半導体づくりで最も多く繰り返される作業のひとつは、回路を描くことではなく「洗うこと」です。(回路を刻む前のシリコンの円盤)の不純物や薬品を取り除く洗浄は、SCREENの解説によると全工程の30%近くを占めるといわれ、数百〜1,000工程に及ぶ前工程では数百回に達します。前回のエッチングで回路を刻み終えたウェハーには、役目を終えた感光材の型(レジスト)と、目に見えないゴミが残っています。今回は、この型を酸素プラズマで「灰」にして飛ばし、薬液と超純水でゴミを洗い流す——除去と洗浄の工程を歩きます。
ひとことで言うと(初心者向け)

料理にたとえると、ここまでの工程は「クッキーの型で生地を抜く」作業でした。型を使い終わったら外して、まな板をきれいに洗ってから次の料理に進みますよね。半導体も同じで、使い終わったレジスト(型)を酸素プラズマで燃やすように分解して飛ばし、ウェハーを薬液と、不純物を極限まで取り除いた水で何度も洗います。違うのはスケールです。髪の毛の1万分の1ほどのゴミが1個残っただけで回路が壊れるので、前工程だけで数百回も「洗いもの」を繰り返します。

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構造で言うと(投資家向け)

洗浄は全工程の約3割を占める反復工程で、装置需要はウェハー投入量×工程数に比例する。微細化・多層化が進むほど洗浄回数は増える成長領域。装置は枚葉式シフトが確定的(SCREEN出荷比7割超)で、枚葉洗浄はSCREENが世界シェア約45%で首位、東京エレクトロンが追う。超純水装置は栗田工業(世界シェア約2割・首位)とオルガノの日本勢2強。交換部品・薬品・メンテのリカーリング比率が高く、市況耐性は本体装置より強い。

この記事で動かせる図解

  1. 01レジスト除去と洗浄の3Dモデル使用済みレジスト→アッシング(酸素プラズマ)→枚葉洗浄→乾燥の4段階を切り替えて見る

なぜ「洗うだけ」の工程が全体の3割も占めるのか

理由は単純で、ゴミ1個が回路を丸ごと殺すからです。先端半導体の回路線幅は10nm台——髪の毛の太さ(約0.07mm)の1万分の1に近いスケールです。そこに同じくらいの大きさのゴミが1個乗れば、配線はショートし、断線し、そのチップは不良品になります。SCREENの技術解説によると、問題になるパーティクル(微細なゴミ粒)のサイズは大きくて数μm、小さいものは0.1μm以下です。

しかも、汚れは外から入ってくるだけではありません。・・エッチングといった工程そのものが、削りカスや薬品の残りといった汚れを生み出します。つまり「一度きれいにすれば終わり」ではなく、何かをするたびに洗い直す必要があります。だから洗浄は工程の合間ごとに挟まり、全工程の30%近くという最多クラスの回数になるのです。

「「1枚のシリコンが、チップになるまでの数百工程をたどる」」で見た数百工程の流れは、実は3歩進むごとに1回洗いものを挟む行進でした。半導体そのものの基礎は「半導体とは何か」で確認できます。「前回のエッチング」で型どおりに回路を刻んだ直後も例外ではありません。まず、使い終わった型そのものを片付ける必要があります。

アッシングとは——使い終わった型を「灰」にして飛ばす方法

アッシング(灰化)とは、役目を終えたレジストを酸素プラズマで分解して取り除く工程です。レジストは炭素・水素・酸素からなる有機物、いわば「プラスチックの型」です。SCREENの解説によると、プラズマ化した酸素とレジストを反応させると、CO2と水蒸気と酸素——すべて気体に変わって消えます。焚き火で紙が灰になって飛ぶのと同じ理屈で、だから「灰化」と呼ばれます。

仕組みはこうです。真空の部屋に酸素を入れて電気エネルギーを加えると、酸素が活性の高いバラバラの状態(プラズマ)になります。Semi Journalの解説によると、この酸素ラジカルがレジストの炭素や水素と結びつき、CO2と水蒸気として揮発していきます。ブラシでこするわけではないので、下に刻んだばかりの回路を傷つけずに、有機物のレジストだけを選んで消せるのが利点です。

型を灰にして飛ばし、残ったゴミを洗い流して乾かすまでの流れを、3Dモデルで見てください。

図解を読み込み中…

ただし、アッシングだけでは終わりません。プラズマで分解しきれなかった残りカスや、レジストに含まれていた微量の金属汚れは表面に残ります。そこで灰化のあとに薬液洗浄を組み合わせて、化学の力で残りを溶かし落とします。「剥がす」と「洗う」はワンセットなのです。

数百回の洗浄では、何をどうやって落とすのか

落とす相手は1種類ではありません。SCREENの技術解説は、パーティクルのほかに、装置や薬液に由来する微量の金属汚染、人のフケや垢・バクテリアに由来する有機汚染、油脂、さらに放っておくと勝手に育つ自然酸化膜を挙げています。相手ごとに効く薬液が違うため、洗浄は複数の薬液と超純水すすぎを組み合わせたコース料理のような手順になります。

洗い方には大きく2つの方式があります。

方式やり方特徴
バッチ式薬液の槽に数十枚をまとめて浸けて洗う一度に大量処理でき生産性が高い。東京エレクトロンのEXPEDIUSは最大50枚を同時処理する
枚葉式回転する1枚のウェハーに薬液や超純水をスプレーする1枚ずつ丁寧に洗え、ゴミの再付着が少ない。現在の主流

かつては効率のよいバッチ式が主役でした。しかし槽にまとめて浸ける方式では、いったん剥がれたゴミが液の中を漂って別のウェハーに付き直すリスクがあります。微細化でゴミ1個の再付着すら許されなくなり、主役は枚葉式(まいようしき)に交代しました。

日経クロステックの記事によると、SCREENの出荷では枚葉式が7割を超えています。回転するウェハーの中心に液をかけると、遠心力で液が外へ流れ、ゴミごと縁から弾き飛ばされていく——3Dモデルの③で見た動きです。

超純水とは——なぜ「何も入っていない水」で洗うのか

超純水とは、イオン・有機物・微粒子・細菌などの不純物を極限まで取り除いた、理論上の純水に近づけた水です。薬液で洗ったウェハーは最後に水ですすぎますが、水道水はもちろん、実験室レベルの純水でもまだ汚すぎます。水に溶けた不純物が乾いた後に残れば、それ自体が回路を殺すゴミになるからです。

どれくらい純粋なのか。不純物の量を50mプールで例えると、水道水はドラム缶2〜数本分、超純水は耳かき1さじ分しかありません。栗田工業の解説によると、半導体用の超純水は電気の通しにくさ(抵抗率)で管理され、水1リットルに鉄イオンがわずか100万分の1グラム混ざっただけで基準を外れるほどの世界です。この水を工場内で大量に作り続ける超純水製造装置は、半導体工場の隠れた心臓部です。

なお、水を大量に使うのは半導体工場だけではありません。チップを使う側のAIも冷却で水を消費します。その話は「「AIはなぜ水を使うのか」」でまとめています。

洗浄の世界は、どの企業が握っているのか

洗浄装置の世界トップは、京都のSCREENホールディングスです。主流の枚葉式洗浄装置で世界シェア約45%とNo.1を握り、3種類の洗浄装置の分野で世界トップシェアを獲得しています。印刷機器から出発した会社が「表面を精密に処理する」技術を突き詰めた先に洗浄の王座があった経緯は、「「チップを“洗う”工程で世界一。京都の老舗が握る地味な急所」」で分析しています。

これを追うのが東京エレクトロンです。最大50枚を同時に洗うバッチ式のEXPEDIUSやスクラバなどを展開し、洗浄でも上位に付けます。塗布・現像で世界9割を握る同社の全体像は「「半導体の“塗って・削って・盛る”工程は、この日本企業が握っている」」をどうぞ。

そして超純水製造装置では、栗田工業が半導体向け世界シェア約2割で首位、オルガノと並ぶ日本勢2強です。装置の種類や競争構造は「「工程の合間に何度も洗う。洗浄装置とSCREENの強み」」で詳しく整理しています。洗うことに関しては、装置も水も、世界の半導体工場は日本企業に頼っているのです。

次回は、洗い上がったウェハーに不純物を打ち込んで電気の性質を作り込む「イオン注入と熱処理」の工程を歩きます。

この記事のまとめ

  • エッチングを終えたウェハーには用済みのレジストとゴミが残る。レジストは酸素プラズマでCO2と水蒸気に分解して飛ばす——これがアッシング(灰化)。
  • 髪の毛の1万分の1ほどのゴミ1個でも回路の断線・ショートの原因になるため、各工程の合間に必ず洗浄を挟む。洗浄は全工程の30%近くを占め、前工程では数百回に達する最多クラスの工程。
  • 洗浄装置は1枚ずつ回して洗う枚葉式が主流で、SCREENの出荷では7割超。微細化でゴミの再付着が許されなくなり、バッチ式から置き換わった。
  • すすぎに使う超純水は、不純物が50mプールに耳かき1さじ分という「地球上で最も何も入っていない水」。栗田工業・オルガノの日本勢2強が装置を握る。
  • 枚葉洗浄装置はSCREENが世界シェア約45%で首位、東京エレクトロンが続く。洗浄は装置・超純水とも日本企業が支配的な領域。
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よくある質問(FAQ)

Q.アッシングとは何ですか?+

アッシングとは、役目を終えたレジスト(感光材の型)を酸素プラズマで分解して取り除く工程です。レジストは炭素・水素・酸素でできた有機物なので、活性化した酸素と反応させるとCO2と水蒸気に変わり、気体になって消えます。灰にして飛ばすイメージから「灰化」とも呼ばれます。物理的にこすらないため、下の回路を傷つけずにレジストだけを選んで除去できます。

Q.半導体はなぜ数百回も洗浄するのですか?+

微細なゴミ1個が回路の断線やショートを引き起こし、チップを丸ごと不良にするためです。先端半導体の回路線幅は10nm台で、髪の毛の太さの1万分の1ほどのゴミでも致命傷になります。成膜・露光・エッチングなどの各工程は必ず汚れを生むので、工程の合間ごとに洗浄を挟みます。その結果、洗浄はSCREENの説明で全工程の30%近くを占め、数百〜1,000工程ある前工程では数百回に達します。

Q.超純水とは何ですか?普通の水と何が違うのですか?+

超純水とは、イオン・有機物・微粒子・細菌などの不純物を極限まで取り除いた、理論上の純水に近づけた水です。不純物の量を50mプールで例えると、水道水がドラム缶数本分に対し、超純水は耳かき1さじ分しかありません。普通の水で洗うと水に含まれる不純物が逆にウェハーを汚してしまうため、薬液で洗った後のすすぎには必ず超純水を使います。

Q.半導体の洗浄装置はどの企業が強いのですか?+

洗浄装置は京都のSCREENホールディングスが世界トップで、1枚ずつ洗う枚葉式洗浄装置では世界シェア約45%を握ります。東京エレクトロンもバッチ式やスクラバなどで上位に続きます。また、洗浄に欠かせない超純水をつくる装置では栗田工業が世界シェア約2割で首位、オルガノと並ぶ日本勢2強です。洗浄まわりは日本企業が支配的な領域です。

用語集

ウェハー/ wafer
半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
成膜(せいまく)・塗布/ deposition / coating
ウェハー表面に、配線や絶縁体になる薄い膜を一様につける工程。液体を塗る『塗布』も含む。
露光(リソグラフィ)/ lithography
回路の原版(マスク)を通して光を当て、回路パターンをチップに転写する工程。半導体製造の心臓部。
データセンター/ data center
大量のサーバーをまとめて置き、24時間動かし続ける施設。クラウドやAIの計算はここで行われる。

参考資料・引用元

  1. レジスト剥離(プロセス知識)一次情報
    SCREENセミコンダクターソリューションズ(公式)(不明)— 使用箇所: プラズマアッシャは酸素プラズマとレジストを反応させCO2・H2O・O2の気体にして除去する仕組み・ドライ(プラズマ/オゾン)とウェットの使い分け
    https://www.screen.co.jp/spe/technical/guide/resist
  2. 【レジスト剥離】アッシング(灰化)とは?報道
    Semi Journal(不明)— 使用箇所: 酸素ラジカルが有機レジストと反応しCO2・H2Oとして揮発除去する反応機構・灰化の呼称・オゾンアッシング
    https://semi-journal.jp/basics/process/ashing.html
  3. 洗浄工程(プロセス知識)一次情報
    SCREENセミコンダクターソリューションズ(公式)(不明)— 使用箇所: 汚れの種類(パーティクル最大数μm〜最小0.1μm以下・金属汚染・有機汚染・自然酸化膜)とバッチ式/枚葉式の仕組み
    https://www.screen.co.jp/spe/technical/guide/cleanprocess
  4. 最先端の装置メーカーとして(個人投資家向け情報)一次情報
    SCREENホールディングス(公式IR)(不明)— 使用箇所: 洗浄は全工程の30%近くを占める・3種類の洗浄装置分野で世界トップシェア
    https://www.screen.co.jp/ir/indiv/03
  5. 半導体洗浄装置で世界シェア首位を誇るSCREEN報道
    ORIXレンテック RentecInsight(不明)— 使用箇所: 枚葉式洗浄装置で世界シェアNo.1の45%
    https://go.orixrentec.jp/rentecinsight/measure/article-141
  6. 半導体洗浄装置は枚葉式がもはや7割超、微細化進みバッチ式では対応しきれず報道
    日経クロステック(2024-03-13)— 使用箇所: SCREEN出荷で枚葉式が7割超・バッチ式はゴミ再付着リスクで洗浄力が劣る・ArF微細化を機に枚葉式へシフト
    https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02748/030800003/
  7. 洗浄 EXPEDIUS™シリーズ(製品情報)一次情報
    東京エレクトロン(公式)(不明)— 使用箇所: TELのバッチ式洗浄装置EXPEDIUSは最大50枚同時処理・レジスト剥離やポストエッチクリーニング対応
    https://www.tel.co.jp/product/expedius.html
  8. 純水よりはるかに純度が高い超純水(水処理教室)一次情報
    栗田工業 KCRセンター(公式)(不明)— 使用箇所: 半導体用超純水は抵抗率18MΩ・cm以上・鉄イオン1μg/Lで17MΩ・cmに低下・イオン/有機物/生菌/微粒子を含まない理論純水
    https://kcr.kurita.co.jp/solutions/water-school/014.html
  9. 超純水製造装置のしくみ(水処理教室)一次情報
    栗田工業 KCRセンター(公式)(不明)— 使用箇所: 前処理→一次純水システム→サブシステムの3段構成・半導体製品の洗浄や薬品希釈に使用
    https://kcr.kurita.co.jp/solutions/water-school/015.html
  10. 半導体製造を支える超純水とは報道
    菅製作所(不明)— 使用箇所: 不純物量の50mプール例え(水道水ドラム缶2〜数本分・超純水耳かき1さじ分)・洗浄工程が製造工程の約30%
    https://agus.co.jp/?p=7369
  11. 世界の半導体企業支える栗田工業 「超純水」で世界首位報道
    日経ビジネス(2024)— 使用箇所: 栗田工業は超純水の半導体向け世界シェア約2割で首位
    https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00155/091800192/

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