チップを作るたびに、ウェハーは削られ、磨かれ、また次の層が積み重ねられる。最先端の半導体では、この「研磨」を10回以上繰り返す。その装置の世界シェア37%を握る日本企業が、荏原製作所です。

半導体製造の表舞台を飾るのは露光装置(ASMLのEUV)や成膜装置(アプライドマテリアルズの CVD)だ。しかし、多層配線を積み上げるたびに欠かせない「研磨」という縁の下の工程を担う装置もある。「半導体工場の製造フロー」の中で、CMPは毎層の成膜後に登場する、見えにくいが不可欠なプロセスだ。

ひとことで言うと(初心者向け)

チップは何十層もの配線を重ねて作ります。積むたびに表面に凹凸ができ、次の層がうまく積めなくなるため、削って平らにする「CMP(化学機械研磨)」が必要です。荏原製作所はこのCMP装置で世界シェア37%(世界2位)を持ち、ドライ真空ポンプとともに半導体工場を支えています。

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構造で言うと(投資家向け)

荏原製作所の精密・電子事業はCMP装置(世界シェア37%・経産省2025年資料、AMAT52.6%に次ぐ2位)とドライ真空ポンプが核。2030年首位目標を掲げ研磨均一性・終点検出技術で差別化。CMP装置は最先端ロジックの多層配線工程で1枚あたり10工程超使われる構造需要で、微細化が進むほど精度要求が増す。AMAT・荏原の2社寡占で参入障壁は極めて高い。

CMPとは何か——多層配線の「積む前に平らにする」工程

現代の最先端チップは、の上に何十層もの金属配線を積み重ねて作られる。例えばTSMCの2nm世代では、銅の金属配線層は15層を超える。問題は、層を積むたびに表面に微細な凹凸が生じることだ。

凹凸が残ったまま次の層を「成膜」すると、膜の厚みが不均一になる。その上で露光を行えば焦点が合わず、パターンが精度よく転写できなくなる。特に数ナノメートルの精度が必要な最先端プロセスでは、ナノメートル単位の凹凸がを大幅に下げる原因となる。

これを解決するのがCMP(Chemical Mechanical Planarization、化学機械研磨)だ。回転するプラテン(定盤)の上にウェハーを押し当て、砥粒と化学薬液を混合した「スラリー」を流しながら研磨し、表面を精密に平坦化する。化学的な溶解と機械的な研削を同時に行うため、機械的な力だけでは取り切れない極薄の膜の凹凸も処理できる。

最先端チップでは、STI(素子分離)・タングステンプラグ・銅ダマシン配線と、工程ごとに専用のCMPが入る。1枚のウェハーに施すCMPの回数は10工程を超え、使うスラリーも装置仕様も工程によって異なる(業界解説・fabProcess)。

調査会社出典半導体前工程の基本フロー(成膜・露光・エッチング等の反復)発行業界解説(媒体集計)公開2025使用箇所ウェハ洗浄→成膜→レジスト塗布→露光→現像→エッチング→不純物注入→CMPを数百回反復し多層回路を形成・クリーンルームと歩留まり管理

荏原製作所とはどんな会社か

荏原製作所は1912年創業、東京都大田区に本社を置く総合機械メーカーで、東証プライムに上場する(荏原製作所・ebaraIR)。創業時はポンプメーカーとして始まり、日本初のターボポンプを手がけた歴史を持つ。

現在の事業は大きく二本柱で構成される。一つは「流体機械事業」——建設・農業・工業向けのポンプや空調設備、環境関連設備だ。もう一つが「精密・電子事業」で、半導体製造向けのCMP装置と真空ポンプが中核を担う。

半導体事業への本格参入は1980年代後半だ。荏原がもともと得意とする流体制御・精密研磨の技術を応用してCMP装置を開発し、主力製品「FREX300シリーズ」(300mmウェハー対応)で世界市場に参入した。今日では、最先端ファブから成熟ノードのファブまで、世界各地の半導体工場に装置を供給する。

一次情報出典荏原製作所 精密・電子事業(半導体CMP装置・真空ポンプ)発行荏原製作所(公式)公開2025使用箇所荏原製作所が1912年創業・CMP装置(FREX300シリーズ等)および半導体向けドライ真空ポンプを供給する精密機械事業の概要(要確認)

世界シェア37%——アプライドマテリアルズと2社で市場の9割を握る

CMP装置の世界市場は、高い参入障壁により極端な寡占構造にある。首位の「アプライドマテリアルズ」が52.6%、荏原製作所が37.0%と、この2社で市場の約90%を占める(経済産業省資料・2025年)。3位以下は一桁台にとどまり、実質的に2社の競争だ。

荏原製作所は2030年の世界首位を公式の目標として掲げている。差別化の軸として投資しているのは、研磨均一性と終点検出技術の2点だ。

研磨均一性とは、ウェハー全面にわたって均一に削れるかどうかを指す。300mmウェハーの中心と端で研磨量が違えば、に直結する不良が生まれる。

終点検出とは、研磨を止めるべき正確なタイミングを見極める技術だ。削りすぎれば下の層まで損傷し、削り足りなければ凹凸が残る。最先端の1nm台の精度が求められるプロセスでは、この終点判定の精度が装置の競争力を決定的に左右する。

報道出典シェア首位・米アプライド追撃なるか…荏原、CMP装置で攻勢かける発行ニュースイッチ(日刊工業新聞)公開2025使用箇所CMP装置世界シェア(アプライドマテリアルズ52.6%・荏原37.0%、経産省資料・2025年)・荏原は2030年首位目標

もう一つの柱——ドライ真空ポンプ

荏原が半導体分野で収益を上げるのはCMP装置だけではない。・・イオン注入といった主要な製造工程は、すべて高純度の真空環境の中で行われる。その真空を作り維持するのがドライ真空ポンプだ。

「ドライ」とは、チャンバー内にオイルや水を使わない方式を指す。半導体の製造では、反応性ガスや微細パーティクルが真空室に混入すると工程が汚染される。そのためオイルフリーで清潔な真空を維持できるドライポンプが半導体工場の標準仕様となっている。

荏原はポンプを創業のコアとしてきたため、このドライ真空ポンプも製品ラインに持つ。半導体装置の中では地味な存在だが、工場内の複数の装置に同時に接続されて稼働し続けるため稼働時間が長い。消耗部品の交換・メンテナンス需要が安定することから、アフターサービスを含めた長期の収益基盤となる。

「アルバック」も真空ポンプと成膜装置を手がける隣接競合だが、アルバックが成膜に重きを置くのに対し、荏原はCMPと真空インフラの2軸で半導体市場に存在感を示している。

熊本拠点と令和8年熊本地震

荏原製作所は熊本県南関町にCMP装置および真空ポンプ関連の製造・サービス拠点を置く。2026年7月28日の令和8年熊本地震(M7.1・最大震度7)では、南関町の拠点も影響を受け、地震当日のうちに操業を一時停止した。翌7月29日に点検を実施した結果、安全が確認され、7月30日には操業を再開した(熊本日日新聞・kumanichiEbara515)。

「令和8年熊本地震の半導体への影響」を伝えた報道の中では、荏原の拠点は「翌日に再開」と位置づけられた。JASM(TSMC子会社・菊陽町)やソニー熊本テクノロジーセンター(菊陽町)が完全復旧に数日から数週間を要したのと比べ、早期の正常化だった(電波新聞デジタル・dempaTelResume0730)。

南関町はTSMC熊本工場(菊陽町)から約60km北に位置する。荏原の熊本拠点はクリーンルームを要する前工程ファブではなく、装置の組み立て・サービスを担う施設であったため、精密製造設備へのダメージが限定的で、早期再開が可能となった。

報道出典荏原製作所の熊本事業所30日再開/県誘致企業515社中63社で被害確認発行熊本日日新聞(Yahoo!ニュース)公開2026-07-29使用箇所荏原製作所の熊本事業所(南関町)が点検の結果30日に操業再開・熊本県企業立地課集計では誘致企業515社のうち63社で建屋・設備の被害を確認(29日14時時点・22:25配信)

この記事のまとめ

  • CMP(化学機械研磨)は多層配線を積むたびにウェハーを平坦化する必須工程。最先端チップでは1枚あたり10工程以上繰り返される。
  • 荏原製作所は1912年創業・東証プライム。CMP装置と半導体向けドライ真空ポンプを柱に世界の半導体工場を支える日本の装置メーカー。
  • CMP装置の世界シェアは37.0%(2025年・経産省資料)で世界2位。首位アプライドマテリアルズ(52.6%)を追い、2030年首位を目標とする。
  • 荏原とアプライドマテリアルズの2社だけで世界の約90%を占める寡占市場。参入障壁は極めて高く、研磨均一性と終点検出技術が競争の主戦場。
  • 2026年熊本地震では南関町拠点が翌日に再開し、早期復旧を実現した。

この記事のまとめ

  • CMP(化学機械研磨)は多層配線を積むたびにウェハーを平坦化する必須工程で、最先端チップでは1枚あたり10回以上繰り返される。
  • 荏原製作所は1912年創業・東証プライム。CMP装置と半導体向けドライ真空ポンプを柱に世界の半導体工場を支える日本の装置メーカー。
  • CMP装置の世界シェアは37.0%(2025年・経産省資料)で世界2位。首位アプライドマテリアルズ(52.6%)を追い、2030年首位を目標とする。
  • CMP装置はこの2社で世界市場の約90%を占める寡占。荏原は研磨均一性・終点検出技術で差別化を図る。
  • 2026年熊本地震では南関町の拠点が翌日に再開し、早期復旧を実現した。
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よくある質問(FAQ)

Q.荏原製作所とはどんな会社ですか?+

1912年創業の日本の機械メーカーで、東証プライムに上場しています。半導体向けにはCMP(化学機械研磨)装置とドライ真空ポンプを主力として手がけ、世界の半導体工場に供給しています。CMP装置の世界シェアは37%で世界2位(2025年・経産省資料)です。

Q.CMP(化学機械研磨)とは何ですか?+

ウェハーの表面を回転する定盤とスラリー(砥粒と化学薬液の混合液)で研磨し、平坦化する工程です。多層配線を積み上げるたびに表面に生じる凹凸を削り取り、次の層の成膜や露光に備えます。最先端チップでは1枚のウェハーに10回以上のCMPが行われます。

Q.荏原のCMP装置の世界シェアはどのくらいですか?+

37.0%で世界2位です(2025年・経産省資料)。首位はアプライドマテリアルズの52.6%で、この2社で市場の約90%を占める寡占状態です。荏原は2030年の首位奪取を目標に掲げ、研磨均一性と終点検出技術の差別化を進めています。

Q.ドライ真空ポンプはなぜ半導体工場に必要なのですか?+

成膜・エッチング・イオン注入などの半導体製造工程は、不純物の混入を防ぐため真空環境で行います。ドライ真空ポンプはオイルや水を使わず清潔な真空を保てる方式で、半導体工場の標準仕様となっています。荏原はポンプを創業の中核とするため、この分野でも実績があります。

用語集

ウェハー/ wafer
半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
成膜(せいまく)・塗布/ deposition / coating
ウェハー表面に、配線や絶縁体になる薄い膜を一様につける工程。液体を塗る『塗布』も含む。
エッチング/ etching
レジストに覆われていない部分の膜を、気体や薬液で削り取り、回路パターンを膜に刻む工程。
歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。

参考資料・引用元

  1. 荏原製作所 精密・電子事業(半導体CMP装置・真空ポンプ)一次情報
    荏原製作所(公式)(2025)— 使用箇所: 荏原製作所が1912年創業・CMP装置(FREX300シリーズ等)および半導体向けドライ真空ポンプを供給する精密機械事業の概要(要確認)
    https://www.ebara.co.jp/business/electronics-precision/index.html
  2. シェア首位・米アプライド追撃なるか…荏原、CMP装置で攻勢かける報道
    ニュースイッチ(日刊工業新聞)(2025)— 使用箇所: CMP装置世界シェア(アプライドマテリアルズ52.6%・荏原37.0%、経産省資料・2025年)・荏原は2030年首位目標
    https://newswitch.jp/p/45888
  3. 半導体前工程の基本フロー(成膜・露光・エッチング等の反復)調査会社
    業界解説(媒体集計)(2025)— 使用箇所: ウェハ洗浄→成膜→レジスト塗布→露光→現像→エッチング→不純物注入→CMPを数百回反復し多層回路を形成・クリーンルームと歩留まり管理
    https://www.semiconductors.org/
  4. 荏原製作所の熊本事業所30日再開/県誘致企業515社中63社で被害確認報道
    熊本日日新聞(Yahoo!ニュース)(2026-07-29)— 使用箇所: 荏原製作所の熊本事業所(南関町)が点検の結果30日に操業再開・熊本県企業立地課集計では誘致企業515社のうち63社で建屋・設備の被害を確認(29日14時時点・22:25配信)
    https://news.yahoo.co.jp/articles/d6fb598daef9bbaa07deac4385fc46ef43738e94
  5. 熊本地震、三菱電機が部分操業再開/東京エレクトロン九州は30日から一部稼働報道
    電波新聞デジタル(Yahoo!ニュース)(2026-07-30)— 使用箇所: 30日18:58配信:三菱電機が合志・菊池の両工場で30日午後から部分操業再開・東京エレクトロン九州は30日から一部稼働を開始し8月3日の本格稼働を目指す・荏原製作所は通常再開と確認
    https://news.yahoo.co.jp/articles/a438a0a6c711e12ceb322e7b793f78d827ef9ce4

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