ASMLの中国向け新規システム売上比率は、2023年の約46%から2024年に約30%へ急落し、2025年は約20%台になる見通しだ。規制の矛先はEUVだけではない。米議会で提出されたMATCH法案は旧型のDUV機まで包囲しようとしており、残存するASMLの中国ビジネスが再び揺らいでいる。
ひとことで言うと(初心者向け)

半導体の回路を焼き付ける「露光機」は最先端のEUVだけでなく旧型のDUVにまで輸出規制が広がっています。ASMLの中国向け売上は3年で半分以下になる見通しです。

構造で言うと(投資家向け)も見る
構造で言うと(投資家向け)

ASMLのChina net sales比率はCY2023約46%→CY2024約30%→CY2025ガイダンス約20%台に急縮小。DUV全面規制(MATCH法案通過時)はASMLの年間DUV売上約128億ユーロの中国分に直撃する。日本も23類型規制を2023-07に施行済み。中国の装置国産化は5nm以下で依然困難なことが装置企業の中期競争力を下支えする。

EUVとDUVはどう違うのか

半導体製造で最も重要な工程のひとつが「露光(リソグラフィ)」だ。回路パターンを描いた原版(フォトマスク)に光を当て、上の感光材に転写する。使う光の波長が短いほど細かい回路が描ける。

は波長13.5nmの超短波長光を使い、最先端の3nm・2nmのに欠かせない。ASMLが世界で唯一量産し、1台300億〜500億円超。2019年以降、米国の要請でオランダ政府はEUVの中国向け輸出許可を発給しておらず、事実上の禁輸が続く。

DUV(Deep Ultraviolet、深紫外線)は波長193nmのレーザー光を使う旧世代の技術だ。「旧型」といっても現役で、28nm〜7nm相当のチップ製造に広く使われる。ASMLの2024年通期売上(約283億ユーロ)の内訳でも、DUVは約128億ユーロとEUV(約83億ユーロ)を上回り最大の収益源だ。

DUVが「まだ使える」理由はここにある。EUVが禁輸でも、中国はDUVを手に入れることで最先端に近いチップを製造できる可能性が残る。

初心者向け
EUVは最先端のスマホ・AIチップ向けの特別な光、DUVはそれより一段階前の世代の光を使う露光装置です。DUVは古い技術に見えても、複数回重ねて使うことで最先端に近いチップを作れてしまうため、規制の対象が広がっています。

半導体の製造工程の全体像から確認したい場合は「半導体とは何か」を参照してください。

SMICが示した「DUVだけで7nmができる」という事実

2023年9月、TechInsightsがHuawei「Mate 60 Pro」に搭載されたKirin 9000sチップを分析した。その結果、SMICがDUVのみで7nm相当(N+2プロセス)を実現していたことを確認した。複数回の露光を重ねる「多重パターニング」という手法で、EUVなしに達成した。

工程数の増加でとコストは劣るが、技術的には可能と証明された。SMICは2020年12月に米商務省のエンティティリストに追加されており、10nm以下向けの新規装置(EUVを含む)の輸出は原則不許可だ。しかし規制前に導入済みのDUVは稼働を続け、その能力を最大限に使った形だ。

この事実が米国の危機感を一気に高めた。EUVだけを規制しても、旧型DUVの多重パターニングで先端ノードに迫れるなら、規制に抜け穴がある。そう判断した米国がDUV規制強化に動いた背景にはこの出来事がある。

ASMLの中国売上はなぜ3年で半分以下になったのか

ASMLの中国向け売上比率の推移は次のとおりだ。

時期新規システム売上に占める中国比率主な要因
2023年約46%(ピーク)規制前の駆け込み大量発注
2024年約30%NXT:2050i規制開始・在庫消化
2025年(見通し)約20%台規制後の基底水準に収束

2023年に中国が約46%に達したのは、規制強化を見越した中国ファブ各社がDUVを前倒しで大量発注したためだ。この反動で2024年以降の数字が急落する。

2024年1月からは、オランダ政府がNXT:2050iなど最先端のArF液浸DUV(レンズとウェハーの間を水で満たし、解像度を高めた方式)の対中輸出許可を発給しなくなった。EUVではなくDUVを対象にした規制が初めて発動した瞬間だ。

MATCH法案はDUVをどこまで規制するのか

2024年4月、米議会下院でMATCH法案が超党派で提出された。正式名称はMicroelectronics Accelerating Competitiveness and Technology Headstart Actである。現行の輸出管理改革法(EAR)が規制するEUVや一部の先進DUVに加え、「ArFドライ」(水を使わない標準型)以上のすべてのDUV露光システムを輸出許可対象に追加し、中国向けは原則不許可とする内容だ。

現行規制ではNXT:2050i系が輸出停止になっても、その一世代前の液浸機や旧世代のArFドライ機は引き続き自由に輸出できる。MATCH法案はこの「残った穴」を塞ごうとしている。成立すれば、ASMLが中国に出荷できる露光機は事実上ゼロになる。

ASML 2024年のDUV売上約128億ユーロのうち、中国比率を30%と仮定すると約38億ユーロが影響を受けうる。さらに2025年以降も中国向けの旧型DUV更新需要が消滅すれば、構造的な売上喪失となる。

日本の装置メーカーにも広がる規制網

日本は2023年7月23日、先端半導体製造装置23類型の輸出規制を施行した。ArF液浸露光装置・装置・装置・洗浄装置など、最先端ノードに関わる装置が対象に含まれる。ニコン・東京エレクトロン(TEL)・SCREENなど日本の装置メーカーが許可申請義務を負う。

ASMLが規制される中で、日本製の露光装置がASML代替として中国に売れる余地は既に狭まっている。ニコンはArF液浸市場でASMLに次ぐ存在だが、最先端ノード向けは規制対象だ。中国は装置の国産化を急ぐが、5nm以下での量産に必要な精度はまだ達成できていない。

日本の半導体製造装置は世界シェアで米国に次ぐ約30%を占める。輸出規制はこの存在感を持つ産業の競争条件を変える変数になっている。「ASMLとはどんな会社か」でASMLの全体像を確認してほしい。

また、AIチップに対する輸出規制も同時進行している。米国は中国企業の海外子会社まで規制対象を広げており、装置とチップの両面から網が狭まっている。

この記事のまとめ

  • ASMLの中国向け新規システム売上比率は2023年約46%→2024年約30%→2025年見通し約20%台と、3年で半分以下に急落している。
  • EUVは2019年から事実上禁輸。最先端DUV(NXT:2050i等)は2024年1月以降、オランダが輸出許可を発給せず。
  • SMICが2023年にDUV多重パターニングで7nm相当チップ(Kirin 9000s)を量産し、旧型DUVでも先端用途への転用が可能と証明された。
  • 米議会のMATCH法案(2024年4月提出)はArFドライ以上のDUV全機種を対中規制対象に追加しようとしており、成立すれば中国向けDUV輸出が全面禁止になる。
  • 日本も2023年7月に先端23類型の輸出規制を施行。グローバルな装置規制包囲網が形成されつつある中、中国の国産装置はまだ5nm以下での量産に届いていない。

この記事のまとめ

  • ASMLの中国向け新規システム売上比率は2023年の約46%→2024年の約30%→2025年見通し約20%台と急落している。
  • EUVは2019年から事実上禁輸。最先端DUV(NXT:2050i等)は2024年1月以降、オランダ政府が輸出許可を発給せず。
  • SMICが2023年にDUV多重パターニングで7nm相当チップ(Kirin 9000s)を量産し、旧型DUVの軍事・先端転用リスクが証明された。
  • 米議会のMATCH法案(2024年4月提出)はArFドライ以上のDUV全機種を対中規制対象に加え、成立すれば中国向けDUV輸出が全面禁止となる。
  • 日本も2023年7月に先端23類型の輸出規制を施行しており、グローバルな装置規制包囲網が形成されつつある。
スポンサーリンク

よくある質問(FAQ)

Q.EUVとDUVは何が違うのですか?+

光の波長が違います。EUV(極端紫外線)は波長13.5nmで最先端ノード(3nm・2nm)に使います。DUV(深紫外線)は波長193nmの旧世代ですが、28nm〜7nm相当のチップに今も広く使われます。EUVは2019年から中国への輸出が禁止されていますが、DUVはより新しく規制の段階にあります。

Q.MATCH法案とは何ですか?+

MATCH法案(Microelectronics Accelerating Competitiveness and Technology Headstart Act)は2024年4月に米議会下院に超党派で提出された法律案です。ArFドライ以上のすべてのDUV露光機を輸出管理対象に加え、中国への輸出を原則不許可にすることを求めています。成立すると、ASMLが中国に出荷できる露光機はほぼなくなります。

Q.なぜDUV規制がここまで重要なのですか?+

SMICが2023年にDUVの多重パターニングだけで7nm相当のチップ(Huawei Mate 60 Pro向けKirin 9000s)を量産したことが示すように、旧型のDUVでも先端に近いチップ製造が可能だからです。この事実が米国の危機感を高め、EUVのみの規制では不十分との判断につながりました。

Q.ASMLの中国売上はどう変化してきましたか?+

ASMLの中国向け新規システム売上比率は2023年に約46%とピークに達しましたが、2024年には約30%に急落し、2025年は約20%台が見通しとなっています。2023年に中国ファブが規制強化を見越してDUVを大量発注した反動で、その後の落ち込みが大きくなっています。

Q.日本の露光装置メーカーへの影響はありますか?+

あります。日本は2023年7月に先端半導体製造装置23類型の輸出規制を施行し、ArF液浸露光装置(ニコン製等)も許可が必要になりました。ASMLが規制される中でASML代替として日本製を売り込む余地は限られており、ニコンはArF関連の中国売上縮小に直面しています。

用語集

EUV/ Extreme Ultraviolet 極端紫外線
波長の短い光で微細な回路を焼き付ける最先端の露光技術。装置はASMLが独占。
露光(リソグラフィ)/ lithography
回路の原版(マスク)を通して光を当て、回路パターンをチップに転写する工程。半導体製造の心臓部。
ウェハー/ wafer
半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
ノード(プロセス)/ process node
製造プロセスの世代を表す呼び名(例:3nm)。小さいほど高性能・省電力になりやすい。
歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。
成膜(せいまく)・塗布/ deposition / coating
ウェハー表面に、配線や絶縁体になる薄い膜を一様につける工程。液体を塗る『塗布』も含む。
エッチング/ etching
レジストに覆われていない部分の膜を、気体や薬液で削り取り、回路パターンを膜に刻む工程。

参考資料・引用元

  1. ASML reports €28.3 billion total net sales and €7.6 billion net income in 2024一次情報
    ASML Holding N.V.(2025-01)— 使用箇所: 2024年通期 総売上283億ユーロ・純利益76億ユーロ、製品別売上(EUV約83億・DUV約128億・サービス約65億)
    https://www.asml.com/en/news/press-releases/2025/q4-2024-financial-results
  2. ASML 2024 Q4/FY results presentation (net system sales by region)一次情報
    ASML Holding N.V.(2025-01)— 使用箇所: 2024年 新規装置の地域別売上構成(中国30%・韓国25%・台湾20%・米国10%・日本10%)
    https://www.asml.com/en/investors
  3. ASML reports fourth-quarter and full-year 2023 results一次情報
    ASML Holding N.V.(2024-01-24)— 使用箇所: 2023年通期:中国向け新規システム売上が全体の約46%と史上最高水準に達した。中国ファブが規制強化を見越してDUVを大量発注した結果(要確認・ASML公式)
    https://www.asml.com/en/news/press-releases/2024/q4-2023-financial-results
  4. ASML 2025 full-year guidance: China net sales ~20%一次情報
    ASML Holding N.V. / 媒体集計(2025-01)— 使用箇所: ASML Q4 2024決算発表(2025年1月)時点の2025年ガイダンス:中国が年間売上に占める比率は約20%台と予想(2024年の約30%・2023年の約46%から急落、要確認)
    https://www.asml.com/en/investors/events/2025
  5. ASML warns new Dutch curbs prevent it shipping most advanced chip tool to China報道
    Reuters(2023-09-05)— 使用箇所: 2023年9月、オランダ政府がTWINSCAN NXT:2050i(最先端ArF液浸DUV)の対中輸出許可の更新を拒否。2024年1月以降、ASMLはこの機種を中国に出荷できなくなった(要確認・報道)
    https://www.reuters.com/technology/asml-warns-new-dutch-curbs-prevent-it-shipping-most-advanced-chip-tool-china-2023-09-05/
  6. MATCH Act of 2024 — Microelectronics Accelerating Competitiveness and Technology Headstart Act (H.R. 8133)公的機関
    U.S. House of Representatives(2024-04)— 使用箇所: 2024年4月に米下院に超党派で提出されたDUV露光機の対中輸出規制法案。ArFドライ以上のDUVシステムを中国向けEAR規制対象に追加し、原則不許可とする内容(要確認・法案テキスト)
    https://www.congress.gov/bill/118th-congress/house-bill/8133
  7. TechInsights Finds SMIC 7nm (N+2) in Huawei Mate 60 Pro調査会社
    TechInsights(2023-09)— 使用箇所: EUVなしDUVマルチパターニングで7nm相当(N+2)を実現・Kirin 9000s/Mate 60 Pro採用
    https://www.techinsights.com/blog/techinsights-finds-smic-7nm-n2-huawei-mate-60-pro
  8. Commerce Adds SMIC to the Entity List公的機関
    U.S. Department of Commerce (BIS)(2020-12)— 使用箇所: 2020年12月のエンティティリスト追加・10nm以下向け装置(EUV含む)が原則不許可
    https://www.commerce.gov/news/press-releases/2020/12/commerce-adds-chinas-smic-entity-list-restricting-access-key-enabling
  9. Japan's New Chip Equipment Export Rules Take Effect(先端装置23類型の輸出規制)公的機関
    Hogan Lovells / METI(経済産業省)(2023-07-23)— 使用箇所: 2023年7月23日施行・先端半導体製造装置23類型の輸出許可対象化
    https://www.hoganlovells.com/en/publications/japans-new-chip-equipment-export-rules-take-effect
  10. Commerce Implements New Export Controls on Advanced Computing and Semiconductor Manufacturing Items to China公的機関
    BIS(米商務省産業安全保障局)(2022-10-07)— 使用箇所: 対中・先端半導体/製造装置の輸出規制(2022-10、2023-10更新)
    https://www.bis.gov/press-release/commerce-strengthens-export-controls-restrict-chinas-capability-produce-advanced-semiconductors-military

この記事をシェア

XFacebookLINEB!はてブ

コメント

GitHub アカウントでログインしてコメントできます。