動画配信は、いまやインターネットの下り通信の大部分を占めます。もし視聴者全員が毎回アメリカの大元サーバーまで映像を取りに行けば、太平洋の海底ケーブルはたちまち混雑します。それを防いでいるのが、NetflixのOpen ConnectやGoogleのGoogle Global Cacheといった配信網です。全体像は「海底ケーブルの総まとめ」を先に読むと分かりやすくなります。
NetflixやYouTubeは、よく見られる動画を日本国内のサーバーにコピーしてためています。だから再生するとき、海の向こうまで取りに行かなくて済みます。混雑しない夜のうちにためておくのがコツです。
構造で言うと(投資家向け)も見る
OTT各社は自前CDN(Open Connect/GGC)をISP内・IXに分散配置し、ピーク時の横断トラフィックを構造的に削減します。これは海底ケーブル容量の実効的な節約であり、配信品質とトランジットコストを同時に最適化する競争領域です。
なぜ動画配信に海底ケーブルが関わるのか
動画は文字や画像よりもはるかにデータ量が大きく、視聴時間も長いコンテンツです。と呼ばれるインターネット経由の動画配信は、回線が最も混む時間帯の下り通信の主役です。
動画の大元(オリジン)サーバーが海外にある場合、何の工夫もなければ、視聴者が再生するたびにデータがを渡ってきます。しかも視聴者が増えるほど同じ動画が何度も海を越え、ケーブルの容量を圧迫します。そのため、これを根本から減らす仕組みが必要でした。
CDNとは何か
CDNとは、利用者に近い場所へコンテンツを複製して配信する仕組みです。動画や画像のコピーを各地のサーバーに置いておき、利用者は最も近いサーバーから受け取ります。遠くの大元まで取りに行かないため、表示が速く、長距離の回線も混みません。
の効果は、動画のように「同じものを大勢が何度も見る」コンテンツで最大になります。一度近くのサーバーに置けば、その地域の視聴者全員がそこから受け取れるからです。
Netflixはどうやって海底ケーブルを混ませないのか
Netflixは「Open Connect」という専用のキャッシュ機器(OCA)を世界中に配備しています。動画のコピーをためておく、いわば「国内の動画倉庫」です。
OCAの置き場所は2通りあります。ひとつは通信事業者どうしが回線をつなぎ合う相互接続点(IX)に置く形、もうひとつは各ISP(利用者を回線につなぐ接続事業者)のデータセンターの中に組み込む形です。後者はNetflixが機器を無償で提供し、ISPが設置場所と電源を用意します。
ポイントは「先読み」です。つまりOCAは、混雑しない夜間に、その地域で人気が出そうな動画を予測してまとめてため込みます。1台のOCAは最大350TBを蓄えられ、再生時はこの国内サーバーから配信されます。だからピーク時に海底ケーブルを跨ぐ必要がありません。
CDNがあると海底ケーブルを跨がない(切り替えて比較)
NetflixのOpen ConnectやGoogleのGGCは、人気の動画をあらかじめ国内のISP内サーバー(キャッシュ)に置きます。補充は混雑しない夜間にまとめて行うため、視聴のたびに海底ケーブルを跨ぐ必要がありません。
この図が示すこと:CDNは「海底ケーブルの負荷を肩代わりする仕組み」です。だからNetflixやYouTubeは、世界中のISPの中に自前のサーバーを置いています。
NetflixはこのOpen Connectに2012年以降10億ドル超を投じ、8,000台以上のOCAを世界の1,000を超えるISPに配備したとされます。日本でも同じ仕組みで国内配信されますが、具体的な設置局名や台数は公開されていません(Netflix Open Connect)。
YouTube(Google)はどう配信しているのか
GoogleもNetflixと同じ発想で、Google Global Cache(GGC)というキャッシュをISPの中に置き、YouTubeなどを局所配信しています。よく見られる動画は国内のGGCから届くため、やはり海底ケーブルの負担を抑えられます。
Googleが特徴的なのは、配信網を自社で抱え込んでいる点です。GGCのようなキャッシュだけでなく、FASTER(日本〜米国)、Topaz(日本〜カナダ)、Apricot(日本〜東南アジア)など、自前の海底ケーブルを多数所有しています。誰がどれだけケーブルを持っているかは「海底ケーブルは誰が作り、誰が持っているのか」で詳しく扱います(Submarine Networks)。
CDNがあると海底ケーブルはどう変わるのか
CDNは海底ケーブルを「不要にする」わけではありません。むしろ、補充のために海底ケーブルを使い続けます。変わるのは使い方です。つまり視聴のたびに繰り返し海を渡っていたトラフィックが、夜間の「先読み補充」だけに置き換わり、ピーク時の横断トラフィックが大きく減ります。
結果として、限られた海底ケーブルの容量を効率よく使えるようになります。動画配信が爆発的に伸びても通信が破綻しないのは、CDNが横断トラフィックを肩代わりしているからです。なお、このキャッシュサーバーをどこに置くかは、陸揚げ局や電力に恵まれた立地と無関係ではありません。立地条件は「データセンターはどこに建てられるか」で扱っています(Netflix Open Connect Partner Help)。
この記事のまとめ
- CDNとは、動画のコピーを利用者の近くに置く仕組みで、海底ケーブルなど長距離回線の負担を肩代わりする。
- NetflixのOpen Connect(OCA)はISP内やIXに置かれ、夜間に人気動画を先読みでため込む。
- 1台のOCAは最大350TBを蓄え、再生時は国内サーバーから配信するので海底ケーブルを跨がない。
- GoogleはGGCで同様に局所配信し、加えてFASTER・Topaz・Apricotなど自前の海底ケーブルも持つ。
- CDNは海底ケーブルを不要にするのではなく、横断トラフィックを減らして混雑と遅延を抑える。
この記事のまとめ
- CDNとは、動画のコピーを利用者の近くに置く仕組み。海底ケーブルなど長距離回線の負担を肩代わりする。
- NetflixのOpen Connect(OCA)はISP内やIXに置かれ、夜間に人気動画を先読みでため込む。
- 1台のOCAは最大350TBを蓄え、再生時は国内サーバーから配信するので海底ケーブルを跨がない。
- GoogleはGGCで同様に局所配信し、加えてFASTER・Topaz・Apricotなど自前の海底ケーブルも持つ。
- CDNは海底ケーブルを不要にするのではなく、横断トラフィックを減らして混雑と遅延を抑える役割を担う。
よくある質問(FAQ)
Q.CDNとは何ですか?+
CDNとは、動画や画像のコピーを利用者に近い場所のサーバーに置いておく仕組みです。遠くの大元(オリジン)まで取りに行かずに済むため、表示が速く、回線も混みにくくなります。NetflixのOpen ConnectやGoogleのGoogle Global Cache(GGC)が代表例です。
Q.Netflixはどうやって海底ケーブルを混ませないのですか?+
Netflixは「Open Connect」という専用のキャッシュ機器(OCA)を、各国のISP(利用者を回線につなぐ接続事業者)の中やIX(事業者どうしの相互接続点)に置いています。よく見られる動画は混雑しない夜間にこの機器へ先読みでため込まれ、再生時はそこから配信されます。そのため再生のたびに海底ケーブルを越える必要がありません。
Q.YouTube(Google)も同じ仕組みですか?+
はい。GoogleはGoogle Global Cache(GGC)というキャッシュをISP内に置き、YouTubeなどを局所配信しています。さらにGoogleはFASTERやTopaz、Apricotなど自前の海底ケーブルも多数持ち、配信網全体を自社で抱えている点が特徴です。
用語集
- CDN(コンテンツ配信網)/ Content Delivery Network
- 動画や画像のコピーを、利用者に近い場所のサーバーに置いておく仕組み。遠くの大元まで取りに行かずに済むので速く、回線も混みにくい。
- OTT(動画配信)/ Over-The-Top
- テレビ局の電波ではなく、インターネット回線を通じて映像を届けるサービス。Netflixやディズニープラスなどが該当する。
- 海底ケーブル/ submarine cable
- 海の底に敷かれた光ファイバーで、国際通信の大半を運ぶ。陸揚げする場所(陸揚局)の近くは通信が速い。
- 陸揚げ局/ cable landing station
- 海底ケーブルが海から陸に上がってくる場所にある施設。日本では千葉県の千倉・三重県の志摩などが代表。
- ハイパースケール/ hyperscale
- クラウド大手(Google・Amazon・Microsoftなど)が運営する超大規模なデータセンター。
参考資料・引用元
- Open Connect Appliances / How Open Connect works一次情報Netflix Open Connect(2024)— 使用箇所: Open ConnectのOCAをIX設置(NetflixがOPEX負担)/ ISP内組み込み(embedded・機器無償)の2形態。オフピークに人気予測でプロアクティブ補充。1台ストレージ最大350TB・最大750W・10Gbpsポート2〜6https://openconnect.netflix.com/en/appliances/
- Open Connect — Network configuration (directed cache via BGP)一次情報Netflix Open Connect Partner Help(2024)— 使用箇所: OCAはISPがBGPで広告したプレフィックス宛だけ配信する『directed cache』。キャッシュにない分はピアリング/トランジットで最寄りNetflixサイトへ。人気コンテンツは局所配信され横断トラフィックを回避https://openconnect.zendesk.com/hc/en-us/articles/360035533071
- Open Connect — overview & scale報道Wikipedia / Netflix Open Connect(2024)— 使用箇所: Netflixは2012年以降10億ドル超を投じOCAを8,000台以上配備、1,000超のISPが導入、52以上のIXPで運用(媒体・公式まとめ)https://en.wikipedia.org/wiki/Open_Connect
- New Apricot subsea cable brings more connectivity to Asia一次情報Google Cloud Blog(2021-08-16)— 使用箇所: Googleの海底ケーブル投資は20プロジェクト超。Apricotはシンガポール・インドネシア・フィリピン・台湾・グアム・日本を結ぶ約12,000km(Google・Meta等)https://cloud.google.com/blog/products/infrastructure/new-apricot-subsea-cable-brings-more-connectivity-to-asia
- Economic impact of Google's APAC network infrastructure調査会社Analysys Mason(Google委託)(2022)— 使用箇所: Google Global Cache(GGC)をISP内に設置しYouTube等を局所配信。日本では複数都市にGGCノードが配備(二次集計・要確認)https://www.analysysmason.com/contentassets/
- FASTER Cable System — Chikura / Shima landing報道Submarine Networks(2016-06)— 使用箇所: FASTER(日本=千倉・志摩〜米国オレゴン)。6ファイバーペア・初期設計容量60Tbps。Google/KDDI/China Mobile/China Telecom/Global Transit/SingTelのコンソーシアム、2016年運用開始https://www.submarinenetworks.com/en/systems/trans-pacific/faster
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