インド政府は、半導体の工場より先に「設計」を国費で育てる道を選びました。設計スタートアップには、設計費の最大5割を補助する制度が用意されています。

半導体の世界競争というと、TSMCやSamsungのような工場の誘致合戦が目立ちます。ところがインドは、工場とは別に、設計の会社そのものを国が支える仕組みを持っています。それがDLI(Design Linked Incentive、設計連動インセンティブ)制度です。

初心者向け
図面を描く会社に、国が費用の半分ほどを先に出してくれる制度です。ただし出す額には上限があり、製品が売れた後にも追加の支援が続きます。

半導体産業が設計と製造に分かれた理由は「NVIDIAは工場を持っていない」で、業界全体の地図は「半導体は、1社だけでは作れない」で扱っています。本稿は、その「設計」の側に国が資金を入れる意味を読み解きます。

ひとことで言うと(初心者向け)

建物にたとえると、工場は「建てるのに何千億円もかかる大きな建物」で、設計は「図面を描く仕事」です。インドは図面を描く人が世界でも多い国です。そこで、巨額の工場づくりを待たずに、図面を描く会社の費用を国が半分ほど持って育てる方針にしました。

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構造で言うと(投資家向け)

インドのMeitYが2026年8月31日に通知したと報じられた設計支援は、設計費の50%または1億5,000万ルピーの低い方をシード資金として支給する形(報道ベース)。DLI承認は120社超。Semicon 2.0は1兆2,750億ルピー規模で、設計企業200社以上を目標にする。製造補助(ファブ40%等)とは別枠で、資本集約度の低い設計から産業を育てる設計になっている。

DLI制度とは何か

DLI制度とは、インド政府が国内の半導体設計企業・スタートアップ・中小企業を支援する制度です。公式サイトによると、支援は3本柱で構成されます。

  • 設計費への財政支援
  • ツールなど設計インフラへのアクセス提供
  • 製品を市場に出した後の展開連動支援

実施機関はC-DAC(先端計算開発センター)で、監督は電子情報技術省(MeitY)です。対象は、国内企業が中心です。居住するインド市民が実質的に50%超を保有することが、支援を受けた後3年間の条件とされています。公式サイトによると、これまでに承認された企業は120社超です。

なぜ製造ではなく設計に補助するのか

最大の理由は、インドがすでに持つ「人材の厚み」を活かせるからです。DLI公式サイトは、インドが世界の半導体設計エンジニアの20%を擁すると記しています。ただし、この数字は公式サイト上の記載で、独立した調査による裏付けは本稿では確認できていません。

もう1つの理由は、投資の重さの違いです。最先端の工場は数兆円規模の設備が必要で、稼働までに何年もかかります。一方、設計会社は、設計者と設計ツールがあれば動き出せます。

工場を持たず設計に特化するという形なら、製造は海外の(受託製造工場)に任せられます。インドは、まず人材を活かせる設計から産業の入口をつくる戦略だと読めます。

ただし、設計だけでは、製品の量産や供給網の主導権は握れません。そこで別枠の製造支援と組み合わせる形をとっています。

8月31日の通知では何が決まったのか

報道によると、MeitYは2026年8月31日、Semicon 2.0の設計スタートアップ向け支援の条件を通知しました。以下はANIの報道に基づく内容です(報道ベース)。

  • シード資金:設計プロジェクト費の50%または1億5,000万ルピーのうち低い額。マイルストーンごとに支給
  • 株式共同投資:すでにVC(ベンチャーキャピタル)などから資金を得た企業に、同様の条件で政府が出資
  • ロイヤリティ回収型:純売上の5%を、政府支援額の1.5倍に達するまで支払う
  • 展開連動:新製品の純売上の9%を5年間還付。上限は1申請あたり3億ルピー、1社あたり12億ルピー

「最大5割」は、設計費の全体ではなく、上限つきの5割です。また、製品が売れて初めて還付される仕組みが組み込まれています。設計だけで終わらず、製品を売るところまで見届ける作りです。

なお、本稿ではインド政府の原文通知(PIBやMeitYの文書)を直接確認できていません。条件の細部は、通知原文で確認する必要があります。

製造補助とはどう役割分担しているのか

製造は別枠です。IMPRI Indiaのまとめによると、Semicon 2.0は2026年7月15日に閣議承認され、総額は1兆2,750億ルピーです。

製造の設備投資では、政府と企業が費用を対等に分け合う形で、次の割合が政府負担とされています。

  • CMOSファブ:40%
  • その他のファブ:35%
  • 先端パッケージ:35%
  • 従来型パッケージ:25%

つまり、製造は「設備投資の一部を国が負担する」型です。設計は「設計費の一部と、製品の売上に連動して国が負担する」型です。前者は巨額の建設が対象で、後者は人と時間が中心の投資が対象です。

インドは、この2つを同時に走らせ、設計会社が生んだ製品を国内外の工場で作る流れを目指していると見られます。

2026年9月30日時点で、成果はどこまで出ているのか

Business Todayの報道(2026年9月17日)によると、Semicon 2.0は設計企業200社以上を目標に掲げています。旧制度のSemicon 1.0では、105社超が設計に挑戦し、約20社がVC資金を調達、調達額は約80億ルピー(800 crore)でした。

同報道は、設計エンジニアの育成が約7万人にとどまり、当初目標の8.5万人には届いていないとも伝えています。EDAツールを使える大学は400校超に広がりました。

つまり、人材の厚みは大きい一方で、設計企業が資金調達や量産に至る例はまだ限られています。今回の支援は、その隙間を埋める狙いです。9月30日時点で、通知内容を修正する続報は確認できていません。

日本企業にとって何を意味するのか

以下は、公式発表に書かれた内容ではなく、本稿の見方です。

インドの設計会社は、これから製品を作る段階に入ります。設計にはEDAや(再利用できる回路の設計図)が欠かせません。その周辺で、日本企業が装置・材料・ツールの供給側として関われる余地はあります。

一方で、インドの設計会社が増えれば、設計サービスや人材の争奪でも競合が生まれます。供給網の面では、中国への依存を下げたい国々の選択肢が増える意味もあります。中国側の動きは「制裁が、かえって中国の半導体を本気にさせた」で扱っています。

半導体の基本から確認したい場合は、「半導体とは、電気を「通す・通さない」を切り替えられる物質」が入り口になります。

この記事のまとめ

  • インドのMeitYは2026年8月31日、設計スタートアップ向け支援を通知したと報じられた。設計費の50%または1億5,000万ルピーの低い方が上限。
  • DLI制度は、設計費支援・設計インフラ(EDAツール等)・展開連動支援の3本柱で、承認は120社超。
  • インドは世界の設計エンジニアの20%を擁するとDLI公式サイトが記す。人材の厚みを活かす設計支援が戦略の核。
  • 製造はファブ40%・35%、パッケージ35%・25%の設備投資支援が別枠で、設計と製造で役割が分かれている。
  • Semicon 2.0は総額1兆2,750億ルピー、設計企業200社以上を目標に掲げる。

この記事のまとめ

  • インドのMeitYは2026年8月31日、設計スタートアップ向け支援を通知したと報じられた。設計費の50%または1億5,000万ルピーの低い方が上限。
  • DLI制度は、設計費支援・設計インフラ(EDAツール等)・展開連動支援の3本柱で、承認は120社超。
  • インドは世界の設計エンジニアの20%を擁するとDLI公式サイトが記す。人材の厚みを活かす設計支援が戦略の核。
  • 製造はファブ40%・35%、パッケージ35%・25%の設備投資支援が別枠で、設計と製造で役割が分かれている。
  • Semicon 2.0は総額1兆2,750億ルピー、設計企業200社以上を目標に掲げる。
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よくある質問(FAQ)

Q.DLI(設計連動インセンティブ)制度とは何ですか?+

DLI制度とは、インド政府が国内の半導体設計企業・スタートアップ・中小企業を支援する制度です。公式サイトによると、設計費への財政支援、EDAツールなど設計インフラの提供、製品展開後の支援の3本柱で構成され、実施機関はC-DACです。

Q.設計費の最大5割補助とは、具体的にいくらまでですか?+

報道によると、2026年8月31日の通知で、設計プロジェクト費の50%または1億5,000万ルピー(15 crore)のうち、いずれか低い額がマイルストーン連動のシード資金として支給されます(報道ベース)。全額が5割出るわけではなく、上限があります。

Q.なぜインドは製造ではなく設計に補助するのですか?+

インドには設計人材の厚みがあるためです。DLI公式サイトは、インドが世界の半導体設計エンジニアの20%を擁すると記しています。最先端の工場は巨額の設備投資が必要で、人材を活かしやすい設計から育てる構造になっています。

Q.インドの製造向け補助はどうなっていますか?+

製造は別枠で支援されます。IMPRI Indiaのまとめでは、CMOSファブの設備投資は40%、その他のファブは35%、先端パッケージは35%、従来型パッケージは25%が政府負担です。設計は設計費、製造は設備投資と、対象が分かれています。

用語集

ファブレス/ fabless
自社で工場を持たず、設計だけを行う会社。製造はファウンドリに委託する。
EDA/ Electronic Design Automation
半導体の回路を設計するための専用ソフトウェア。これなしに最新チップは作れない。
IP(設計資産)/ Intellectual Property
再利用できる回路の設計図。CPUの基本設計などを各社にライセンスする。
ファウンドリ/ foundry
他社が設計した半導体を、受託して製造する工場。代表はTSMC。

参考資料・引用元

  1. Design Linked Incentive (DLI) Scheme公的機関
    C-DAC/MeitY(chips-dli.gov.in・公式)(2026)— 使用箇所: DLI制度の3本柱(設計費インセンティブ・EDAツール等の設計インフラ支援・展開連動支援)、承認120社超、インドが世界の半導体設計エンジニアの20%を擁するとの公式サイト記載、C-DACが実施機関、国内企業要件(居住インド市民の実質保有50%超)
    https://chips-dli.gov.in/
  2. Rs 15 crore grant, equity co-investment: Semicon 2.0 opens funding route for chip startups報道
    ANI(2026-08-31)— 使用箇所: 2026年8月31日のMeitY通知報道:設計プロジェクト費の50%またはRs15crore(いずれか低い額)のマイルストーン連動シード資金、VC出資済み企業への株式共同投資、純売上5%のロイヤリティ回収型(政府支援額の1.5倍まで)、展開連動で純売上の9%を5年間(1申請Rs30crore・1社Rs120croreが上限)(検索結果の要約で確認・本文は取得できず)
    https://aninews.in/news/business/rs-15-crore-grant-equity-co-investment-semicon-20-opens-funding-route-for-chip-startups20260831160818/
  3. Semicon 2.0 gets bigger: Govt targets 200 chip design startups with Rs 1.27 lakh crore plan, says Ashwini Vaishnaw報道
    Business Today(2026-09-17)— 使用箇所: Semicon 2.0の総額Rs1,27,500crore、設計スタートアップ・企業200社以上の目標、Semicon 1.0で105社超が設計に挑戦しVC調達約20社・約Rs800crore、設計エンジニア約7万人育成(目標8.5万人)、EDAツールを利用できる大学400校超
    https://www.businesstoday.in/india/story/semicon-2-0-gets-bigger-govt-targets-200-chip-design-startups-with-rs1-27-lakh-crore-plan-says-ashwini-vaishnaw-556243-2026-09-17
  4. India Semiconductor Mission 2.0 (2026)調査会社
    IMPRI India(2026-07)— 使用箇所: 2026年7月15日の閣議承認、Rs1,27,500crore、旧ISMの製造補助(CMOSファブ40%、その他ファブ35%、先端パッケージ35%、従来型パッケージ25%)と設計向け支援の役割分担
    https://www.impriindia.com/insights/policy-update/india-semiconductor-mission-2-0-2026/

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