日本経済新聞の記事は有料で、本稿は見出しと冒頭しか読めていません。そこで各数字を、県・桑名市・企業の公開資料までさかのぼって確かめました。半導体という物質の基礎は「半導体とは、電気を「通す・通さない」を切り替えられる物質」で解説しています。
三重県には、NANDフラッシュメモリを作るキオクシアの四日市工場と、台湾UMCの子会社が運営する桑名市の工場があります。県は2031年までに官民で5,110億円の設備投資を目標にしています。UMC側は桑名の工場に500億円を超える投資計画を示し、キオクシアは四日市と岩手の北上で約5兆円の計画を発表しました。三つの数字は、数える範囲がそれぞれ違います。
構造で言うと(投資家向け)も見る
5,110億円は県の計画が掲げる2031年の累計目標で、企業の投資額を積み上げた数字ではない。USJCの500億円超は桑名市の資料に基づく報道ベースの数字で、UMC自身の公式発表は未確認。キオクシアとSanDiskの約5兆円(2032年まで)は四日市と北上の合算で、内訳は非公表。筆者の見方では、企業計画の規模が県の目標を上回っており、目標の見直しの有無が次の確認点になる。
5,110億円は、三重県の計画が2031年に掲げる官民設備投資の累計目標である
内閣官房が公開する三重県の地域産業クラスター計画の概要は、2031年に目指す目標を4つ並べています。官民設備投資額(工場や装置への支出の累計)は5,110億円です。製造品出荷額は3兆6,533億円、付加価値創出額は9,900億円、産業人材育成数(累計)は5,000人と書かれています。
この概要に、計画期間の起点は書かれていません。日経が「5年間」と書いた根拠は、本稿では確認できていません。
出荷額の対象は、電子部品・デバイス・電子回路製造業と化学工業です。県は、100社を超える企業が立地し、電子部品・デバイス・電子回路などの出荷額が21年連続で全国1位だと説明しています。核となる事業者にはキオクシア、サンディスク、ユナイテッド・セミコンダクター・ジャパンなど56社が挙がっています。
この計画は、中日新聞が9月17日に「国の地域未来戦略に選定される見込み」と報じました。県は別に「みえ半導体産業振興方針」を作っており、有識者会議は2026年8月6日に第2回を開いています。方針は2026年度中の完成予定です。
UMCは桑名のUSJC工場に、2026年の57億6千万円とは別に500億円超の計画を示した
USJC(ユナイテッド・セミコンダクター・ジャパン)は、桑名市多度町にある(他社の設計した半導体を受託製造する会社)です。UMCは旧・三重富士通セミコンダクターの100%取得を2019年10月1日に完了し、社名をUSJCに変えました。
2026年2月2日、USJCは桑名市・三重県と企業立地協定を結びました。総投資額は約57億6千万円で、月間の製造能力を約3,000枚増やし、新規雇用は100名を予定しています。着手は6月から、操業開始は2027年1月から順次です。
500億円超の計画は、桑名市の市長定例記者会見資料に出てきます。市長と桑名商工会議所の会頭が8月19〜21日に台湾を訪ね、UMC本社でPresident & COOの徐明志氏と対話しました。その場で、USJC工場における500億円を超える新たな大規模設備投資計画の説明を受けた、と資料に書かれています。
期間と対象は、市の資料にありません。中日新聞のインタビューでは、USJCの荘裕智会長が今後3年間で500億円以上と語り、主な対象は車載向けのパワー半導体(電力を制御する半導体)だと伝えられています。ここまでが報道ベースです。UMCの公式発表と、新しい製造棟の有無は、確認できていません。
キオクシアの約5兆円は四日市と北上の合算で、県の目標とは範囲も期間も違う
キオクシアとSanDiskは2026年8月27日、2032年までに日本国内で総額約5兆円(310億米ドル超)の投資を見込むと発表しました。投資先は四日市工場と北上工場で、政府からの支援を前提にしています。両工場への配分額は公表されていません。
四日市は(電源を切ってもデータが消えない記憶用半導体)の生産拠点です。北上第3製造棟(K3)は別のお知らせで土地整備の開始が公表されました。四日市での新棟建設は、発表文に書かれていません。キオクシアの事業の全体像は「NAND型フラッシュを発明した本家。東芝メモリから独立した日本のメモリ大手」にまとめています。
ここまでの数字を、誰の数字かで並べ直します。
| 数字 | 誰の数字か | 範囲と期間 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 5,110億円 | 三重県の計画 | 官民、2031年までの累計 | 目標値 |
| 約5兆円 | キオクシア、SanDisk | 四日市と北上、2032年まで | 投資の見込み(政府支援が前提) |
| 500億円超 | USJC(桑名市の資料、中日新聞) | 桑名の1工場、3年(報道) | 計画の説明(UMC公式は未確認) |
| 約57億6千万円 | USJC | 桑名の1工場、2026年の投資 | 企業立地協定 |
5兆円は5,110億円の約10倍にあたります[計算:5兆円÷5,110億円≒9.8]。500億円は5,110億円の約1割です[計算:500億円÷5,110億円≒0.098]。四日市と北上に配分される額が分からないため、三重分だけを取り出すことはできません。
以下は筆者の見方です。県の目標値は、キオクシアの5兆円を織り込んだ数字には見えません[推測]。足し上げた数字なら、5兆円の一部だけで目標を超えてしまうからです。県が目標を改めるかどうかは、振興方針の完成版で確かめられます。
台湾企業が三重で投資を重ねる土台は、既存の300mm工場と県の誘致である
USJCの三重工場は、富士通の合弁として生まれた12インチ(300mm)のウェハー(半導体の材料になる円盤状のシリコン板)を扱う工場です。UMCは、すでに稼働していた工場を買い取り、設備を足してきました。2026年の57億6千万円も、製造装置と工場内の搬送設備の増強です。
誘致の動きは、県と桑名市の双方にあります。県は2026年3月15〜18日に知事の台湾訪問を実施し、UMCなどの企業を訪ねました。桑名市長は2025年11月にも台湾を訪れ、国立陽明交通大学・三重大学・桑名市の3者で人材育成の協力宣言書に署名しています。
人材が焦点である点は、数字にも出ています。8月の訪台では、桑名高校の生徒20名が陽明交通大学のサマープログラムに参加しました。費用はUSJCの寄付で賄われています。
県の計画は、立地の強みとして工業用水、安定した電力ネットワーク、産業用地、人材基盤を挙げています。名古屋圏の自動車産業と関西圏の家電産業に近い点も、同じ資料に書かれています。港の役割は、一次資料で確認できなかったため、ここでは扱いません。
熊本との違いは、新しく建てる拠点か、既存の拠点を増強する拠点かにある
熊本県菊陽町のJASMは、TSMCの子会社が新たに建てた工場で、第1工場は2024年に量産を始めました。経緯は「世界一の半導体メーカーが、なぜ熊本の田園を選んだのか」で解説しています。三重の場合は、キオクシアの四日市と、USJCの桑名という、すでに動いている工場が中心です。
以下は筆者の見方です。既存の拠点を増強する投資は、建屋の新設より立ち上がりが早い一方、敷地と建屋の余裕に上限があります。USJCが新しい製造棟を建てるのか、既存の建屋内で完結させるのかは、公開資料からは分かりません。
国の目標との関係は、「日本成長戦略が掲げる売上40兆円の中身」で整理しています。国内で作る半導体の売上を2040年に40兆円とする目標があり、三重は電子部品・デバイスの出荷額で全国1位の県です。キオクシアの直近の投資は「Kioxiaが3年で1.4兆円投資」でも扱っています。
次に確認するのは、UMCの正式発表と県の振興方針の最終版である
2026年10月13日の時点で、500億円超の計画についてUMCの公式発表と、投資額・着工時期の続報は見つかりませんでした。次の4点が、確認の対象になります。
- UMCまたはUSJCによる、投資額・期間・対象の公式発表
- 新しい製造棟の有無と着工時期
- 県の振興方針の最終版で、2031年の目標値が据え置かれるか
- キオクシアの5兆円のうち、四日市に充てられる額
投資額を比べるときは、誰が、どの範囲を、いつまでの期間で数えた数字かを先に見てください。
この記事のまとめ
- 日経が伝えた「2031年までの累計5,110億円」は、内閣官房が公開する三重県の計画概要に載る官民設備投資額(累計)の目標値である。
- USJCの桑名工場は、2026年2月の協定で約57億6千万円を投資する。別に500億円超の計画を、UMCが桑名市長に説明した。
- 500億円超の期間と対象は報道ベースで、UMCの公式発表と新棟の有無は確認できていない。
- キオクシアとSanDiskの約5兆円は、2032年までの四日市と北上の合算で、三重分の内訳は非公表である。
- 次の確認点は、UMCの正式発表と、県の振興方針の最終版における目標値である。
この記事のまとめ
- 日経が伝えた「2031年までの累計5,110億円」は、三重県の計画に載る官民設備投資額(累計)の目標値である。
- USJCの桑名工場は2026年2月の協定で約57億6千万円を投資し、別に500億円超の計画をUMCが桑名市長に説明した。
- 500億円超の期間と対象は報道ベースで、UMCの公式発表と新しい製造棟の有無は確認できていない。
- キオクシアとSanDiskの約5兆円は2032年までの四日市と北上の合算で、三重分の内訳は非公表である。
- 次の確認点は、UMCの正式発表と、県の振興方針の最終版における目標値である。
よくある質問(FAQ)
Q.三重県の半導体投資「5,110億円」とは何の数字ですか?+
三重県の地域産業クラスター計画が掲げる、2031年の官民設備投資額(累計)の目標値です。同じ計画は、製造品出荷額3兆6,533億円、付加価値創出額9,900億円、産業人材育成数5,000人も目標にしています。企業の投資額を足し上げた数字とは確認できていません。
Q.UMCは三重でいくら投資するのですか?+
USJCは2026年2月の企業立地協定で、桑名の三重工場に約57億6千万円を投資します。別に、500億円を超える新たな設備投資計画を、UMC本社が桑名市長に説明しました。期間と対象は中日新聞の報道では今後3年間のパワー半導体で、UMCの公式発表は確認できていません。
Q.キオクシアの約5兆円は、すべて三重に投資されるのですか?+
いいえ、三重だけの金額ではありません。キオクシアとSanDiskが発表した2032年までの約5兆円は、四日市工場と北上工場の合算です。両工場への配分額は公表されていません。
Q.三重と熊本の半導体投資は何が違いますか?+
熊本のJASMはTSMCの子会社が新たに建てた工場で、三重は稼働中のキオクシア四日市工場とUSJC桑名工場の増強が中心です。USJCが新しい製造棟を建てるかどうかは、公開資料で確認できていません。
用語集
- ファウンドリ/ foundry
- 他社が設計した半導体を、受託して製造する工場。代表はTSMC。
- NAND(NANDフラッシュ)/ NAND flash
- 電源を切ってもデータが消えない記憶装置。SSDやスマホのストレージに使われる。
参考資料・引用元
- 半導体投資、三重の企業が国内外から呼び込み 台湾へトップセールス報道日本経済新聞(2026-10-12)— 使用箇所: AI向け半導体の需要拡大で三重県が投資を呼び込んでいる。UMCが新たな投資計画を表明、キオクシアも登場。5年間・2031年までの累計設備投資5,110億円という数字がある。有料記事のため見出しと冒頭のみ確認し、5,110億円は内閣官房掲載の県計画概要と数字が一致することから県の目標値と判断(本文での位置づけは未確認)。確認日2026-10-13https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC195JB0Z10C26A8000000/
- 三重県 半導体関連産業分野における地域産業クラスター計画の概要(様式1-2)公的機関内閣官房(地域未来戦略。三重県の計画概要)(2026)— 使用箇所: 2031年の目標:電子部品・デバイス・電子回路製造業と化学工業の製造品出荷額3兆6,533億円・付加価値創出額9,900億円・官民設備投資額(累計)5,110億円・産業人材育成数(累計)5,000人。100社超が立地、出荷額21年連続1位、核となる事業者にキオクシア・サンディスク・ユナイテッド・セミコンダクター・ジャパンなど。PDF2ページを本文抽出して確認。計画期間の起点年の記載なし。確認日2026-10-13https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chiikimirai2/sangyo-keikaku/pdf/b-keikaku/mieken_kagakukogyo_1-2.pdf
- 半導体産業を集積 三重県の計画、国の地域未来戦略に選定へ報道中日新聞(中日BIZナビ)(2026-09-17)— 使用箇所: 三重県の半導体関連産業の地域産業クラスター計画が国の地域未来戦略に選定される見込みと報じた。選定されれば、インフラ整備や人材育成に使える財政支援を受けられる。会員限定記事のため見出しと冒頭のみ確認。確認日2026-10-13https://biz.chunichi.co.jp/news/article/10/130655
- みえ半導体産業振興方針策定に係る有識者会議公的機関三重県(公式)(2026-08-06)— 使用箇所: 第1回(2025年10月15日)・第2回(2026年8月6日)の有識者会議の開催。方針は令和8年度(2026年度)の完成予定で、県の方針ページでは目標値の記載を確認できず。確認日2026-10-13https://www.pref.mie.lg.jp/KIGYORI/HP/m0144800135.htm
- ユナイテッド・セミコンダクター・ジャパン株式会社と、桑名市、三重県とで企業立地協定を締結しました公的機関桑名市 企業誘致(公式)(2026-02-02)— 使用箇所: 2026年2月2日の企業立地協定。USJC三重工場(桑名市多度町御衣野2000・敷地約307,300㎡)への総投資額約57億6千万円、月間製造能力の約3,000枚増強、新規雇用100名(予定)、着手は2026年6月から、操業開始は2027年1月から順次。確認日2026-10-13https://www.invite-kuwana.jp/en/news/kyotei-usjc
- 市長定例記者会見資料 令和8年8月24日(台湾ミッション 市長トップセールス報告)公的機関桑名市(公式)(2026-08-24)— 使用箇所: 2026年8月19〜21日の台湾ミッション(桑名市長・桑名商工会議所会頭)。UMC本社でPresident & COOの徐明志氏と対話し、多度町のUSJC工場における500億円を超える新たな大規模設備投資計画の説明を受けた。陽明交通大学の高校生サマープログラム(桑名高校20名、USJCの寄付)。PDF34ページの14〜18ページを本文抽出して確認。投資の期間・対象・新棟の有無は資料に記載なし。確認日2026-10-13https://www.city.kuwana.lg.jp/documents/1433/20260824pawapo.pdf
- 桑名の半導体工場に500億円以上を投資へ 台湾系メーカーのUSJCトップに単独インタビュー報道中日新聞(中日BIZナビ)(2026-08-21)— 使用箇所: USJCの荘裕智会長が今後3年間で500億円以上を三重工場に投資する計画を語った(取材は8月20日)。主な対象は車載向けのパワー半導体、背景にAI・データセンター向け半導体の需要。会員限定記事のため見出しと要旨のみ確認。確認日2026-10-13https://biz.chunichi.co.jp/news/article/10/129599/
- UMC Receives Final Approval for 100% Acquisition of Mie Fujitsu Semiconductor一次情報United Microelectronics Corporation(UMC、公式)(2019-09-25)— 使用箇所: UMCが三重富士通セミコンダクター(MIFS)の100%取得に必要な許認可を終え、取得を2019年10月1日に完了、取得後にUnited Semiconductor Japan(USJC)へ社名変更。残り84.1%の取得額544億円。直接取得は403のため検索結果の要約で確認。確認日2026-10-13https://www.umc.com/en/News/press_release/Content/investor/20190925
- 知事が台湾を訪問します公的機関三重県(公式)(2026-03)— 使用箇所: 2026年3月15〜18日の知事の台湾訪問の予告。半導体産業セミナー・企業交流会、UMCなどの企業訪問を含む。訪問結果の詳細は県の公式ページでは未確認(面会者の氏名は伊勢新聞など報道ベース)。確認日2026-10-13https://www.pref.mie.lg.jp/TOPICS/m0359800104.htm
- 令和7年度 市長による台湾へのトップセールスを実施しました公的機関桑名市 企業誘致(公式)(2025-11-06)— 使用箇所: 2025年11月4〜7日の桑名市長の台湾訪問。UMC副社長の莊裕智氏と面会し、国立陽明交通大学・三重大学・桑名市の3者で半導体人材育成の協力宣言書に署名(同大学が日本の自治体と交わすのは全国初と記載)。確認日2026-10-13https://www.invite-kuwana.jp/news/taiwan2025
- キオクシアとサンディスク、日本で約5兆円を投資しメモリ分野でのリーダーシップを強化一次情報キオクシアホールディングス/SanDisk(共同プレスリリース)(2026-08-27)— 使用箇所: キオクシアとSanDiskが2032年までに日本国内(四日市・北上)で総額約5兆円(310億米ドル超)を投資する計画を正式発表。政府からの支援を前提とする方針を明記https://www.kioxia.com/ja-jp/about/news/2026/20260827-3.html
- 北上工場における第3製造棟(K3)建設に向けた土地等の整備開始に関するお知らせ一次情報キオクシアホールディングス(公式)(2026-08-27)— 使用箇所: 北上工場第3製造棟(K3、第2製造棟の南側の土地)建設に向けた土地整備の開始を正式発表。2029年度中の稼働開始を目指すと明記。建設時期・生産設備投資の詳細は市場動向を踏まえて決定するとし、政府支援を前提とする方針も明記(投資額は本発表に記載なし)https://www.kioxia.com/ja-jp/about/news/2026/20260827-2.html
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