半導体工場は電気を大量に使います。工場を増やせば、電気を届ける送電網(発電所から工場へ電気を運ぶ設備)も増強しなければなりません。その費用の負担をめぐる争いが、2026年9月に韓国で表面化しました。
電力が半導体とAIの制約になっている全体像は「AIの本当のボトルネックは、半導体ではなく電気だった」で、半導体そのものの基本は「半導体とは、電気を「通す・通さない」を切り替えられる物質」で解説しています。AIの計算を担うの増設も、電力需要を押し上げています。
韓国の国営電力会社が、サムスンとSK hynixに『5年分の電気代を先に払ってほしい』と頼みました。集めたお金で、新しい半導体工場の団地まで電気を送る設備を作る計画でした。しかし両社は『5年先の景気は読めない』として断ったと報じられています。工場を増やすための電気の設備を誰が負担するのかは、まだ決まっていません。
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KEPCOは2026年7月9日にサムスン(約20兆ウォン)・SK hynix(約5兆ウォン)へ計約25兆ウォン(約184億ドル)の5年分前払いを提案。利息は電気料金から半年ごとに控除する設計。両社は9月中旬までに拒否と報じられ、KEPCOも拒否の連絡を認めた。KEPCOの総債務は2026年6月末で210.7兆ウォン、社債発行特例は2027年末に終了。送電網投資は第11次計画で約72.8兆ウォンの需要があり、財源は未解決。メモリ大手の電力コストは、前払いという形では転嫁されなかった。
韓国電力は何を求め、その結果どうなったのか
KEPCOは2026年7月9日、サムスン電子とSK hynixに電気料金の前払い案を伝えたと説明しています。金額は両社が前年に支払った電気代の5年分で、次のとおりです。
- サムスン電子:約20兆ウォン。
- SK hynix:約5兆ウォン。
- 合計:約25兆ウォン(約184億ドル、2026年9月3日付の換算)。
前払い分には利息が付き、元本と利息は半年ごとに電気料金から差し引かれる設計でした。つまり、半導体メーカーが電力会社に長期資金を貸す形です。資金の使い道は、龍仁(ヨンイン)と湖南(ホナム)にある半導体クラスターの送電網の建設とされています。
この構想は2026年9月3日に韓国メディアが一斉に報じました。ところが、約10日後の9月14日には両社が断ったと報じられ、KEPCOの関係者も拒否の連絡を受けたと認めています。韓国のファイナンシャルニュースは、最終的な拒否は9月11日だったと報じました。2026年9月30日時点で、提案が復活したという続報は確認できていません。
なぜ電力会社が半導体メーカーに前払いを求めたのか
答えは、KEPCOに送電網を自力で建てる余力が乏しいからです。KEPCOの総債務は2026年6月末時点で210.7兆ウォンに達し、1日の利息だけで約115億ウォンにのぼると報じられています。政府が認めた社債(企業が資金を集めるために発行する債券)の発行限度の特例も、2027年末に終わります。
一方で、送電網への投資需要は膨らんでいます。KEPCOの説明資料によると、第11次計画の送電網投資需要は約72.8兆ウォンで、実際には100兆ウォンを超える可能性もあります。年間の電気料金収入は約96兆ウォンです。
つまり、借金を増やさずに巨額のを賄う方法が、KEPCOには必要でした。KEPCOは前払い制度を、電力網の拡充が急務の企業と投資資金が必要な電力会社が互いの必要を補い合う仕組みだと説明しています。両社にとっても、早く送電網ができれば工場を動かせる利点があるという理屈です。
サムスンとSK hynixはなぜ断ったのか
理由は、5年先の業績を見通せないからだと報じられています。半導体業界の変動は大きく、現在の好況が5年続くとは前提にできないという見方です。
たとえるなら、5年分の家賃を一括で前払いするようなものです。その間に業況が悪化しても、資金はすぐには戻りません。サムスンの2025年の電気代は約4.1兆ウォン、SK hynixは約0.9兆ウォンでした。5年分をまとめると、両社にとって無視できない規模になります。
利息の条件でも隔たりがありました。KEPCOが示したのは国債金利に0.15ポイントを上乗せした水準で、両社は社債金利の水準まで引き上げるよう求めたと伝えられています。
DRAM(データの一時記憶に使うメモリ)は価格の上下が激しい製品です。市況の波を身近に見ている両社が慎重になるのは、自然な判断といえます。メモリ市況の波は「なぜメモリは、大儲けと大赤字を数年ごとに繰り返すのか」で解説しています。
日本(熊本)では送電網の費用を誰が負担するのか
日本の仕組みは、韓国の今回の提案とは形が違います。資源エネルギー庁の費用負担の指針は、送電網の増強費用を2つに分ける考え方を示しています。
- 特定負担:接続を希望する事業者が受益する部分。本人が負担する。
- 一般負担:受益とはいえない部分。一般送配電事業者が負担し、託送料金(送電網の利用料)として地域の利用者から回収する。
つまり日本では、費用の一部を託送料金として広く薄く回収する制度が整っています。熊本では、九州電力送配電が県内の変電所2か所に80億円超を投じて設備容量を従来の倍にすると2025年2月に報じられました。半導体企業の集積で増える需要への対応です。熊本の背景は「世界一の半導体メーカーが、なぜ熊本の田園を選んだのか」で解説しています。
ただし、個別の半導体案件で特定負担と一般負担の割合がどうなったかは、公開情報では確認できていません。韓国と日本のどちらが有利かも、この記事では判断できません。言えるのは、日本の制度は電力会社が需要家に前払いを求める形ではなく、規制のなかで費用を回収する形だという点です。
今後どうなるのか——送電網の財源は誰が出すのか
前払い構想が断られても、送電網の建設費という課題は消えていません。報道では、代替案は明確に示されていません。KEPCOは新規の社債発行の負担を減らせたはずだと述べており、財源の手当ては別の手段に移ります。
確認すべき点は次の3つです。
- KEPCOが送電網の財源をどう確保するか(社債、料金、政府支援のいずれか)。
- 社債発行特例が終わる2027年末までの動き。
- 龍仁・湖南クラスターの送電網の完成時期が前倒しか、遅れるか。
半導体の増産は、工場や装置への設備投資だけでなく、電気の設備まで含めた投資になりました。この負担配分のルールは、日本を含む各国でこれから問われます。送電網が並ぶ順番待ちの問題は「電気はあるのに、送電網への「順番待ち」でデータセンターが建てられない」で扱っています。
この記事のまとめ
- KEPCOは2026年7月9日、サムスンに約20兆ウォン、SK hynixに約5兆ウォン、合計約25兆ウォンの5年分前払いを提案したと説明している。
- 資金の使い道は龍仁・湖南の半導体クラスター向け送電網。KEPCOの総債務は2026年6月末で210.7兆ウォンに達している。
- 両社は2026年9月中旬までに提案を断ったと報じられ、KEPCOも拒否の連絡を認めた。理由は5年先の市況を見通しにくいことなど。
- 日本は特定負担と一般負担(託送料金)で費用を分ける。個別案件の負担割合は公開情報で確認できていない。
- 報道では代替案は示されていない。社債発行特例が終わる2027年末に向け、送電網の財源確保が焦点になる。
この記事のまとめ
- 韓国電力公社(KEPCO)は2026年7月9日、サムスンに約20兆ウォン、SK hynixに約5兆ウォン、合計約25兆ウォンの電気代5年分の前払いを提案したと説明している。
- 資金の使い道は、龍仁・湖南の半導体クラスター向け送電網の建設。KEPCOの総債務は2026年6月末で210.7兆ウォンに達している。
- 両社は2026年9月中旬までに提案を断ったと報じられ、KEPCOも拒否の連絡を受けたと認めた。理由は5年先の市況を見通しにくいことなど。
- 日本は、受益者が払う特定負担と、託送料金で回収する一般負担を組み合わせる。韓国のように電力会社が大口顧客へ前払いを求める形とは仕組みが異なる。
- 報道では代替案は示されていない。KEPCOの社債発行の特例は2027年末に終わり、送電網の財源確保が次の焦点になる。
よくある質問(FAQ)
Q.韓国電力は誰にいくらの前払いを求めたのですか?+
韓国電力公社(KEPCO)は、サムスン電子に約20兆ウォン、SK hynixに約5兆ウォン、合計約25兆ウォン(約184億ドル)の電気代前払いを求めました。金額は、両社が前年に支払った電気代の5年分にあたります。KEPCOは2026年7月9日に提案を伝えたと説明しています。
Q.前払いはなぜ断られたのですか?+
報道によると、半導体市況の変動が大きく、現在の好況が5年間続くと前提できないためです。5年分の巨額資金を先に出すことは財務上の負担が大きいと両社は判断したとされます。金利水準をめぐる意見の相違も報じられています。断ったこと自体は、KEPCO側が両社から拒否の連絡を受けたと認めています。
Q.前払いした電気代は返ってくる仕組みだったのですか?+
はい、返ってくる設計でした。KEPCOは、前払い額に国債(2年物)より高い金利を付け、元本と利息を半年ごとに電気料金から差し引く方式を示しました。実質的には、半導体メーカーがKEPCOへ長期の資金を貸す形です。
Q.日本では半導体工場の送電網の費用を誰が負担しますか?+
日本では、送電網の増強費用のうち接続を希望する事業者が受益する部分は本人が負担し(特定負担)、それ以外は一般送配電事業者が負担して託送料金で回収します(一般負担)。資源エネルギー庁の指針がこの考え方を示しています。個別の半導体案件で両者の割合がどうなったかは、公開情報では確認できていません。
用語集
- DRAM/ Dynamic Random Access Memory
- 電源を切ると消える、高速な作業用メモリ。CPUやGPUが計算中のデータを一時的に置く。
- 設備投資(capex)/ capital expenditure
- 工場や機械など、長く使う設備を買うためにかけるお金。
参考資料・引用元
- Kepco proposes 25 trillion won electricity bill prepayment system to Samsung, SK hynix報道Korea JoongAng Daily(2026-09-03)— 使用箇所: KEPCOが25兆ウォン(約184億ドル)・5年分(2027〜31年)の電気代前払いを提案、内訳サムスン20兆・SK hynix5兆、2025年の電気代(サムスン4.1兆・SK hynix0.9兆ウォン)、資金使途(龍仁・湖南の半導体クラスター送電網)、利息は電気料金の割引で支払う、KEPCOは詳細は未確定と説明https://www.koreajoongangdaily.com/business/kepco-proposes-25-trillion-won-electricity-bill-prepayment-system-to-samsung-sk-hynix/12858105
- 한전, 삼성·SK하이닉스에 전기료 25조 선납 제안…“첨단산업 전력망 투자 대응”報道에너지경제신문(2026-09-03)— 使用箇所: KEPCOの説明資料(電力網拡充が急務の企業と投資財源が必要な韓電が互いの必要を補完する制度)、金利は国債金利+0.15ポイント、両社は社債金利水準の適用を要望、KEPCOの年間電気料金収入約96兆ウォン・第11次送電網投資需要約72.8兆ウォン・100兆ウォン超の可能性https://edata.ekn.kr/article/view/ekn202609030005
- Samsung, SK hynix Reject KEPCO's 25 Trillion Won Prepayment Plan報道Seoul Economic Daily(2026-09-14)— 使用箇所: 両社が提案を拒否したこと(KEPCO関係者が拒否の連絡を受けたと認めた)、拒否理由(半導体市況の変動が大きく5年間の好況持続を前提にできない)、KEPCOの総債務210.7兆ウォン(2026年6月末)・1日の利息約115億ウォン・債券発行特例が2027年末で終了https://en.sedaily.com/finance/2026/09/14/samsung-sk-hynix-reject-kepcos-25-trillion-won-prepayment
- 한전 25조 전기료 선납 구상 무산…삼전닉스 모두 거절報道韓国経済新聞(2026-09-14)— 使用箇所: KEPCOが2026年7月9日に両社へ提案を伝えたと説明、議員事務所への回答で参加は難しいとの返答を受けたと説明、国債2年物より高い金利を半期ごとに電気料金から差し引く方式https://www.hankyung.com/article/202609142726g
- 삼성전자·SK하이닉스, '25조 전기료 선납' 한전 제안 거절報道ファイナンシャルニュース(2026-09-14)— 使用箇所: 両社が2026年9月11日に最終的に拒否したと報道、KEPCOは新規社債の負担を減らせたはずと述べた、報道で代替案は明確に示されていないhttps://www.fnnews.com/news/202609141109530343
- 発電等設備の設置に伴う電力系統の増強及び事業者の費用負担等の在り方に関する指針公的機関資源エネルギー庁 電力・ガス事業部(2024-05-15)— 使用箇所: 日本の系統増強費用の負担の考え方(受益の範囲は接続希望者が負担する「特定負担」、それ以外は一般送配電事業者が負担し託送料金で回収する「一般負担」)https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/pdf/hiyoufutangl_20240515.pdf
- 熊本県内変電所、増強で需要に対応 九州電力送配電 80億円超投資 半導体企業集積で供給力強化報道熊本日日新聞(2025-02-03)— 使用箇所: 九州電力送配電が熊本県内の変電所2か所で80億円超を投じ半導体企業の集積に伴う需要増に対応するため設備容量を従来の倍に増やす(見出し・冒頭で確認。本文は会員限定)https://kumanichi.com/articles/1677908
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