米国の上場企業は年に1回、監査済みの決算書とリスク開示をまとめた年次報告書(Form 10-K)を米国証券取引委員会(SEC)へ提出します。分量は100ページを超えますが、顧客集中・地域別売上・将来の購入義務など、プレスリリースが語らない「会社の本音」に近い開示が詰まっています。このシリーズでは海外半導体企業の決算書を原文から読み解きます。第1回はAIの主役、NVIDIAです。
NVIDIAの2026年1月期は売上2,159億ドル(前年比+65%)と絶好調でした。ただ決算書の原文を読むと、ニュースとは違う顔が見えます。売上の36%が匿名の2社に集中していること、中国向け売上の比率が1年で半分に減り「中国市場から事実上締め出された」と会社自身が認めていること、そして将来の部材確保のために952億ドルもの支払いを先に約束していることです。強さと危うさが同居した決算書です。
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NVIDIA FY2026 10-K:売上$215.9B(+65%)・GAAP粗利71.1%(H20影響$4.5Bで−3.9pt)・純利益$120.1B・EPS$4.90。Data Center$193.7B(89.7%)、Networking$31.4Bが+142%。直接顧客集中22%+14%=36%(前年12%+11%)。中国売上比9.1%(前年19.2%)でDC市場から実質締め出し。購入コミット$95.2B+クラウド契約$27.0B+自社株買い$40.4B。電力確保が独立論点に格上げ。
10-K(年次報告書)とは何か
10-Kとは、米国の上場企業が会計年度ごとにSECへ提出を義務づけられている年次報告書です。事業内容・リスク要因・経営陣による業績分析・監査済み財務諸表と注記で構成され、SECの開示データベース「EDGAR」で誰でも無料で原文を読めます(SEC EDGAR)。NVIDIAの主力製品であるAI半導体そのものについては「AI半導体とは何か」で解説しています。
決算発表のプレスリリースとの違いは、開示が「義務」である点にあります。プレスリリースは会社が見せたい数字を選べますが、10-Kでは売上の10%を超える顧客の存在、地域別の売上、将来の購入義務、訴訟やリスクの認識まで、ルールに沿って書かなければなりません。つまり、ニュースにならない数字ほど10-Kに残ります。なお、TSMCやASMLのような米国外の企業は10-Kの代わりに「20-F」という様式で同種の年次開示を行います。
FY2026のNVIDIAはどれだけ稼いだのか
NVIDIAのFY2026(2025年1月末〜2026年1月25日)は、売上2,159億ドル(前年比+65%)を記録しました。営業利益は1,304億ドル、純利益は1,201億ドルです(NVIDIA FY2026 10-K)。売上の89.7%にあたる1,937億ドルをData Center事業が占め、その内訳は計算チップ(Compute)が1,624億ドル、機器間をつなぐネットワーク製品が314億ドルです。ネットワークは前年比+142%と、本体のGPU以上の速度で伸びました。
一方で、売上総利益率(売上から製造原価を引いた利益の割合)は75.0%から71.1%へ下がりました。主因は後述する中国向けチップ「H20」の輸出規制に伴う45億ドルのチャージ(損失計上)と在庫評価損です。第4四半期単独では75.0%まで回復しており、規制の影響を除けば収益性は維持されています(NVIDIA IR)。研究開発費は185億ドル(前年比+43%)、従業員約42,000人のうち約31,000人が研究開発人員という構成も、この会社の性格をよく表しています。
なぜ「2社で36%」という数字が重要なのか
10-Kのセグメント注記には、売上の10%以上を占める直接顧客が2社あり、それぞれ売上全体の22%と14%を占めると書かれています(NVIDIA FY2026 10-K)。合計36%——年間売上に換算すればおよそ780億ドルを、名前を明かさない2社が買っている計算です。米国の開示ルールでは顧客集中の事実は書かなければなりませんが、顧客名までは求められないため、「Customer One」「Customer Two」と匿名で記載されます。
注目すべきは変化の速さです。前年の10-Kでは10%超の直接顧客は12%と11%の2社で、集中度は1年で23%から36%へ跳ね上がりました。1社で22%という水準は、AIインフラへの投資が一部の巨大企業(ハイパースケーラーと呼ばれるクラウド大手)に集中していることの裏返しです。
買い手が数社に絞られるほど、その数社の投資計画が変わったときの影響は大きくなります。NVIDIAの強さの源泉はCUDA(GPUを使いこなすための開発ソフト基盤)のエコシステムにあり、詳しくは「企業徹底分析」で扱いました。10-Kが示すのは、その強い会社ですら少数の顧客に深く依存しているという事実です。
中国売上はどこまで減ったのか
FY2026の中国売上(香港含む)は196.8億ドルで、構成比は前年の19.2%から9.1%へ半減しました(NVIDIA FY2026 10-K)。金額でも前年から21%の減少です。全体の売上が+65%伸びるなかで中国だけが減った結果、米国(69.3%)と台湾(19.6%)への偏りが一段と進みました。
10-Kの本文は踏み込んだ表現を使っています。2025年4月、中国向けH20の輸出にライセンスが義務づけられました。第1四半期には過剰在庫と購入義務に関連する45億ドルのチャージを計上しています。2025年8月にライセンスが一部付与されたものの、その下でのH20売上はわずか約6,000万ドルにとどまりました。
そして会計年度末時点で、10-Kは「中国のデータセンター向け計算チップ市場から事実上締め出されている(effectively foreclosed)」と会社自身が認めています。この締め出しが、競合のエコシステム拡大を助けたとも記載されています。米国政府はライセンス売上の15%以上の受け取りを期待していると表明しており、2026年2月にはH200の少量出荷ライセンスも付与されました。それでも翌FY2027のガイダンスは、中国のデータセンター向け売上をゼロと想定しています(NVIDIA IR)。
952億ドルの購入コミットメントは何を意味するのか
10-Kのコミットメント注記には、製造・長期供給・生産能力に関連する購入義務が952億ドル、複数年のクラウドサービス契約が270億ドルと開示されています(NVIDIA FY2026 10-K)。購入コミットメントとは、TSMCの製造枠やHBM(AI向け高帯域メモリ)などの部材を将来にわたって確保するために、先に支払いを約束した金額です。年間売上の半分近い規模の発注を前倒しで確定させているわけで、これはAI需要が数年続くという経営判断の表明にほかなりません。実際、棚卸資産(在庫)も1年で101億ドルから214億ドルへ倍増しています。
リスク要因(Item 1A)の変化も見逃せません。FY2026版では、顧客がNVIDIA製品を動かすためのデータセンター・電力・資本の確保が「極めて重要」だと記載されました。エネルギー容量の拡大は「規制・技術・建設上の課題を伴う複数年のプロセス」であり、この記載は独立した論点に格上げされています。前年版では需要予測の一要因として軽く触れられていただけです。
チップを作れても、それを動かす電力が足りなければ売上にならない——供給網の心配が「シリコン」から「電力」へ移ったことを、開示の変化が物語っています。メモリ側の供給体制は「SK hynixのHBM供給体制」でも扱いました。
なお、10-Kにはチップ企業Groqとの取引も独立した注記で登場します。現金130億ドルと後払いの対価40億ドルを投じ、技術ライセンス等を企業買収に準じた形で会計処理したという内容で、決算ニュースの陰でバランスシートに載った大型の一手です(NVIDIA FY2026 10-K)。
決算書は誰でも読める
ここまでの数字はすべて、SECのEDGARで無料公開されている原文から拾ったものです。英語で100ページ超と聞くと身構えますが、顧客集中は「Segment Information」、地域別売上は「Revenue by geographic area」、購入義務は「Purchase Commitments」と、見る場所は毎年ほぼ同じです。日本からNVIDIA株への投資を考えるなら、証券会社の選び方とあわせて「米国半導体株の始め方」も参考にしてください。次回以降、TSMC・ASMLの年次報告書(20-F)も同じ視点で読み解きます。
この記事のまとめ
- NVIDIAのFY2026(2026年1月期)は売上2,159億ドル(前年比+65%)・純利益1,201億ドルで、Data Center事業が売上の89.7%を占めました。
- 売上の10%超を占める匿名の直接顧客が2社(22%と14%)あり、合計36%。前年の23%から集中が急速に進みました。
- 中国売上の構成比は19.2%から9.1%へ半減し、10-Kは中国のデータセンター向け計算チップ市場から「事実上締め出された」と明記しました。
- H20輸出規制に伴う45億ドルのチャージで、粗利率は75.0%から71.1%へ低下しました。
- 将来の供給確保のための購入コミットメントは952億ドル。リスク要因では電力・エネルギーの確保が独立した論点に格上げされました。
この記事のまとめ
- NVIDIAのFY2026(2026年1月期)は売上2,159億ドル(前年比+65%)、純利益1,201億ドル。Data Center事業が売上の89.7%を占めた。
- 売上の10%超を占める匿名の直接顧客が2社(22%と14%)あり、合計36%。前年の12%と11%から集中が急速に進んだ。
- 中国売上(香港含む)の構成比は19.2%から9.1%へ半減。10-Kは中国のデータセンター向け計算チップ市場から「事実上締め出された」と明記した。
- H20の対中輸出ライセンス規制でFY2026第1四半期に45億ドルのチャージを計上。粗利率は75.0%から71.1%へ低下した。
- 将来の供給確保のための購入コミットメントは952億ドル、クラウド契約は270億ドル。リスク要因では電力・エネルギーの確保が独立した論点に格上げされた。
よくある質問(FAQ)
Q.10-K(年次報告書)とは何ですか?+
10-Kとは、米国の上場企業が年に1回、米国証券取引委員会(SEC)へ提出を義務づけられている年次報告書です。監査済みの財務諸表に加え、リスク要因・顧客集中・地域別売上など、決算発表のプレスリリースには載らない開示が含まれます。SECのデータベース「EDGAR」で誰でも無料で原文を読めます。
Q.NVIDIAの売上はどれくらい特定の顧客に集中していますか?+
FY2026(2026年1月期)の10-Kによると、売上の10%以上を占める直接顧客が2社あり、それぞれ売上全体の22%と14%、合計36%を占めます。前年は12%と11%だったため、上位顧客への集中は1年で大きく高まりました。顧客名は開示されず「Customer One」「Customer Two」と匿名で記載されます。
Q.NVIDIAの中国売上はどうなりましたか?+
FY2026の中国売上(香港含む)は196.8億ドルで、構成比は前年の19.2%から9.1%へ半減しました。10-Kは、対中輸出規制の結果「中国のデータセンター向け計算チップ市場から事実上締め出された(effectively foreclosed)」と明記しています。翌年度のガイダンスでも中国のデータセンター向け売上はゼロと想定されています。
Q.購入コミットメントとは何ですか?NVIDIAはいくら約束していますか?+
購入コミットメントとは、将来の部材や製造能力を確保するために、企業が取引先へ支払いを約束した金額のことです。NVIDIAのFY2026 10-Kでは、製造・供給関連の購入義務が952億ドル、複数年のクラウドサービス契約が270億ドルと開示されており、年間売上の半分近い規模の「未来への発注」を先に確定させていることがわかります。
用語集
- 推論(インファレンス)/ inference
- 学習済みのAIを実際に使って答えを出す処理。質問に答える・文章を生成するなど、利用時の計算がこれにあたる。
参考資料・引用元
- NVIDIA Corporation Form 10-K (Fiscal Year 2026, ended January 25, 2026)一次情報NVIDIA / SEC EDGAR(2026-02-25)— 使用箇所: FY2026通期:売上$215,938M(+65%)・粗利率71.1%・純利益$120,067M・希薄化後EPS$4.90・R&D$18,497M。Data Center売上$193,737M(総売上の89.7%・Compute $162,361M/Networking $31,376M)。直接顧客の集中(Customer One 22%/Customer Two 14%)。地域別売上(米国69.3%・台湾19.6%・中国(香港含む)$19,677M=9.1%)。H20対中ライセンス要求とQ1の$4.5Bチャージ・ライセンス下H20売上約$60M・USGへの15%レベニューシェア言及・2026年2月H200少量ライセンス・中国DCコンピュート市場からeffectively foreclosedの明記。購入コミットメント$95.2B+クラウド契約$27.0B。自社株買い$40,388M・配当$974M。従業員約42,000人(うちR&D約31,000人)。在庫$21,403M(前年$10,080M)。Groq取引(現金$13.0B+繰延$4.0B・のれん$14.4B)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1045810/000104581026000021/nvda-20260125.htm
- NVIDIA Corporation Form 10-K (Fiscal Year 2025, ended January 26, 2025)一次情報NVIDIA / SEC EDGAR(2025-02-26)— 使用箇所: 前年比較用:FY2025売上$130,497M・粗利率75.0%・10%超の直接顧客は12%と11%の2社・中国売上構成比(FY2026 10-K再表示ベースで19.2%)・電力/エネルギーのリスク記載はFY2026版で大幅強化された点の対照https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1045810/000104581025000023/nvda-20250126.htm
- NVIDIA Announces Financial Results for Fourth Quarter and Fiscal 2026一次情報NVIDIA(IR)(2026-02-25)— 使用箇所: Q4単独:Data Center売上$62.3B(+75% YoY)・GAAP粗利率75.0%へ回復。FY2027ガイダンスは中国からのData Center compute売上をゼロと想定。Q2 FY2026にH20関連引当金$180Mの戻入れhttps://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-announces-financial-results-for-fourth-quarter-and-fiscal-2026
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