富士電機が世界のパワー半導体上位に居続けているのは、計算用ではなく電力変換用に特化し、IGBTとSiCのモジュールで世界トップ5級の位置を保っているためです。2026年3月期の半導体事業の売上は2,374億円で、全社売上の約2割を占めます。さらに用途は車載が約55%、産業が約45%で、EVの駆動やデータセンターの電源といった需要を取り込んでいます。

パワー半導体そのものの基礎は「EVもデータセンターも、電気の“ムダ”を減らす半導体で動いている」で解説しています。電力が新時代のボトルネックになっている背景は「AIの本当のボトルネックは、半導体ではなく電気だった」も合わせて読むと、富士電機の立ち位置が立体的に見えてきます。

ひとことで言うと(初心者向け)

富士電機は、電気を効率よく変換する「パワー半導体」を作る会社です。スマホのCPUのような計算チップではなく、EVや工場の機械、データセンターの電源で電気のムダを減らすスイッチが主力。日本では三菱電機や東芝、海外ではドイツのInfineonと並ぶ、パワー半導体の有力メーカーのひとつです。

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構造で言うと(投資家向け)

半導体は富士電機の成長ドライバーで、2026年3月期の半導体セグメント売上は2,374億円・営業利益235億円。IGBTモジュールで世界トップ5、第8世代IGBT・第3世代SiCを擁し、車載55%・産業45%の需要を取り込む。競争構造は少数寡占で参入障壁が高い一方、EV市況の減速とInfineonら大手との規模差、SiC先行勢との競争が論点。デンソーと組み2,116億円規模のSiC増産に踏み込む。

富士電機とはどんな会社か

富士電機とは、発電・受配電から産業機器、半導体までを手がける日本の重電・産業の総合電機メーカーです。1923年に古河電気工業とドイツのシーメンスの資本・技術提携で生まれ、社名の「フ(古河)」と「ジ(Siemens=ジーメンス)」が由来とされています。

事業は大きく、発電・社会インフラの「エネルギー」、産業用機器・オートメーションの「インダストリー」、電力変換チップを作る「半導体」、自販機などの「食品流通」に分かれます。共通する軸は、電力を作り・送り・変換し・制御する「パワーエレクトロニクス」(電力を効率よく変換・制御する技術)です。

本記事が主眼に置く半導体事業も、この延長線上にあります。富士電機は装置メーカーとして電力変換の経験を積み重ねてきたからこそ、その心臓部であるパワー半導体を自社で作る強みを持っています。

富士電機の半導体事業はどんな位置づけで、何に使われるのか

富士電機の半導体事業は、電力そのものを変換・制御するパワー半導体に特化した事業です。計算を担うロジックや記憶を担うメモリは作らず、電力用のスイッチであるを大電流向けに束ねた製品が中心になります。

2026年3月期(FY2025)の半導体セグメント売上高は2,374億円、営業利益は235億円でした。全社売上高1兆2,276億円・営業利益1,366億円のうち、半導体は売上で約2割を占めます。前期の2025年3月期(FY2024)は半導体売上2,368億円・営業利益371億円で、EVや再生可能エネルギー向けが利益を押し上げていました(富士電機)。

用途別では、車載(電装)が約55%、産業が約45%という構成です(2024年度時点)。パワー半導体がどこに組み込まれるかを整理すると次のようになります。

用途分野主な製品・装置役割
車載(電装)約55%EV・HVの駆動インバータ、車載充電器モーターを回す電力を変換し、走行効率と航続距離を左右する
産業 約45%汎用インバータ、サーボ、ロボット、工作機械工場のモーターを可変速制御し、省エネと精密制御を担う
エネルギー太陽光・風力のパワーコンディショナ直流と交流を変換し、再エネを系統につなぐ
社会インフラ・民生のUPS(無停電電源装置)、鉄道、エアコン電力を安定供給・制御し、止められない設備を支える

(出典:富士電機)

AIブームでデータセンターの電力が逼迫するなか、UPS(停電時に電力を供給し続ける装置)や高効率電源に使うパワー半導体の需要は構造的に伸びています。そのため富士電機にとって半導体事業は、規模こそ全社の2割でも、成長率の高い注力分野です。

富士電機の技術的な強みはどこにあるか

富士電機の技術的な強みは、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ=高電圧・大電流を高速にオンオフする電力用スイッチ)の世代開発を長年積み上げてきた点にあります。装置から半導体までを一貫して持つため、実際の使われ方を踏まえて製品を作り込めるのが特徴です。

主力のIGBTは第7世代から第8世代モジュールへ進化し、同じサイズで出力を約20%高める改良を続けています。さらに、電流を一方向に流す素子(ダイオード)をIGBTに一体化した「逆導通IGBT」を他社に先駆けて開発し、モジュールの小型化に活かしてきました(富士電機)。

次の柱がSiC(炭化ケイ素)です。SiCはシリコンより電力損失が小さく高温・高電圧に強い次世代材料で、富士電機は第3世代SiC搭載の大容量モジュールを開発し、従来比で出力を約50%高めることを狙っています。

そして、IGBTで培ったモジュール化(複数チップをパッケージにまとめて放熱・配線を最適化する技術)の経験が、SiCでも効いてきます。半導体の素材であるSiCのは加工が難しく、製造の(良品の割合)を上げること自体が技術的な勝負どころになります。

サプライチェーンの中で富士電機はどんな役割か

富士電機はサプライチェーンの中で、パワー半導体を設計から製造まで自社で行うIDM(垂直統合型の半導体メーカー)として、電力を使う産業の「縁の下」を支える役割を担います。富士電機のパワー半導体は、最終的に次の3つの大きな流れに注ぎ込まれます。

第一に、産業オートメーションです。工場のモーターを可変速で動かすインバータやサーボに組み込まれ、省エネと精密制御を実現します。富士電機自身がインダストリー事業でこれらの装置を作っているため、半導体と装置の相乗効果が働きます。

第二に、EV・xEV(電動車)です。駆動インバータの心臓部としてパワー半導体が使われ、自動車部品大手のデンソーなどと連携しながら、車載市場の拡大に対応しています。第三に、データセンターと再生可能エネルギーです。UPSや電源、パワーコンディショナを通じて、AI時代の電力インフラと脱炭素の両方を下支えしています。

完成品にもチップにも富士電機の名前は表に出ませんが、電気を使うあらゆる装置の効率を、パワー半導体という形で内側から決めている存在です。

富士電機の市場ポジションと競争構造はどうなっているか

富士電機はIGBTモジュールで世界トップ5の常連です。IGBTパワーモジュールはInfineon(独・首位で約30%)、三菱電機、富士電機、Semikron Danfoss、StarPowerの上位5社で世界の約7割を占めるとされ、富士電機はこの上位グループの一角を占めます(Valuates Reports)。

一方、次世代のSiC(炭化ケイ素)デバイスでは、ST・onsemi・Infineon・Wolfspeed・ロームの5社で世界売上の7割超を握り、富士電機は追い上げる立場にあります。シリコンIGBTでの強さを、SiC時代にどこまで持ち込めるかが今後の焦点です(Semiconductor Today / TrendForce)。

この市場の競争構造を、「誰と、どんな力関係で戦っているか」という5つの視点で整理すると次のようになります。

力主体強さ理由
競合Infineon(独)・三菱電機・STマイクロ(伊仏)・東芝・onsemi・ローム高上位は少数の有力企業。Infineonが規模で先行し、各社が車載・産業で激しく競う
買い手の交渉力自動車メーカー・Tier1・産業機器メーカー中〜高大口の自動車・産業顧客は価格圧力を持つが、認定済みの代替品が少なく乗り換えは容易でない
供給者の交渉力SiC基板・シリコンウェハー・原材料中SiC基板など一部の素材は供給元が限られ、調達力が競争力を左右する
新規参入—低大規模な前工程ライン投資と、車載での長期の品質認定が高い壁になる
代替品GaN(窒化ガリウム)など他材料中低中電圧の一部でGaNが侵食するが、高電圧・大電流ではIGBT/SiCが当面優位

最大の参入障壁は、巨額の製造設備投資と、車載向けの長期にわたる品質認定です。なぜならパワー半導体は故障が事故に直結するため、採用までに長い信頼性評価を経るからです。そのため、いったん車種や産業ラインに組み込まれると簡単には替えられず、上位企業の地位が崩れにくい構造になっています。

富士電機が抱える弱み・リスクは何か

最大のリスクは、EV市況の減速です。半導体事業は車載(電装)が売上の約55%を占めるため、世界的なEV販売の鈍化はパワー半導体需要に直接響きます。実際、海外の電動車向けの物量が一時的に減速した局面もあり、車載依存は成長ドライバーであると同時に変動要因です。

もう一つが、Infineonら大手との規模差です。首位のInfineonは富士電機より大きな投資余力を持ち、SiCでもST・onsemi・Wolfspeedといった先行勢が量産を広げています。しかも半導体は規模が大きいほど研究開発と設備投資を回しやすいため、トップとの差は構造的な弱みになりえます。

加えて、SiCの立ち上げそのものがリスクです。SiCは需要拡大が期待される一方、各社が一斉に増産へ動いており、需給バランスや価格競争の読み違いが収益を圧迫しかねません。先行投資が需要に先行しすぎれば、稼働率の低下という形で重荷になります。

富士電機の最近の動向はどうか

最近の富士電機は、SiCパワー半導体への投資を加速しています。SiCの6インチ生産能力を、2026年度に2023年度実績比で約9倍へ引き上げる計画を掲げ、2024年度からは津軽工場(青森県)で本格量産を開始しました。2024〜2026年度の3年累計で半導体に1,800億円規模の設備投資を計画しています(富士電機)。

象徴的なのが、自動車部品大手のデンソーとの協業です。両社が共同申請したSiCパワー半導体の供給確保計画は2024年に経済産業省の認定を受け、事業総額は2,116億円、最大助成額は705億円とされました。富士電機は松本工場(長野県)の能力を強化し、2027年度以降を見据えた8インチ(大口径)化の量産技術開発も進めています(EE Times Japan)。

業界全体での富士電機の位置づけは「半導体メーカーは、6つの役割で見ると一気にわかる」で整理した「IDM」に当たります。そもそも半導体とは何かをおさえたい場合は「半導体とは何か」も参考になります。派手な計算チップではありませんが、電気を使うあらゆる装置の効率を内側から決めるパワー半導体で、富士電機は静かに存在感を高めています。

この記事のまとめ

  • 富士電機は重電・産業の総合企業だが、半導体事業は電力変換用の「パワー半導体」に特化している。
  • 2026年3月期の半導体セグメント売上高は2,374億円・営業利益235億円で、全社売上1兆2,276億円の約2割を占める。
  • 強みはIGBT(電力用スイッチ)とSiC(炭化ケイ素)モジュールで、第8世代IGBT・第3世代SiCを擁し、IGBTモジュールで世界トップ5級。
  • 用途は車載(電装)約55%・産業約45%で、EV駆動インバータや産業インバータ、再エネ、データセンター電源を支える。
  • リスクはEV市況の減速・Infineonら大手との規模差・SiC先行勢との競争で、デンソーと組み2,116億円規模のSiC増産を進めている。

この記事のまとめ

  • 富士電機は重電・産業の総合企業だが、半導体事業はパワー半導体(電力変換用の半導体)に特化している。
  • 2026年3月期の半導体セグメント売上高は2,374億円・営業利益235億円で、全社売上1兆2,276億円の約2割を占める。
  • 強みはIGBT(電力用スイッチ)とSiC(炭化ケイ素)モジュールで、第8世代IGBTや第3世代SiCを擁し世界トップ5級。
  • 用途は車載(電装)約55%・産業約45%で、EV駆動インバータや産業インバータ、再エネ、データセンター電源を支える。
  • リスクはEV市況の減速、Infineonら大手との規模差、SiCで先行する競合との競争。デンソーと組み2,116億円のSiC増産を進める。
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よくある質問(FAQ)

Q.富士電機の半導体事業とはどんな事業ですか?+

富士電機の半導体事業は、電力そのものを変換・制御する「パワー半導体」の事業です。計算するチップ(ロジックやメモリ)は作らず、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ=電流を高速にオンオフする電力用スイッチ)やSiC(炭化ケイ素)モジュールを主力とします。2026年3月期の半導体セグメント売上高は2,374億円で、全社売上1兆2,276億円の約2割を占めます。

Q.富士電機はパワー半導体で世界何位くらいですか?+

富士電機はIGBTモジュールで世界トップ5の常連です。IGBTパワーモジュールはInfineon(独・首位で約30%)、三菱電機、富士電機、Semikron Danfoss、StarPowerの上位5社で世界の約7割を占めます。SiCではST・onsemi・Infineon・Wolfspeed・ロームが先行しており、富士電機は追い上げる立場です。

Q.富士電機のパワー半導体はどこに使われていますか?+

用途別の売上構成は車載(電装)が約55%、産業が約45%です(2024年度時点)。具体的にはEV・ハイブリッド車の駆動インバータ、産業用のモーター制御・インバータ、太陽光や風力の再生可能エネルギー、データセンターのUPS(無停電電源装置)や電源など、電力を変換する装置に幅広く組み込まれています。

用語集

トランジスタ/ transistor
電気のスイッチ。オン/オフで「0と1」を表し、計算と記憶の最小単位になる。
ウェハー/ wafer
半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
データセンター/ data center
大量のサーバーをまとめて置き、24時間動かし続ける施設。クラウドやAIの計算はここで行われる。
歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。

参考資料・引用元

  1. セグメント情報(日本基準)一次情報
    富士電機(2026-04)— 使用箇所: FY2025/FY2024の半導体セグメント・全社の売上高・営業利益
    https://www.fujielectric.co.jp/ir/finance/detail/segment.html
  2. 2024年度通期決算説明会資料一次情報
    富士電機(2025-04)— 使用箇所: FY2024半導体2,368億円・営業利益371億円、EV/再エネ需要
    https://www.fujielectric.co.jp/common-resource/ir/data/20250425_1a.pdf
  3. アニュアルレポート2024 半導体一次情報
    富士電機(2024-09)— 使用箇所: 用途別(車載55%/産業45%)・第8世代IGBT・第3世代SiC
    https://www.fujielectric.co.jp/about/ir/library/ar2024/segment03/
  4. 半導体事業戦略(SiC増産)一次情報
    富士電機(2024-09)— 使用箇所: SiC6インチ能力2026年度約9倍・3年累計1,800億円投資
    https://www.fujielectric.co.jp/common-resource/ir/data/ar202409-04.pdf
  5. 富士電機とデンソーがSiCで協業、2,116億円投資報道
    EE Times Japan(2024-11)— 使用箇所: デンソー協業・経産省認定・総額2,116億円/最大助成705億円・8インチ化
    https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2411/29/news191.html
  6. Global IGBT Power Module Market Report 2024調査会社
    Valuates Reports (QYResearch)(2024)— 使用箇所: IGBTモジュール上位5社(Infineon約30%首位・三菱・富士ほか)で約7割
    https://reports.valuates.com/market-reports/QYRE-Auto-20K7787/global-igbt-power-module
  7. SiC power device share 2023調査会社
    Semiconductor Today / TrendForce(2024-06)— 使用箇所: SiC上位5社(ST/onsemi/Infineon/Wolfspeed/ローム)で売上7割超
    https://www.semiconductor-today.com/news_items/2024/jun/trendforce-200624.shtml

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