半導体業界には3つのビジネスモデルがあります。設計だけを行う「ファブレス」(NVIDIA・Apple)、製造だけを受託する「ファウンドリ」(TSMC)、そして設計も製造も自社で行う「IDM」(Intel)です。同じ半導体でも、会社によって「設計する会社」と「作る会社」に分かれているのが、この産業の最大の特徴です。

「NVIDIAは世界一のAIチップ企業なのに、自社の工場を1つも持っていない」——これは奇妙に聞こえますが、半導体産業ではごく普通のことです。この記事では、ファブレス・ファウンドリ・IDMという3つのモデルの違いと、なぜ設計と製造が分かれたのかを、利益率との数字でやさしく解説します。半導体そのものの基礎は「半導体とは何か」で確認できます。

ひとことで言うと(初心者向け)

半導体の会社は3タイプに分かれます。設計だけする会社(ファブレス=NVIDIAやApple)、作るだけの会社(ファウンドリ=TSMC)、両方やる会社(IDM=Intel)です。工場を建てるのに数兆円かかるため、多くの会社は『設計だけ』に絞り、製造はTSMCに任せる形が主流になりました。

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構造で言うと(投資家向け)

モデルごとに資本効率と堀が異なります。ファブレスは低capex・高粗利(NVIDIA70%台半ば)で設計力とTSMC枠の確保が論点。ファウンドリは巨額capex×規模×先端歩留まりが堀(TSMC粗利56.1%・シェア67.1%)。IDMは垂直統合の重さが弱みで、Intelの外販転換(IDM 2.0)は採算化が焦点です。

ファブレス・ファウンドリ・IDMとは何か

ファブレス・ファウンドリ・IDMとは、半導体企業を「設計と製造のどちらを自社で持つか」で分けた3つのビジネスモデルのことです。

は、チップの設計だけを行い、製造を外部に委託する会社です。NVIDIA・AMD・Apple・Qualcomm・Broadcomが代表例で、自社に工場(ファブ)を持ちません。は逆に、自社の製品設計を持たず、他社の設計を受託して製造だけを行う会社です。TSMCとSamsung(ファウンドリ部門)が代表例です。

そしてIDM(Integrated Device Manufacturer=垂直統合型デバイスメーカー。設計から製造まで自社で一貫して行う会社)は、IntelやMicron、Texas Instrumentsが代表例です。なお、Samsungは自社設計のメモリを作るIDMでもあり、他社設計を受託するファウンドリでもある、両方の顔を持ちます。

モデル役割代表企業工場
ファブレス設計だけNVIDIA, AMD, Apple, Qualcomm, Broadcom持たない
ファウンドリ製造だけ受託TSMC, Samsung持つ
IDM設計も製造も自社Intel, Micron, Texas Instruments持つ

セミファブレスとは何か

セミファブレスとは、ファブレスとIDMの中間に位置するビジネスモデルです。最先端ノード(製造プロセスの世代)の製造は外部ファウンドリ(主にTSMC)に委託しながら、成熟した特定の工程だけを自社工場で内製します。

典型的な例はTexas Instruments(TI)です。TIはアナログ半導体と組み込みマイコンを主力とし、汎用品となった成熟ノード(65nm〜数百nm級)の製造ラインを自社で保有・拡張し続けています。最先端品は外部委託しますが、成熟ノードは自社内製のほうが長期的なコスト優位を得やすいという判断です。Qualcommが一時期バックエンド()を自社で持ったケースも広い意味でセミファブレスと呼ばれることがあります。

モデル設計前工程主な理由
ファブレス自社外部委託資本効率・粗利最大化
セミファブレス自社成熟ノードは自社、先端は外部成熟品での内製コスト優位
IDM自社自社垂直統合による管理力

セミファブレスは「設備投資の重さ」と「内製のコスト優位」をどこでバランスさせるかが経営の核心で、成熟ノードに需要が長く残るアナログ・パワー半導体との相性が良いモデルです。

なぜ設計と製造が分かれたのか

設計と製造が分かれたのは、1987年にモリス・チャンがTSMCを「世界初の製造専業ファウンドリ」として創業したことがきっかけです(Chip History Center)。

それ以前、半導体は設計から製造まで自社で行うIDMが当たり前でした。工場を持てる大企業しか半導体を作れなかったのです。ところがTSMCが「自社製品を持たず、他社の設計を製造だけする」というモデルを確立したことで、状況が一変しました。

自社製品を持たないTSMCは顧客と競合しません。だから設計会社は安心して製造を任せられます。これにより、工場を建てる数兆円を用意できない会社でも、設計だけで半導体ビジネスに参入できるようになりました。

この「設計と製造の分業」を水平分業と呼びます。TSMCがなぜ唯一無二の存在になったのかは「世界は、台湾の1社がなければスマホもAIも作れない」で詳しく扱っています。

半導体のバリューチェーンはどう分業されているのか

半導体のバリューチェーンとは、設計→製造→実装という、チップが完成するまでの一連の工程を各社で分担する仕組みのことです。下の地図で、どの工程をどのモデルが担うかを確認できます。

半導体バリューチェーン(工程をクリック)

上流から下流へ、工程をクリックすると主要企業が表示されます。

ファウンドリ(製造)参入障壁 極めて高い台湾 / 韓国

設計図どおりにシリコン上へ回路を作り込む(前工程)

主要企業
TSMC / Samsung / Intel / SMIC
地政学リスク
最先端は台湾TSMCに集中。地政学リスクの中心

色は主たる生産地域。半導体は1社・1国で完結しない国際分業です。
※ メモリ(DRAM/NAND)は「工程」ではなく製品の種類なので、この流れには含めていません。

ファブレスが担うのは「設計」、ファウンドリが担うのは「製造(前工程)」です。製造後のチップを切り出して封止する「実装(後工程)」は、OSAT(後工程の受託専業企業)と呼ばれる会社が担当します。1枚のから良品が取れる割合()を高めることが製造の競争力の源泉で、TSMCはこの分業のうち製造に徹して世界を制しました。産業全体の構造は「半導体産業はどう動くのか」で図解しています。

なぜNVIDIAやAppleは工場を持たないのか

NVIDIAやAppleが工場を持たないのは、最先端の工場建設に数兆円規模の設備投資が必要で、設計に専念したほうが利益率がはるかに高いからです。

NVIDIAはファブレスでありながら、2025会計年度(2025年1月期)に売上1,305億ドル・データセンター部門だけで1,152億ドルを記録し、粗利率は70%台半ばに達しました(NVIDIA)。製造はすべてTSMCに委託しています。一方、同じくファブレスのAMDは2024年に売上258億ドル・粗利率49%でした(Advanced Micro Devices / U.S. SEC)。

工場を持たないファブレスは、露光装置の導入や次世代(製造の世代)への巨額投資を背負わずに済みます。設備投資が軽いぶん資本効率が高く、設計の付加価値がそのまま利益に変わります。AIチップそのものの中身は「AI半導体とは——AIを動かしているのは、ふつうのチップではなかった」で解説しています。

ファウンドリとIDMはどこで儲けているのか

ファウンドリは「製造を一手に引き受ける規模」で、IDMは「設計と製造の垂直統合」で儲けるモデルです。ただし、稼ぐ構造はまったく異なります。

TSMCは2024年に売上900.8億ドル・粗利率56.1%を記録し、ファウンドリ世界シェアは2024年第4四半期に67.1%に達しました(TrendForce)。ファブレスより粗利率は低いものの、世界中の設計会社の製造を総取りすることで、巨額の設備投資を回収しています(TSMC / U.S. SEC)。一方、Samsungのファウンドリ部門は同四半期に8.1%にとどまり、TSMCとの差は開いています。

ファウンドリの堀は「巨額の設備投資×規模×先端ノードの歩留まり」です。投資が重いぶん参入障壁が高く、先端で勝てるのは実質TSMCとSamsungだけになりました。一方IDMは設計と製造を自社で抱えるため、両方に投資し続ける重さが弱みになります。

Intelの「IDM 2.0」はうまくいっているのか

Intelの「IDM 2.0」とは、自社設計の製造に加えて他社のチップも受託製造する、IDMからファウンドリ事業への転換戦略のことです。2021年に当時のパット・ゲルシンガーCEOが発表しました。

しかし採算化には苦戦しています。Intel Foundry部門は2024年に130億ドルを超える営業損失を計上し、既存ノードでの大口外部顧客の獲得に難航しました(AInvest)。そのうえ18A(最先端ノード)の立ち上げと顧客獲得の遅れが響き、ゲルシンガーCEOは2024年12月に退任しました。

この事例は、IDMがファウンドリへ転換する難しさを示しています。製造受託には顧客との競合回避と圧倒的な歩留まりが要りますが、自社設計を持つIDMはこの両方でTSMCに不利です。投資の観点では、半導体企業を見るときは「どのモデルか」をまず確認することが出発点になります。

ファブレスは設計力とTSMC枠の確保、ファウンドリは稼働率と先端歩留まり、IDMは垂直統合の採算性が、それぞれの評価軸です。なお本記事は投資助言ではありません。

この記事のまとめ

  • 半導体には3つのビジネスモデルがある。
  • ファブレス(設計専業):NVIDIA・AMD・Apple・Qualcomm・Broadcom。
  • ファウンドリ(製造専業):TSMC・Samsung。
  • IDM(設計も製造も自社):Intel・Micron・Texas Instruments。
  • 設計と製造が分かれたのは1987年のTSMC創業がきっかけ。製造専業の受け皿ができ、工場を持たないファブレスが参入できるようになった(水平分業)。
  • ファブレスは低設備投資・高利益率(NVIDIA粗利率70%台半ば、2025会計年度売上1,305億ドル)。製造はTSMCに委託する。
  • ファウンドリは巨額の設備投資と規模で堀を築く(TSMC粗利率56.1%、ファウンドリ世界シェア67.1%)。
  • IntelのIDM 2.0は製造受託への転換だが、Intel Foundryは2024年に130億ドル超の損失を出し、採算化が課題。投資ではまず「どのモデルか」を見る。

この記事のまとめ

  • 半導体には3つのビジネスモデルがある。ファブレス(設計専業=NVIDIA・AMD・Apple・Qualcomm・Broadcom)、ファウンドリ(製造専業=TSMC・Samsung)、IDM(設計も製造も自社=Intel・Micron・Texas Instruments)。
  • 水平分業は1987年のTSMC創業で生まれた。製造専業の受け皿ができたことで、ファブレスが工場を持たずに参入できるようになった。
  • ファブレスは設備投資が軽く高利益率(NVIDIA粗利率70%台半ば)、ファウンドリは巨額capexと規模で堀を築く(TSMC粗利率56.1%・ファウンドリ世界シェア67.1%)。
  • IDM代表のIntelはIDM 2.0でファウンドリ事業に参入したが、Intel Foundryは2024年に130億ドル超の損失を計上し、外部の大口顧客獲得に苦戦している。
  • 投資の見方は『どのモデルか』で資本効率と参入障壁が変わる点。ファブレスは利益率と設計力、ファウンドリは稼働率と先端ノードの歩留まりを見る。
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よくある質問(FAQ)

Q.セミファブレスとは何ですか?+

セミファブレスとは、ファブレス(設計専業)とIDM(設計+製造の垂直統合)の中間に位置するビジネスモデルです。最先端ノードの製造はTSMCなど外部ファウンドリに委託しつつ、成熟した工程や特定の後工程だけを自社工場で持ちます。Texas Instrumentsのアナログ半導体戦略が代表例で、汎用品化した成熟ノードを内製してコストを下げながら、先端品は外部委託するという使い分けです。

Q.ファブレス・ファウンドリ・IDMの違いは何ですか?+

ファブレスは設計だけを行い製造を外注する会社(NVIDIA、AMD、Apple、Qualcomm、Broadcom)です。ファウンドリは設計を持たず製造だけを受託する会社(TSMC、Samsung)です。IDM(垂直統合型デバイスメーカー)は設計から製造まで自社で行う会社(Intel、Micron、Texas Instruments)です。

Q.なぜNVIDIAやAppleは自社の工場を持たないのですか?+

最先端の工場(ファブ)の建設に数兆円規模の設備投資が必要で、設計に専念したほうが利益率が高いためです。NVIDIAは工場を持たないファブレスでありながら、2025会計年度に売上1,305億ドル・粗利率70%台半ばを実現し、製造はすべてTSMCに委託しています。

Q.水平分業はいつ、なぜ生まれたのですか?+

1987年、モリス・チャンがTSMCを「世界初の製造専業ファウンドリ」として創業したことで生まれました。自社製品を持たず顧客と競合しないTSMCの登場により、設計だけの会社(ファブレス)が工場を持たずに事業を立ち上げられるようになり、設計と製造が分かれる水平分業が産業の標準になりました。

用語集

ファブレス/ fabless
自社で工場を持たず、設計だけを行う会社。製造はファウンドリに委託する。
ファウンドリ/ foundry
他社が設計した半導体を、受託して製造する工場。代表はTSMC。
ノード(プロセス)/ process node
製造プロセスの世代を表す呼び名(例:3nm)。小さいほど高性能・省電力になりやすい。
歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。
ウェハー/ wafer
半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
EUV/ Extreme Ultraviolet 極端紫外線
波長の短い光で微細な回路を焼き付ける最先端の露光技術。装置はASMLが独占。
設備投資(capex)/ capital expenditure
工場や機械など、長く使う設備を買うためにかけるお金。
後工程(OSAT)/ back-end / OSAT
ウェハーから切り出したチップを検査・組み立て・パッケージする工程。

参考資料・引用元

  1. 4Q24 Global Top 10 Foundries Set New Revenue Record, TSMC Leads in Advanced Process Nodes調査会社
    TrendForce(2025)— 使用箇所: TSMCのファウンドリ世界シェア67.1%・Samsung 8.1%(2024年第4四半期)
    https://www.trendforce.com/presscenter/news/20250310-12510.html
  2. TSMC Reports Fourth Quarter and Full Year 2024 Results (Form 6-K)一次情報
    TSMC / U.S. SEC(2025)— 使用箇所: TSMC 2024年売上900.8億ドル・粗利率56.1%
    https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/0001046179/000104617925000004/a4q24e_withguidancexfinal.htm
  3. NVIDIA Announces Financial Results for Fourth Quarter and Fiscal 2025一次情報
    NVIDIA(2025)— 使用箇所: NVIDIA 2025会計年度売上1,305億ドル・データセンター1,152億ドル・粗利率70%台半ば
    https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-announces-financial-results-for-fourth-quarter-and-fiscal-2025
  4. AMD Reports Fourth Quarter and Full Year 2024 Financial Results (Form 8-K)一次情報
    Advanced Micro Devices / U.S. SEC(2025)— 使用箇所: AMD 2024年売上258億ドル・粗利率49%
    https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/0000002488/000000248825000009/q42024991.htm
  5. Intel's Strategic Reassessment: Can the Chipmaker Regain Foundry Leadership?報道
    AInvest(2025)— 使用箇所: Intel Foundry 2024年営業損失130億ドル超・IDM 2.0・大口外部顧客の苦戦
    https://www.ainvest.com/news/intel-strategic-reassessment-chipmaker-regain-foundry-leadership-2507/
  6. TSMC Founded — The First Pure-Play Foundry業界団体
    Chip History Center(1987)— 使用箇所: 1987年モリス・チャンによるTSMC創業=世界初の製造専業ファウンドリ・水平分業の誕生
    https://www.chiphistory.org/527-tsmc-founded-the-first-pure-play-foundry

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