サムスン電子は、メモリ半導体(DRAM・NAND)で世界トップを走る「メモリの王者」です。一方で、AIの中心になったHBM(広帯域メモリ)では競合に先行を許し、先端ファウンドリ(受託製造)ではTSMCを追う立場にあります。王者でありながら挑戦者——この二面性が、いまのサムスン半導体を読み解く鍵です。

半導体業界でサムスンの名は誰もが知っています。ですが「メモリの会社なのか、ファウンドリの会社なのか、それとも家電の会社なのか」と問われると、答えは意外に難しい。この記事では、サムスン電子の半導体事業を、事業報告の数字と世界シェアで整理します。メモリの基礎は「メモリ(DRAM・NAND)の寡占構造」、ビジネスモデルの違いは「ファブレス・ファウンドリ・IDM」で先に確認できます。なお本記事は技術と産業の分析であり、株式の売買や投資を勧めるものではありません。

ひとことで言うと(初心者向け)

サムスンは『記憶するチップ(メモリ)』では世界一の会社です。スマホやパソコン、AIサーバーに入っているメモリの多くがサムスン製です。ただし、AIで最も需要が伸びた特別なメモリ(HBM)では他社に先を越され、チップを受託製造するファウンドリでは台湾のTSMCに大きく差をつけられています。

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構造で言うと(投資家向け)

サムスンはメモリ寡占(DRAM/NAND首位)を収益基盤に持つIDMで、半導体(DS)が全社利益の柱です。一方、最も付加価値の高いHBMでSK hynixに先行を許し、先端ファウンドリではTSMCに大差で追う構図。競争上の論点は、HBMの巻き返し速度・2nm量産の歩留まり・メモリ市況の振れ幅の3点に集約されます。

サムスン電子とはどんな会社か

サムスン電子とは、韓国に本社を置く、半導体・スマートフォン・家電・ディスプレイを手がける総合電機メーカーです。半導体については、設計から製造まで自社で一貫して行う(垂直統合型デバイスメーカー)です。設計だけのファブレスや製造だけのファウンドリと違い、サムスンは「自分で設計し、自分の工場で作る」両刀使いの会社になります。

沿革を簡単にたどると、サムスンが半導体(メモリ)に本格参入したのは1983年です。後発ながら巨額の設備投資を続け、1990年代にDRAMで世界首位に立ちました。以後、メモリの王座を長く守り続けてきたのがサムスンの歴史です。同時にスマートフォン「Galaxy」や家電でも世界大手となり、半導体と最終製品の両方を持つ稀有な企業になりました。

初心者向け
「メモリ」とは、データを一時的に覚えておくチップのこと。計算をするCPUやGPUとは役割が別で、サムスンはこの「覚える側」のチップで世界一の会社です。

部門別の売上構成はどうなっているのか

サムスンの事業は、大きく半導体の「DS部門」と、家電・スマホの「DX部門」に分かれます。DSはDevice Solutionsの略で、メモリとファウンドリを含む半導体事業です。DXはDevice eXperienceの略で、スマートフォン(MX)・テレビ・家電などの最終製品事業です。

2025年通期で、サムスン電子の全社売上は333.6兆ウォン、営業利益は43.6兆ウォンでした(Samsung Global Newsroom)。このうち半導体部門(DS)が売上130.1兆ウォン(前年比+17%)・営業利益24.9兆ウォンを稼ぎ、利益の大きな柱になっています(Samsung Semiconductor Newsroom)。

部門別の構成を整理すると次のとおりです。

部門中身2025年通期 売上位置づけ
DS(半導体)メモリ(DRAM・NAND・HBM)+ファウンドリ+システムLSI130.1兆ウォン利益の柱。営業利益24.9兆ウォン
└ うちメモリ事業DRAM・NAND・HBM104.1兆ウォン(同+23%)DSの中核。AI需要で急伸
DX(家電・スマホ)スマホ(Galaxy)・テレビ・家電・ネットワーク188.0兆ウォン(同+7%)売上は最大、利益率は半導体より低い

注目すべきは、売上ではDX(家電・スマホ)が最大なのに、利益の伸びは半導体(DS)が牽引している点です。とくにメモリ事業の売上104.1兆ウォンは、AI向け需要とメモリ価格の上昇で前年比23%も伸びました(Samsung Semiconductor Newsroom)。つまりサムスンの収益は、半導体の市況に大きく左右される構造になっています。

サムスンの技術的な強みは何か

サムスンの最大の強みは、メモリ半導体の量産技術と規模です。(電源を切ると消える高速メモリ)では、2025年第4四半期に世界シェア36.0%で首位に立ちました(TrendForce)。(電源を切っても残るストレージ用メモリ)でも、2025年第3四半期に32.3%のシェアで首位です(TrendForce)。

さらにNANDでは、記憶素子を縦に高く積み上げて容量を増やす技術でも競争を先導してきました。つまり、メモリの主要な土俵すべてで首位級の量産力を持つのがサムスンです。

もう一つの強みが、ファウンドリにおける先端技術です。サムスンは2022年6月、(Gate-All-Around=トランジスタのチャネルを全周から囲んで電流の漏れを抑える次世代構造)を採用した3nm(ナノメートル)プロセスを世界で初めて量産しました(Samsung Global Newsroom)。なお、サムスンは電流の通り道を薄い板状に重ねる独自構造でこれを実装しており、TSMCより一足早くGAAへ踏み込んだ点が技術的な看板になっています。

初心者向け
「3nm」や「2nm」は、チップの回路をどれだけ細かく作れるかを表す世代の名前。数字が小さいほど高性能・低消費電力で、最先端の証になります。

サプライチェーンでサムスンはどんな役割を担うのか

サムスンは、半導体サプライチェーンで「メモリの供給者」と「製造の受託者」という二つの役割を同時に担います。これがIDM(垂直統合)ならではの特徴です。

第一の役割はメモリ供給です。AIサーバー・スマホ・パソコンに不可欠なDRAMとNANDを大量に供給し、業界の需給と価格を動かす当事者になっています。とくにAIの性能を左右する(DRAMを積層しGPUと直結した広帯域メモリ)は、いまメモリ需要の中心です。HBMの基礎は「HBMとCoWoS」で解説しています。

第二の役割はファウンドリ(受託製造)です。他社が設計したチップを、自社の先端工場で受託生産します。ただしサムスンは自社でもスマホ用チップなどを設計するため、ファウンドリ顧客から見れば「発注先が競合にもなりうる」という微妙な立場です。顧客と競合しないTSMCとの違いがここにあります。

市場ポジションと競争構造はどうなっているのか

サムスンの市場ポジションは、領域ごとにまったく異なります。メモリでは王者、ファウンドリでは挑戦者です。

メモリのDRAMでは、2025年第4四半期にサムスン36.0%・SK hynix32.1%・Micron22.4%で、上位3社が市場のほぼ全量を占める寡占です(TrendForce)。一方ファウンドリでは、2025年第4四半期にTSMCが70%超を握るのに対し、サムスンは約7.1%にとどまります(TrendForce)。同じ「半導体」でも、立っている地面の固さがまるで違います。

サムスンを取り巻く競争構造を、5つの力(ファイブフォース)で整理すると次のようになります。

5つの力サムスンにとっての強さ内容
既存競合強い(厳しい)メモリはSK hynix・Micronと寡占競争。ファウンドリはTSMCに大差で追う2番手
新規参入の脅威弱い(参入は困難)最先端ファブは数兆円規模の設備投資が必要で、新規参入はほぼ不可能
代替品の脅威中程度メモリは規格品で代替されにくいが、市況次第で需要が大きく振れる
買い手の交渉力中〜強スマホ・サーバー大手など大口顧客が価格交渉力を持つ。メモリは値崩れしやすい
売り手(供給者)の交渉力中程度露光装置はASML、製造装置・材料は特定企業に依存。自社工場ゆえ垂直統合で一部緩和

ポイントは、メモリでは「規模と寡占」という堀を持つ一方、ファウンドリでは「先行者TSMCの規模の堀」に阻まれている点です。さらに最も利益率が高いHBMで、SK hynixに先行を許したことが痛手になりました。半導体各社の全体像は「半導体メーカーの役割別マップ」で俯瞰できます。

サムスンの弱み・リスクはどこにあるのか

サムスンの弱みは、大きく3つあります。

第一は、メモリ市況の波です。メモリは需給で価格が大きく動くサイクル産業で、収益の柱であるがゆえに、市況の下落局面では全社の利益が一気に縮みます。実際、メモリ不況時には半導体部門が赤字に転落した時期もありました。

第二は、AI向けHBMでの出遅れです。DRAM全体では王者でも、最も付加価値の高いHBMでSK hynixに先行を許しました。その影響もあり、2025年第1四半期にはDRAMの世界首位を33年ぶりに明け渡す場面もありました(TrendForce)。HBM4などでの巻き返しが課題です。

第三は、先端ファウンドリでTSMCを追う構図です。GAAは先行したものの、量産の(良品の割合)と大口顧客の獲得でTSMCに後れを取り、シェアは約7.1%にとどまります(TrendForce)。先端(プロセス世代)で顧客の信頼を取り戻せるかが分かれ目です。

最近の動向はどうなっているのか

直近では、AIブームによるメモリ価格の急騰が追い風になっています。2025年第4四半期、サムスンの半導体部門(DS)は売上44.0兆ウォン・営業利益16.4兆ウォンを記録し、メモリ事業は四半期の売上・営業利益で過去最高を更新しました(Samsung Global Newsroom)。これは、HBMと一般DRAMの双方で需要が強く、価格上昇が利益を押し上げた格好です。

技術面では、ファウンドリで2nm(第1世代)の量産を2025年第4四半期に開始し、2026年に第2世代へ広げる計画です(Samsung Global Newsroom)。HBMでも、業界最高水準をうたうHBM4の供給を進め、AI向けで失った先行を取り戻そうとしています。データセンター(AI計算の拠点)向け需要が続く限り、メモリの王者がAIの中心へ返り咲けるかが焦点です。

この記事のまとめ

  • サムスン電子は半導体(DS)と家電・スマホ(DX)を併せ持つIDM。2025年通期は全社売上333.6兆ウォン、半導体部門が売上130.1兆ウォン・営業利益24.9兆ウォンで利益の柱になっている。
  • 部門構成はDS(メモリ・ファウンドリ)とDX(売上188.0兆ウォン)に大別され、メモリ売上104.1兆ウォンがDSの中核。収益はメモリ市況に大きく左右される。
  • 技術的強みはメモリ。DRAMは2025年第4四半期に世界シェア36.0%で首位、NANDも32.3%で首位。3nm GAAは2022年に世界初量産した。
  • 弱みはAIの中心HBMでSK hynixに先行を許した点と、先端ファウンドリでシェア約7.1%とTSMC(70%超)を追う点。
  • 市場での見方は『メモリ寡占の王者だが、AI向け先端領域では挑戦者』という二面性。HBMの巻き返しと2nm量産の歩留まりが今後の競争軸になる。

この記事のまとめ

  • サムスン電子は総合電機と半導体を併せ持つIDM(設計から製造まで自社)。2025年通期は全社売上333.6兆ウォン、半導体部門(DS)が売上130.1兆ウォン・営業利益24.9兆ウォンで利益の柱。
  • 事業は半導体のDS(メモリ・ファウンドリ)と、家電・スマホのDX(売上188.0兆ウォン)に大別される。メモリ売上104.1兆ウォンがDSの中核。
  • 技術的強みはメモリ。DRAMは2025年第4四半期に世界シェア36.0%で首位、NANDも32.3%で首位(TrendForce)。3nm GAA(次世代トランジスタ構造)は2022年に世界初量産した。
  • 弱みはAIの中心HBMでSK hynixに先行を許した点と、先端ファウンドリでシェア約7.1%とTSMC(70%超)を追う点。メモリ市況の波も収益を大きく揺らす。
  • 市場での見方は『メモリ寡占の王者だが、AI向け先端領域では挑戦者』という二面性。HBMの巻き返しと2nm量産の歩留まりが今後の競争軸になる。
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よくある質問(FAQ)

Q.サムスンの半導体事業はどれくらいの規模ですか?+

サムスン電子の半導体部門(DS)は2025年通期で売上130.1兆ウォン(前年比+17%)、営業利益24.9兆ウォンでした。うちメモリ事業の売上が104.1兆ウォン(同+23%)と中核です。会社全体では売上333.6兆ウォン・営業利益43.6兆ウォンで、半導体が利益の大半を担います(サムスン電子FY2025決算)。

Q.サムスンはメモリとファウンドリのどちらが強いのですか?+

圧倒的にメモリが強みです。DRAMは2025年第4四半期に世界シェア36.0%で首位、NANDも2025年第3四半期に32.3%で首位です(TrendForce)。一方ファウンドリ(受託製造)は同第4四半期で世界シェア約7.1%にとどまり、70%超のTSMCを追う2番手です。メモリの王者でありながら、先端ファウンドリでは挑戦者という二面性があります。

Q.なぜサムスンはAI時代に「追う立場」と言われるのですか?+

AIサーバー向けに需要が急増したHBM(広帯域メモリ)でSK hynixに先行を許したためです。DRAM全体では王者でも、最も利益率が高いHBMでの出遅れが響き、2025年第1四半期にはDRAM首位を33年ぶりにSK hynixへ明け渡しました(TrendForce)。その後HBM4などで巻き返しを図り、第4四半期に首位を奪還しています。

用語集

DRAM/ Dynamic Random Access Memory
電源を切ると消える、高速な作業用メモリ。CPUやGPUが計算中のデータを一時的に置く。
NAND(NANDフラッシュ)/ NAND flash
電源を切ってもデータが消えない記憶装置。SSDやスマホのストレージに使われる。
3D NAND/ three-dimensional NAND
メモリのセルを縦に何百層も積み上げて容量を増やすNANDの構造。平面では限界に達したため縦方向へ伸ばした。
HBM/ High Bandwidth Memory
DRAMを積み重ねて広帯域にした高性能メモリ。AI半導体とセットで使われる。
ファウンドリ/ foundry
他社が設計した半導体を、受託して製造する工場。代表はTSMC。
ファブレス/ fabless
自社で工場を持たず、設計だけを行う会社。製造はファウンドリに委託する。
歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。
ノード(プロセス)/ process node
製造プロセスの世代を表す呼び名(例:3nm)。小さいほど高性能・省電力になりやすい。
GAA(ゲートオールアラウンド)/ Gate-All-Around
チャネルを上下左右の全周からゲートで囲む最先端トランジスタ。FinFETよりさらに電気の漏れを抑えられる。
データセンター/ data center
大量のサーバーをまとめて置き、24時間動かし続ける施設。クラウドやAIの計算はここで行われる。

参考資料・引用元

  1. Samsung Electronics Announces Fourth Quarter and FY 2025 Results一次情報
    Samsung Global Newsroom(2026-01)— 使用箇所: FY2025全社売上333.6兆ウォン・営業利益43.6兆ウォン、Q4のDS売上44.0兆ウォン、2nm量産開始
    https://news.samsung.com/global/samsung-electronics-announces-fourth-quarter-and-fy-2025-results
  2. Samsung Electronics FY2025 Results — DS division一次情報
    Samsung Semiconductor Newsroom(2026-01)— 使用箇所: DS部門通期売上130.1兆ウォン・営業利益24.9兆ウォン、メモリ104.1兆ウォン、DX 188.0兆ウォン
    https://news.samsungsemiconductor.com/global/samsung-electronics-announces-fourth-quarter-and-fy-2025-results/
  3. Price Rally Drives 4Q25 DRAM Revenue Up 29.4%; Samsung Regains No. 1 Market Share調査会社
    TrendForce(2026-02)— 使用箇所: DRAM 4Q25シェア Samsung36.0%/SK hynix32.1%/Micron22.4%
    https://www.trendforce.com/presscenter/news/20260226-12937.html
  4. AI Infrastructure Continues to Strengthen NAND Flash Demand (3Q25)調査会社
    TrendForce(2025-12)— 使用箇所: NAND 3Q25シェア Samsung32.3%で首位、SK hynix19.3%
    https://www.trendforce.com/presscenter/news/20251203-12813.html
  5. 4Q25 Global Top 10 Foundries — Samsung share調査会社
    TrendForce(2026-03)— 使用箇所: ファウンドリ 4Q25シェア TSMC70.4%・Samsung約7.1%
    https://www.trendforce.com/presscenter/news/20260312-12965.html
  6. Samsung Begins Chip Production Using 3nm Process Technology With GAA Architecture一次情報
    Samsung Global Newsroom(2022-06)— 使用箇所: 3nm GAA(MBCFET)世界初量産(2022年6月)
    https://news.samsung.com/global/samsung-begins-chip-production-using-3nm-process-technology-with-gaa-architecture

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