データセンター内でサーバーとスイッチをつなぐポートには、電気信号と光信号を相互に変換する「光トランシーバ(光モジュール)」が挿さっている。AIクラスタの規模拡大が速度競争を加速し、2024〜2025年にかけて400Gから800Gへの移行が現実になった。

AIのを支えるデータセンターでは、何千〜何万台ものサーバーが光ファイバーで結ばれています。どのGPUサーバーも、スイッチと接続するポートに光モジュールを挿し、電気信号を光に変えてから通信します。GPUをどう「つなぐか」の全体構造は「AIの学習速度を決めるのは、GPUより"つなぎ方"だった」で扱いました。本記事はその配線の主役であるプラガブル光トランシーバ(差し込み型光モジュール)に焦点を当て、仕組み・速度進化・市場・次世代技術を解きます。

ひとことで言うと(初心者向け)

データセンター内のサーバーとスイッチを結ぶケーブルの接続部には、電気信号を光信号に変える「光モジュール(光トランシーバ)」が差し込まれています。光はデータを電気より速く、遠くまで、少ない電力で運べます。AIが普及しGPUを大量に束ねる必要が生じると、この光モジュールの速度が急速に上がり、400G→800G→1.6Tと進化しました。

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構造で言うと(投資家向け)

プラガブル光トランシーバはAI DC配線インフラの消耗品で、Coherent・Lumentum(米)がグローバル上位、Innolight・Hisense(中国)がコスト競争力で台頭。800GはAI DCの2025年標準帯域となり、1.6Tが2026年から立ち上がる見込み。CPO(共パッケージ光学)が次世代の電力削減策だが、既存設備への適用は限定的で当面はプラガブルが量の主流。市場はAIデータセンター需要を主因に高成長が続いている。

なぜデータセンター内の配線が「光」になったのか

銅線の電気配線は、距離が伸びるほど信号が崩れ、崩れを補正する回路が電力と発熱を増やすからです。チップ内部や基板上の数センチなら銅で十分ですが、からラック、フロアからフロアという数十センチ〜数十メートルの距離になると、光に置き換えるほうが有利になります。

初心者向け
簡単に言うと、電気の配線は近い距離ならコストが安く済みますが、遠くなるほど不利になります。だからサーバーどうしをつなぐような距離では、最初から光を使ったほうが結局は速くて電力の無駄も少なくなります。

光ファイバーの信号は1300〜1550nm帯の赤外線で、損失が極めて小さく(1550nmで約0.2dB/km)、電磁ノイズも受けません。「光ファイバーは、光を閉じ込めて遠くまで運んでいた」で解説した通り、によって光を損失なく導くのが光ファイバーの物理原理です。

内では、スイッチやサーバーのポートにプラガブル光トランシーバを挿し、そこからパッチコードの光ファイバーケーブルを延ばします。プラガブル(pluggable)は「差し込める」という意味で、コネクタ式で取り外せる交換可能な部品です。この方式が普及した理由は、世代交代のたびに部品だけ挿し替えればよく、スイッチ本体を丸ごと廃棄しなくて済む運用コストの低さにあります。

光トランシーバとはどんな部品か

光トランシーバは、電気→光の変換(送信)と光→電気の変換(受信)を1個のモジュールに収めた部品です。内部にはレーザーダイオード(電気パルスを光に変える)と、フォトダイオード(光を電気に変える)が搭載されています。

さらに、崩れた信号を整える頭脳として、DSP(デジタル信号処理チップ)も内蔵されています。このDSPチップの大半は、BroadcomとMarvellの2社が供給しています。

形状規格の主なものは次の通りです。

規格レーン数主な速度特徴
QSFP-DD8電気レーン400G / 800G小型・既存ポートと互換性が高い
OSFP8電気レーン400G / 800GQSFP-DDより大型・放熱に優れ高速化に有利
1.6T新世代8電気レーン(次世代変調)1.6TOSFP-XD等

800Gを実現するOSFP(Octal Small Form-factor Pluggable)はQSFP-DDより約20%大きい形状です。光部品を多く収容でき放熱スペースも広いため、高消費電力の高速製品に向いています。そのため、AIデータセンターでは放熱の余裕を重視してOSFPが選ばれるケースが増えています(Optical Internetworking Forum)。

100G→400G→800G→1.6T、速度進化の歴史

光トランシーバの1ポートあたり速度は約10年で16倍以上に増えました。進歩を支えた最大の変化は変調方式の刷新です。

世代代表速度レーン数×レーン速度変調主な普及時期
第3世代100G4×25GNRZ(2値)2015年〜
第4世代400G8×50GPAM4(4値)2020年〜
第5世代800G8×100GPAM4(4値)2024年〜
第6世代1.6T8×200G(予定)PAM4等次世代―

PAM4(4値パルス振幅変調)とは、信号の振幅を4段階(00・01・10・11)に割り振り、1回の変化で2ビットを伝える変調方式です。従来のNRZ(2値・1ビット/変化)に比べ、同じ電気帯域幅で2倍のデータを運べます。

したがって800Gは、業界団体のOIFが定めた「1チャネル約112Gbps」の電気規格を8チャネル束ねることで実現しています(Optical Internetworking Forum)。

AI DCでなぜ800Gが標準になったのか

AIクラスタの大規模化が直接の引き金です。NVIDIAのGB200 NVL72はラック1台に72基のGPUを収め、ラック間接続のポートに400G〜800Gクラスの帯域を要求します。何万台ものGPUサーバーをつなぐスパインファブリック(バックボーン)には、数百〜数千本のポートが必要です。

ポート速度を2倍にできれば、同じ本数のファイバーで2倍のトラフィックを捌けます。だからこそ、この論理が800Gへの移行を2024〜2025年に加速しました。

GPUをつなぐ「スケールアウト」用途だけでなく、(学習済みAIを使う処理)のクラスタでも応答速度を左右するネットワーク帯域が重要です。推論需要は2026年に全AI計算の約2/3に達するとも予測されています(業界解説)。

光トランシーバはどこに挿さるのか

データセンターのネットワーク構造はスパイン・リーフ型が主流です。サーバーに近いリーフスイッチと、リーフを相互につなぐスパインスイッチの2層が基本で、接続点ごとに光トランシーバが必要になります。

  • サーバー〜ToRスイッチ(ラック最上部に置くスイッチ): 400G〜800G
  • ToRスイッチ〜スパイン(ネットワークの幹の部分): 800G〜1.6T
  • AI専用クラスタどうしをつなぐ接続: 800G以上

大規模なAIクラスタ1つでも数万ポート規模の光トランシーバが使われます。トランシーバは消耗品であり、光出力や受光感度が劣化すると交換が必要です。世代交代のたびに旧品を抜いて新品を挿すだけで済むプラガブル方式の強みがここにあります(Coherent Corp.)。

誰が作っているのか

光トランシーバの製造は、レーザー・フォトダイオードなどの光デバイスとDSPを統合する複合技術です。市場は少数の専業ベンダーに集中しています。

ベンダー本社特徴
Coherent Corp(NYSE: COHR)米国II-VI・Finisar統合の光部品垂直統合型大手
Lumentum Holdings(NASDAQ: LITE)米国レーザー・フォトニクス専業の大手
Innolight Technology中国コスト競争力・ハイパースケーラへの採用拡大
Hisense Broadband中国大量生産体制・汎用品で台頭

CoherentはII-VIがFinisar(光通信大手)を買収して改称した企業で、光デバイスから組み立てまでを一貫して内製できる数少ない存在です。中国勢のInnolight・Hisenseは価格競争力で市場シェアを伸ばし、一部のDC運営者はコスト最適化のために中国製を採用しています(Mordor Intelligence)。

DSPチップを供給するBroadcomは光接続関連の売上も持ち、Marvellは800G/1.6T移行でシリコンフォトニクスに参入しています。このように、設計・部品・組み立てにまたがるサプライチェーンで各社が役割を分担しています。

CPO(共パッケージ光学)とプラガブルの違い

CPO(Co-Packaged Optics)は光エンジンをスイッチと同じパッケージに封入し、電気配線を数センチに縮めて変換ロスと消費電力を大幅削減する次世代方式です。NVIDIAのSpectrum-X Photonicsスイッチ(2025年発表、144ポート800G)やBroadcomのTomahawk 6(102.4Tbps CPO)が代表例です。光部品消費電力を約65%削減するとされています(NVIDIA Newsroom)(Broadcom)。

プラガブルと最も大きく異なる点は交換可否です。プラガブルは抜き挿しで交換できるため既存設備に後から適用しやすい一方、CPOは内蔵型で取り外せず、新設のデータセンターや設備更新時にのみ採用できます。CPOの仕組みと市場詳細は「AIチップは、銅の配線をやめて光でつながり始めた」で扱っています。

当面はプラガブルが市場の量を支えます。CPOの普及には設備更新サイクル(5〜10年)がかかるため、800G・1.6Tのプラガブルは今後数年間、AI DCの標準部品で居続けます。

光トランシーバは、AI半導体を支える配線部品の一つです。AI半導体そのものの基礎から知りたい場合は「AI半導体とは何か」を参照してください。

この記事のまとめ

  • 光トランシーバはデータセンターのポートに差し込む交換型部品で、電気↔光を変換しサーバー間の高速通信を実現する。
  • PAM4変調の採用で400G→800Gへ速度が倍増し、800GはAI DCの2024〜2025年標準として定着した。
  • 形状はOSFP(大型・放熱優位)とQSFP-DD(小型・互換性優位)が主流で、次世代1.6Tの規格化も進行中。
  • 製造はCoherent・Lumentum(米)とInnolight・Hisense(中国)が担い、内蔵DSPはBroadcom・Marvellが供給する。
  • CPO(共パッケージ光学)は電力を大幅削減する次世代方式だが、既存設備への適用が限定的で当面はプラガブルが量の主流。

この記事のまとめ

  • 光トランシーバはデータセンター内で電気↔光信号を変換するカードリッジ型部品で、スイッチやサーバーポートに差し込んで使う。
  • PAM4変調の採用により400G→800Gへ速度が倍増し、800GはAI DCの2024〜2025年標準として定着した。
  • 形状はOSFP(大型・放熱優位)とQSFP-DD(小型・互換性優位)が主流で、次世代1.6Tの規格化も進行中。
  • 製造はCoherent・Lumentum(米)とInnolight・Hisense(中国)が担い、内蔵DSPはBroadcom・Marvellが供給する。
  • CPO(共パッケージ光学)は電力を大幅削減する次世代方式だが、当面はプラガブルが市場の量を支える。
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よくある質問(FAQ)

Q.光トランシーバとは何ですか?+

データセンター内でサーバーやスイッチのポートに差し込む、電気信号と光信号を相互に変換するカードリッジ型の部品です。内部にはレーザーダイオード(送信)・フォトダイオード(受信)・DSPチップが収まっており、光ファイバーケーブルと接続することで、長距離を高速・低消費電力で通信できます。

Q.OSFPとQSFP-DDはどう違いますか?+

どちらも8電気レーンを持つ800G対応の形状規格ですが、サイズが異なります。OSFPはQSFP-DDより約20%大きく、より多くの光部品や放熱スペースを確保できるため高速・高消費電力の製品に向いています。QSFP-DDは小型で既存ポートとの互換性が高く、コスト面で有利な場合があります。AIデータセンターでは放熱面を重視してOSFPが選ばれるケースが多くなっています。

Q.PAM4とは何ですか?+

Pulse Amplitude Modulation 4(4値パルス振幅変調)の略で、1回の信号送出で4段階の振幅値(00・01・10・11)を使い、2ビットを同時に伝える変調方式です。従来の2値(NRZ)に比べ、同じ周波数帯域幅で2倍のデータを伝えられます。この技術が400G以降の光トランシーバの速度飛躍を支えています。

Q.CPOと光トランシーバ(プラガブル)の違いは何ですか?+

プラガブル光トランシーバはスイッチやサーバーのポートに差し込んで使う交換可能な外付け部品です。一方CPO(共パッケージ光学)は、光エンジンをスイッチASICと同じパッケージに封入する内蔵型の次世代方式です。CPOは電気配線を数センチに縮めて変換ロスと消費電力を大幅に削減できますが、外側から差し替えることができず、既存設備には適用しにくい面があります。現状はプラガブルが市場の主流で、CPOは新設の大規模AIデータセンターから段階的に普及しています。

Q.1.6Tはいつ普及しますか?+

800Gが2024〜2025年のAI DCで主流になったように、1.6Tはその次の波となる見込みです。形状規格としてはOSFP-XDや次世代QSFP-DDベースの仕様が標準化機関で議論されています。

Q.AIデータセンターで光トランシーバーが必要な理由は何ですか?+

AIの学習・推論には何万台ものGPUサーバーを束ねる必要があり、サーバー間・ラック間を高速でつなぐ配線が不可欠だからです。銅線の電気配線は数十メートルになると信号が劣化しますが、光ファイバーを使えば損失なく高速通信できます。光トランシーバーはその電気↔光変換を担うため、大規模AIクラスターには何万個もの光トランシーバーが必要となります。

用語集

データセンター/ data center
大量のサーバーをまとめて置き、24時間動かし続ける施設。クラウドやAIの計算はここで行われる。
ハイパースケール/ hyperscale
クラウド大手(Google・Amazon・Microsoftなど)が運営する超大規模なデータセンター。
液冷(液体冷却)/ liquid cooling
空気の代わりに冷却液でチップを冷やす方式。発熱の大きいAIチップを冷やすために急速に普及している。
推論(インファレンス)/ inference
学習済みのAIを実際に使って答えを出す処理。質問に答える・文章を生成するなど、利用時の計算がこれにあたる。
学習(トレーニング)/ training
大量のデータからAIモデルを作り込む処理。膨大な計算力を一度に必要とし、巨大なGPUクラスタを使う。
ラック/ server rack
サーバーを縦に積み重ねて収める棚。高さの単位は「U」(1U=約4.4cm)で、42Uサイズが一般的。
ASIC(カスタムチップ)/ Application-Specific Integrated Circuit
特定の用途だけに特化して作る専用チップ。汎用品より無駄がなく、決まった処理を安く・省電力でこなせる。

参考資料・引用元

  1. OIF 800G Application Technical Work — CEI-112G Specifications業界団体
    Optical Internetworking Forum (OIF)(2023)— 使用箇所: 800G光インタフェースの業界標準規格・CEI-112G(1電気チャネル約112Gbps / PAM4)を策定し、OSFP 800GやQSFP-DD800はこれをSR8/LR8等の物理規格に適用・OIFはTelecordia/AT&T/Cisco等が主導する標準化団体
    https://www.oiforum.com/technical-work/hot-topics/800g/
  2. Optical Transceiver Market Size, Share & Trends Analysis調査会社
    Mordor Intelligence(2025)— 使用箇所: 光トランシーバ市場規模・AIデータセンター需要が2024〜2025年の成長を牽引・800G移行が収益拡大の主軸(要確認)
    https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/optical-transceiver-market
  3. Coherent Corp Investor Relations — Products & Strategy (FY2025)一次情報
    Coherent Corp. (NYSE: COHR)(2025)— 使用箇所: 光トランシーバ最大手級・II-VI(Finisar統合)がCoherentに改称(2022)・800G OSFP量産・AI DC向け売上が成長主軸・BroadcomやMarvellとDSPを組み合わせ供給(要確認)
    https://www.coherent.com/investors
  4. NVIDIA Announces Spectrum-X Photonics, Co-Packaged Optics Networking Switches to Scale AI Factories to Millions of GPUs一次情報
    NVIDIA Newsroom(2025-03)— 使用箇所: GTC2025発表のQuantum-X/Spectrum-X Photonics、電力効率3.5倍・レーザー4分の1・144ポート800Gbps・液冷設計
    https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-spectrum-x-co-packaged-optics-networking-switches-ai-factories
  5. Broadcom Announces Tomahawk 6 – Davisson, the Industry's First 102.4-Tbps Ethernet Switch with Co-Packaged Optics一次情報
    Broadcom (GlobeNewswire)(2025-10)— 使用箇所: 第3世代CPO Tomahawk 6、200Gbps/lane・102.4Tbps、光部品電力約65%削減・5万台超出荷
    https://www.globenewswire.com/news-release/2025/10/08/3163429/19933/en/Broadcom-Announces-Tomahawk-6-Davisson-the-Industry-s-First-102-4-Tbps-Ethernet-Switch-with-Co-Packaged-Optics.html
  6. AIデータセンターのネットワーク(InfiniBand/Ethernet/NVLink)調査会社
    業界解説(媒体集計)(2025)— 使用箇所: 大規模分散学習でGPU間通信が律速・ノード内のスケールアップ(NVLink)とノード間のスケールアウト(InfiniBand/Ethernet)・Ultra Ethernetの台頭
    https://www.nvidia.com/en-us/data-center/

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