サムスン電機は2026年9月28日、AIサーバー向けの基板に総額6.78兆ウォンを投じると公示しました。GPUを載せる「土台」の増産に、単一製品として同社過去最大の資金が向かっています。

AIの話題では、GPUやメモリが注目を集めます。しかしチップは、それだけでは動きません。チップを載せて外の回路へつなぐ「パッケージ基板」があって、初めて使えます。半導体そのものの基本は「半導体とは、電気を「通す・通さない」を切り替えられる物質」で解説しています。

ひとことで言うと(初心者向け)

AIのチップは、小さな部品を『基板』という土台に載せて作ります。土台が足りなければ、チップがあっても製品にできません。サムスン電機はその土台の工場に、巨額の投資をすると発表しました。工場が動き出すのは2028年9月で、今すぐ足りない分が解消するわけではありません。

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構造で言うと(投資家向け)

サムスン電機は2026年9月28日、FC-BGA基板に総額6.78兆ウォンを公示した(世宗4.27兆ウォン、ベトナム2.51兆ウォン)。世宗は2028年5月まで投資し、同年9月に量産を開始する。顧客のグローバルなビッグテックが設備資金の一部を負担し、中長期の数量を保証するとの報道がある(顧客名は非公表)。ABFを使う基板の増産は、味の素などの材料需要に波及しうる。ただし供給余力や価格への影響は、公式情報では確認できていない。

この記事で動かせる図解

  1. 01AIチップの断面=基板が土台になる層を分解し、標準サイズとAI向け大型を切り替えて基板の構造を確認

サムスン電機は何に、いくら投資するのか

サムスン電機は、世宗(セジョン)事業所とベトナム子会社の2拠点で基板を増産します。内訳は次のとおりです。

  • 世宗事業所:4.27兆ウォン。敷地内に新工場を建て、設備を入れます。
  • ベトナム子会社:2.51兆ウォン。既存の拠点で基板工場を増設します。
  • 総額:6.78兆ウォン。

世宗の投資期間は2028年5月までで、量産開始は同年9月です(The Elec)。世宗の投資額は単一製品として過去最大で、昨年末の連結自己資本の43.6%に当たると報じられました(Seoul Economic Daily)。

ベトナムの取得予定日は2028年4月30日です。金額は、同子会社の2025年末の総資産の103.4%に相当します。取得金額や日付は、事業の過程で一部変わりうるとも注記されています(公示の転載記事)。世宗側の公示では、4.27兆ウォンは2025年末の自己資本の43.6%にあたり、投資期間は2026年9月28日から2028年5月31日までとされています(世宗の公示の転載記事)。いずれも公示の転載で確認したもので、金融監督院の電子公示(DART)の原文は直接確認できていません。

AIチップの「基板」とは何か

基板とは、チップとマザーボードの間に入る、多層の配線板です。今回の投資対象はFC-BGA(フリップチップBGA)という種類で、GPUやCPUなどの高性能チップとメインボードをつなぐ役割を持ちます(The Asia Business Daily)。

なぜ間に基板が必要なのでしょうか。チップの端子は髪の毛より細かい間隔で並び、マザーボードの配線はそれよりずっと太いからです。基板は、この寸法差を何層もかけて少しずつ広げる「変換アダプター」です。

初心者向け
電源タップの差し込み口を、細いプラグから太いプラグへ順に変換するイメージです。1段で変えると無理が出るので、何段にも分けて少しずつ広げます。

AIアクセラレータ(AI計算用のチップ)の断面は、下の図のようになります。まずは図で構造を確かめてください。

図解を読み込み中…

図を操作するときは、次の順に確かめてください。

  1. 「層を分解する」を押します。各層が離れ、下から順に名前が出ます。
  2. 黄色い層(ABF)を数えます。コア層を挟んで、上下に同じ数だけあります。
  3. 橙色の縦棒(ビア)を見ます。層と層を貫いてつなぐ縦配線です。
  4. 最上段の紫の段々が、(GPUに寄り添う高速メモリ)です。積み重なった段として描いています。

なぜ基板は大型化・多層化すると作りにくくなるのか

AIチップの基板が難しいのは、GPUとHBMを1つのパッケージに載せるからです。図の右上で「AI向け大型」に切り替えてください。基板が横に広がり、層が増え、HBMの数も増えます。

大型・多層の基板が難しくなる理由は、主に3つあります。

  • 反り:面積が広く層が多いほど、熱で曲がりやすくなります。
  • 位置ずれ:層を重ねるたびにずれが積み上がり、ビアの位置が合わなくなります。
  • 不良の累積:どの層で不良が出ても、基板全体が使えなくなります。

つまり、大きく厚い基板ほど(良品率)が下がります。同じ設備で取れる良品の枚数が減るため、需要の増加以上に供給が足りなくなりやすい構造です。

反りは、材料の設計で抑えます。ある査読論文では、層間材の熱膨張率を銅の約18ppm/℃(温度1度あたりの伸び率)に合わせると、FC-BGAの反りが従来比92%減ったとされています(PMC査読論文)。この材料の話は「髪の毛の数十分の一の配線は、こうして作られる」で詳しく扱っています。

ABFとは、基板のどこに使われているのか

ABF(Ajinomoto Build-up Film)とは、基板の配線層どうしを絶縁する、味の素の薄いフィルムです。図の黄色い層にあたります。1層の厚さは約10マイクロメートルで、髪の毛の直径の約8分の1です(味の素グループ)。

今回の投資は、このABFを使うFC-BGAが対象だと報じられています(The Elec)。つまり、基板の増産はABFの使用量の増加に直結します。ABFの成り立ちと味の素の立ち位置は「ABF基板とは——最先端チップの絶縁材を、調味料の味の素がほぼ独占していた」にまとめています。

なお、図で層を分解してみると、基板の中身の大半はこの黄色い層です。層が増えるほど、ABFを貼る回数も増えます。基板が大型化するだけで、材料の消費量も加工の手間も増える、というわけです。

なぜ顧客のIT企業が設備資金を出すのか

今回の投資には、顧客が設備資金の一部を負担する仕組みがあります。The Elecは、顧客が設備投資に必要な資金の一部を提供し、中長期の数量を保証すると伝えています。The Korea Timesも、グローバルなビッグテック顧客との中長期協力に、資金支援と長期需要の保証が含まれると報じました(The Korea Times)。

顧客の社名は、報道でも公表されていません。特定企業の名前を挙げる情報は、公式の文書では確認できていません。

この仕組みが成り立つ理由は、基板が足りなければ顧客の製品が出荷できないからです。顧客にとって、基板の確保は、GPUやHBMの確保と同じ重さを持ちます。一方、メーカーにとっては、巨額のを先に回収できる見通しが立ちます。両者の利害が一致した形です。

量産が2028年9月という時間差は何を意味するのか

世宗の量産開始は2028年9月です。公示の2026年9月28日から、ちょうど2年後にあたります。

基板の増産には、建屋の建設、設備の据え付け、量産に向けた条件出しの3段階が必要です。ここに、良品率を上げる時間が加わります。つまり、今日決めた投資が供給に効くのは、2年先の話です。

この時間差は、AIチップの供給計画にも影響します。基板は「必要になってから増やす」ことができません。顧客が数量を保証してまで先に資金を出すのは、この時間差を埋めるためだと読めます。

ここでは推測を1点だけ含めます。2028年までは、基板の供給余力が限られたままになる可能性があります。ただし、他社の増産や需要の変化で状況は変わるため、需給の見通しは確認できていません。

日本の材料メーカーには何が起きるのか

基板を作るのは、サムスン電機のような基板メーカーです。その中の絶縁材はABFで、味の素が世界シェア約95%を握ります。基板の増産は、材料側の増産を促す圧力になります。

味の素は2030年までに250億円超を投じ、ABFの生産能力を50%引き上げる計画です(TrendForce)。岐阜県可児市には第3の拠点用地を取得し、2028年に着工、2032年に稼働する予定です(味の素ファインテクノ)。

ただし、今回のサムスン電機の投資が、味の素の増産計画や価格にどう影響するかは、公式には確認できていません。ABFが満稼働だとする報道や、値上げの検討を伝える報道もありますが、二次報道のみで、味の素の発表では確認できませんでした。そのため、本記事では扱いません。

AIサーバー向けFC-BGAでは、日本のイビデンが約7〜8割を握るとの報道もあります(DigiTimes)。サムスン電機が増産すれば、供給側の競争環境も変わりえます。イビデンの立ち位置は「水力発電から始まった会社が、最先端CPUの“土台”を握っていた」に、チップ側の先端実装は「はんだバンプを捨てたら、チップ間の配線密度が100倍になった」にあります。

この記事のまとめ

  • サムスン電機は2026年9月28日、FC-BGA基板に総額6.78兆ウォン(世宗4.27兆・ベトナム2.51兆)を投じると公示した。
  • 世宗の投資期間は2028年5月まで、量産開始は2028年9月。単一製品への投資として過去最大と報じられた。
  • 顧客が設備資金の一部を負担し、中長期の数量を保証する。顧客名は公表されていない。
  • GPUとHBMを載せるAIチップは、基板の大型化・多層化で反りと不良が増え、作りにくさが供給不足の原因になる。
  • 基板の層間絶縁材ABFは味の素が握る。基板の増産はABFの需要増につながるが、供給余力への影響は公式には確認できていない。

この記事のまとめ

  • サムスン電機は2026年9月28日、FC-BGA基板に総額6.78兆ウォン(世宗4.27兆・ベトナム2.51兆)を投じると公示した。
  • 世宗の投資期間は2028年5月まで、量産開始は2028年9月。単一製品への投資として過去最大と報じられた。
  • 顧客が設備資金の一部を負担し、中長期の数量を保証する。顧客名は公表されていない。
  • GPUとHBMを載せるAIチップは、基板の大型化・多層化で反りと不良が増え、作りにくさが供給不足の原因になる。
  • 基板の層間絶縁材ABFは味の素が握る。基板の増産はABFの需要増につながるが、供給余力への影響は公式には確認できていない。
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よくある質問(FAQ)

Q.FC-BGA基板とは何ですか?+

FC-BGA基板とは、GPUやCPUなどの高性能チップを載せ、チップの細かな端子をマザーボードの太い配線へ広げ直す多層のパッケージ基板です。チップを裏返して基板へ直接つなぐ「フリップチップ」方式と、裏面に並ぶはんだボールの端子(BGA)を組み合わせた名称です。AIサーバー向けでは、味の素のABFを層間の絶縁材に使うものが主流です。

Q.サムスン電機は何にいくら投資するのですか?+

サムスン電機は2026年9月28日、世宗事業所のFC-BGA増設に4.27兆ウォン、ベトナム子会社の基板設備に2.51兆ウォンを投じると公示しました。総額は6.78兆ウォンです。世宗は投資期間が2028年5月まで、量産開始が2028年9月とされ、単一製品への投資として過去最大と報じられています。

Q.なぜAIチップでは基板が足りなくなるのですか?+

AIチップでは、GPUとHBMを1つのパッケージに載せるため、基板が大型化し、層の数も増えるからです。基板が大きく厚くなるほど、製造中の反りや不良が増えて良品率が下がり、同じ設備から取れる枚数が減ります。需要の増加に加えて、この作りにくさが供給不足の構造的な理由です。

Q.投資先の顧客は誰ですか?+

顧客の社名は公表されていません。開示を伝える報道によると、投資は「グローバルなビッグテック顧客」との中長期協力に基づき、顧客が設備資金の一部を負担して中長期の数量を保証する内容です。BroadcomやAMDなど特定企業の名前は、公式の情報では確認できていません。

Q.日本企業には影響がありますか?+

サムスン電機が投じる先はABFを使うFC-BGAのため、ABFを手がける味の素の需要には追い風です。ただし、味の素の供給余力や価格への影響は、味の素の公式発表では確認できていません。量産開始は2028年9月なので、影響が出るのは先の話です。

用語集

HBM/ High Bandwidth Memory
DRAMを積み重ねて広帯域にした高性能メモリ。AI半導体とセットで使われる。
歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。
設備投資(capex)/ capital expenditure
工場や機械など、長く使う設備を買うためにかけるお金。
ASIC(カスタムチップ)/ Application-Specific Integrated Circuit
特定の用途だけに特化して作る専用チップ。汎用品より無駄がなく、決まった処理を安く・省電力でこなせる。
CoWoS(コーワス)/ Chip on Wafer on Substrate
GPUと記憶用のHBMなど複数のチップを、1枚の土台(インターポーザ)の上に並べて1つのパッケージにまとめるTSMCの先端パッケージング技術。

参考資料・引用元

  1. Samsung Electro-Mechanics to Invest 6.78 Trillion Won in AI Chip Package Substrates報道
    The Elec(2026-09-28)— 使用箇所: 総額6.78兆ウォン(世宗4.27兆・ベトナム2.51兆)・世宗の量産開始2028年9月・ABFベースFC-BGA・顧客が設備資金の一部を負担し中長期の数量を保証するとの記述・釜山/世宗/ベトナムの3拠点体制(公示内容を伝える報道)
    https://www.thelec.net/news/articleView.html?idxno=14230
  2. Samsung Electro-Mechanics to Invest 6.78 Trillion Won in AI Chip Substrates報道
    Seoul Economic Daily(2026-09-29)— 使用箇所: 世宗4.27兆ウォンが単一製品として過去最大・投資期間が2028年5月31日まで・昨年末の連結自己資本9.7973兆ウォンの43.6%に相当・顧客は『グローバルなビッグテック』(社名は非公表)との中長期協力(公示内容を伝える報道)
    https://en.sedaily.com/finance/2026/09/29/samsung-electro-mechanics-to-invest-678-trillion-won-in-ai
  3. Samsung Electro-Mechanics to invest $3.14 bil. for substrate plant in Sejong報道
    The Korea Times(2026-09-28)— 使用箇所: 世宗投資の期間(2026年9月〜2028年5月)・量産開始2028年9月・グローバルビッグテック顧客との中長期協力に資金支援と長期需要の保証が含まれるとの記述・張徳鉉(チャン・ドクヒョン)CEOのコメント
    https://www.koreatimes.co.kr/business/companies/20260928/samsung-electro-mechanics-to-invest-314-bil-for-substrate-plant-in-sejong
  4. Samsung Electro-Mechanics to Invest 6 Trillion KRW in Expanding Domestic and Overseas Substrate Production報道
    The Asia Business Daily(2026-09-28)— 使用箇所: FC-BGAが『AIアクセラレータ・GPU・CPUなど高性能半導体とメインボードをつなぐ』基板であること・世宗4.27兆+ベトナム2.51兆ウォン・ベトナム子会社の『有形固定資産取得決定』の公示
    https://www.asiae.co.kr/en/article/2026092818081669401
  5. [公示] サムスン電機 有形資産取得決定(子会社の主要経営事項)報道
    スペシャルタイムズ(公示の転載)(2026-09-28)— 使用箇所: ベトナム子会社の2.51兆ウォンの取得予定日が2028年4月30日・同子会社の2025年末総資産(2.4278兆ウォン)の103.4%に相当・金額や日付は事業の過程で一部変動しうるとの注記・取締役会決議2026年9月28日(DART原文は直接確認できず、転載記事で確認)
    https://www.specialtimes.co.kr/news/articleView.html?idxno=468129
  6. [公示] サムスン電機 新規施設投資等(世宗事業所パッケージ基板増設)報道
    スペシャルタイムズ(公示の転載)(2026-09-28)— 使用箇所: 世宗事業所の増設4.27兆ウォンが2025年末自己資本(9.797兆ウォン)の43.6%に相当・投資期間2026年9月28日〜2028年5月31日・目的「パッケージ基板生産Capa拡大のための増設」・取締役会決議2026年9月28日(社外取締役4名出席)・金額と時期は実行過程で変動しうるとの注記(DART原文は転載記事で確認)
    https://www.specialtimes.co.kr/news/articleView.html?idxno=468132
  7. The Ajinomoto Group's Unexpected Role in Semiconductor Manufacturing: The Insulating Film "ABF"一次情報
    味の素グループ(2024)— 使用箇所: ABFの定義・1層約10μm・MSG副産物起源・1999年商品化・世界シェア約95%
    https://www.ajinomoto.com/stories/the-ajinomoto-groups-unexpected-role-in-semiconductor-manufacturing-the-insulating-film-abf-born-from-aminoscience
  8. Japanese Firm Ajinomoto to Invest JPY 25 Billion by 2030 to Expand ABF Production for Advanced Packaging業界団体
    TrendForce(2025)— 使用箇所: 2030年までに250億円超で能力50%増・GPU/CPU基板シェア95%超・機能性材料が全社利益約2割・売上年率10%超
    https://www.trendforce.com/news/2025/04/01/news-japanese-firm-ajinomoto-to-invest-jpy-25-billion-by-2030-to-expand-abf-production-for-advanced-packaging/
  9. 岐阜県可児市に新工場用地を取得一次情報
    味の素ファインテクノ株式会社(2026-05-07)— 使用箇所: 川崎・群馬に続く第3の生産拠点として岐阜県可児市の用地を取得・用地投資額約12億円・2028年着工/2032年稼働予定
    https://news.ajinomoto.co.jp/2026/05/20260507-02.html
  10. Warpage control of FC-BGA via CTE-matched build-up film and filler loading(査読論文)調査会社
    PMC(NCBI)(2025)— 使用箇所: 反りの定量(フィラー40→70%で0.94→0.02mm・CTE26→19で0.32→0.25mm・銅18ppm整合で反り92%減)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12638888/
  11. ABF substrate packaging expansion for AI GPU capacity調査会社
    DigiTimes(2025-12-18)— 使用箇所: AIサーバ向けFC-BGA基板でIbidenが約7〜8割・設備投資/ABFサプライ構造(報道)
    https://www.digitimes.com/news/a20251218PD207/abf-substrate-packaging-expansion-ai-gpu-capacity.html

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