EUVはこれまで「最先端ロジックのための装置」でした。スマホやAIチップの頭脳を作るTSMC・Samsung・Intelの3社が買い手のほぼすべてで、メモリは脇役だった——その構図が、AIブームの2年で崩れました。
半導体の回路を光で焼き付ける機械(露光装置)の最高級品「EUV」は、オランダのASML1社しか作れません。これまでの買い手はチップの頭脳を作る会社が中心でしたが、いまはAI向けメモリを作る韓国のSK hynixとSamsungが最大の買い手になりました。AIがメモリを大量に必要とするからです。
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ASML 1Q26は売上€8.8B(+13% YoY)・EUV売上€4.1B(High-NA 2台含む)。地域別で韓国が45%(前Q22%)、アプリ別でメモリが51%(前Q30%)とロジックを逆転し、FY26ガイダンスを€36-40Bへ引き上げ。EUV出荷は25年48台→26年60台超→27年約80台(Low-NA 56/High-NA 10)計画で、SK hynixが2年で約20台導入と報道。メモリ主導の露光需要はサイクル反転時のボラティリティを内包する点に留意。
何が起きたのか
ASMLが2026年4月に発表した第1四半期決算の要点は次の通りです(ASML・TrendForce)。
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 売上高 | 88億ユーロ(前年同期比+13%) |
| うちシステム(装置)売上 | 63億ユーロ |
| うちEUV装置 | 41億ユーロ(High-NA 2台の売上計上を含む) |
| 韓国向け比率 | 45%(前四半期は22%) |
| システム売上のメモリ向け比率 | 51%(前四半期は30%) |
| 2026年通期見通し | 360億〜400億ユーロへ引き上げ |
数字が示す変化は2つです。地域では韓国が最大の仕向け先になり、用途ではメモリがロジックを逆転しました。韓国にはメモリ世界大手のSK hynixとSamsungがあります。つまりこの2社が、EUVの最大の買い手になったということです。
半導体そのものの仕組みから確認したい場合は「半導体とは何か」を参照してください。
なぜメモリメーカーがEUVを爆買いするのか
理由は2段階あります。
第一に、最新世代のはEUVなしには効率よく作れなくなったことです。DRAMの回路も微細化が進み、従来の露光装置で何度も重ね焼きするより、EUVで一発で焼くほうが安く速い領域に入りました。EUVがなぜ特別な装置なのかは「1台300億円超。最先端チップを生む露光装置とASMLの独占」で、光源の仕組みは「EUV光源の意外な正体」で解説しています。
第二に、HBMがを大量に食うことです。HBM(広帯域メモリ)はDRAMチップを何段も積み上げて作るため、同じ容量の通常DRAMより多くのウェハーを消費します。HBM市場は2026年に546億ドル(前年比+58%)へ拡大する予測で(SK hynix Newsroom)、この増産競争はウェハー投入能力の拡大、すなわち露光装置の追加購入に直結します。
実際、SK hynixは今後2年でEUV約20台をHBM・先端DRAM向けに導入する計画と報じられています(TechPowerUp)。HBMでメモリ業界の勢力図が塗り替わった経緯は「26年ぶりに首位交代。HBMがメモリ業界の勢力図を塗り替えた」で扱っています。
EUVはこれから何台作られるのか
ASMLのEUV出荷は、次のペースで増える計画です(TechPowerUp)。
- 2025年実績: 48台
- 2026年計画: 60台超
- 2027年計画: 約80台 ── 内訳はLow-NA(現行型)56台+High-NA(次世代型)10台
2027年のLow-NA 56台のうち、Intel向けが5台、Samsung向けが7台、SK hynix向けは最大20台とされます。買い手リストの筆頭にメモリメーカーが並ぶ時代になりました。
それでもTSMCがHigh-NAを買わないのはなぜか
対照的なのが、次世代機High-NA EUVをめぐるTSMCの姿勢です。TSMCは2029年頃に予定するA13世代でもHigh-NAを採用しない方針を示しました。現行のLow-NA EUVとマルチパターニング(同じ層を複数回に分けて露光する手法)の組み合わせで微細化を続けるほうが安い、という判断です(TrendForce)。
High-NAは1台約3.8億ドルと、現行EUVの約2倍の価格です。世界で最もに自信のあるTSMCは「まだ要らない」と言い、巻き返しを狙うIntelと、DRAM微細化の限界に挑むSK hynixは早ければ2027年の採用を準備しています。High-NAが何を変える装置なのかは「EUVの次が来た。1台500億円超のHigh-NAは何を変えるのか」で解説しています。
この変化をどう読むべきか
EUVの買い手がメモリへ広がったことは、ASMLにとって顧客集中リスクの緩和であり、成長の第二エンジンです。装置需要全体が上振れしている状況は、日本の装置産業の予測が半年で1兆円上方修正された「SEAJ需要予測の記事」とも符合します。
ただし、メモリはロジックより需給の振れが激しい市場です。メモリ価格が反転すれば、真っ先に削られるのは、つまり露光装置の発注です。「メモリがEUVの主役になった」ことは、ASMLの売上がメモリサイクルと連動して揺れる時代の始まりでもあります。
この記事のまとめ
- ASMLの2026年Q1は売上88億ユーロ(+13%)。韓国向けが売上の45%を占め、前四半期の22%から倍増した。
- システム売上に占めるメモリ向けが30%→51%となりロジックを逆転。HBM・先端DRAM投資がEUV需要の主役になった。
- EUV出荷は2025年の48台から2026年に60台超、2027年に約80台へ増える計画。SK hynixは2年で約20台を導入予定と報じられる。
- TSMCはA13世代でもHigh-NA EUVを採用しない方針。1台約3.8億ドルという価格が壁で、Intel・SK hynixは2027年にも採用準備。
- メモリ主導のEUV需要はサイクル反転時に揺れるリスクを抱える。装置需要の予測は動く目標として読む。
よくある質問(FAQ)
Q.ASMLの2026年第1四半期決算のポイントは何ですか?+
売上高88億ユーロ(前年同期比13%増)のうち、韓国向けが45%を占めた点です。前四半期の22%から倍増しました。システム売上に占めるメモリ向けも30%から51%へ上昇してロジックを逆転し、2026年通期の売上見通しは360億〜400億ユーロへ引き上げられました(ASML・TrendForce)。
Q.なぜメモリメーカーがEUV装置を大量に買っているのですか?+
AIサーバー向けのHBM(広帯域メモリ)と先端DRAMの増産のためです。最新世代のDRAMは回路が微細すぎて、EUV露光なしには効率よく作れません。しかもHBMは同じ容量の通常DRAMより多くのウェハーを消費するため、増産にはウェハー投入能力そのものの拡大=露光装置の追加が必要になります。SK hynixは今後2年でEUV約20台を導入する計画と報じられています(TechPowerUp)。
Q.TSMCはなぜ次世代のHigh-NA EUVを買わないのですか?+
価格が1台約3.8億ドルと現行EUVの約2倍で、費用対効果が合わないと判断しているためです。TSMCは2029年頃のA13世代でも現行のLow-NA EUVとマルチパターニング(複数回露光)の組み合わせで微細化を続ける方針を示しています。一方、IntelとSK hynixは早ければ2027年にHigh-NAの採用を準備しています(TrendForce)。
用語集
- 露光(リソグラフィ)/ lithography
- 回路の原版(マスク)を通して光を当て、回路パターンをチップに転写する工程。半導体製造の心臓部。
- EUV/ Extreme Ultraviolet 極端紫外線
- 波長の短い光で微細な回路を焼き付ける最先端の露光技術。装置はASMLが独占。
- HBM/ High Bandwidth Memory
- DRAMを積み重ねて広帯域にした高性能メモリ。AI半導体とセットで使われる。
- DRAM/ Dynamic Random Access Memory
- 電源を切ると消える、高速な作業用メモリ。CPUやGPUが計算中のデータを一時的に置く。
- ウェハー/ wafer
- 半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
- 歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
- 1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。
- 設備投資(capex)/ capital expenditure
- 工場や機械など、長く使う設備を買うためにかけるお金。
参考資料・引用元
- ASML Q1 2026 Investor Presentation (Form 6-K)一次情報ASML/SEC(2026-04-15)— 使用箇所: 1Q26売上88億ユーロ(+13%)・システム売上63億ユーロ・EUV売上41億ユーロ(High-NA 2台含む)・FY2026ガイダンス360億〜400億ユーロ(粗利率51〜53%)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/937966/000162828026025147/presentationinvestorrela.htm
- ASML Raises 2026 Sales Outlook to €36B–€40B on Memory, Logic Demand; South Korea Share Hits 45%調査会社TrendForce(2026-04-15)— 使用箇所: 1Q26の韓国向け比率45%(前四半期22%)・システム売上のメモリ比率51%(前四半期30%)とロジック逆転・SK hynix/SamsungのHBM・DDR5向け装置調達という文脈https://www.trendforce.com/news/2026/04/15/news-asml-raises-2026-sales-outlook-to-e36b-e40b-on-memory-and-logic-client-demand-south-korea-share-hits-45/
- ASML Targets 60+ EUV Shipments in 2026 as Memory Demand Surges報道TechPowerUp(2026-04-15)— 使用箇所: EUV出荷2025年48台→2026年60台超→2027年約80台(Low-NA 56台=Intel5/Samsung7/SK hynix最大20・High-NA 10台・1台約3.8億ドル)・SK hynixが2年でLow-NA約20台をHBM/先端ストレージ向けに導入計画・メモリ不足がEUV需要の主因(報道ベース)https://www.techpowerup.com/348239/asml-targets-60-euv-shipments-in-2026-as-memory-demand-surges
- Behind TSMC's High-NA EUV Deferral: Low-NA Stays Strong, Customer Landscape Shifts, and ASML Quietly Pivots調査会社TrendForce(2026-05-01)— 使用箇所: TSMCが2029年頃のA13でもHigh-NA不採用方針(Low-NA+マルチパターニング継続・A13はA14の光学シュリンクで約6%面積縮小)・High-NAは1台約4億ドルで現行の約2倍・Intel/SK hynixは早ければ2027年採用準備・ASMLのハイブリッドボンディング装置への多角化https://www.trendforce.com/news/2026/05/01/news-behind-tsmcs-high-na-euv-deferral-low-na-stays-strong-customer-landscape-shifts-and-asml-quietly-pivots/
- 2026 Market Outlook: Focus on the HBM-led Memory Supercycle一次情報SK hynix Newsroom(2026-01-15)— 使用箇所: 2026年がHBM主導のメモリ・スーパーサイクルになるという見通し、HBM供給が当面タイトに推移するという需給観(要確認)https://news.skhynix.com/2026-market-outlook-focus-on-the-hbm-led-memory-supercycle/
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