化学メーカーのトクヤマは、半導体の放熱に使う窒化アルミニウム粉末の生産能力を約3割増強すると発表した。AI半導体が熱で性能を落とす問題に対応する材料の増産が、経済安全保障の枠組みで進んでいる。

トクヤマは2026年9月10日、山口県柳井市の「先進技術事業化センター」に設備を新設し、窒化アルミニウム粉末の生産能力を現行比約30%増強すると発表した。新設備の営業運転開始は2028年4月を予定する。トクヤマの公式発表によれば、この計画は経済安全保障推進法に基づく「供給確保計画」の認定を受けて実施される。半導体材料は「日本企業が握る分野」が多いが、AI半導体の発熱対策という切り口で注目されているのが今回の窒化アルミニウムだ。

ひとことで言うと(初心者向け)

半導体を作る装置や、AIサーバーのチップの熱を逃がすために使う『窒化アルミニウム』という粉末材料を、化学メーカーのトクヤマが3割増やすと発表しました。2028年4月に新しい設備が動き出す計画で、国の経済安保の認定を受けた案件です。AIチップの発熱対策という、いま注目度の高いテーマに直結する増産です。

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構造で言うと(投資家向け)

窒化アルミニウムは半導体製造装置部材と放熱フィラーの2用途に使われる材料で、トクヤマは1985年からの独自の還元窒化法でこの分野を担ってきた。今回の増産は投資額・生産量ともに非公表だが、経済安全保障推進法の供給確保計画認定を受けた点が特徴で、国内サプライチェーン強化策の一環と位置づけられる。AI関連投資の拡大による半導体の高性能化・高発熱化が、上流の材料需要にまで波及している構図を示す事例である。

なぜトクヤマは窒化アルミニウム粉末を3割増産するのか

トクヤマが増産に踏み切る背景は、AI関連投資の拡大による半導体市場の中長期的な成長だ。公式発表は「AI関連投資の拡大や半導体の高性能化を背景として、半導体市場の中長期的な成長が見込まれる」と説明している。

一次情報出典半導体向け窒化アルミニウム粉末の生産能力増強に関するお知らせ発行株式会社トクヤマ(公式・一次情報)公開2026-09-10使用箇所山口県柳井市の先進技術事業化センターに設備を新設し窒化アルミニウム粉末の生産能力を現行比約30%増強すると発表。営業運転開始は2028年4月を予定。経済安全保障推進法に基づく供給確保計画の認定を受けて実施。用途は半導体製造装置向け部材や熱伝導材料向け放熱フィラー等。背景はAI関連投資の拡大や半導体の高性能化による中長期的な需要拡大。1985年から徳山製造所で独自の還元窒化法による窒化アルミニウム粉末を製造・販売してきたと説明

新設備は山口県柳井市の先進技術事業化センターに置かれ、既存の生産体制に加える形で能力を積み上げる。営業運転の開始は2028年4月で、発表から稼働までに1年半以上の準備期間を見込む計画だ。投資額や増産後の具体的な生産量は公表されていない。

窒化アルミニウムは半導体のどこに使われているのか

窒化アルミニウムは、アルミニウムと窒素からできるセラミック粉末で、熱をよく通す一方で電気を通さないという珍しい性質を持つ。この性質が、半導体の製造工程と完成品の両方で役立っている。

用途は大きく2つに分かれる。1つは半導体製造装置向けの部材で、を保持・加熱する部品に使われ、プラズマや腐食性ガスにさらされながら高い温度均一性と電気絶縁性が求められる。もう1つは樹脂などに添加する放熱フィラー(熱を逃がすための添加剤)で、半導体や電子部品から出る熱を外に逃がす役目を担う。

報道出典トクヤマ、半導体製造装置向け窒化アルミニウム粉末の生産能力を30%増強発行マイナビTECH+公開2026-09-14使用箇所窒化アルミニウム粉末の用途を、ウェハーを保持・加熱する半導体製造装置部材(プラズマや腐食性ガスにさらされ高い温度均一性・電気絶縁性が必要)と、樹脂等に添加する放熱フィラーの2系統に整理。増産の背景としてAI関連投資による半導体の演算性能・消費電力の上昇、半導体製造装置の高度化、AIサーバーや電力変換回路の熱対策の重要性増大を報道

放熱フィラーとしての性能は高く、トクヤマの窒化アルミニウムフィラーは従来品に比べて約9倍の熱伝導性を持つと報じられている。パワー半導体や高出力LED用の絶縁放熱基板での採用が見込まれており、「電気のムダを減らすパワー半導体」が増えるほど、こうした放熱材料の需要も伸びやすい。

報道出典熱伝導性9倍、パワー半導体需要を狙う「窒化アルミニウムフィラー」の実力発行ニュースイッチ(日刊工業新聞社)公開2022-09使用箇所トクヤマの窒化アルミニウムフィラーが従来の放熱フィラーに比べ約9倍の熱伝導性を持つと報道。パワー半導体や高出力LED用絶縁放熱基板での使用を見込み、電子機器の小型化・高密度実装で増える発熱がデバイスの性能阻害・寿命低下要因になるとの背景を説明

経済安全保障推進法の「供給確保計画」認定とは何か

経済安全保障推進法は、国民生活や産業活動に欠かせない重要物資について、供給網が途切れるリスクに備える法律だ。この法律に基づき、企業が重要物資の増産や供給網強化を計画すると、国がその計画を「供給確保計画」として認定する仕組みがある。

認定を受けた計画は、国からの支援の対象になり得る点が特徴だ。半導体材料は特定の国・企業への依存度が高まりやすく、供給が止まれば「チップの組み立てや封止」まで含めた広い工程が止まりかねない。窒化アルミニウムの増産計画がこの認定を受けたのは、放熱材料が半導体供給網の重要な一部だと国が位置づけていることを示している。

トクヤマはなぜこの分野で存在感があるのか

トクヤマは1985年から徳山製造所で、独自の「還元窒化法」による窒化アルミニウム粉末の製造・販売を続けている。還元窒化法とは、アルミナ(酸化アルミニウム)を還元しながら窒素と反応させて窒化アルミニウムを作る製法で、トクヤマが長年蓄積してきた技術だ。

一次情報出典半導体向け窒化アルミニウム粉末の生産能力増強に関するお知らせ発行株式会社トクヤマ(公式・一次情報)公開2026-09-10使用箇所山口県柳井市の先進技術事業化センターに設備を新設し窒化アルミニウム粉末の生産能力を現行比約30%増強すると発表。営業運転開始は2028年4月を予定。経済安全保障推進法に基づく供給確保計画の認定を受けて実施。用途は半導体製造装置向け部材や熱伝導材料向け放熱フィラー等。背景はAI関連投資の拡大や半導体の高性能化による中長期的な需要拡大。1985年から徳山製造所で独自の還元窒化法による窒化アルミニウム粉末を製造・販売してきたと説明

40年近い製造実績は、純度や粒子形状を安定して作り込む技術の積み重ねを意味する。放熱材料や製造装置部材は、わずかな不純物や粒子のばらつきが性能に直結するため、長年の量産経験が競争力の土台になっている。

AI半導体の発熱問題と放熱材料の需要はどう関係しているのか

AI向けの半導体は、演算性能を上げるほど消費電力と発熱量が増える。発熱を逃がせなければ、チップは性能を落として動かす(クロックダウン)しかなく、AIサーバーの処理能力そのものを制限してしまう。

さらに、複数のチップを1つのパッケージにまとめるが広がっていることも、放熱材料への需要を押し上げている要因だ。狭い範囲に多くのチップを詰め込むほど、熱が一点に集中しやすくなり、高性能な放熱材料が欠かせなくなる。「チップの組み立て方の工夫」が進むほど、窒化アルミニウムのように熱伝導性が高く電気を通さない材料の価値が上がる。

半導体の基礎的な仕組みについては、「半導体とは何か」で解説している。電気を通す・通さないという半導体材料の性質を理解すると、窒化アルミニウムが「電気を通さないのに熱は通す」という一見矛盾した特性を持つ理由も見えやすくなる。

今後どうなるのか

トクヤマの新設備は2028年4月の稼働を予定しており、実際に増産分が市場に出るまでには1年半以上を要する。この間もAIサーバー向けの半導体需要が拡大を続けるなら、放熱材料の需給は引き続き引き締まった状態が続く可能性がある。

現時点では、増産後の具体的な生産量や投資額、主要な納入先といった詳細は公表されていない。経済安全保障推進法の認定を受けた計画である以上、今後は国内での供給確保という政策的な文脈からも、この増産計画の進捗が注目されることになる。

この記事のまとめ

  • トクヤマは2026年9月10日、窒化アルミニウム粉末の生産能力を現行比約30%増強すると発表した。
  • 新設備は山口県柳井市の先進技術事業化センターに設置し、営業運転開始は2028年4月を予定する。
  • この計画は経済安全保障推進法に基づく「供給確保計画」の認定を受けて実施される。
  • 窒化アルミニウムは半導体製造装置の部材と、熱伝導材料向けの放熱フィラーの2用途で使われる。
  • トクヤマは1985年から独自の還元窒化法でこの粉末を製造し、AI関連投資の拡大を増産の背景に挙げている。

この記事のまとめ

  • トクヤマは2026年9月10日、窒化アルミニウム粉末の生産能力を現行比約30%増強すると発表した。
  • 新設備は山口県柳井市の先進技術事業化センターに設置し、営業運転開始は2028年4月を予定する。
  • この計画は経済安全保障推進法に基づく「供給確保計画」の認定を受けて実施される。
  • 窒化アルミニウムは半導体製造装置の部材と、熱伝導材料向けの放熱フィラーの2用途で使われる。
  • トクヤマは1985年から独自の還元窒化法でこの粉末を製造し、AI関連投資の拡大を増産の背景に挙げている。
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よくある質問(FAQ)

Q.窒化アルミニウムとは何ですか?+

窒化アルミニウムは、アルミニウムと窒素の化合物からできるセラミック粉末です。熱をよく通す一方で電気は通さないという珍しい性質を持ち、半導体を作る装置の部材や、チップの熱を逃がすための放熱材料に使われています。

Q.トクヤマの窒化アルミニウム粉末は半導体のどこに使われていますか?+

大きく2つの用途があります。1つはウェハーを保持・加熱する半導体製造装置の部材で、プラズマや腐食性ガスに耐えながら温度を均一に保つ役割を担います。もう1つは樹脂などに混ぜて使う放熱フィラー(添加剤)で、AIサーバーや電力変換回路が出す熱を逃がす目的で使われます。

Q.経済安全保障推進法の「供給確保計画」認定とはどういう制度ですか?+

経済安全保障推進法に基づき、半導体材料など国民生活や産業に欠かせない重要物資について、企業の増産・供給網強化計画を国が認定する制度です。認定を受けた計画は、国からの支援の対象になり得ます。トクヤマの窒化アルミニウム粉末の増産計画も、この認定を受けて実施されます。

Q.なぜAI半導体で放熱材料の需要が増えているのですか?+

AI向けの半導体は演算性能が上がるほど消費電力と発熱量が増え、放熱ができないと性能を落として動かす必要が生じます。加えて複数のチップを1つのパッケージにまとめる先端パッケージングが広がり、狭い範囲に熱が集中しやすくなっています。この2つの要因が、窒化アルミニウムのような高性能な放熱材料への需要を押し上げています。

用語集

ウェハー/ wafer
半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
パッケージング(先端パッケージング)/ advanced packaging
切り出したチップを基板に載せ、配線し、保護する工程。複数のチップを高密度につなぐ先端版もある。

参考資料・引用元

  1. 半導体向け窒化アルミニウム粉末の生産能力増強に関するお知らせ一次情報
    株式会社トクヤマ(公式・一次情報)(2026-09-10)— 使用箇所: 山口県柳井市の先進技術事業化センターに設備を新設し窒化アルミニウム粉末の生産能力を現行比約30%増強すると発表。営業運転開始は2028年4月を予定。経済安全保障推進法に基づく供給確保計画の認定を受けて実施。用途は半導体製造装置向け部材や熱伝導材料向け放熱フィラー等。背景はAI関連投資の拡大や半導体の高性能化による中長期的な需要拡大。1985年から徳山製造所で独自の還元窒化法による窒化アルミニウム粉末を製造・販売してきたと説明
    https://www.tokuyama.co.jp/news/2026/2026091001.html
  2. トクヤマ、半導体製造装置向け窒化アルミニウム粉末の生産能力を30%増強報道
    マイナビTECH+(2026-09-14)— 使用箇所: 窒化アルミニウム粉末の用途を、ウェハーを保持・加熱する半導体製造装置部材(プラズマや腐食性ガスにさらされ高い温度均一性・電気絶縁性が必要)と、樹脂等に添加する放熱フィラーの2系統に整理。増産の背景としてAI関連投資による半導体の演算性能・消費電力の上昇、半導体製造装置の高度化、AIサーバーや電力変換回路の熱対策の重要性増大を報道
    https://news.mynavi.jp/techplus/article/20260914-4966212/
  3. 熱伝導性9倍、パワー半導体需要を狙う「窒化アルミニウムフィラー」の実力報道
    ニュースイッチ(日刊工業新聞社)(2022-09)— 使用箇所: トクヤマの窒化アルミニウムフィラーが従来の放熱フィラーに比べ約9倍の熱伝導性を持つと報道。パワー半導体や高出力LED用絶縁放熱基板での使用を見込み、電子機器の小型化・高密度実装で増える発熱がデバイスの性能阻害・寿命低下要因になるとの背景を説明
    https://newswitch.jp/p/33860

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