時間で、別ものである。
- 信号は光ファイバー中を秒速約20万km(真空の光速の約2/3)でしか進めない。
- そのため距離が遠いほど遅延が増え、帯域を増やしても距離の遅延は消えない。
- CDNはデータを利用者の近くに置くことで、遠い大もとへのアクセスを避けて遅延を減らす。
よくある質問(FAQ)
Q.速い光回線にしたのに、海外サイトが遅いのはなぜですか?+
回線速度(帯域)と遅延(レイテンシ)は別のものだからです。帯域は一度に運べるデータ量、レイテンシは信号が往復する時間です。光ファイバーの中を信号は秒速約20万kmでしか進めないため、地球の裏側まで往復すれば物理的に時間がかかります。どれだけ帯域を増やしても、この距離による遅延は減りません。
Q.レイテンシ(遅延)とは何ですか?+
レイテンシとは、信号が相手に届いて返ってくるまでにかかる時間のことです。pingの値(ミリ秒)で表されます。主な要因は、信号が進む物理的な距離、途中の機器での処理、混雑による待ち時間です。距離による分は光の速さで決まるため、どんなに技術が進んでも超えられない下限があります。
Q.海外サイトが速く感じるサービスはどうしているのですか?+
CDN(コンテンツ配信網)を使い、データを利用者の近くにあらかじめ置いているからです。NetflixのOpen Connectは、人気の動画を各地のサーバーに前もって配り、海外の本社まで取りに行かずに近くから届けます。遠くの大もとに毎回アクセスする代わりに、近くのコピーを使うことで遅延を小さくしています。
用語集
- パケット/ packet
- データを小さく分けた「小包」。インターネットでは情報をパケットに分割し、1個ずつ宛先まで運んで、相手側で元に戻す。
- 全反射/ total internal reflection
- 光が屈折率の高い物質から低い物質へ、浅い角度で当たると、境界で100%跳ね返る現象。光ファイバーが光を外へ逃さず運べる原理。
- 海底ケーブル/ submarine cable
- 海の底に敷かれた光ファイバーで、国際通信の大半を運ぶ。陸揚げする場所(陸揚局)の近くは通信が速い。
- 中継器(リピータ)/ optical repeater
- 海底ケーブルの途中に数十kmおきに置かれ、弱くなった光の信号を増幅して遠くまで届ける装置。電気は陸から送る。
- CDN(コンテンツ配信網)/ Content Delivery Network
- 動画や画像のコピーを、利用者に近い場所のサーバーに置いておく仕組み。遠くの大元まで取りに行かずに済むので速く、回線も混みにくい。
- DNS/ Domain Name System
- ドメイン名(例:example.jp)を、機械が使うIPアドレス(住所)に変換する「電話帳」のしくみ。
参考資料・引用元
- Calculating Optical Fiber Latency業界団体M2 Optics(2024)— 使用箇所: 光ファイバー中の信号速度は約204,000km/s(真空中光速の約2/3、屈折率約1.47)。約4.9µs/km。レイテンシの物理的下限の根拠https://www.m2optics.com/blog/bid/70587/calculating-optical-fiber-latency
- RFC 791 — Internet Protocol一次情報IETF(1981-09)— 使用箇所: IP(インターネットプロトコル)の規格。データをパケット(データグラム)に分割し各パケットが独立に経路選択され宛先で再構成される、というパケット交換の基本設計https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc791
- Grace Hopper (submarine communications cable)報道Wikipedia(2024)— 使用箇所: 近年の幹線はファイバーペア数が増加(Grace Hopperは16ペア)。1本で数十〜数百Tbps級の容量https://en.wikipedia.org/wiki/Grace_Hopper_(submarine_communications_cable)
- Do Submarine Cables Account For Over 99% of Intercontinental Data Traffic?調査会社TeleGeography(2023-05-04)— 使用箇所: 大陸間データトラフィックのほぼすべてが海底ケーブル経由(俗に99%)。TeleGeography自身は『衛星トラフィックの公的データが2013年以降なく正確な計算は不能』と注記。2013年参考値で衛星は米国際容量の0.37%https://blog.telegeography.com/2023-mythbusting-part-3
- Open Connect Appliances / How Open Connect works一次情報Netflix Open Connect(2024)— 使用箇所: Open ConnectのOCAをIX設置(NetflixがOPEX負担)/ ISP内組み込み(embedded・機器無償)の2形態。オフピークに人気予測でプロアクティブ補充。1台ストレージ最大350TB・最大750W・10Gbpsポート2〜6https://openconnect.netflix.com/en/appliances/
- Optical Wireless Satellite Networks versus Optical Fiber調査会社arXiv 2106.07737(Carleton大)(2021)— 使用箇所: LEOレーザー網は大陸間長距離の全シナリオでファイバーより低遅延と結論。理由は真空(自由空間)伝搬がファイバー(約2/3c)より速いことと経路短縮https://arxiv.org/pdf/2106.07737
- Improving Starlink's Latency / Starlink Statistics一次情報SpaceX / J. McDowell(2026)— 使用箇所: Starlink(LEO・高度約550km)の遅延は中央値25〜50ms。軌道上の衛星数は2026年時点で1万基超(速報値・要更新)https://www.starlink.com/public-files/StarlinkLatency.pdf
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