電気の「ムダ」を減らすパワー半導体の全体像は「EVもデータセンターも、電気の“ムダ”を減らす半導体で動いている」で詳しく解説しています。そもそも半導体とは何かは「半導体とは何か」を、業界全体での三菱電機の位置づけは「半導体メーカーは、6つの役割で見ると一気にわかる」を合わせて読むと理解が深まります。
三菱電機は、家電から鉄道、宇宙まで手がける総合電機メーカーです。その半導体事業の中心は「パワー半導体」。電気を効率よく変換・制御する部品で、EVや新幹線、エアコンのモーターを動かす心臓部に入っています。完成品に名前は出ませんが、この分野で三菱電機は世界2位の実力を持っています。
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半導体・デバイス事業の2024年度(2025年3月期)売上高は2,863億円・営業利益率14.2%で、うちパワーデバイスが2,414億円。パワーモジュール市場でグローバルシェア2位(2024年・OMDIA)。鉄道・産業・車載・家電にまたがる顧客基盤と大容量帯の技術が参入障壁で、HVDC向けでは世界1位。競争構造は競合(Infineon・富士電機・ST)との消耗戦になりやすく、SiC移行の巧拙とBEVシフトの速度・市況の波が変動要因。総合電機ゆえに事業全体の中での優先度も論点になる。
三菱電機とはどんな会社か
三菱電機とは、家電・産業機器・FA(工場自動化)・鉄道・宇宙・防衛まで手がける日本の総合電機メーカーです。2025年3月期の連結売上高は5兆5,217億円で、売上高・営業利益ともに過去最高を更新しました(三菱電機株式会社)。
この巨大な事業群のなかで、半導体は「半導体・デバイス事業」という一区分にあたります。本記事が主眼を置くのは、その中心であるパワー半導体(パワーデバイス)です。三菱電機の半導体は、CPUやメモリのような「計算する」チップではなく、電気そのものを変換・制御する「電力を扱う」チップに特化しています。
つまり三菱電機は、最先端の微細な(回路の世代)でロジックチップを作るタイプの半導体メーカーではありません。電気の通り道をオン・オフする大きな(電気の流れを切り替える素子)を、いかに低損失で大電流に耐えるように作るか、という別の土俵で世界トップ級に立つ会社です。
半導体・デバイス事業はどんな位置づけで、何に使われるのか
半導体・デバイス事業とは、三菱電機がパワーデバイスと高周波・光デバイスを供給する事業区分です。2024年度(2025年3月期)の事業売上高は2,863億円、営業利益率は14.2%でした。このうちパワーデバイス事業が2,414億円と大半を占め、残りが5G基地局・衛星通信向けの高周波デバイスと、・光通信向けの光デバイスです(三菱電機株式会社)。
パワー半導体(パワーデバイス)とは、電気の電圧・電流・周波数を変換し、効率よく制御するための半導体です。直流と交流を変換する「インバータ」の中核部品で、ここでの電力ロスを減らせるほど省エネにつながります。三菱電機のパワーデバイスの主な用途は次の通りです。
| 用途分野 | 具体例 | 役割 |
|---|---|---|
| 鉄道 | 新幹線・在来線車両の駆動 | モーター制御用インバータの中核 |
| 車載 | 電気自動車(EV)の駆動・充電 | SiCモジュールで航続距離を伸ばす |
| 産業 | 工場の機械・FA・サーボモーター | モーションコントロールの省エネ化 |
| 家電・民生 | エアコン・冷蔵庫などのインバータ家電 | IPMでモーターを細かく制御 |
| 再エネ・電力 | 太陽光・風力・HVDC(高圧直流送電)・UPS | 大電力を変換・送電する基幹部品 |
(出典:三菱電機株式会社)
このように、三菱電機のパワー半導体は「動くもの・電気を変えるもの」のほぼすべてに関わります。総合電機として鉄道・FA・空調を自社で持つため、自社製品で鍛えた技術を外販する好循環が生まれているのが特徴です。
三菱電機のパワー半導体の技術的な強みはどこにあるか
三菱電機の技術的な強みは、IGBTモジュールとIPM(インテリジェント・パワー・モジュール)の完成度、そして大容量帯への作り込みにあります。
IGBT(大電流を高速にオン・オフできるパワー素子)と、それを複数組み合わせて樹脂で固めたパワーモジュール(素子・配線・端子を一つのパッケージにまとめた部品)で、三菱電機は長年世界トップ級を維持してきました。
特にIPM(パワー素子に駆動・保護回路まで一体化したモジュール)では、エアコンなどの民生インバータ向けで高いシェアを持ちます。回路設計から素子、実装までを垂直統合で握り、信頼性と(良品の割合)を作り込める点が、組み立てだけの会社にはない優位性です(橋本総研.com)。
次世代の主役であるSiC(炭化ケイ素=シリコンより高電圧・高温・高速に強い新材料)でも、三菱電機はEV・鉄道向けのSiCパワーモジュールに注力しています。SiCはシリコンより電力ロスが小さく、機器を小型・軽量にできるため、EVの航続距離やデータセンター電源の効率を左右します。そこでSiC材料の安定調達のため、米Coherent社のSiC事業会社へ出資し、開発・供給の両面で連携を強めています(EE Times Japan)。
サプライチェーンの中で三菱電機はどんな役割か
三菱電機はサプライチェーンの中で、電力を扱うあらゆる機器の「電力変換の心臓部」を供給する役割を担います。鉄道車両メーカー、自動車メーカーとそのサプライヤー、産業機械メーカー、家電メーカー、再エネ・送電事業者が主な納入先です。
この役割が重要なのは、パワー半導体が止まると機器そのものが動かないからです。EVのモーターも、新幹線の駆動も、エアコンの省エネ運転も、すべてインバータが電気を作り変えて初めて成り立ちます。AI時代に急増する「データセンターの電力問題」でも、サーバーへ電気を送る電源やHVDC送電の効率がパワー半導体に懸かっています。
特徴的なのが、HVDC(高圧直流送電)市場での存在感です。三菱電機はIGBTを使うVSC型HVDCシステム向けのパワーモジュールで世界シェア1位(2023年度・当社調べ)を持ちます。欧州を中心に再エネ送電網の整備でHVDCの採用が拡大しており、大容量帯に強い三菱電機の強みが効く成長領域です(三菱電機株式会社)。
三菱電機の市場ポジションと競争構造はどうなっているか
三菱電機は、電力変換に使うパワーモジュール市場でグローバルシェア2位(2024年実績・OMDIA)に立ちます。首位はドイツのInfineon(インフィニオン)で、三菱電機はこれに次ぐ世界的プレーヤーです。IGBT単体やIPMでも世界上位を占め、特に大容量・高信頼が求められる鉄道・産業・HVDC領域に強みがあります(三菱電機)。
この市場の競争構造を、「誰と、どんな力関係で戦っているか」という5つの視点で整理すると次のようになります。
| 力 | 主体 | 強さ | 理由 |
|---|---|---|---|
| 競合 | Infineon・富士電機・STMicroelectronics・ON Semi・ローム・東芝・中国勢 | 高 | 上位が拮抗し、SiCで各社が大型投資。価格・能力の消耗戦になりやすい |
| 買い手の交渉力 | 自動車・鉄道・産業機械・家電メーカー | 中〜高 | 大口で価格圧力は強いが、認定済みモジュールの乗り換えには長期評価が必要 |
| 供給者の交渉力 | SiC・シリコンの、基板・封止材 | 中 | SiC基板は供給が限られ、確保が競争力を左右。Coherent出資で内製化を補強 |
| 新規参入 | 中国の新興メーカー等 | 中 | 補助金で参入が増えるが、車載・鉄道の信頼性認定が高い壁。汎用品では脅威 |
| 代替品 | GaN(窒化ガリウム)等の新材料 | 低〜中 | 低電圧・小容量ではGaNが台頭するが、大容量帯ではSiC/IGBTが当面主役 |
最大の論点は、SiCをめぐる競合との競争です。EVのSiC化ではInfineonやSTが先行し、デンソーと組む富士電機も積極投資をしています。しかし三菱電機は大容量帯と顧客基盤で優位を保ちつつ、量産規模でどこまで追い上げられるかが問われます。価格だけでなく信頼性と供給責任で選ばれる市場のため、認定済みの地位は崩れにくい一方、世代交代の波に乗り遅れると一気にシェアを失う緊張感があります。
三菱電機のパワー半導体が抱える弱み・リスクは何か
最大のリスクは、半導体市況の波です。2024年度はパワー半導体需要が停滞し、産業向けが減少しました。EV普及を見込んだ各社の増産が需要鈍化(BEVシフトの減速)と重なれば、供給過剰と価格下落につながります。そのため三菱電機もパワーデバイス事業への設備投資を一部抑制・延伸し、好調な光デバイスへ振り向ける方針へ調整しました(三菱電機株式会社)。
第二に、SiCでの競争です。シリコンIGBTでは世界トップ級でも、SiCではInfineon・ST・富士電機などが先行する局面があります。SiC基板の確保、8インチ大口径化の量産技術、コスト競争力で後れを取れば、車載という最大の成長市場で取りこぼすおそれがあります。
第三に、総合電機ゆえの「選択と集中」です。半導体・デバイス事業は連結売上5.5兆円のうち約2,863億円と、全社では一部門にすぎません。全社の資源配分のなかでパワー半導体への投資が常に最優先とは限らず、巨額投資が続く半導体競争で意思決定の速さが課題になりえます。
三菱電機のパワー半導体事業の最近の動向はどうか
最近の三菱電機は、SiCの大口径化への投資で反攻に出ています。熊本県菊池市(泗水地区)に約1,000億円を投じてSiC 8インチ(直径200mm)ウェハー対応の新工場棟を建設し、2026年の本格立ち上げを進めています。ウェハーの生産能力は2022年度比で約5倍に拡大する計画です(EE Times Japan)。
技術面では、部品を内蔵して小型化した次世代IGBTや、SiCの新構造トランジスタといった次世代素子の開発を継続し、SiC要素技術に約2,500億円規模、8インチ量産技術に約1,000億円規模を投じる構えです。一方で市況に合わせて投資時期を機動的に調整し、成長領域のHVDCやデータセンター向け光デバイスへ資源を寄せる柔軟さも見せています。
派手な完成品を作る会社ではありませんが、電気が流れるところには三菱電機のパワー半導体が静かに入っています。脱炭素とAI電力需要が同時に拡大する時代に、電力変換を握るこの事業の重要性はむしろ高まっています。
この記事のまとめ
- 三菱電機は総合電機メーカーだが、半導体事業の中心は電気を変換・制御するパワー半導体(パワーデバイス)である。
- 半導体・デバイス事業の2024年度(2025年3月期)売上高は2,863億円・営業利益率14.2%で、うちパワーデバイスが2,414億円を占めた。
- パワーモジュール市場でグローバルシェア2位(2024年・OMDIA)。IGBT・IPMの技術力と鉄道・産業・車載・家電の顧客基盤が強みである。
- 鉄道・EV・産業・空調のインバータに不可欠なキーデバイスで、HVDC向けパワーモジュールでは世界1位(2023年度・当社調べ)。
- リスクは市況の波・SiCで先行する競合との競争・総合電機ゆえの優先度。熊本にSiC 8インチ新工場を立ち上げ反攻している。
この記事のまとめ
- 三菱電機は総合電機メーカーだが、半導体事業の中心は電力を変換・制御するパワー半導体(パワーデバイス)である。
- 半導体・デバイス事業の2024年度(2025年3月期)売上高は2,863億円で、うちパワーデバイス事業が2,414億円を占めた。
- パワーモジュール市場でグローバルシェア2位(2024年実績・OMDIA)。IGBT・IPMの技術力と鉄道・産業・車載・家電の顧客基盤が強み。
- 鉄道・EV・産業・空調のインバータに不可欠なキーデバイスで、HVDC向けパワーモジュールでは世界1位(2023年度・当社調べ)。
- リスクは市況の波、SiCで先行する競合との競争、総合電機ゆえの「選択と集中」での優先度。熊本にSiC 8インチ新工場を立ち上げ反攻中。
よくある質問(FAQ)
Q.三菱電機の半導体事業とはどんな事業ですか?+
三菱電機の半導体事業の中心は、電気を変換・制御するパワー半導体(パワーデバイス)です。総合電機メーカーの一部門ですが、電力変換に使うパワーモジュール市場でグローバルシェア2位(2024年実績・OMDIA)を握ります。半導体・デバイス事業の2024年度(2025年3月期)売上高は2,863億円で、うちパワーデバイス事業が2,414億円を占めました。
Q.三菱電機のパワー半導体はどこで使われていますか?+
鉄道車両、電気自動車(EV)、エアコンなどの家電、太陽光・風力の再生可能エネルギー、工場の産業機械、HVDC(高圧直流送電)など、モーターや電力を制御するあらゆる場面で使われます。完成品には名前が出ませんが、インバータ(直流と交流を変換する回路)の心臓部にあたるパワーモジュールを供給しています。
Q.三菱電機のパワー半導体の強みは何ですか?+
最大の強みはIGBTモジュールとIPM(制御回路を一体化したインテリジェント・パワー・モジュール)の技術力と、鉄道・産業・車載・家電にまたがる強固な顧客基盤です。大容量帯のパワーモジュールに強く、急成長するHVDC(高圧直流送電)のうちIGBTを使うVSC型システム用のパワーモジュールでは世界シェア1位(2023年度・当社調べ)を持ちます。SiC(炭化ケイ素)への移行にも注力しています。
用語集
- トランジスタ/ transistor
- 電気のスイッチ。オン/オフで「0と1」を表し、計算と記憶の最小単位になる。
- ウェハー/ wafer
- 半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
- データセンター/ data center
- 大量のサーバーをまとめて置き、24時間動かし続ける施設。クラウドやAIの計算はここで行われる。
- 歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
- 1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。
- ノード(プロセス)/ process node
- 製造プロセスの世代を表す呼び名(例:3nm)。小さいほど高性能・省電力になりやすい。
参考資料・引用元
- 2025年3月期 決算短信(IFRS・連結)一次情報三菱電機株式会社(2025-04)— 使用箇所: 連結売上5兆5,217億円・営業利益3,918億円(過去最高)https://www.mitsubishielectric.co.jp/ja/pr/2025/pdf/0428-a1.pdf
- 半導体・デバイス事業説明会資料一次情報三菱電機株式会社(2025-05)— 使用箇所: 半導体・デバイス2,863億円・利益率14.2%・用途(鉄道/EV/家電/再エネ/HVDC/UPS)https://www.mitsubishielectric.co.jp/ja/pr/2025/pdf/0528-5.pdf
- 半導体・デバイス事業 売上構成一次情報三菱電機株式会社(2025-05)— 使用箇所: 2024年度半導体2,863億円のうちパワーデバイス2,414億円https://www.mitsubishielectric.co.jp/ja/pr/2025/pdf/0528-5.pdf
- パワーモジュール市場シェア(Omdia)一次情報三菱電機(出典Omdia)(2025-05)— 使用箇所: パワーモジュール市場で世界2位(2024・Omdia)、首位Infineonhttps://www.mitsubishielectric.co.jp/ja/pr/2025/pdf/0528-5.pdf
- HVDC向けパワーモジュール世界1位一次情報三菱電機株式会社(2025-05)— 使用箇所: VSC型HVDC向けパワーモジュールで世界シェア1位(2023年度・当社調べ)https://www.mitsubishielectric.co.jp/ja/pr/2025/pdf/0528-5.pdf
- 三菱電機、熊本にSiCパワー半導体新工場(8インチ)報道EE Times Japan(2023-03)— 使用箇所: 熊本菊池に約1,000億円・SiC8インチ新工場2026年・能力2022年度比約5倍https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2303/15/news133.html
- パワー半導体メーカー市場シェア(IGBT/IPM)調査会社橋本総研.com(2024)— 使用箇所: IGBTで世界上位・IPMで世界シェア約40%トップhttps://hasimoto-soken.com/archives/14257
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