「シリコンに不純物を撃ち込むイオン注入装置」で触れたとおり、トランジスタの構造は平面から立体へと進化してきました。ではなぜ、わざわざ作るのが難しい立体構造へ進む必要があったのか。その答えは「電気の漏れ」との戦いにあります。基礎は「半導体とは何か」で確認できます。
この記事で動かせる図解
- 01トランジスタ構造の3Dモデル平面・FinFET・GAAでゲートの囲み方がどう変わるかを立体で確認
トランジスタは電気を流したり止めたりするスイッチで、ゲートが流れを制御します。ところが小さくすると、ゲートが電気を止めきれず漏れ出します。これを防ぐため、ゲートをチャネルにより多くの面で密着させようと、平面→FinFET(3面)→GAA(全周)と立体化してきました。
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微細化の本質的制約は短チャネル効果=リーク。静電制御を保つため構造が立体化。FinFET(Intel 22nm/2011)→GAAナノシート(IBM 2nm/2021、Samsung・TSMC・Intelが2〜3nm級で採用)。GAAは幅可変で設計自由度が高く、裏面給電と併用。前工程装置(露光・成膜・エッチ・イオン注入)の高度化に直結します。
なぜ平面トランジスタは限界に達したのか
トランジスタは、ゲートに電圧をかけてチャネル(電気の通り道)の流れをオン・オフするスイッチです。問題は、製造プロセスが微細になりチャネルが短くなると、ゲートが流れを止めきれなくなることです。これをといいます。
平面(プレーナ)構造では、ゲートはチャネルの上の1面からしか制御できません。チャネルが短くなると、ゲートから遠い経路で電気が漏れ、待機電力が指数的に増えます。実際、28nmを下回るあたりから漏れ電流が深刻になり、平面のままでは性能と省電力の両立ができなくなりました。
下の3Dモデルは、平面・FinFET・GAAの3段階を切り替えて見比べられます。ゲート(黄色)がチャネル(水色)を囲む面が増えるほど、下に漏れる電気(赤い粒)が減っていくのが分かります。
FinFETは何を変えたのか
この壁を破ったのがFinFETです。とは、基板から薄い「ひれ(フィン)」を立て、その3面をゲートで囲む立体トランジスタのことです。Intelが2011年に22nm世代で世界で初めて商用化しました。
ゲートが3面からチャネルに密着することで、静電制御が大きく改善します。ゲートから遠い漏れ経路が減り、短チャネル効果を抑えられるようになりました。FinFETはこの強い制御力で、22nmから3nm級(N3)まで、約10年にわたり微細化を支え続けました(Real World Tech)。
ただしFinFETにも弱点があります。フィンは高さを自由に変えられないため、駆動電流(強さ)を増やすにはフィンの本数を増やすしかありません。つまり幅は「フィン2本ぶん・3本ぶん」と飛び飛びの値(量子化)でしか調整できず、25%だけ増やす、といった微調整ができません。これが次の限界になりました。
GAA(ナノシート)はなぜFinFETを超えられるのか
そこで登場したのがです。GAAとは、横たえた薄いシート(ナノシート)を積み重ね、その上下左右の全周をゲートで囲む構造のことです。FinFETが3面なら、GAAは4面すべて。チャネルへの制御がさらに強まり、漏れを一段と抑えられます。
この構造の基礎は、IBMが2017年にVLSIシンポジウムで発表した「積層ナノシートGAA」の論文に遡ります。FinFETの先を可能にする技術として提案されました(IBM Research / IEEE VLSI Symposium)。
そして2021年、IBMは世界初の2nmチップを発表しました。1つのトランジスタを3枚積み重ねたシリコンのシートで構成し、それぞれをゲートが完全に囲みます。性能は7nm比で約45%向上、または消費電力を約75%削減でき、爪の大きさに約500億個のトランジスタを載せられるとされます(IBM)。
GAAのもう一つの大きな利点が「幅を自由に変えられる」ことです。FinFETのようにフィンの本数で飛び飛びに増やすのではなく、ナノシートの幅を細かく調整して駆動電流を最適化できます。設計の自由度が上がり、1つのチップ内で用途に応じた作り分けがしやすくなります。TSMCのN2世代では、0.5Vで漏れ電流が約75%減ったとの報告もあります(IEEE Spectrum)。
各社はGAAをどう実装しているのか
GAAは2〜3nm級の主流になりました。Samsungは2022年、3nmでGAAを世界で初めて量産に乗せました。一方、TSMCはN3までFinFETを使い、N2(2nm級)からGAAナノシートへ移行しています。
Intelは18AでGAAを「RibbonFET」として導入し、さらに裏面給電を組み合わせました。裏面給電とは、電力の配線をチップの裏側へ移し、表側を信号専用にする技術です。配線が混み合わなくなり、密度と性能が上がります。Intelは18AがIntel 3比で密度30%超の向上をもたらすとしています(Intel/ Tom's Hardware)。
トランジスタの進化は何を意味するのか
構造が立体化・微細化するほど、不純物を「狙った場所に・精密に」入れる技術が重要になります。これが「イオン注入装置」をはじめ、回路を刻む一連の前工程装置全体の高度化を要求します。工程の詳しい中身は「シリコンの円盤ができるまで」で追えます。最先端トランジスタは、装置・材料の進歩と一体で初めて実現します。
そして、こうした2nm級の高性能ロジックこそ、「AI半導体」が求める性能と省電力の土台です。2024年の前工程装置市場は約1,010億ドルで過去最高となりました(SEMI)。トランジスタの立体化は、産業全体の装置投資を押し上げる原動力でもあります。なお本記事は投資助言ではありません(SEMI)。
この記事のまとめ
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微細化するほど、ゲートが電気を止めきれず漏れる「短チャネル効果」が深刻になる。
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平面はゲートが1面のみ。3面で囲むFinFETを2011年にIntelが22nmで商用化し、漏れを抑えた。
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FinFETはフィンの本数でしか幅を増やせない(量子化)。これが微細化の制約になった。
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GAAは積層ナノシートを全周ゲートで囲む。IBMが2021年に世界初の2nmを発表(7nm比 性能+45%・電力-75%)。
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GAAは幅を可変にでき設計自由度が高い。Samsung・TSMC・Intelが2〜3nm級で採用し、裏面給電も併用する。
この記事のまとめ
- トランジスタを小さくするほど、ゲートが電気を止めきれず漏れる「短チャネル効果」が深刻になる。
- 平面はゲートが1面のみ。3面で囲むFinFETを2011年にIntelが22nmで商用化し、漏れを抑えた。
- FinFETはフィンの本数でしか幅を増やせない(量子化)。これが微細化の制約になった。
- GAAは積層ナノシートを全周ゲートで囲む。IBMが2021年に世界初の2nmを発表(7nm比 性能+45%)。
- GAAは幅を可変にでき設計自由度が高い。Samsung・TSMC・Intelが2〜3nm級で採用し、裏面給電も併用。
よくある質問(FAQ)
Q.なぜトランジスタは平面から立体になったのですか?+
トランジスタを小さくするほど、ゲートが電気の流れを止めきれず漏れ出す「短チャネル効果」が深刻になります。平面ではゲートが1面からしか制御できず、28nm以下で漏れ電流が増えすぎました。そこでゲートを多面からチャネルに密着させるため、構造を立体化しました。
Q.FinFETとGAAの違いは何ですか?+
FinFETは薄いひれ(フィン)を立て、ゲートが3面から囲む構造で、2011年のIntel 22nmで実用化されました。GAA(ゲートオールアラウンド)は、積み重ねたナノシートをゲートが上下左右の全周から囲む構造で、FinFETよりさらに漏れを抑えられます。2nm級の主流です。
Q.GAA(ナノシート)はFinFETより何が優れているのですか?+
GAAはゲートが全周を囲むため静電制御が強く、同じ面積でも駆動電流を稼げます。さらにFinFETはフィンの本数でしか幅を増やせませんが、ナノシートは幅を細かく調整でき、設計の自由度が高い点が大きな利点です。TSMC N2では0.5Vで漏れ電流が約75%減ったと報告されています。
用語集
- 短チャネル効果/ short-channel effect
- トランジスタを小さくしすぎると、ゲートが電気の流れを止めきれなくなり、漏れ電流が増える現象。
- FinFET(フィンフェット)/ Fin Field-Effect Transistor
- 薄い「ひれ(フィン)」を立て、ゲートが3面から囲む立体トランジスタ。平面型より電気の漏れを抑えられる。
- GAA(ゲートオールアラウンド)/ Gate-All-Around
- チャネルを上下左右の全周からゲートで囲む最先端トランジスタ。FinFETよりさらに電気の漏れを抑えられる。
- トランジスタ/ transistor
- 電気のスイッチ。オン/オフで「0と1」を表し、計算と記憶の最小単位になる。
参考資料・引用元
- Intel's 22nm Tri-Gate Transistors(平面の限界とFinFETによる解決)報道Real World Tech(2011)— 使用箇所: 平面トランジスタは28nm以下で短チャネル効果・リーク電流が深刻化。Intelが2011年に22nm Tri-Gate(FinFET)を商用化し、ゲートが3面からフィンを制御https://www.realworldtech.com/intel-22nm-finfet/
- Stacked nanosheet gate-all-around transistor to enable scaling beyond FinFET調査会社IBM Research / IEEE VLSI Symposium(2017)— 使用箇所: FinFETの先を可能にする積層ナノシートGAAの基礎論文。ゲートがチャネルを全周で囲み静電制御を改善https://research.ibm.com/publications/stacked-nanosheet-gate-all-around-transistor-to-enable-scaling-beyond-finfet
- IBM Unveils World's First 2 Nanometer Chip Technology(ナノシートGAA)一次情報IBM(ニュースルーム)(2021-05-06)— 使用箇所: IBMが世界初の2nmチップを発表(2021)。3枚積層のナノシートをゲートが全周で囲む。7nm比で性能+45%または消費電力-75%、爪サイズに約500億トランジスタhttps://newsroom.ibm.com/2021-05-06-IBM-Unveils-Worlds-First-2-Nanometer-Chip-Technology,-Opening-a-New-Frontier-for-Semiconductors
- Samsung's 3-nm Tech Shows Nanosheet Transistor Advantage(可変幅の利点)調査会社IEEE Spectrum(2022)— 使用箇所: ナノシートはフィンの量子化と違い幅を細かく調整でき駆動電流を最適化。TSMC N2では0.5Vでリーク約75%減との報告。Samsungが3nmでMBCFETを世界初量産(2022)https://spectrum.ieee.org/samsungs-3nm-tech-shows-nanosheet-transistor-advantage
- Intel 18A — RibbonFET(GAA)とPowerVia(裏面給電)一次情報Intel(Foundry)/ Tom's Hardware(2024)— 使用箇所: Intel 18AはRibbonFET(GAA)とPowerVia(裏面給電)を採用。Intel 3比で密度30%超向上。裏面給電は配線を信号と電力で分離し性能・密度を改善https://www.intel.com/content/www/us/en/foundry/process/18a.html
- Global Total Semiconductor Equipment Sales Forecast to Reach Record $109 Billion in 2024業界団体SEMI(2024)— 使用箇所: 2024年 前工程装置(WFE)約1,010億ドル・総装置約1,090億ドル(過去最高)https://www.semi.org/en/semi-press-releases/global-total-semiconductor-equipment-sales-forecast-to-reach-record
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