米国・日本・オランダが相次いで輸出規制を強化した結果、中国の半導体産業は先端装置の大半を自力で調達できなくなった。それが逆に、中国国内の装置メーカー育成を急加速させている。北方华创(Naura)・中微公司(AMEC)・上海微電子装備(SMEE)の現在地と、3,440億元規模のBig Fund第3期が何を狙っているかを整理する。
ひとことで言うと(初心者向け)

規制で輸入できなくなった装置を、中国は国内メーカーで補おうとしています。エッチングや成膜の一部では実用レベルに達しましたが、露光装置(とくにEUV)はまだ作れません。Big Fund(国家ファンド)が巨額を投じて国産化を後押ししています。

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構造で言うと(投資家向け)

対中輸出規制(BIS 2022年10月・METI 2023年7月・蘭2024年1月DUV機NXT:2050i停止)でEUV/先端DUVは事実上調達不能。Naura(エッチング/成膜、売上約200億元)・AMEC(5nm対応エッチング)が成熟ノード向けでシェア拡大中。SMEE露光機は90nmクラスにとどまる。Big Fund第3期約3,440億元は装置・材料上流へ比重移動。国産化は既存メーカーへの長期逆風だが、先端ノードの空白は当面埋まらない。

輸出規制はなぜ「国産化の加速装置」になったのか

半導体製造装置の世界市場では、中国はずっと最大の消費国でありながら輸入依存が約85〜90%に達していた。その状況を大きく変えたのが、2022年以降の輸出規制の連鎖だ。

2022年10月、米国商務省産業安全保障局(BIS)は先端半導体製造に関わる装置・技術の対中輸出規制を大幅に強化した(BIS Oct 2022)。続いて2023年7月には日本の経済産業省が、・・洗浄・・研磨など23類型の先端装置を輸出許可対象とする規制を施行した(日本の半導体製造装置は世界シェア約30%を占める)。そして2024年1月以降、オランダ政府はASMLの最先端DUV露光機(EUVの一歩手前にあたる高性能機)の対中出荷を停止させた。は2019年から事実上禁輸が続いており、先端露光装置のほぼ全域で調達の扉が閉まった形だ。

規制の連鎖は「輸入できないなら作る」という力学を生んだ。中国政府はBig Fund(国家集成電路産業投資基金)のPhase III(第3期)を2024年に約3,440億元(約478億ドル)規模で組成し、装置・材料など上流サプライチェーンへの重点投資を宣言した。

Naura(北方华创)——エッチング・成膜で成熟ノード向けに実用化

北方华创(Naura Technology Group、深市002371)は北京に本拠を置く装置メーカーで、もとは電子部品メーカーだったが半導体装置に軸足を移した。(複数の方式を自社でそろえる)・酸化/拡散・など幅広い工程を手がける。

2024年のは約200億元規模と、数年前の数十億元水準から急拡大している。SMIC(中芯国際)をはじめとする中国国内(他社の設計を受託製造する工場)への納入が増え、成熟(28nm以上)での採用実績を積み上げつつある。ただし、7nm以下の先端ノードでは歩留まりや装置精度の面で国際大手(Applied Materials・Lam Research・東京エレクトロン)との差がまだ大きいとされる。ファウンドリと自社設計・自社製造企業の違いは「ファウンドリとIDM、何が違うのか」で解説している。

AMEC(中微公司)——Applied Materials元幹部が立ち上げた「エッチング専業」

AMEC(Advanced Micro-Fabrication Equipment、中微公司、上証688012)は2004年に上海で設立された。創業者のGerald Yin(尹志尧)はApplied Materialsのエッチング事業部の副社長を務めた半導体装置エンジニアの大ベテランで、その人脈と技術を中国に持ち帰った形だ。

AMECは、プラズマの発生方式が異なる2種類のエッチング装置に特化し、5nmプロセス対応品の開発まで公開している。2024年の売上高は約82億元。向けおよび・(ともにデータを記憶する半導体メモリの種類)の工程向けに中国国内で急速に採用が広がっている。Lam Research・東京エレクトロンの中国向けシェアの一部が、規制とローカル調達圧力によってAMECに移行しつつあるとの見方もある。

SMEE(上海微電子装備)——露光装置は90nmクラスで足踏み

SMEEは中国が自国で露光装置(リソグラフィ機)を持つことを目指して国が主導して育成してきたメーカーだ。しかし現実には、市販できている装置は旧世代の光源を使う90nm世代にとどまっており、先端の(先端DUVや)にはまだ届いていない。

はASMLが世界で唯一供給しており、対中輸出は2019年以降実質的に認められていない。先端DUVも2024年以降は最新型の輸出が停止した。SMEEが同クラスの装置を開発・量産できるようになるまで、少なくとも数年以上かかるとの見方が支配的だ。露光装置は光学系・制御系・計測系すべての高度な統合が必要で、ソフトウェアも含めた生態系の整備なしには先端品は実現しない。

Big Fund第3期——装置・材料上流に軸足を移した3,440億元

2024年に組成されたBig Fund第3期(大基金三期)は、Phase I(2014年、約1,387億元)・Phase II(2019年、約2,042億元)を大きく上回る規模だ。Phase Iがロジック設計やファウンドリへの支援中心、Phase IIがメモリへの投資拡大とすると、Phase IIIは装置と材料という上流サプライチェーンを主な投資対象に据えている。

Naura・AMECといった装置メーカーはすでにBig Fund系資本の支援を受けており、Phase IIIでさらに資本・顧客・R&D支援が集中する見通しだ。輸出規制で世界大手との共同開発ルートが閉じられるなか、政府資金が代替策の核になっている。

投資家が注目すべき構造変化は何か

中国の装置国産化が進めば、世界大手(ASML・Applied Materials・Lam Research・東京エレクトロン・KLA)の中国向け売上は長期的に減少圧力を受ける。ASMLは2023年の中国向け約46%から2024年に約30%へ急落しており(ASML FY2024決算)、さらなる規制強化が追い打ちをかける可能性がある。

一方で先端(5nm以下)に必要なEUVと先端DUVは当面SMEEが代替できず、ASMLの競争優位はしばらく揺らがない。Naura・AMECが伸ばせるのは主に成熟ノード向けであり、先端ノード向け市場は依然として規制前の西側装置と積み上げた中古装置に依存する構造が続く見込みだ。

「ASML DUV輸出規制の詳細」と「中国の半導体自立戦略の全体像」もあわせて読むと、規制と国産化の連鎖がより立体的に把握できる。

この記事のまとめ

  • 米・日・蘭の輸出規制で中国は先端装置を調達できなくなり、国産化が急加速している。
  • Naura(北方华创)はエッチング・成膜・酸化などで成熟ノード向け装置を量産し、2024年売上は約200億元規模。
  • AMEC(中微公司)はApplied Materials元幹部が創業し、エッチング装置で5nm対応品まで開発済み。
  • SMEE(上海微電子装備)の露光機は現状90nmクラスで、EUV・先端DUVは未達。
  • Big Fund第3期(約3,440億元)は装置・材料上流を重点投資対象にしており、国産化ペースがさらに上がる可能性がある。

この記事のまとめ

  • 米・日・蘭の輸出規制で中国は先端装置を調達できなくなり、国産化が急加速している。
  • Naura(北方华创)はエッチング・成膜・酸化などで成熟ノード向け装置を量産し、2024年売上は約200億元規模。
  • AMEC(中微公司)はApplied Materials元幹部が創業し、エッチング装置で5nm対応品まで開発済み。
  • SMEE(上海微電子装備)の露光機は現状90nmクラスで、EUV・先端DUVは未達。
  • Big Fund第3期(約3,440億元)は装置・材料上流を重点投資対象にしており、国産化ペースがさらに上がる可能性がある。
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よくある質問(FAQ)

Q.中国の半導体製造装置は、どこまで自前で作れるようになっていますか?+

エッチング・成膜・洗浄など一部の工程では、Naura(北方华创)やAMEC(中微公司)が成熟ノード向けに実用レベルの装置を量産できています。一方、最先端の露光装置(EUVや先端DUV)はまだ国産化できておらず、SMEE(上海微電子装備)も現時点では90nmクラスまでにとどまっています。

Q.中国の半導体装置国産化を後押しする「Big Fund」とは何ですか?+

正式名称は「国家集成電路産業投資基金(集成电路产业投资基金)」。中国政府が主導する官民ファンドで、2014年のPhase I(約1,387億元)、2019年のPhase II(約2,042億元)、2024年に組成されたPhase III(約3,440億元・約4.7兆円)の3段階で運用されています。Phase IIIでは装置・材料など上流サプライチェーンへの投資比率が高まっています。

Q.日本はどのような半導体製造装置の輸出規制を実施していますか?+

2023年7月23日に経済産業省が施行した規制で、先端半導体製造に関わる23類型の装置(成膜・エッチング・洗浄・露光・CMP等)について、特定の国・地域向け輸出に許可取得を義務付けました。日本の製造装置は世界シェア約30%を占めるため、中国への影響は大きいとされています。

用語集

EUV/ Extreme Ultraviolet 極端紫外線
波長の短い光で微細な回路を焼き付ける最先端の露光技術。装置はASMLが独占。
露光(リソグラフィ)/ lithography
回路の原版(マスク)を通して光を当て、回路パターンをチップに転写する工程。半導体製造の心臓部。
エッチング/ etching
レジストに覆われていない部分の膜を、気体や薬液で削り取り、回路パターンを膜に刻む工程。
成膜(せいまく)・塗布/ deposition / coating
ウェハー表面に、配線や絶縁体になる薄い膜を一様につける工程。液体を塗る『塗布』も含む。
ノード(プロセス)/ process node
製造プロセスの世代を表す呼び名(例:3nm)。小さいほど高性能・省電力になりやすい。
ファウンドリ/ foundry
他社が設計した半導体を、受託して製造する工場。代表はTSMC。
ウェハー/ wafer
半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
NAND(NANDフラッシュ)/ NAND flash
電源を切ってもデータが消えない記憶装置。SSDやスマホのストレージに使われる。
DRAM/ Dynamic Random Access Memory
電源を切ると消える、高速な作業用メモリ。CPUやGPUが計算中のデータを一時的に置く。
売上高/ revenue / net sales
会社が商品やサービスを売って得た金額の合計。利益を引く前の数字。

参考資料・引用元

  1. Naura Technology Group(北方华创)Corporate Overview一次情報
    Naura Technology Group(公式)(2025)— 使用箇所: Naura(北方华创・深市002371)の事業概要:PVD/CVD/熱処理/エッチング/PECVD等の半導体製造装置ラインアップ・国内主要ファウンドリへの納入・2024年売上約200億元規模(要確認・公式ウェブサイト)
    https://www.naura.com/en/
  2. Advanced Micro-Fabrication Equipment(AMEC / 中微公司)Corporate Overview一次情報
    AMEC(公式)(2025)— 使用箇所: AMEC(中微公司・上証688012)の事業概要:CCP/ICP方式エッチング装置・5nm対応品・Gerald Yin(創業者、Applied Materials元VP)・NAND/ロジック向け採用・2024年売上約82億元(要確認・公式ウェブサイト)
    https://www.amec-inc.com/en/
  3. 上海微电子装备(SMEE)Company Profile一次情報
    SMEE(上海微電子装備集団)公式(2025)— 使用箇所: SMEEの概要:i線・KrFクラスの露光装置(90nmクラス)の量産・中国国内ファウンドリへの納入・先端ArF液浸DUV開発中(要確認・公式ウェブサイト)
    https://www.smee.com.cn/
  4. China sets up new $47.5 billion state chip fund報道
    Reuters(2024-05-27)— 使用箇所: Big Fund第3期(国家集成電路産業投資基金三期):中国政府が2024年5月に約3,440億元(約478億ドル)を組成。装置・材料など上流への投資比率拡大が特徴(Reuters報道・要確認)
    https://www.reuters.com/technology/china-sets-up-new-475-billion-state-chip-fund-2024-05-27/
  5. Japan's New Chip Equipment Export Rules Take Effect(先端装置23類型の輸出規制)公的機関
    Hogan Lovells / METI(経済産業省)(2023-07-23)— 使用箇所: 2023年7月23日施行・先端半導体製造装置23類型の輸出許可対象化
    https://www.hoganlovells.com/en/publications/japans-new-chip-equipment-export-rules-take-effect
  6. ASML warns new Dutch curbs prevent it shipping most advanced chip tool to China報道
    Reuters(2023-09-05)— 使用箇所: 2023年9月、オランダ政府がTWINSCAN NXT:2050i(最先端ArF液浸DUV)の対中輸出許可の更新を拒否。2024年1月以降、ASMLはこの機種を中国に出荷できなくなった(要確認・報道)
    https://www.reuters.com/technology/asml-warns-new-dutch-curbs-prevent-it-shipping-most-advanced-chip-tool-china-2023-09-05/
  7. MATCH Act of 2024 — Microelectronics Accelerating Competitiveness and Technology Headstart Act (H.R. 8133)公的機関
    U.S. House of Representatives(2024-04)— 使用箇所: 2024年4月に米下院に超党派で提出されたDUV露光機の対中輸出規制法案。ArFドライ以上のDUVシステムを中国向けEAR規制対象に追加し、原則不許可とする内容(要確認・法案テキスト)
    https://www.congress.gov/bill/118th-congress/house-bill/8133
  8. ASML reports fourth-quarter and full-year 2023 results一次情報
    ASML Holding N.V.(2024-01-24)— 使用箇所: 2023年通期:中国向け新規システム売上が全体の約46%と史上最高水準に達した。中国ファブが規制強化を見越してDUVを大量発注した結果(要確認・ASML公式)
    https://www.asml.com/en/news/press-releases/2024/q4-2023-financial-results
  9. Commerce Implements New Export Controls on Advanced Computing and Semiconductor Manufacturing Items to China公的機関
    BIS(米商務省産業安全保障局)(2022-10-07)— 使用箇所: 対中・先端半導体/製造装置の輸出規制(2022-10、2023-10更新)
    https://www.bis.gov/press-release/commerce-strengthens-export-controls-restrict-chinas-capability-produce-advanced-semiconductors-military

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