半導体のチップは、露光装置がフォトマスクという原版に光を通し、回路の形をシリコンウエハーへ焼き付けることで作られます。半導体そのものの基本的な仕組みは「半導体とは、電気を「通す・通さない」を切り替えられる物質——それだけの性質が世界を動かしている」で解説していますが、その原版の規格が、数十年ぶりに変わろうとしています。フォトマスクがどう作られるかは「チップの“原版”はどう作られるのか」で解説していますが、今回の発表はその規格そのものを塗り替える動きです。
半導体の回路は、原版(フォトマスク)に光を当てて写し取ることで作られます。この原版は長年『6インチ』という大きさが標準でしたが、ASMLとTSMCが『もっと大きい12インチにしよう』と発表しました。大きな原版なら、1回でより広い範囲の回路を写せるため、生産の効率が上がると期待されています。実現は2033年ごろの見込みです。
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ASML・TSMCが12インチフォトマスクへの移行イニシアチブを共同発表(2026年9月7日)。Samsungも参加表明。狙いはHigh-NA EUVにおけるステッチング制約の解消とスキャナー生産性の向上。ロードマップは2031年パイロットライン・2033年量産投入の2段階。Intel FoundryはASMLとの別の共同プレスリリース(2026年9月8日)で6×12インチ(12インチ)マスクへの移行に取り組む方針を表明した。ASML・TSMCのイニシアチブへの正式参加を明言したものではないが、TSMC・Samsung・Intelの3社がそれぞれ12インチ化への関与を一次情報で公表した形だ。ASML・TSMCの共同発表文自体にはIntelへの言及はない。マスクブランクス・検査装置サプライチェーンへの中長期的な設備投資インパクトを持つテーマ。
フォトマスクとは何か、なぜ今も6インチのままなのか
フォトマスクとは、半導体の回路パターンを転写するためのガラス製の原版です。装置がこの原版に光を通し、回路の形を(他社の設計を受託製造する工場)のシリコンウエハー上に焼き付けます。印刷でいう「版」にあたる存在です。
最先端のロジックチップがナノメートル単位まで微細化した現在も、フォトマスクの物理的な大きさは6インチ角のまま、長年標準として使われ続けてきました。回路そのものは極限まで小さくなった一方、それを転写する「版」の規格は据え置かれてきたことになります。
なぜ12インチへの移行が必要なのか
12インチへの移行が必要なのは、6インチマスクでは一度に転写できる回路の範囲に限りがあるためです。
大きなチップ設計を6インチマスクに収めきれない場合、複数回に分けて露光し、境目をつなぎ合わせる「ステッチング」と呼ばれる処理が必要になります。この継ぎ目は、次世代の露光技術「High-NA」を本格展開する際に、生産上の制約として顕在化するとASMLとTSMCは説明しています。ASMLとTSMCは、フォトマスクを12インチへ大型化することでこの制約を取り除き、「EUVの次が来た。1台500億円超のHigh-NAは何を変えるのか」で扱ったHigh-NA EUVのスキャナー生産性を高めたいとしています。
TSMC・Samsungが足並みを揃える意味は何か
今回の発表で正式に参加を表明したのは、ASML・TSMC・Samsung Electronicsの3社です。露光装置を独占的に供給する「1台数百億円。この1社がなければ最先端チップは作れない」ASMLと、最先端ロジックを競う2社が同じ規格移行に足並みを揃えた形になります。
Intel Foundryについては、ASML・TSMCの共同発表文そのものには言及がありません。ただしIntel FoundryとASMLは2026年9月8日、別の共同プレスリリースで、6×12インチ(12インチ)マスクへの移行に取り組む方針を表明しました。ASML・TSMCのイニシアチブへの正式参加を明言したものではありませんが、TSMC・Samsung・Intelの3社がそれぞれ12インチ化への関与を一次情報で公表した形です。フォトマスクの規格は業界全体で共通化してこそ意味を持つため、今後どこまで採用企業が広がるかが焦点になります。
2031年パイロットライン・2033年量産投入までの道のりはどうなっているか
ロードマップは2段階です。まず2031年に12インチマスクのパイロットライン(少量の試験生産ライン)を稼働させ、量産に向けた技術とを検証します。そのうえで2033年に、最先端での量産投入を目指すとしています。
この間、現行のHigh-NA EUV自体は当面6インチマスクでの運用が続く見込みです。12インチ化はHigh-NAの導入そのものを止めるものではなく、その先の生産性をさらに引き上げるための布石という位置づけになります。「1台400億円。最先端チップを生む露光装置とASMLの独占」で扱ったように、露光装置への投資はもともと巨額です。原版の規格変更は、その投資効率をさらに高める狙いだと言えます。
マスクブランクスや検査装置への影響はどうなるか
フォトマスクの規格が変われば、マスクの素材となる「マスクブランクス」や、完成したマスクの欠陥を検査する装置にも対応が求められます。ただし、ASML・TSMCの共同発表文には、個別の部材・検査装置メーカーへの具体的な言及はありません。
業界大手が原版の規格移行で足並みを揃えた以上、この分野を手がける企業への影響は今後の焦点になります。フォトマスクの製造工程全体は「チップの“原版”はどう作られるのか」で詳しく扱っています。
この記事のまとめ
- ASMLとTSMCは2026年9月7日、フォトマスクを6インチから12インチへ移行する共同イニシアチブを発表し、Samsung Electronicsも参加を表明した。
- 目的は、大きなチップ設計を分割して露光する「ステッチング」の制約を減らし、High-NA EUVでのスキャナー生産性を高めること。
- ロードマップは2031年に12インチマスクのパイロットライン、2033年に最先端ノードでの量産投入を目指す2段階構成。
- Intel Foundryは、ASML・TSMCの発表とは別の共同プレスリリース(2026年9月8日)で6×12インチ(12インチ)マスクへの移行に取り組む方針を表明した。ASML・TSMCのイニシアチブへの正式参加を明言したものではないが、TSMC・Samsung・Intelの3社がそれぞれ12インチ化への関与を一次情報で公表した形だ。
- 現行のHigh-NA EUVは、この移行が実現するまで当面6インチマスクでの運用が続く見通し。
この記事のまとめ
- ASMLとTSMCは2026年9月7日、フォトマスクを6インチから12インチへ移行する共同イニシアチブを発表。Samsung Electronicsも参加を表明した。
- 目的は、大きなチップ設計を複数回に分けて露光する「ステッチング」の制約を減らし、High-NA EUVでのスキャナー生産性を高めること。
- ロードマップは2031年に12インチマスクのパイロットライン、2033年に最先端ノードでの量産投入を目指す2段階構成。
- Intel Foundryは、ASML・TSMCの発表とは別の共同プレスリリース(2026年9月8日)で6×12インチ(12インチ)マスクへの移行に取り組む方針を表明した。ASML・TSMCのイニシアチブへの正式参加を明言したものではないが、TSMC・Samsung・Intelの3社がそれぞれ12インチ化への関与を一次情報で公表した形だ。
- 現行のHigh-NA EUVは、この移行が実現するまで当面6インチマスクでの運用が続く見通し。
よくある質問(FAQ)
Q.フォトマスクとは何ですか?+
フォトマスクとは、半導体の回路パターンを転写するためのガラス製の原版です。露光装置がこの原版に光を通し、回路の形をシリコンウエハー上のフォトレジスト(感光材料)に焼き付けます。印刷でいう「版」にあたり、1つのチップ設計につき数十枚が使われます。
Q.なぜフォトマスクを12インチへ大型化する必要があるのですか?+
現行の6インチマスクでは転写できる回路の範囲に限りがあり、大きなチップ設計を複数回に分けて露光し、つなぎ合わせる「ステッチング」という処理が必要になるためです。マスクを12インチへ大型化すれば一度に転写できる範囲が広がり、このつなぎ目に起因する制約を減らせます。ASMLとTSMCは、次世代露光技術High-NA EUVでスキャナーの生産性を高める狙いがあるとしています。
Q.12インチ化はいつ実現しますか?+
ASML・TSMCが2026年9月7日に発表したロードマップでは、2031年に12インチマスクのパイロットライン(試験生産ライン)を稼働させ、2033年に最先端ノードの量産投入を目指すとされています。それまでの間、High-NA EUVは当面6インチマスクでの運用が続く見込みです。
Q.Intel FoundryやSamsungも参加していますか?+
Samsung Electronicsは正式に参加を表明しています。Intel FoundryはASMLとの別の共同プレスリリース(2026年9月8日)で6×12インチ(12インチ)マスクへの移行に取り組む方針を表明しました。ASML・TSMCのイニシアチブへの正式参加を明言したものではなく、共同発表文自体にもIntelへの言及はありません。ただし、TSMC・Samsung・Intelの3社がそれぞれ12インチ化への関与を一次情報で公表した形です。
用語集
- EUV/ Extreme Ultraviolet 極端紫外線
- 波長の短い光で微細な回路を焼き付ける最先端の露光技術。装置はASMLが独占。
- 露光(リソグラフィ)/ lithography
- 回路の原版(マスク)を通して光を当て、回路パターンをチップに転写する工程。半導体製造の心臓部。
- ファウンドリ/ foundry
- 他社が設計した半導体を、受託して製造する工場。代表はTSMC。
- 歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
- 1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。
- ノード(プロセス)/ process node
- 製造プロセスの世代を表す呼び名(例:3nm)。小さいほど高性能・省電力になりやすい。
参考資料・引用元
- ASML and TSMC Announce Initiative to Pioneer Industry Transition to Large Format Photomasks for High-NA EUV一次情報ASML / TSMC(共同プレスリリース、GlobeNewswire配信)(2026-09-07)— 使用箇所: ASML・TSMC共同での12インチフォトマスク移行イニシアチブ発表、Samsung Electronicsの参加表明、2031年パイロットライン・2033年量産投入というロードマップ、ステッチング制約解消とスキャナー生産性向上という狙いhttps://www.globenewswire.com/news-release/2026/09/08/3357321/0/en/asml-and-tsmc-announce-initiative-to-pioneer-industry-transition-to-large-format-photomasks-for-high-na-euv.html
- TSMC, ASML push for 12-inch photomask transition to overcome 6-inch limitations業界団体DIGITIMES(2026-09-08)— 使用箇所: Intel Foundry等の関心表明に関する報道文脈(ASML・TSMC発表文には参加確定の明言なし)https://www.digitimes.com/news/a20260908VL208/tsmc-asml-12-inch-production-6-inch.html
- Intel Foundry and ASML Collaborate to Accelerate Industry Readiness for High NA EUV一次情報ASML(公式プレスリリース)(2026-09-08)— 使用箇所: Intel FoundryとASMLが12インチ(6x12-inch)マスクへの移行に向けて協業することを正式表明。ASML・TSMCの共同発表(2026年9月7日)とは別の発表で、TSMC・Samsungの名前やイニシアチブへの参加の明言はないが、Intelの12インチ化への関与を一次情報で裏付けるhttps://www.asml.com/en/news/press-releases/2026/intel-foundry-and-asml-collaborate-to-accelerate-industry-readiness-for-high-na-euv
- Intel Foundry and ASML Collaborate to Accelerate Industry Readiness for High NA EUV一次情報Intel(IR公式プレスリリース)(2026-09-08)— 使用箇所: Intel Foundry側の同時発表。Intel Foundryが6インチHigh-NAの早期実現と6x12インチマスクへの移行の両方を推進する方針を確認https://www.intc.com/news-events/press-releases/detail/1781/intel-foundry-and-asml-collaborate-to-accelerate-industry
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