この指定は、国防総省が公表する「1260Hリスト」への掲載を指します。半導体の基本は「半導体とは、電気を「通す・通さない」を切り替えられる物質」で解説しています。CXMTが台頭した経緯は「DRAM市場の「世界4位」は、2016年生まれの中国メーカーだった」で解説しました。今回は、訴訟そのものの意味を扱います。
結論から言うと、指定を法廷で争うのはCXMTが初めてではありません。しかも提訴の10日前に、別の企業の事件で連邦控訴裁が重要な判断を出しています。
CXMTは、アメリカ国防総省から『中国軍の関係企業』とリストに載せられたことに納得できず、裁判で取り消しを求めました。同じ形で争った企業は過去にもあり、裁判所が国防総省の手続きの不備を認めた例もあります。ただし、勝ってもリストからすぐ外れるとは限りません。判決はまだ出ていません。
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CXMTは2026年8月28日、DC連邦地裁(1:2026cv03025)に提訴。指定は2025年1月版から掲載され、2026年2月の版で一時外れたが撤回、6月8日版で残った。8月18日のHesai控訴審判決は事前通知・反論機会の欠如を認めたが、指定は無効にせず差戻し。DJI(8月14日)は一部差戻しでリスト残留。国防総省の契約禁止は2026年6月30日、製品調達禁止は2027年6月30日から。民間取引への直接効力はないが、調達先選びへの心理的圧力は残る。判決時期は未定。
CXMTは何を求めて、誰を訴えたのか
CXMTが起こしたのは、米国防総省などを相手取った行政訴訟です。事件は、コロンビア特別区連邦地裁の1:2026cv03025で、提訴日は2026年8月28日と記録されています。日本語のニュースでは29日と書かれる場合がありますが、時差によるものとみられます。
求めているのは、指定の取り消しとリストからの削除です。CXMTは、自社は軍事企業ではなく、民生・商用チップだけを設計していると主張しています。報道によると、訴状は指定が恣意的で、証拠が不十分で、適正手続きにも反すると訴えています。
指定の経緯は少し複雑です。WilmerHaleの解説によると、CXMTは2025年1月版の時点で掲載されていました。2026年2月に出た版ではCXMTが外れているように見えましたが、この版は撤回されました。6月8日に公表された版で、CXMTは再びリストに残っています。
1260Hリストに載ると、何が制限されるのか
1260Hリストは、国防授権法1260H条にもとづき、国防長官が毎年議会へ出す「中国軍事企業」の一覧です。制限の中心は、国防総省の調達です。WilmerHaleによると、次の2段階で始まります。
- 2026年6月30日から:リスト掲載企業との契約の新規締結・更新を禁止。
- 2027年6月30日から:掲載企業が製造した物品を含む製品の調達を禁止。
一方で、民間企業同士の取引を直接禁じる制度ではありません。DRAMは主にスマートフォンやPCに使われるため、CXMTの売上に直接ぶつかるのは国防総省の調達ではありません。それでも、指定は取引先に慎重な判断を促す強いシグナルになります。実際に米政府の圧力が調達の議論に及んだ経緯は「米商務長官がアップルに「中国製メモリは使うな」と伝えていた」で扱いました。
「初の法廷闘争」ではない——過去にどんな前例があるのか
指定を争った企業は、CXMT以前にもあります。主な前例を整理します。
- Xiaomi(2021年):1月29日に提訴し、3月12日に仮差止めを得て、5月25日に削除されました(Holland & Knight)。
- Hesai(2024年提訴):地裁は国防総省を勝たせましたが、2026年8月18日の控訴審で原判決が破棄されました。
- DJI(2024年提訴):2026年8月14日の控訴審で、貢献度の認定だけが差し戻されました。
Xiaomiの事件は、国防総省が仮差止めに控訴せず和解して決着しました。当時は1260Hの前身にあたる中国軍事企業リストでした。仮差止めとは、本裁判の結論が出る前に、被害の拡大を止めるため一時的に処分の効力を止める命令です。ただし当時と今では制度も異なるため、同じ結果になる保証はありません。
10日前のHesai控訴審判決は、CXMTに何をもたらすのか
2026年8月18日のHesai判決は、CXMTと同じ論点に触れています。控訴裁は、指定には評判上と法律上の影響が伴うため、国防長官は最終決定の前に、利用する非機密資料の通知と反論の機会を与える必要があったと判断しました。
この判断が意味するのは、国防総省の手続きに欠陥があれば、指定は法廷で問題にされうるということです。CXMTが訴状で適正手続き違反を訴えたと報じられているのは、この流れと重なります。
ただし、限界も判決文にあります。控訴裁は指定を無効にせず、手続きをやり直すよう差し戻すにとどめました。さらにHesaiは、判決前の2026年6月に公表された新しい版にも再び掲載されています。つまり、手続きの欠陥を認められても、リストから外れるとは限りません。
DJIの判決(8月14日)は、別の合議体が同じ制度を扱い、適正手続きの主張を退けました。理由は、DJIが「事業の遂行を広く妨げられる」という一つの理屈しか主張せず、契約排除という理屈を主張しなかったためです。争い方によって結論が分かれうることを示しています。
訴訟の現状と、今後の焦点は何か
2026年9月30日時点で、CXMTの事件に判決や取り下げは確認できていません。国防総省側の反論や、仮差止めの申立ての有無も、確認できた範囲では公表されていません。一次記録のJustia掲載ページは、執筆時に直接開けなかったため、記録の細部は未確認です。
今後の焦点は次の3つです。
- CXMTが仮差止めを申し立てるか(Xiaomiの前例では、これが早期決着の起点でした)。
- 国防総省が、6月版に示した指定理由を法廷でどこまで説明できるか。
- Hesai・DJIの差戻し審の結果が、CXMTの審理に影響するか。
米中の半導体摩擦は、輸出規制だけでなく、指定リストの適法性を争う段階に入りました。全体像は「対中AIチップ輸出の「許可」は6ヶ月で無効化された」で整理しています。CXMTへの判断が出れば、この構図は大きく動きます。
この記事のまとめ
- CXMTは2026年8月28日、米国防総省の1260Hリスト指定の取り消しを求めて連邦地裁に提訴した。9月30日時点で判決も取り下げもない。
- 指定を争うのは初めてではない。Xiaomiは2021年に仮差止めを得て削除され、Hesai・DJIは2026年8月に控訴審判決を受けた。
- 8月18日のHesai判決は、指定前の通知と反論の機会が必要と判断した。ただし指定は無効にせず、差戻しにとどまった。
- CXMTは2025年1月版から掲載され、2026年2月の版で一時外れたが撤回、6月8日の版で残った。
- 指定は民間取引を直接禁じない。勝訴しても削除までの道のりは長く、結果は確定していない。
この記事のまとめ
- CXMTは2026年8月28日、米国防総省の1260Hリスト指定の取り消しを求めてワシントンの連邦地裁に提訴した。9月30日時点で判決も取り下げもない。
- 指定を法廷で争うのはCXMTが初めてではない。Xiaomiは2021年に仮差止めを得て削除され、Hesai・DJIは2026年8月に控訴審判決を受けた。
- 8月18日のHesai判決は、指定前に通知と反論の機会が必要と判断した。ただし指定は無効にせず差し戻しにとどめ、Hesaiは2026年6月版にも掲載されている。
- CXMTは2025年1月版から掲載されている。2026年2月の版で一時外れたが、撤回された後、6月8日の版に残った。
- 指定は民間取引を直接禁じない。勝訴しても、削除に至るまでの道のりは長く、結果は確定していない。
よくある質問(FAQ)
Q.1260Hリストとは何ですか?+
1260Hリストとは、米国防総省が「中国軍事企業」と認定した企業を一覧にした公表リストです。根拠は2021会計年度の国防授権法1260H条で、国防長官が毎年議会へ提出し、公開部分を連邦官報に載せます。指定された企業は、国防総省との契約などが制限されます。
Q.CXMTは何を求めて提訴したのですか?+
CXMTは、国防総省による指定の取り消しとリストからの削除を求めています。CXMTは、自社は軍事企業ではなく民生・商用チップだけを設計していると主張しています。報道によると、訴状は指定が恣意的で証拠が不十分であり、適正手続きにも反すると訴えています。
Q.訴訟の判決は出ていますか?+
出ていません。2026年9月30日時点で、判決や取り下げは確認できていません。事件は米コロンビア特別区連邦地裁の1:2026cv03025で、提訴日は2026年8月28日です。
Q.過去に1260H指定を争って勝った企業はありますか?+
1260Hの前身にあたる中国軍事企業リストでは、Xiaomiが2021年に仮差止めを得て、同年5月にリストから削除されました。1260Hでは、Hesaiが2026年8月18日の控訴審で手続き上の欠陥を認められましたが、判決は指定を無効にせず差し戻しにとどまりました。DJIは同月14日の控訴審で一部が差し戻されましたが、リストには残っています。
用語集
- DRAM/ Dynamic Random Access Memory
- 電源を切ると消える、高速な作業用メモリ。CPUやGPUが計算中のデータを一時的に置く。
参考資料・引用元
- CHANGXIN MEMORY TECHNOLOGIES, INC. v. U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE et al, 1:2026cv03025公的機関U.S. District Court for the District of Columbia(Justia Dockets掲載)(2026-08-28)— 使用箇所: 訴訟の事件番号1:2026cv03025・提訴日2026年8月28日・行政手続法(APA)に基づく行政決定の審査請求(Justiaの掲載情報。記録ページ自体は執筆時に直接開けず、検索結果の要約で確認)https://dockets.justia.com/docket/district-of-columbia/dcdce/1:2026cv03025/296031
- Hesai Technology Co., Ltd. v. United States Department of Defense, No. 25-5256(D.C. Cir. opinion)公的機関U.S. Court of Appeals for the D.C. Circuit(2026-08-18)— 使用箇所: 1260H指定にはデュープロセス上、事前通知と反論機会が必要と判断し原判決を破棄・差戻し(指定自体は無効化せず)、改正1260Hが2024年12月23日発効で指定理由の公表を義務化、2026年6月10日の連邦官報告示(91 Fed. Reg. 35,189)、指定の法的効果(国防総省の調達契約禁止等)https://media.cadc.uscourts.gov/opinions/docs/2026/08/25-5256-2188737.pdf
- SZ DJI Technology Co., Ltd. v. United States Department of Defense, No. 25-5367(D.C. Cir. opinion)公的機関U.S. Court of Appeals for the D.C. Circuit(2026-08-14)— 使用箇所: DJI事件でD.C.巡回区控訴裁がデュープロセス等の主張を退け、軍民融合への「貢献」認定についてのみ差戻し(一部認容・一部破棄)https://media.cadc.uscourts.gov/opinions/docs/2026/08/25-5367-2188259.pdf
- Pentagon Adds 65 New Entities to the 1260H List of Chinese Military Companies報道WilmerHale(2026-06-11)— 使用箇所: 2026年6月の直接契約禁止・2027年6月の第三者経由調達禁止という制限の効果。2026年6月8日版でCXMT・YMTCの掲載が維持されたこと(2月版では外れたように見えた)https://www.wilmerhale.com/en/insights/client-alerts/20260611-pentagon-adds-65-new-entities-to-the-1260h-list-of-chinese-military-companies
- Chinese memory maker CXMT sues Pentagon to get off US list報道The Next Web(2026-08)— 使用箇所: CXMTの主張(軍事企業ではなく民生・商用チップのみ設計)、2025年1月指定・2026年2月一時削除・2026年6月再掲載の経緯、判決は出ていないことhttps://thenextweb.com/news/cxmt-sues-pentagon-1260h-list-europe-memory-dram
- U.S. Removes Xiaomi from List of Banned Chinese Companies業界団体Holland & Knight(2021-05)— 使用箇所: Xiaomiの前例(2021年1月29日提訴・3月12日に仮差止め・国防総省は控訴せず和解し5月25日に裁判所が命令に署名してリストから削除)https://www.hklaw.com/en/insights/publications/2021/05/us-removes-xiaomi-from-list-of-banned-chinese-companies
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