ただし同じ発表の中で、Counterpointは「YMTCは売上高ベースでは5位にとどまる」ともはっきり書いています。「出荷量の順位」と「稼いだ金額の順位」が食い違う——このねじれの正体を理解しないと、「4位転落」という見出しだけで話が完結してしまいます。「NAND型フラッシュを発明した本家であるキオクシアの事業構造」を踏まえたうえで、数字の中身を読み解きます。
半導体の調査会社が『2026年4〜6月のNANDメモリ(データを保存するチップ)の出荷量で、中国のYMTCという会社が初めて世界3位になり、NANDを発明した日本のキオクシアが4位に落ちた』と発表しました。ただし『個数(量)』の順位であって、『売上金額』の順位ではYMTCはまだ5位です。理由はYMTCが安いスマホ用などの製品中心で、キオクシアはデータセンター向けの高く売れる製品の比率が高いからです。実際キオクシアは7月末の決算で過去最高の利益を出しており、経営が悪化したわけではありません。
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①Counterpoint調査(2026-08-12発表):Q2 2026 NAND出荷量ベースでYMTC 14%・キオクシア14%と同率も、Counterpointは『YMTCが僅差で上回った』と表現し3位/4位に区分。1位Samsung25%・2位SK hynixグループ22%(SK hynix13%+Solidigm9%)・5位Micron13%②同発表内でYMTCは売上高ベースでは5位と明記され、出荷量と売上の順位は一致しない③要因はeSSD比率の差。同四半期のeSSDはNAND出荷ビット量全体の48%に到達しており、単価の高いeSSD比率の低いYMTCの製品ミックスが金額シェアを押し下げている④キオクシアは7/31発表のFY2027 Q1で純利益8,421億円(前年同期比約46倍・四半期として過去最高)を記録し、BiCS10(332層)量産も開始済み⑤TrendForceの売上高ランキング(上場5社限定・YMTCは非上場のため対象外)とCounterpointの発表は別集計であり混同禁止。
何が起きたのか——出荷量ベースでYMTCが世界3位になったとは
型フラッシュメモリは、電源を切ってもデータが消えないメモリで、スマートフォンやSSD、データセンターのストレージに使われています。Counterpointの発表によると、2026年第2四半期のNAND出荷量(ビット換算)ベースのシェアは以下の通りです。
| 順位 | メーカー | 出荷量シェア(ビットベース) |
|---|---|---|
| 1位 | Samsung | 25% |
| 2位 | SK hynixグループ(SK hynix 13%+Solidigm 9%) | 22% |
| 3位 | YMTC | 14% |
| 4位 | キオクシア | 14% |
| 5位 | Micron | 13% |
この順位変動はCNBCも「中国企業がMicron・キオクシアの出荷量を上回った」と見出しで報じています(2026年8月13日)。YMTCとキオクシアはどちらも丸め表記で14%と、事実上並んでいます。Counterpointはこの差を「narrowly edging out(僅差で上回った)」という定性的な表現で説明しており、小数点以下のシェア差そのものは公表されていません。つまり「4位転落」という見出しの実態は、僅差の順位入れ替わりであって、大差での逆転ではないという点がまず押さえるべき事実です。
YMTCのビット出荷量は前年同期比+22%・前四半期比+5%と急拡大したとCounterpointは報告しています。267層のの量産開始、Xtacking技術を用いた300層超品の開発、中国国内OEM顧客への供給拡大が背景にあるとされます。積層数を増やすほどコストが下がる3D NANDの技術競争の詳細は「「積むほど安く速くなる——3D NANDが332層に達した理由と、400層への壁」」で解説しています。
なぜ「量」で並んでも「金額」で差がつくのか——売上高ベースで見ると景色が変わる
出荷量ベースの順位とは対照的に、Counterpointは同じ発表の中で「YMTCは売上高ベースでは5位にとどまる」と明記しています。理由として挙げられているのは製品ミックスの違いです。YMTCの出荷は単価の低いコンシューマ向け製品が中心で、単価の高いeSSD(エンタープライズSSD)の比率が低いとされています。
同じ発表によれば、2026年第2四半期にeSSDはNAND出荷ビット量全体の48%に到達しました。AI活用が学習フェーズから推論フェーズへ移行するなかで、データセンター向けSSDの需要が急増している文脈があります。eSSDをどれだけ供給できるかが、出荷「量」のシェアと稼いだ「金額」のシェアを分ける最大の要因になっているわけです。
なお、別の調査会社TrendForceが集計した2026年第2四半期のNAND売上高ランキング(BigGo Finance経由の報道)は次のとおりです。ただしこちらは上場5社限定の集計で、非上場のYMTCは対象に含まれていません。
| 順位 | メーカー | 売上高 | シェア |
|---|---|---|---|
| 1位 | Samsung | 230.6億ドル | 29.3% |
| 2位 | SK hynixグループ | 142.7億ドル | 18.2% |
| 3位 | Micron | 118.5億ドル | 15.1% |
| 4位 | キオクシア | 107.2億ドル | 13.6% |
| 5位 | SanDisk | 89.7億ドル | 11.4% |
このTrendForce表にYMTCの数字は登場しません。「YMTCは売上高で5位」という情報は、あくまでCounterpointの発表内での記述であり、TrendForceの上場5社ランキングとは別の調査・別の対象範囲だという点を混同しないよう注意が必要です。米商務省の輸出規制と中国メーカーの国産化戦略の全体像は「「制裁が、かえって中国の半導体を本気にさせた」」で整理しています。
キオクシアの経営は本当に悪化しているのか——7月31日決算が示す答え
「4位転落」という言葉だけを見ると経営の陰りを連想しがちですが、実態はむしろ逆です。キオクシアは2026年7月31日発表のFY2027第1四半期(2026年4-6月期)決算で、売上収益1兆7,671億円(前年同期比約5.2倍)、8,421億円(同約46倍)を計上しました。これは四半期として過去最高益です。同時に、上限8,000億円・上限3,000万株の自社株買いと、2026年10月1日付の1対3株式分割も発表しています(詳細はキオクシアHD IR)。
技術面でも歩みは止まっていません。第10世代BiCS FLASH(332層)は、北上工場の第2製造棟で2026年7月3日に量産を開始しました。第8世代(218層)との比較で、ビット密度は+59%、NAND I/F速度は+33%(4.8Gb/s)向上しています。キオクシアの株価がその2週間前の7月17日に一時16%下落するストップ安を記録した経緯は「「『日本一』からわずか1か月で株価は半分に——キオクシア急落の3つの引き金と、崩れていないもの」」で詳しく解説しました。株価急落→過去最高益決算→出荷量シェア4位という一連の流れは、いずれも異なる出来事であり、単純に一直線につながる話ではない点に注意が必要です。
つまり、出荷量シェアの4位転落は「キオクシアの製品が売れなくなった」ことを示す数字ではなく、「YMTCが低単価品でシェアを稼ぎ、キオクシアは高単価のeSSD比率が相対的に高い」という製品ミックスの構造差を映した数字だと理解するのが妥当です。メモリ業界全体の価格動向は「「+90%、+58%、次は+13〜18%。メモリ値上げの狂乱は終わり、「減速」が始まった」」も参考になります。
YMTCとはどのような企業か
YMTC(長江存儲科技)は、報道によれば2016年に設立され、武漢に本社を置くとされる中国のNAND型フラッシュメーカーです。2022年12月に米商務省のEntity Listに追加されたとも報じられています。これらの設立年・規制関連の情報は一次情報での確認が取れていないため、「〜とされる」「報道によれば」という留保付きで扱う必要があります。
確かなのは、Counterpointの調査データが示すYMTCの成長ペースです。267層3D NANDの量産開始とXtacking技術による300層超品の開発を進め、中国国内OEM顧客への供給を拡大しながら、前年同期比+22%というビット出荷の伸びを実現しています。非上場企業であるため財務情報の開示は限定的ですが、出荷量という一つの指標では、確かに世界の上位に食い込んできています。
この記事のまとめ
- Counterpoint Researchの2026年Q2 NAND調査で、YMTCが出荷量(ビット)ベースのシェアで初めて世界3位(14%)となり、キオクシアは同率14%の僅差で4位に後退した。
- 同じ発表内でCounterpointは「YMTCは売上高ベースでは5位」と明記しており、出荷「量」の順位と稼いだ「金額」の順位は一致しない。
- ねじれの要因は製品ミックスの違い。単価の高いeSSD(NAND出荷ビット量全体の48%に到達)の比率が低いYMTCに対し、キオクシアは高単価品の比率が相対的に高い。
- キオクシアは2026年7月31日発表の決算で純利益8,421億円(前年同期比約46倍・四半期として過去最高)を記録しており、4位転落は経営悪化を意味しない。
- TrendForceの売上高ランキング(上場5社限定・YMTCは非上場のため対象外)とCounterpointの発表は別集計であり、混同しないよう注意が必要。
この記事のまとめ
- Counterpoint Researchの2026年Q2 NAND調査で、YMTCが出荷量(ビット)ベースのシェアで初めて世界3位(14%)となり、キオクシアは僅差の同率14%で4位に後退した。
- 同じ発表内でCounterpointは「YMTCは売上高ベースでは5位」と明記しており、出荷「量」の順位と稼いだ「金額」の順位は一致しない。
- 背景にあるのは製品ミックスの違い。YMTCは低単価のコンシューマ向け中心で、単価の高いeSSD(NAND出荷ビット量全体の48%に到達)の比率が低い。
- キオクシアは2026年7月31日発表の決算で純利益8,421億円(前年同期比約46倍・四半期として過去最高)を記録しており、4位転落は経営悪化を意味しない。
- TrendForceの売上高ランキング(上場5社限定・YMTCは非上場のため対象外)とCounterpointの発表は別集計であり、混同しないよう注意が必要。
よくある質問(FAQ)
Q.YMTCが出荷量で世界3位になったというのは本当ですか?+
Counterpoint Researchが2026年8月12日に発表した2026年第2四半期のNAND型フラッシュ調査によると、出荷量(ビット)ベースのシェアで中国YMTCが14%を占め、初めて世界3位になりました。同率で14%のキオクシアを僅差で上回ったという定性的な表現にとどまり、小数点以下のシェア差は公表されていません。1位はSamsung(25%)、2位はSK hynixグループ(SK hynix 13%+Solidigm 9%の合計22%)、5位はMicron(13%)です。
Q.では売上高ベースでもYMTCはキオクシアより上なのですか?+
いいえ。Counterpointは同じ発表の中で「YMTCは出荷量では3位だが、売上高では5位にとどまる」と明記しています。理由は、YMTCの出荷が低単価のコンシューマ向け中心で、単価の高いエンタープライズSSD(eSSD)の比率が低い製品ミックスにあります。出荷「量」の順位と、稼いだ「金額」の順位は一致していません。
Q.キオクシアの経営は悪化しているのですか?+
順位変動だけを見ると悪化しているように映りますが、実態は逆です。キオクシアは2026年7月31日発表のFY2027第1四半期(4-6月期)決算で、売上収益1兆7,671億円(前年同期比約5.2倍)、純利益8,421億円(同約46倍・四半期として過去最高)を記録しました。同時に上限8,000億円の自社株買いと2026年10月1日付の株式分割も発表しています。出荷量シェアの4位転落は、経営の悪化ではなく製品ミックスの構造差を示す数字です。
Q.TrendForceの売上高ランキングとCounterpointの発表はどう違うのですか?+
別の調査会社による別の集計であり、対象範囲も異なります。TrendForceの2026年Q2 NAND売上高ランキングは上場5社限定の集計で、非上場のYMTCは対象に含まれていません(Samsung1位・SK hynixグループ2位・Micron3位・キオクシア4位・SanDisk5位)。YMTCが売上高で5位というのはCounterpointの発表内での記述であり、TrendForceの表にYMTCの数字が載っているわけではない点に注意が必要です。
Q.YMTCが躍進した理由は何ですか?+
Counterpointによると、YMTCのビット出荷量は前年同期比+22%・前四半期比+5%と急拡大しました。要因として267層3D NANDの量産開始、Xtacking技術を用いた300層超品の開発、中国国内OEM顧客への供給拡大が挙げられています。なお、YMTC(長江存儲科技)は2016年設立・武漢本社とされ、2022年12月に米商務省のEntity Listに追加されたと報じられていますが、これらは一次情報での確認が取れていない報道ベースの情報です。
Q.エンタープライズSSD(eSSD)の比率が高まっているというのは本当ですか?+
Counterpointの同発表では、2026年第2四半期にeSSDがNAND出荷ビット量全体の48%に達したとされています。AI活用が学習フェーズから推論フェーズへ移行し、データセンター向けSSD需要が急増している文脈があり、単価の高いeSSDをどれだけ供給できるかが、出荷量シェアと売上高シェアのねじれを生む主因になっています。
用語集
- NAND(NANDフラッシュ)/ NAND flash
- 電源を切ってもデータが消えない記憶装置。SSDやスマホのストレージに使われる。
- 3D NAND/ three-dimensional NAND
- メモリのセルを縦に何百層も積み上げて容量を増やすNANDの構造。平面では限界に達したため縦方向へ伸ばした。
- 純利益/ net income
- 売上からすべての費用・税金を差し引いて、会社に最終的に残る儲け。
参考資料・引用元
- Server-Led eSSDs Hit 48% of NAND Shipments調査会社Counterpoint Research(公式)(2026-08-12)— 使用箇所: 2026年Q2 NAND出荷量(ビット)ベースシェア:Samsung25%(1位)・SK hynixグループ22%(SK hynix13%+Solidigm9%、2位)・YMTC14%(3位、初の世界3位)・キオクシア14%(4位)・Micron13%(5位)。YMTCとキオクシアは丸め表記で同率14%でCounterpointは『narrowly edging out』と定性表現、小数値は非公表。同発表内で『YMTCは出荷量では3位だが売上高では5位』と明記、理由は低単価コンシューマ向け中心でeSSD比率が低い製品ミックス。eSSDがNAND出荷ビット量全体の48%に到達。YMTCのビット出荷は前年同期比+22%・前四半期比+5%、267層3D NAND量産開始、Xtacking技術で300層超を開発中、中国国内OEM顧客への供給拡大が要因https://counterpointresearch.com/en/insights/server-led-essds-hit-48-percent-of-nand-shipments
- TrendForce Q2 2026 NAND Flash revenue ranking調査会社BigGo Finance(TrendForce調査の報道)(2026-08-18)— 使用箇所: TrendForceの2026年Q2 NAND売上高ランキング(上場5社限定・YMTCは非上場のため対象外):Samsung230.6億ドル(29.3%・1位)・SK hynixグループ142.7億ドル(18.2%・2位)・Micron118.5億ドル(15.1%・キオクシアを逆転し3位)・キオクシア107.2億ドル(13.6%・4位)・SanDisk89.7億ドル(11.4%・5位)。Counterpoint調査とは別の調査会社・別対象範囲の集計である点に注意https://finance.biggo.com/news/77d46f2c-61f3-467d-b169-007fe5e77f79
- 2026年3月期第1四半期(2026年4-6月期)決算短信一次情報キオクシアホールディングス(公式・決算短信)(2026-07-31)— 使用箇所: FY2027第1四半期(2026年4-6月期):売上収益1兆7,671億円(前年同期比約5.2倍)・純利益8,421億円(同約46倍・四半期として過去最高)。同時発表:自社株買い上限8,000億円(上限3,000万株)・2026年10月1日付1対3株式分割https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20260731/20260731505265.pdf
- Kioxia and Sandisk Unveil Next-Generation 3D Flash Memory Technology Achieving 4.8Gb/s NAND Interface Speed一次情報Kioxia(公式)(2025-02-20)— 使用箇所: 第10世代(332層):ビット密度+59%・NAND I/F速度+33%(4.8Gb/s)、比較対象は第8世代(218層)https://www.kioxia.com/en-jp/business/news/2025/20250220-1.html
- キオクシアホールディングス IR(決算発表予定)一次情報キオクシアホールディングス(公式)(2026-07)— 使用箇所: FY2026第1四半期(4-6月期)決算を2026年7月31日15:30に発表予定・第10世代BiCS FLASHの北上第2製造棟での量産開始(2026年7月3日)とサンプル出荷https://www.kioxia-holdings.com/ja-jp/ir.html
- Chinese firm tops Micron, Kioxia shipments in NAND memory chips報道CNBC(2026-08-13)— 使用箇所: 見出しレベルの言及のみ:中国企業(YMTC)がNAND出荷量でMicron・キオクシアを上回ったと報道。本文は403エラーで一次確認できず、見出し情報の裏付けとしてのみ使用https://www.cnbc.com/2026/08/13/chinese-firm-tops-micron-kioxia-shipments-nand-memory-chips.html
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