スズの液滴が1秒間に5万個、直径30マイクロメートルの球として宙を舞います。そこへCO₂レーザーの光が当たると、スズは一瞬でプラズマになり、波長13.5nmのEUV光を放射します。最先端チップを焼き付けるこの「極端紫外線」は、こうしたSF的な仕掛けで生み出されています。

私たちが毎日使うスマホやAIサーバの中のチップがどう作られるかは、「ASMLと露光装置の独占」で扱いました。ここでは一段踏み込み、その露光装置の中核——「EUV光源」の仕組みに絞ります。

ひとことで言うと(初心者向け)

EUVという「ごく短い波長の光」で回路を焼き付けるには、スズの液滴にレーザーを当ててプラズマを作る「LPP方式」が使われます。スズが選ばれた理由、光を集める多層膜ミラー、光を供給するCymerという会社まで、普段目に触れない装置の核心を解説します。

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構造で言うと(投資家向け)

EUV光源はASML子会社Cymer(2013年買収・約25億ドル)がLPP方式で独占供給。スズ液滴(直径20〜30μm・1秒5万個)にCO₂レーザーを2段照射→プラズマ→13.5nm輝線→Mo/Si約40〜50ペア多層膜コレクターで集光(理論最大反射率約67〜70%)→IF出力。変換効率は数%台で、量産必要IF出力250〜350Wを得るために数十kWのレーザーを投入し光源全体は数百kW規模の電力を消費する。光源技術はASMLのEUV装置独占に組み込まれた二重の供給寡占を形成する。

EUV光とは何か——なぜ13.5nmでなければならないのか

半導体チップの回路は、「マスクに描いたパターンを光で焼き付ける」工程で作られます。より細い回路を描くには、より短い波長の光が必要です。いまスマホやAIサーバに使われる最先端チップは2〜3ナノメートルの精度を要求しますが、これを実現するのがという波長13.5nmの光です。

かつての主流はDUV(Deep UV、深紫外線)と呼ばれる波長193nmの光でした。DUVからEUVへの波長の縮小幅は約1/14です。解像できる最小寸法はざっくり波長に比例するため、は理論上DUVの約14倍細い線幅を一度で描けます。

ここには重大な制約があります。波長13.5nmの光は、空気中にある酸素や窒素にほぼ吸収されてしまいます。したがってEUV装置の内部は真空でなければならず、通常の光学ガラスレンズも使えません(ガラスでも吸収されます)。光を曲げるための光学系には、反射するミラーのみを使う設計が採用されています。この制約が、光源の設計にも根本的な影響を与えています。

LPP方式とはどういう仕組みか——スズが光になるまで

EUV光を発生させる方法にはいくつかのアプローチがありますが、量産装置に使われているのはLPP(Laser Produced Plasma、レーザー励起プラズマ)方式です。

仕組みを順を追って整理しましょう。

まず、スズ(Sn)の液滴が装置内に射出されます。液滴の直径は約20〜30マイクロメートル(μm)——人の髪の毛の直径が60〜80μmなので、その3分の1ほどです。これが1秒間に約5万個、真空中を落下していきます。

次に、落下するスズの液滴へプレパルスレーザーを照射します。最初のレーザー(プレパルス)で液滴を平たく変形させ、表面積を増やします。これにより後続のメインパルスが効率よく当たるよう、液滴を「広げた的」に変えます。

続いてメインパルスのCO₂レーザーが照射されます。CO₂レーザーは出力が高く、EUV光源に適した波長特性を持ちます。照射されたスズは瞬間的に数万度のプラズマ状態に達し、さまざまな波長の光を放射します。その中で、利用可能な波長13.5nm付近(帯域幅2%)だけを取り出すのが次のコレクターミラーの役割です。

なぜスズなのか——13.5nmと電子構造の関係

スズ(原子番号50)をプラズマ化したとき、13.5nmの輝線が特に強く出るのは、スズ原子の電子構造が持つ固有の特性によります。プラズマの中で電子を何個も剥ぎ取られた(多重イオン化した)状態のスズ原子が放つ光が、ちょうど13.5nm付近に集中するのです。一方、別の元素では同じ波長の光をこれほど効率よく放射できません。

加えて、後述する多層膜ミラー(EUV光を反射できる特殊な鏡)が最も効率よく反射できる波長も、13.5nm付近にあります。光源の「放射する波長」とミラーの「反射する波長」が一致しているため、13.5nmが全体のシステムとして収束点になりました。

コレクターミラーはいかに光を集めるか

プラズマが放つ13.5nmの光は全方向に広がります。これを露光装置本体へ届けるために使われるのがコレクターミラーです。

通常の鏡(アルミや銀の反射膜)は13.5nmの光をほぼ反射せず、吸収してしまいます。そこで採用されるのがMo/Si(モリブデン+シリコン)の多層膜ミラーです。モリブデン(約2.3nm厚)とシリコン(約4.2nm厚)を1ペアとして約40〜50層ずつ積み重ねます。各境界面で反射した光が重なり合う(ブラッグ反射)ことで、13.5nm付近の光だけが選択的に増幅される仕組みです。

1枚のミラーで反射できるEUV光は理論上最大約67〜70%です。EUV露光装置にはコレクターを含む多数のミラーが使われるため、最終的に面に届く光の量はごくわずかになります。これがEUV装置の光源出力がWではなくkWの単位で語られる理由でもあります。

コレクターミラーで集められた光はIF(Intermediate Focus、中間焦点)という一点に収束し、ここから露光装置本体の光学系へ引き渡されます。光源モジュールと露光装置本体はIFで光学的につながる構造になっています。

EUV光源のエネルギー変換効率はどのくらいか

EUV光源のもっとも重要な指標の一つが変換効率——投入したCO₂レーザーのエネルギーのうち、何%が利用可能なEUV光(IFから出てくる光)に変換されるか、という数字です。

現在の量産光源では変換効率は数%台にとどまります。量産に必要なIF出力(IFから出るEUV光の電力)は250〜350Wとされていますが、それを得るためには入力レーザーとして数十kWが必要になります。そのため光源全体では、数百kWの電力を消費します。このため電力コストと冷却設備がEUV工場の大きな課題となっています。

なお、スズのプラズマは装置内を汚染するため、水素ガスを流してスズの液滴や飛散物を除去する「水素クリーニング」も欠かせない運用技術の一つです。ミラーの汚染による反射率低下は、光源性能の長期維持に直結する重要課題でもあります。

CymerとTrumpf——誰が光源を作っているのか

量産EUV装置の光源は、ASMLの子会社Cymer(米カリフォルニア州サンディエゴ)が製造します。CymerはもともとDUV(ArF)レーザー光源の専業メーカーとして知られていましたが、2013年にASMLが約25億ドルで買収し、EUV光源も含めた光源の内製化を実現しました。

現在の量産EUV装置のCO₂レーザーはTrumpf(トルンプ、ドイツ)が供給していると言われています(要確認)。一方で、次世代のHigh-NA EUV装置向けの光源開発では、Cymerが引き続き中心的な役割を担っています。

ASMLがEUV露光装置を独占的に供給し、そのASMLの光源子会社CymerがEUV光源を独占的に供給する——こうした二重の寡占構造が、EUVのサプライチェーン全体の姿です。

High-NA EUVで光源に何が変わるのか

次世代の装置であるHigh-NA EUVは、光を取り込む口の広さにあたる開口数(NA)を0.33から0.55に引き上げました。これにより解像度がさらに向上し、サブ2nm世代に対応します。2023年末にはASMLからIntelへ最初の装置が出荷されています。

光源への要求も高まります。High-NA EUV装置では露光領域がハーフフィールドに縮小されるため、スループット(単位時間あたりの処理枚数)を維持するには光源のIF出力をさらに高める必要があります。現行量産装置での250〜350Wから、500W以上へのロードマップが描かれていると言われています(要確認)。エネルギー変換効率の改善と、スズ液滴の射出精度・周波数の向上が引き続き鍵となります。

この記事のまとめ

  • EUV(波長13.5nm)はDUV(193nm)の約1/14の波長で、最先端チップの微細回路を描く。空気に吸収されるため真空中でのみ動作し、光学系はミラーのみで構成される。
  • 光源はLPP(レーザー励起プラズマ)方式。スズの液滴(直径20〜30μm)が1秒間に約5万個射出され、プレパルス+メインパルスの2段階CO₂レーザーで照射・プラズマ化される。
  • スズを選ぶ理由は、多重イオン化した状態で放射する13.5nm輝線が特に強く、Mo/Si多層膜ミラーの反射波長と最適に一致するため。
  • Mo/Siを約40〜50ペア積層した多層膜コレクターミラーが光を集め、IFへ収束させる。1枚の理論最大反射率は約67〜70%。
  • EUV光源の変換効率は数%台。量産に必要なIF出力250〜350Wを得るために数十kWのレーザーを要し、光源全体では数百kWの電力を消費する。
  • ASMLの子会社Cymer(2013年買収・約25億ドル)が光源を独占供給し、ASML自身のEUV露光装置独占と組み合わさった二重の供給寡占が成立している。

この記事のまとめ

  • EUV(13.5nm)はDUV(193nm)の約1/14の波長。空気に吸収されるため真空中でのみ動作し、光学系はすべてミラーで構成される。
  • 光源はLPP(レーザー励起プラズマ)方式。スズ液滴(直径20〜30μm)を1秒間に約5万個射出し、2段階のCO₂レーザーを照射してプラズマ化する。
  • スズを使う理由は、多重イオン化した状態で放射する13.5nm輝線が特に強いため。代替元素でこの効率は出ない。
  • Mo/Si約40〜50ペアの多層膜コレクターミラーが13.5nmを選択的に反射(理論最大約67〜70%)し、IFへ収束させて装置本体に渡す。
  • 変換効率は数%台。量産に必要なIF出力250〜350Wを得るために数十kWのレーザーを要し、光源全体は数百kWを消費する。
  • ASMLの子会社Cymerが光源を独占供給し、ASMLのEUV装置独占と合わさった二重の供給寡占が成立している。
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よくある質問(FAQ)

Q.EUV光源の「LPP」とはどういう意味ですか?+

Laser Produced Plasma(レーザー励起プラズマ)の略です。スズの液滴にCO₂レーザーを照射してプラズマ状態にし、そこから13.5nmのEUV光を取り出す方式です。

Q.なぜEUVの光源にスズ(Sn)が使われるのですか?+

スズをプラズマ化したとき、多重イオン化したスズ原子が放射する光が13.5nm付近に強く集中するからです。Mo/Si多層膜ミラー(モリブデンとシリコンを交互に何十層も重ねたEUV専用の鏡)の反射波長とも最適に合致します。

Q.EUV光源を作っているのはどこですか?+

主にASMLの子会社Cymer(米カリフォルニア州サンディエゴ)です。ASMLは2013年に約25億ドルでCymerを買収し、光源を内製化しました。CO₂レーザー自体はTrumpf(ドイツ)が供給していると言われます。

Q.EUV装置はなぜ真空でなければならないのですか?+

波長13.5nmの光は空気中の酸素や窒素にほぼ吸収されてしまうためです。装置内部を真空(10⁻⁵Paレベル)に保つことで光の損失を防いでいます。

用語集

EUV/ Extreme Ultraviolet 極端紫外線
波長の短い光で微細な回路を焼き付ける最先端の露光技術。装置はASMLが独占。
露光(リソグラフィ)/ lithography
回路の原版(マスク)を通して光を当て、回路パターンをチップに転写する工程。半導体製造の心臓部。
ウェハー/ wafer
半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
フォトレジスト/ photoresist
露光で回路パターンを写すために、ウェハーに塗る感光性の薬剤。これがないと回路を焼けない。

参考資料・引用元

  1. ASML — EUV Monopoly, High-NA, Zeiss Optics & Cymer調査会社
    業界解説(SemiconductorX)(2025)— 使用箇所: 光学=カール・ツァイス、光源=Cymer(2013年買収)の統合
    https://semiconductorx.com/spotlight-asml.html
  2. 5 things you should know about High NA EUV lithography一次情報
    ASML Holding N.V.(2024)— 使用箇所: 最初のHigh-NA EUV装置(TWINSCAN EXE:5000)を2023年12月にIntel向け出荷開始
    https://www.asml.com/en/news/stories/2024/5-things-high-na-euv
  3. High-NA EUV(ASML EXEシリーズ)の概要一次情報
    ASML/媒体集計(2025)— 使用箇所: 開口数NA0.33→0.55で解像度向上・1台約4億ドル級・Intelが先行採用・露光領域がハーフフィールド化しサブ2nm世代を狙う
    https://www.asml.com/en/products/euv-lithography-systems
  4. ASML reports €28.3 billion total net sales and €7.6 billion net income in 2024一次情報
    ASML Holding N.V.(2025-01)— 使用箇所: 2024年通期 総売上283億ユーロ・純利益76億ユーロ、製品別売上(EUV約83億・DUV約128億・サービス約65億)
    https://www.asml.com/en/news/press-releases/2025/q4-2024-financial-results
  5. EUV Mask Blanks: Materials, Suppliers and Technology Challenges業界団体
    Semiconductor Engineering(2024)— 使用箇所: EUVマスクブランクスの供給はHOYA・AGCの少数体制。低熱膨張ガラス基板(ULE/CLEARCERAM®等)にMo/Si約40層を成膜。熱膨張係数±1ppb/K以下・表面粗さ0.1nm RMS以下が主要仕様(要確認)
    https://semiengineering.com/knowledge_centers/materials/photomask-blanks/
  6. How EUV lithography works — EUV light source (LPP)一次情報
    ASML Holding N.V.(2024)— 使用箇所: EUV光源の原理。スズ(Sn)の液滴に2段階のCO₂レーザーを照射してプラズマ化し、放射される13.5nmの光をコレクターミラーで集めてIF(中間焦点)に収束させるLPP方式の全体像。変換効率(CE)は数%台でIF出力250〜350W達成に数十kWのレーザーを要する(要確認・ASML公式)
    https://www.asml.com/en/technology/euv-lithography/euv-light-source
  7. EUV sources for high-volume manufacturing lithography調査会社
    Banine et al. (Cymer / ASML) / SPIE Proceedings Vol. 7636(2010)— 使用箇所: スズ液滴の直径は約20〜30μm(髪の毛の約1/3)、1秒間に約5万個(50kHz)が射出される。プレパルス+メインパルスの2段階CO₂レーザー照射でスズを多重イオン化し13.5nm輝線を生成(要確認・論文)
    https://www.spiedigitallibrary.org/conference-proceedings-of-spie/7636/763605/EUV-sources-for-high-volume-manufacturing/10.1117/12.847584.short
  8. Mo/Si Multilayer Mirrors for EUV Lithography — Reflectivity and Design調査会社
    Fraunhofer IST / SPIE Optical Engineering Reviews(2021)— 使用箇所: Mo(2.3nm)とSi(4.2nm)を1ペアとして約40〜50層積み重ねたブラッグ反射ミラー。理論最大反射率約67〜70%。13.5nm(帯域幅2%)を選択的に反射し、コレクターミラーから中間焦点(IF)へ収束させる(要確認)
    https://spie.org/news/photonics-focus/2021/january-february/euv-multilayer-optics

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