前回までで、ウェハーは薄く削られ、チップ1個1個に切り分けられました。ただし切り出したばかりのチップは、電極が0.1mm以下と小さすぎて、人間が作る基板とはそのままつながれない“孤島”です。そこでまずチップを金属の土台や基板に接着し(ダイボンディング)、次に髪の毛より細い金や銅の線を1秒に20本以上の速さで張って、チップの電極と外の端子を橋渡しします。ミシンで縫うような、この気の遠くなる作業を担うのがワイヤボンダという装置です。スマホの頭脳のような高性能チップでは、線を張る代わりにチップごと裏返し、ハンダの粒の格子で一度に全点を接続する「フリップチップ」が使われます。
構造で言うと(投資家向け)も見る
ボンディングは後工程の装置・材料の中核。装置はASMPT(2002年以降、組立・パッケージング装置で世界首位)、Kulicke & Soffa、新川ブランドのヤマハロボティクスHDが上位。材料のボンディングワイヤは田中電子工業(世界シェア約40%)・日鉄マイクロメタル(パラジウム被覆銅ワイヤのデファクト)と日本勢が強い。量産の実行主体はASE・AmkorなどのOSATで、AI・HBM向け先端実装が装置各社の成長ドライバー。
この記事で動かせる図解
- 01ボンディング3Dモデルダイボンド→ワイヤボンド→フリップチップ→2方式比較の4ステージを切り替えて見る
なぜ切り出したばかりのチップは、まだ使えないのか
「前回」は、ウェハーを1枚ずつのチップに切り分ける工程でした。チップの上には完成した回路が載っています。それでも、このチップはまだ何もできません。チップの表面に並ぶ電極(パッド)は一辺0.1mm以下しかなく、私たちの世界の基板やコネクタとはスケールが違いすぎて、直接つなぎようがないのです。
そこで必要になるのが、チップと外の世界の間の「橋」を架けるボンディング工程です。最初のステップがダイボンディングです。チップ(ダイとも呼びます)を、リードフレーム(チップを載せて外部端子まで電気を導く金属の骨組み)や樹脂の基板に接着して固定します。EE Times Japanの解説によると、接着には銀の粒を混ぜた導電性接着剤「銀ペースト」や、フィルム状の接着剤(DAF)が使われます。
ダイボンディングは単なる「のり付け」ではありません。チップの位置が数µmずれれば次の配線工程が失敗しますし、接着層はチップの熱を土台へ逃がす通り道にもなります。座る場所を固定して、初めて次の「配線」に進めます。
ワイヤボンディングは、どうやって1秒に20本も「縫う」のか
チップの電極と外部端子をつなぐ主役が、ワイヤボンディングです。まず、チップが土台に載り、線が1本ずつ張られていく様子を3Dモデルで見てください。
手順はミシンによく似ています。キャピラリという細い筒状の針の先からワイヤを繰り出し、先端を放電で溶かして小さなボールを作ります。このボールをチップの電極に押し当て、熱と超音波と荷重を同時にかけて接合します。
そのまま針が弧を描いて外側の端子へ移動し、ワイヤを押し付けて切る。これで1本完成です。この針の上下運動を延々と繰り返して、チップの周囲をぐるりと縫っていきます。
驚くべきはその速さと細さです。最新のワイヤボンダは毎秒20〜25本以上を接合し、ワイヤの直径は金線で15µm以下、銅線でも25µm程度——髪の毛の4分の1ほどしかありません。ワイヤの材質は金・銀・銅の3系統で、高価な金から安価な銅への置き換えが進みました。ただし銅は酸化しやすいため、表面を貴金属のパラジウムで覆った「PCCワイヤ(パラジウム被覆銅ワイヤ)」が使われます。
フリップチップは、何をひっくり返しているのか
ワイヤボンディングには構造上の限界があります。線を張れるのは基本的にチップの縁に沿った電極だけで、端子が数百〜数千本に増えると、縁だけでは足りなくなるのです。そこで生まれたのが、発想を180度——文字どおり物理的に——ひっくり返したフリップチップです。
イデアシステムの技術解説によると、フリップチップではまずチップの電極の上にバンプと呼ばれる金属の粒(ハンダや銅など)を格子状に形成します。次にチップを裏返し(フリップし)、バンプを基板の電極に位置合わせして押し当て、炉で加熱してすべての接点を一度に接合します。1本ずつ縫う代わりに、全部まとめてハンコを押すイメージです。
利点は3つあります。配線が線ではなく粒なので接続距離が短く、信号の劣化が少ないこと。チップの縁だけでなく全面を接点にできるため、数千ピンの多端子チップに対応できること。そしてワイヤ用のスペースが不要になり、チップとほぼ同サイズまでパッケージを小さくできることです。
スマホのSoCやGPUといった高性能チップは、ほぼこの方式で組み立てられています。さらに先端では、バンプの粒すら捨てて銅の電極同士を直接貼り合わせる方式へ進化しています。その話は「「はんだバンプを捨てたら、チップ間の配線密度が100倍になった」」で詳しく解説しています。
ワイヤとフリップチップは、どう使い分けられているのか
2つの方式は、どちらかが勝ち残ったわけではなく、いまも役割分担で共存しています。
| 方式 | 接続のしかた | 得意分野 |
|---|---|---|
| ワイヤボンディング | 細い金属線を1本ずつ弧を描いて張る | 低コスト・設計変更に柔軟。メモリ、車載・産業用IC、パワー半導体 |
| フリップチップ | チップを裏返し、バンプの格子で一括接合 | 多ピン・高速・小型。スマホSoC、GPU、高性能プロセッサ |
安く確実につなぎたいならワイヤ、性能と密度を極めたいならフリップチップ。この使い分けを実際に手を動かして担うのが、組み立てとテストの専門企業です。
全体像は「「微細化の限界を「組み立て方」で超える話」」で解説しています。最大手の分析は「「チップを”組み立ててテストする”世界最大の会社、台湾のASE」」と「「ASEに次ぐOSAT世界2位、Amkorの先端パッケージ」」をどうぞ。
ボンディングの装置と材料は、どの会社が支えているのか
装置の筆頭は、香港・シンガポールに本拠を置くASMPTです。半導体の組み立て・装置の分野で、2002年以来、世界首位を守り続けています。ダイボンダからワイヤボンダ、フリップチップ、さらに先端のTCB(熱圧着ボンディング)まで、ボンディングのフルコースを揃えているのが強みです。
米国のKulicke & Soffa(K&S)は、ボールボンディング・ウェッジボンディングからTCB・先端パッケージングまでを手がけるワイヤボンダの老舗大手です。そして日本勢の代表が新川です。現在はヤマハ発動機系のヤマハロボティクスホールディングス傘下となり、「SHINKAWA」ブランドとして1000分の1ミリの世界でチップとリードフレームをつなぐボンダーを作り続けています。
装置の全体像は「「後工程装置とディスコの記事」」で整理しています。
材料側は、さらに日本勢の独壇場です。ボンディングワイヤでは、田中貴金属グループの田中電子工業が世界シェア約40%を握り、常にトップを走っています。日本製鉄系の日鉄マイクロメタルは、パラジウム被覆銅ワイヤ(PCCワイヤ)で世界市場のデファクトスタンダードの地位を確立したリーディングカンパニーです。1秒に20本張られるあの細い線は、その大部分が日本の工場で引き抜かれています。
これでチップは土台に座り、外の世界への配線も済みました。しかし、まだ裸のままです。次回は、つないだチップを樹脂で丸ごと包み込み、壊れない「黒い部品」に仕上げる封止(モールド)の工程を歩きます。半導体そのものの基礎から知りたい場合は「「半導体とは何か」」を参照してください。
この記事のまとめ
- ボンディングとは、切り出したチップを土台に接着し(ダイボンディング)、チップの電極と外部端子を電気的につなぐ後工程。ここで初めてチップは外の世界と会話できる。
- ダイボンディングでは銀ペーストやフィルム状接着剤(DAF)でチップをリードフレームや基板に固定する。電気と熱の通り道を作る役割もある。
- ワイヤボンディングは直径15〜25µmの金・銅線を1本ずつ弧を描いて張る方式。最新装置は1秒間に20本以上を接合する。銅線はパラジウム被覆(PCC)が主流。
- フリップチップはチップを裏返し、ハンダバンプの格子で数千点を一括接続する方式。配線が短く多ピン化に強く、スマホSoCやGPUで主流。先はハイブリッドボンディングへ進化する。
- 装置はASMPT・K&S・新川(ヤマハロボティクスHD)、ワイヤは田中電子(世界シェア約40%)・日鉄マイクロメタルが支える。装置・材料とも日本勢が強い領域。
よくある質問(FAQ)
Q.ボンディングとは何ですか?+
ボンディングとは、ウェハーから切り出した半導体チップを、リードフレームや基板といった土台に接着し(ダイボンディング)、チップの電極と外部の端子を電気的につなぐ後工程のことです。切り出したばかりのチップは電極が0.1mm以下と小さすぎて、そのままでは外の回路と接続できません。ボンディングを経て初めて、チップは外の世界と電気信号をやり取りできるようになります。
Q.ワイヤボンディングとはどんな技術ですか?+
ワイヤボンディングとは、金や銅でできた直径15〜25µm——髪の毛の4分の1ほどの極細の金属線を、チップの電極と外部端子の間に1本ずつ弧を描いて張っていく接続技術です。キャピラリという針状の工具でワイヤを繰り出し、熱・超音波・荷重で電極に押し付けて接合します。最新の装置は1秒間に20本以上を接合し、ミシンのようにチップを「縫って」いきます。
Q.フリップチップとワイヤボンディングの違いは何ですか?+
ワイヤボンディングが細い線を1本ずつ順番に張るのに対し、フリップチップはチップの電極面にバンプ(ハンダなどの金属の粒)を作り、チップを180度裏返して基板に直接押し当て、加熱してすべての接点を一括で接合します。接続距離が短く信号劣化が少ない、チップ全面を接点にできるため数千ピンの多端子に対応できる、パッケージを小さくできる、という利点があり、スマホのSoCやGPUなど高性能チップで主流です。
Q.ボンディングの装置や材料で強い企業はどこですか?+
装置では、ASMPT(2002年以降、半導体組立・パッケージング装置で世界首位)、米Kulicke & Soffa(ボールボンダ大手)、新川ブランドを持つヤマハロボティクスホールディングスが代表格です。材料のボンディングワイヤでは、田中電子工業(田中貴金属グループ)が世界シェア約40%でトップ、日鉄マイクロメタルはパラジウム被覆銅ワイヤで世界のデファクトスタンダードの地位を握ります。装置・材料ともに日本勢の存在感が大きい領域です。
用語集
- ダイシング/ dicing
- 1枚のウェハーを格子状に切り、1つずつのチップ(ダイ)に切り分ける後工程。ブレードやレーザーで切断する。
- OSAT/ Outsourced Semiconductor Assembly and Test
- チップの組み立て(パッケージング)と検査を専門に請け負う会社。後工程の外部委託先。
- パッケージング(先端パッケージング)/ advanced packaging
- 切り出したチップを基板に載せ、配線し、保護する工程。複数のチップを高密度につなぐ先端版もある。
- 後工程(OSAT)/ back-end / OSAT
- ウェハーから切り出したチップを検査・組み立て・パッケージする工程。
参考資料・引用元
- ダイボンディングと電極ボンディングで半導体チップを外部とつなぐ報道EE Times Japan(福田昭のデバイス通信)(2024-02)— 使用箇所: ダイボンドの接着材(銀ペースト・DAF)/ワイヤ材質Au・Ag・Cu/パラジウム被覆銅/フリップチップのバンプ接続https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2402/13/news066_2.html
- ワイヤボンディング装置~1秒で20本!端子間を超高速で配線する技術業界団体semi-engineers(半導体プロセスエンジニアブログ)(2024)— 使用箇所: 最新ワイヤボンダの接合速度(毎秒20〜25本以上)/線径(金15µm以下・銅25µm程度)/装置メーカー概況https://semi-engineers.com/wire-bonding-tool/
- 高密度実装を支えるフリップチップボンディングとは?構造・装置・課題を解説業界団体イデアシステム(不明)— 使用箇所: フリップチップの仕組み(バンプ形成・180度反転・リフロー一括接合)/短配線・数千ピン対応の利点https://www.idea-gr.co.jp/column/flip-chip-bonding-technical-explanation/
- ASMPT Semiconductor Solutions一次情報ASMPT(不明)— 使用箇所: 2002年に組立・パッケージング装置業界で世界一となり以降首位/ダイボンダ〜ワイヤボンダ〜フリップチップ〜TCBの製品範囲https://semi.asmpt.com/en/company/semiconductor-solutions/
- Kulicke & Soffa — Semiconductor Assembly Solutions一次情報Kulicke & Soffa(不明)— 使用箇所: K&Sの事業範囲(ボールボンディング・ウェッジボンディング・TCB・先端パッケージング)https://www.kns.com/
- Brand SHINKAWA Series一次情報Yamaha Robotics Holdings(不明)— 使用箇所: 新川がヤマハロボティクスHDのSHINKAWAブランドとしてボンダーを展開/1/1000mm精度でチップとリードフレームを接続https://www.yamaha-robotics.com/en/brand/shinkawa
- ボンディングワイヤ EXシリーズ(パラジウム被覆銅ワイヤ)一次情報日鉄マイクロメタル(不明)— 使用箇所: パラジウム被覆銅ワイヤで世界市場のデファクトスタンダードを確立したリーディングカンパニー/金線代替のコストダウンhttps://www.nmc-net.co.jp/products/bonding-wires-ex/
- ボンディングワイヤートップの田中貴金属の創業は明治18年なのだ報道電子デバイス産業新聞(2016)— 使用箇所: 田中貴金属(田中電子)のボンディングワイヤ世界シェア約40%・トップhttps://www.sangyo-times.jp/article.aspx?ID=2045
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