AIチップの土台は、いま樹脂(有機基板)からガラスへ置き換わろうとしています。AI向けパッケージが巨大化するなかで、樹脂製の基板は反りや配線の細さの限界に達し、平坦で寸法が安定したガラスコア基板が次の主役に浮上しました。Intelは2020年代後半の量産を目指し、SKC子会社のAbsolicsは米ジョージア工場で先行します。

「微細化が限界でも、チップはまだ速くなる(OSAT・先端パッケージ)」で見たとおり、性能を伸ばす主戦場は「組み立て方」へ移りました。その組み立ての一番下、チップを載せる「土台」の素材が、いま静かに入れ替わろうとしています。

この記事で動かせる図解

  1. 01AIチップの3Dモデルチップ・基板・メモリの積層を立体で確認
ひとことで言うと(初心者向け)

チップを載せる土台(基板)は、これまでプラスチックに近い樹脂で作られてきました。でもAI向けの大きなチップでは、樹脂は熱で反ってしまい、細い配線をきれいに引けません。そこで、平らで反りにくい『ガラス』を土台に使う技術が登場しました。Intelやサムスン、韓国SKCの子会社などが2020年代後半の量産を競っています。

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構造で言うと(投資家向け)

有機基板は大型AIパッケージで反り・微細配線・大面積化が頭打ち。ガラスコア基板はパターン歪み約50%減・配線密度最大10倍・パネル面積利用率75%超が強み。Intelは2030年に1パッケージ1兆トランジスタを掲げ後半量産、AbsolicsはCHIPS法計1.75億ドルで先行。市場は2034年に数十億ドル規模へ。焦点は割れと量産歩留まり。

ガラス基板とは何か

ガラス基板(ガラスコア基板)とは、半導体パッケージの土台に、従来の樹脂(有機)材料の代わりにガラスを使った基板のことです。チップを載せて配線をつなぐ「下敷き」の芯材を、樹脂からガラスに置き換えたものと考えると分かります。

ここでいうとは、できあがったチップを保護し、外部とつなぐ配線を施して「製品」に仕上げるのことです。その最下層にある基板は、複数のチップを正確な位置で支え、電気を通す土台の役割を担います。

図解を読み込み中…

ガラスを通して上下の配線をつなぐには、ガラスに微細な穴を開けて電極を通すTGV(ガラス貫通電極=ガラスに開けた穴を通して電気を縦に通す技術)が使われます。この穴あけと配線の精度が、ガラス基板の性能を左右します。

なぜ有機基板では限界なのか

有機基板(樹脂を芯にした従来の基板)は、AI向けパッケージが大型化するにつれて、反り(warpage=熱や加工で板が反る現象)という壁にぶつかりました。なぜなら、樹脂はシリコンと熱で伸び縮みする量が大きく違うため、大きなチップを載せると基板が反り、細い配線がずれてしまうからです。

具体的な数字で見ると差は明確です。有機基板の熱膨張係数(温まると伸びる度合い)は約7ppm/℃で、シリコンの約2.6ppm/℃と大きく食い違います。ガラスは3〜9ppm/℃の範囲でシリコンに近づけられ、大型パッケージでも歪みを抑えられます(TrendForce Insights)。

その結果、ガラスは有機基板に比べてパターンの歪みが約50%少なく、配線密度を最大10倍に高められるとIntelは説明しています。表面が極めて平らなため、2μm未満(髪の毛の50分の1以下)の微細配線も形成できます(Intel Newsroom)。

比較項目有機(樹脂)基板ガラスコア基板
反り(大型化時)出やすい抑えやすい
熱膨張係数約7ppm/℃3〜9ppm/℃(Si整合可)
微細配線制約あり2μm未満が可能
パネル面積利用率丸ウエハで低下角型で75%超
課題反り・配線限界割れ・コスト

ガラス基板はAIチップになぜ必要なのか

AI向けの巨大なチップは、1枚の大きなチップではなく、小さな(機能ごとに分けた小チップ)と(積層した高速メモリ)を一つの土台に並べて作られます。代表例が「AIの性能を決めるメモリとCoWoS」で解説したです。

この土台が大きく平らであるほど、より多くのチップを高密度で載せられます。しかも角型のガラスパネルは面積利用率が75%超と、丸いウエハ(大型化で約50%へ低下)より効率的で、大面積化に向きます。のAIアクセラレータが巨大化するほど、平坦で大きな土台の価値が上がります。

Intelはガラス基板を、2030年までに「1パッケージあたり1兆トランジスタ」を実現するための鍵と位置づけています。「AIを動かすAI半導体」の性能を、土台の素材が下から押し上げる構図です(Intel Newsroom)。

誰がガラス基板の量産を競っているのか

先頭を走るのがIntelです。10年の研究を経て2023年9月にガラス基板技術を公表し、2020年代後半の量産を掲げました。2026年1月にはEMIB(チップ間を高速につなぐIntelの技術)とガラスコアを組み合わせ、微小クラック(ひび)のないサンプルを公表し、量産へ前進しました(TrendForce)。

素材から量産まで一気に攻めるのが、韓国SKCの子会社Absolicsです。米ジョージア州コビントンに工場を建設し、米CHIPS・科学法から2024年に7,500万ドル、続いて1億ドル、計1.75億ドルの補助の枠組みを得ました。半導体供給網の新素材を作る商用施設としては、CHIPSの初の投資案件です(U.S. NIST / Department of Commerce)。

さらにサムスンも部品子会社のSEMCO経由で2027年の量産を目指し、TSMCやRapidusもガラス基板や、チップ間を細かい配線で中継するガラス製の板(ガラスインターポーザ)の開発を進めます。一方、素材面では日本のAGC・日本電気硝子、米Corning、独Schottが低膨張ガラスを供給し、上位5社で世界シェア約9割を占めます。日本の素材メーカーが供給網の要にいる点は見逃せません(TrendForce Insights)。

ガラス基板の課題と投資の見方

最大の課題は、ガラスが本質的に割れやすいことです。TGVの穴あけや搬送の工程で微小なクラックが入ると不良になり、(良品の割合)が落ちます。Intelが「微小クラックなし」のサンプルをわざわざ強調したのは、この割れこそが量産の最大の難所だからです。

もう一つはコストと量産技術の確立です。本格量産はIntelで2026〜2030年、Absolicsで2026年、サムスンで2027年とされ、各社まだ立ち上げ段階にあります。新しい製造ラインと装置への投資が先行するため、初期は単価が高くなります(SK Inc.)。

投資の観点では、ガラス基板は「AIパッケージの大型化が続く限り伸びる」数少ない領域です。市場予測では半導体パッケージ向けガラス基板は2025年の約18億ドルから2034年に約56億ドル(年率約13.5%)へ拡大するとされます。注目点は、誰が割れを抑えて量産歩留まりを先に確立するか、そして素材を握る日本・米国メーカーの供給網です。なお本記事は投資助言ではありません(Dataintelo)。

この記事のまとめ

  • AI向けの巨大なパッケージで、樹脂製の有機基板は反り・微細配線・大型化の限界に達した。
  • ガラスコア基板は平坦性・寸法安定性に優れ、パターン歪みが約50%少なく配線密度を最大10倍にできる。
  • Intelは2030年までに1パッケージ1兆トランジスタを掲げ、2020年代後半の量産を目指す。
  • SKC子会社Absolicsは米ジョージア工場にCHIPS法から計1.75億ドルの補助を得て先行する。
  • AGC・Corning・日本電気硝子・Schottが素材を供給。課題は割れとコストで、量産歩留まりが投資の焦点。

この記事のまとめ

  • AI向けの巨大パッケージで、樹脂製の有機基板は反り・微細配線・大型化の限界に達した。
  • ガラスコア基板は平坦性・寸法安定性に優れ、パターン歪みが約50%少なく配線密度を最大10倍にできる。
  • Intelは2030年までに1パッケージ1兆トランジスタを掲げ、2020年代後半の量産を目指す。
  • SKC子会社Absolicsは米ジョージア工場にCHIPS法から計1.75億ドルの補助を得て先行する。
  • AGC・Corning・日本電気硝子・Schottが素材を供給。課題は割れとコストで、量産歩留まりが投資の焦点。
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よくある質問(FAQ)

Q.ガラス基板とは何ですか?+

ガラス基板(ガラスコア基板)とは、半導体パッケージの土台に、これまでの樹脂(有機)材料の代わりにガラスを使った基板のことです。ガラスは平坦で反りにくく、寸法が安定しているため、AI向けの大型パッケージに細い配線を高密度で形成できます。Intelは2020年代後半の量産を目指しています。

Q.なぜ有機基板ではダメなのですか?+

AI向けパッケージが大型化すると、樹脂製の有機基板は熱や加工で反り(warpage)が出やすく、細い配線を歪みなく形成できません。ガラスは有機基板に比べてパターンの歪みが約50%少なく、2μm未満の微細配線が可能とされ、大きなチップを正確に載せられます。

Q.ガラス基板の課題は何ですか?+

最大の課題はガラスが割れやすいことと、量産技術・コストです。穴あけ(TGV=ガラス貫通電極)や搬送で微小なクラック(ひび)が入ると不良になります。Intelは2026年に微小クラックのないサンプルを公表しましたが、本格量産は2026〜2030年とされ、量産での歩留まり確立が焦点です。

用語集

パッケージング(先端パッケージング)/ advanced packaging
切り出したチップを基板に載せ、配線し、保護する工程。複数のチップを高密度につなぐ先端版もある。
チップレット/ chiplet
1つの大きなチップを、小さな複数のチップに分けて1パッケージに集める設計手法。歩留まりとコストを改善できる。
CoWoS(コーワス)/ Chip on Wafer on Substrate
GPUと記憶用のHBMなど複数のチップを、1枚の土台(インターポーザ)の上に並べて1つのパッケージにまとめるTSMCの先端パッケージング技術。
HBM/ High Bandwidth Memory
DRAMを積み重ねて広帯域にした高性能メモリ。AI半導体とセットで使われる。
後工程(OSAT)/ back-end / OSAT
ウェハーから切り出したチップを検査・組み立て・パッケージする工程。
歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。
データセンター/ data center
大量のサーバーをまとめて置き、24時間動かし続ける施設。クラウドやAIの計算はここで行われる。

参考資料・引用元

  1. Intel Unveils Industry-Leading Glass Substrates to Meet Demand for More Powerful Compute一次情報
    Intel Newsroom(2023)— 使用箇所: ガラス基板のパターン歪み約50%減・配線密度最大10倍、2020年代後半量産目標、2030年1パッケージ1兆トランジスタ
    https://newsroom.intel.com/artificial-intelligence/intel-unveils-industry-leading-glass-substrates
  2. Intel Reportedly Presents First Thick-Core Glass Substrate with EMIB, Targeting AI Data Centers報道
    TrendForce(2026)— 使用箇所: 2026年1月にEMIB+ガラスコアの微小クラックなしサンプル公表、量産2026〜2030年
    https://www.trendforce.com/news/2026/01/26/news-intel-reportedly-presents-first-thick-core-glass-substrate-with-emib-targeting-ai-data-centers/
  3. Biden-Harris Administration Announces Preliminary Terms with Absolics to Support Development of Glass Substrate Technology公的機関
    U.S. NIST / Department of Commerce(2024)— 使用箇所: AbsolicsへのCHIPS法7,500万ドル補助枠組み、ジョージア州コビントン工場、CHIPS初の商用新素材投資
    https://www.nist.gov/news-events/news/2024/05/biden-harris-administration-announces-preliminary-terms-absolics-support
  4. Absolics and U.S. Department of Commerce Announce $75 Million in CHIPS and Science Act Funding一次情報
    SK Inc. (SKC)(2024)— 使用箇所: Absolicsの量産計画・米工場、CHIPS法補助(追加1億ドルで計1.75億ドル)
    https://eng.sk.com/news/absolics-and-u-s-department-of-commerce-announce-75-million-in-chips-and-science-act-funding-to-support-manufacturing-of-breakthrough-semiconductor-material
  5. Glass Substrates Are Breaking Through the AI Chip Packaging Bottleneck業界団体
    TrendForce Insights(2026)— 使用箇所: 有機基板CTE約7ppm/℃ vs ガラス3〜9ppm/℃・シリコン2.6ppm/℃、2μm未満微細配線、パネル利用率75%超、素材5社で約9割
    https://insights.trendforce.com/p/glass-substrate-development
  6. Glass Substrate for Semiconductor Packaging Market Research Report 2034調査会社
    Dataintelo(2025)— 使用箇所: 市場規模2025年約18億ドル→2034年約56億ドル、年率約13.5%
    https://dataintelo.com/report/global-glass-substrate-for-semiconductor-packaging-market

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