HBM4は、DRAMのチップを最大16枚縦に積み重ね、各ダイを貫く数千本の銅柱(TSV)で直結することで毎秒最大2TBという転送速度を実現する。AIが大規模モデルを動かすためには「演算が速いだけ」では足りない。メモリへのデータの送り込み速度がボトルネックになるため、このTSV積層という製造技術が、AI性能の上限を決めている。

HBMとCoWoSの全体像と、なぜAI GPUにHBMが必要なのかについては「HBMとCoWoSをゼロから理解する」で解説しています。HBMが通常のDRAMウェハ生産能力を圧迫する需給の話は「HBMを1つ作ると普通のメモリ3つ分の生産能力が消える」で扱っています。ここでは「HBM4の内部構造がどうなっているか」に絞ります。

ひとことで言うと(初心者向け)

普通のメモリ(DDR5)はチップが1枚で配線も64本ですが、HBM4はチップを最大16枚重ね、配線を2048本に増やした「超広帯域」メモリです。その接続を担うのがTSV(シリコンを縦に貫く銅の穴)という技術で、AIの大規模モデルが高速に動く理由の一つがここにあります。

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構造で言うと(投資家向け)

JEDECがHBM4(JESD270-4)を2025年4月標準化。2048-bit・最大8Gbps/pin・最大2TB/s・4/8/12/16-Hi・最大64GB/スタック。量産は2026年からSK hynix・Samsung・Micronの3社体制(NVIDIA Vera Rubin向け)。HBM4EはSK hynixが48GB・16Gbps/pinサンプルを2026年6月出荷。封止はMR-MUF・TC-NCFが継続し、ハイブリッドボンディングは先送り。

なぜAIのメモリは「高帯域」でなければならないのか

AIが大型モデルを動かすには、数千億個に達するモデルのパラメータ(設定値)を高速で読み出しながら計算し続ける必要があります。GPUの演算コアが速くても、メモリからデータを供給する速度(帯域幅)が不足していれば、コアは常にデータ待ちになります。この「演算速度とメモリ帯域のミスマッチ」はメモリウォールと呼ばれ、AI時代に最重要の制約になりました。

通常のDDR5メモリは1モジュールあたり毎秒最大約64GBのデータしか運べません。これに対し、JEDECが2025年4月16日に公開した4規格(JESD270-4)は、1スタックあたり毎秒最大2TBを定めています。倍率で言えば約30倍です。

業界団体出典JEDEC Releases JESD270-4 HBM4 Standard: Advancing Bandwidth, Efficiency, and Capacity for AI and HPC発行JEDEC公開2025-04-16使用箇所HBM4の2048-bitインターフェース・最大8Gb/s・最大2TB/s・チャネル16→32・4/8/12/16-Hi・最大64GB/スタック・2025年4月16日公開

この差はどこから生まれるのか。答えはインターフェース幅(一度に信号をやり取りできる配線の本数)にあります。DDR5が64本なのに対し、HBM4は2048本です。さらにクロック速度を最大8Gbps/pinまで引き上げることで、2TB/sという数字が成立します。

TSV(貫通電極)とはどういう技術か

この2048本の配線をどう実現するかが、HBM製造の核心技術である**TSV(Through-Silicon Via、貫通電極)**です。

TSVとは、薄く削ったシリコンのダイに直径数μm(マイクロメートル)の穴を数千本掘り、銅を充填して作る縦方向の配線です。積み重ねたダイ同士をこの銅柱でつなぐことで、「横に長い配線なしに、直接つながった回路」を実現します。

具体的な製造手順は次の通りです。

  1. 薄化:通常のウェハ(750μm程度)を研削で20〜30μmまで薄くする
  2. TSV形成:ドライエッチングで深さ20〜30μmの穴を開け、銅をメッキで埋める
  3. マイクロバンプ形成:ダイの上下面に直径約15〜25μmのはんだバンプを配置する
  4. 積層接合:熱圧着でダイを重ね、各ダイのTSVをマイクロバンプ経由でつなぐ
  5. 封止:積層体の隙間を樹脂で埋め、機械的に安定させる

HBM3Eではサムスンが12層・36GBのスタックを実現しており、各ダイを極薄化してTSVで接続する構造はHBM4でも基本的に同じです。

一次情報出典Leading Memory Innovation with HBM3E発行Samsung Semiconductor(技術ブログ)公開2024使用箇所HBM3Eは24GbのDRAMダイを12段積層し36GBを実現、8段と同じ高さに収めるため各ダイを極薄化(TSV接続)

マイクロバンプとハイブリッドボンディング

積層の接合方式には現在2種類が使われています。

**マイクロバンプ(MR-MUF・TC-NCF)**は、はんだの小さな突起(バンプ)でダイ同士をつなぐ方式です。SK hynixの「MR-MUF」はチップを積んだ後に液状樹脂を流し込む方式、Samsungの「TC-NCF」は積む前にフィルム状の樹脂を挟む方式です。現在の主流であり、HBM4でもこの方式が継続しています。

ハイブリッドボンディングは、バンプを使わずに銅の配線と酸化膜を直接貼り合わせる方式で、接続密度をさらに数倍に高められます。当初HBM4での採用が期待されていましたが、量産技術の成熟度から2025年時点の分析ではHBM4Eでも採用が先送りされるとされています。

報道出典HBM4 Sticks With Microbumps, Postponing Hybrid Bonding発行Semiconductor Engineering公開2025-11使用箇所HBM4が当面マイクロバンプ(MR-MUF/TC-NCF)継続・ハイブリッドボンディング延期・Samsung早期採用検討(要確認・日付概算)

HBM世代の変遷

HBM2が2016年に登場してから、インターフェース幅・積層数・帯域幅はどう進化してきたか。

世代インターフェース幅最大積層数最大帯域幅最大容量主な採用GPU
HBM21024-bit8-Hi256GB/s8GBNVIDIA V100
HBM2E1024-bit12-Hi460GB/s16GBNVIDIA A100
HBM31024-bit12-Hi819GB/s24GBNVIDIA H100
HBM3E1024-bit12-Hi約1.2TB/s36GBNVIDIA H200・B200
HBM42048-bit16-Hi最大2TB/s64GBNVIDIA Vera Rubin

HBM4で最も大きな変化はインターフェース幅の倍増(1024→2048bit)です。積層数も最大12-Hiから16-Hiへ増加し、容量も最大64GBへ拡張されました。ベースダイ(スタックの最下層にある制御チップ)はより高度な回路を持ち、ファウンドリ(専業製造会社)での生産が前提になりつつあります。

HBM4を量産できるのは3社だけ

TSVの形成・薄化・積層封止という複雑なを高歩留まりで量産できるメーカーは現在3社に限られています。

  • SK hynix:MR-MUF封止技術をHBM3から確立し、HBM市場の約60%を握る。2026年6月18日にHBM4E(12層・48GB・最大16Gbps/pin)のサンプルを主要顧客に出荷した。
  • Samsung:TC-NCF方式でHBM3Eの量産課題を乗り越え、NVIDIA Vera Rubin向けHBM4の採用を獲得した。
  • Micron:米国唯一のHBMサプライヤーとして地位を確立。Vera Rubin向けHBM4の3社体制に名を連ねる。
一次情報出典SK hynix Ships Samples of 12-Layer Next-Gen 'HBM4E'発行SK hynix Newsroom(公式)公開2026-06-18使用箇所SK hynixが2026-06-18に12層HBM4Eサンプルを主要顧客へ出荷・容量48GB(12段)・最大16Gbps/pin・電力効率20%超改善・耐熱性17%改善(対HBM4)・Advanced MR-MUF採用・『予定通り(on schedule)』出荷と表明 報道出典Nvidia Vera Rubin Enters Full Production: Samsung, SK Hynix, Micron Named HBM4 Suppliers発行Tech Times公開2026-06使用箇所GTC Taipei 2026での量産入り・HBM4供給3社(Samsung・SK hynix・Micron)・Vera Rubin Ultra(2027後半)とHBM4Eサンプル出荷(要確認)

3社体制の詳細と各社のシェア推移は「HBMは3社並立へ——SK hynix独占が崩れ、Vera RubinでSamsung・Micronが同時採用された」で解説しています。

HBM4の製造コストが通常DRAMを圧迫する

HBMはTSV形成・薄化・積層封止という追加工程が必要なため、1ビットあたりの製造コストが通常の(DDR5)の3〜4倍に達します。メモリメーカーが利幅の大きいHBMにウェハを優先配分する結果、PC・スマホ向けの通常DRAMの生産枠が圧迫され、価格が上昇します。

TrendForceによれば、HBMが世界のDRAMウェハ投入に占める比率は2025年の約18%から2026年に22〜23%、2027年には約30%へ上昇する見込みです。

調査会社出典Tight DRAM Supply Gives Suppliers Greater Pricing Power in HBM, with HBM Contract Prices Expected to Surge Multiples Higher in 2027発行TrendForce(プレスリリース)公開2026-06-02使用箇所HBMのDRAMウェハ投入シェアが2025年18%→2026年22〜23%→2027年約30%へ・DRAM逼迫で価格交渉力がサプライヤー側へ・HBM契約価格は2027年に数倍規模へ上昇見込み

この記事のまとめ

  • HBM4はDRAMダイを最大16枚積み、TSV(貫通電極)で電気的に直結して2048-bitのインターフェース幅と最大2TB/sを実現する(JEDEC JESD270-4)。
  • TSVはダイに直径数μmの穴を数千本掘り銅を充填した縦配線で、薄化→穴あけ→銅埋め→積層接合→封止という5工程で作られる。
  • 封止方式はSK hynixのMR-MUFとSamsungのTC-NCFが主流。ハイブリッドボンディングはHBM4Eでも採用が先送りされた。
  • 量産できるメーカーはSK hynix・Samsung・Micronの3社。NVIDIA Vera Rubin向けで初めて3社が揃った。
  • HBMの製造コストは通常DRAMの3〜4倍で、ウェハ配分の優先がDRAM全体の供給を圧迫し価格上昇の一因になっている。

この記事のまとめ

  • HBM4はDRAMダイを最大16枚積み、TSV(貫通電極)で各ダイを電気的につないで毎秒最大2TBの帯域を実現する。
  • TSVはダイに直径数μmの穴を数千本掘り銅を埋めた縦方向配線で、HBM積層の核心技術。
  • JEDEC JESD270-4(2025年4月)が定めるHBM4の仕様は2048-bit・最大8Gbps/pin・最大64GB・4/8/12/16-Hi。
  • 封止技術はMR-MUF(SK hynix)とTC-NCF(Samsung)が主流で、HBM4Eはハイブリッドボンディングの採用時期を先送りした。
  • 量産HBM4の供給はSK hynix・Samsung・Micronの3社体制で、NVIDIA Vera Rubin向けに2026年から本格的に始まっている。
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よくある質問(FAQ)

Q.HBM4はどのような仕組みで高速なのですか?+

DRAMのチップ(ダイ)を最大16枚縦に重ね、各ダイを貫く数千本の銅製の穴(TSV=Through-Silicon Via)で電気的に直結することで、データを運ぶ通り道(インターフェース幅)を2048本に増やしています。通常のDDR5が64本なのと比べると約32倍です。この広い通り道と高いクロック速度を掛け合わせて、毎秒最大2TBの転送速度を実現しています(JEDEC JESD270-4)。

Q.TSV(貫通電極)とはどういう技術ですか?+

TSV(Through-Silicon Via)は、シリコンのダイに直径数μm・深さ20〜30μmの穴を数千本掘り、銅を埋めてできた縦方向の配線です。積み重ねたダイ同士をこの銅柱でつなぐことで、横方向に長い配線なしに高速・低消費電力での信号伝達が可能になります。HBMの「積み重ね+高速接続」の核心技術です。

Q.HBM4とHBM3Eの違いは何ですか?+

最大の違いはインターフェース幅です。HBM3Eまでは1スタックあたり1024bitでしたが、HBM4(JESD270-4)では2048bitに倍増し、最大転送速度も約1.2TB/s(HBM3E)から最大2TB/sへ向上しました。積層数は最大16-Hi(HBM3Eの12-Hiから増加)、容量は最大64GBと大幅に拡張されています。SK hynixが2026年6月にサンプル出荷したHBM4Eは、さらに上位の48GB・16Gbps/pinを実現しています。

用語集

HBM/ High Bandwidth Memory
DRAMを積み重ねて広帯域にした高性能メモリ。AI半導体とセットで使われる。
DRAM/ Dynamic Random Access Memory
電源を切ると消える、高速な作業用メモリ。CPUやGPUが計算中のデータを一時的に置く。
CoWoS(コーワス)/ Chip on Wafer on Substrate
GPUと記憶用のHBMなど複数のチップを、1枚の土台(インターポーザ)の上に並べて1つのパッケージにまとめるTSMCの先端パッケージング技術。
後工程(OSAT)/ back-end / OSAT
ウェハーから切り出したチップを検査・組み立て・パッケージする工程。
パッケージング(先端パッケージング)/ advanced packaging
切り出したチップを基板に載せ、配線し、保護する工程。複数のチップを高密度につなぐ先端版もある。

参考資料・引用元

  1. JEDEC Releases JESD270-4 HBM4 Standard: Advancing Bandwidth, Efficiency, and Capacity for AI and HPC業界団体
    JEDEC(2025-04-16)— 使用箇所: HBM4の2048-bitインターフェース・最大8Gb/s・最大2TB/s・チャネル16→32・4/8/12/16-Hi・最大64GB/スタック・2025年4月16日公開
    https://www.jedec.org/news/pressreleases/jedec%C2%AE-and-industry-leaders-collaborate-release-jesd270-4-hbm4-standard-advancing
  2. HBM4 Sticks With Microbumps, Postponing Hybrid Bonding報道
    Semiconductor Engineering(2025-11)— 使用箇所: HBM4が当面マイクロバンプ(MR-MUF/TC-NCF)継続・ハイブリッドボンディング延期・Samsung早期採用検討(要確認・日付概算)
    https://semiengineering.com/hbm4-sticks-with-microbumps-postponing-hybrid-bonding/
  3. Leading Memory Innovation with HBM3E一次情報
    Samsung Semiconductor(技術ブログ)(2024)— 使用箇所: HBM3Eは24GbのDRAMダイを12段積層し36GBを実現、8段と同じ高さに収めるため各ダイを極薄化(TSV接続)
    https://semiconductor.samsung.com/news-events/tech-blog/leading-memory-innovation-with-hbm3e/
  4. SK hynix Ships Samples of 12-Layer Next-Gen 'HBM4E'一次情報
    SK hynix Newsroom(公式)(2026-06-18)— 使用箇所: SK hynixが2026-06-18に12層HBM4Eサンプルを主要顧客へ出荷・容量48GB(12段)・最大16Gbps/pin・電力効率20%超改善・耐熱性17%改善(対HBM4)・Advanced MR-MUF採用・『予定通り(on schedule)』出荷と表明
    https://news.skhynix.com/12-layer-hbm4e-sample/
  5. Nvidia Vera Rubin Enters Full Production: Samsung, SK Hynix, Micron Named HBM4 Suppliers報道
    Tech Times(2026-06)— 使用箇所: GTC Taipei 2026での量産入り・HBM4供給3社(Samsung・SK hynix・Micron)・Vera Rubin Ultra(2027後半)とHBM4Eサンプル出荷(要確認)
    https://www.techtimes.com/articles/317539/20260602/nvidia-vera-rubin-enters-full-production-samsung-sk-hynix-micron-named-hbm4-suppliers.htm
  6. Tight DRAM Supply Gives Suppliers Greater Pricing Power in HBM, with HBM Contract Prices Expected to Surge Multiples Higher in 2027調査会社
    TrendForce(プレスリリース)(2026-06-02)— 使用箇所: HBMのDRAMウェハ投入シェアが2025年18%→2026年22〜23%→2027年約30%へ・DRAM逼迫で価格交渉力がサプライヤー側へ・HBM契約価格は2027年に数倍規模へ上昇見込み
    https://www.trendforce.com/presscenter/news/20260602-13074.html

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