AIチップは、もはや1枚の巨大なチップでは作れません。小さなチップ(チップレット)を束ねて1つの製品にします。その「分けて組み合わせる」発想は「1つの大きなチップをやめ、小さな部品を組み合わせる時代が来た」で扱いました。本稿はその先——束ねたチップ同士を「どうつなぐか」という、性能を最後に決める部分を深掘りします。
チップを小さく分けて束ねても、つなぐ線が細くて遅ければ、せっかくの部品が力を出せません。だから、チップ同士をどれだけ太く・短くつなげるかが大事になります。同じ箱の中をつなぐのが『UCIe』、箱をまたいでGPU同士をつなぐのが『NVLink』。データを1本にまとめて速く送る回路が『SerDes』です。
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D2Dインターコネクトはチップレット時代の真の律速。価値は帯域密度(GB/s/mm)とpJ/bit(移動電力)で測る。UCIeはダイ間PHYをオープン標準化し(最大32GT/s、3.0で48/64GT/s)マルチベンダ市場を開く。NVLinkはパッケージ間スケールアップを独占し、224G SerDesと先端パッケージ(CoWoS等)が性能上限を規定。配線・PHY・基板が次の付加価値の集積点になる。
ダイ間インターコネクトとは何か
ダイ間インターコネクト(die-to-die、略してD2D)とは、1つのパッケージの中で、チップ(ダイ)同士を直接つなぐ高速配線のことです。
「ダイ」とは、ウェハから切り出した1枚のチップそのものを指します。設計では、計算するダイ、入出力のダイ、メモリのダイなどを1つのパッケージに束ねます。このとき、ダイとダイの間でデータをやり取りする配線が、ダイ間インターコネクトです。基板やプリント基板を経由する従来の配線とは違い、ダイ同士をごく短い距離で密に結びます。
なぜわざわざ密につなぐのか。距離が短いほど信号は速く届き、消費電力も下がるからです。たとえば、データを1ミリ動かすのと数センチ動かすのとでは、必要な電力が大きく変わります。AIチップのように大量のデータを動かす製品では、この差が性能と電力をそのまま左右します。
UCIeとNVLinkは何が違うのか
UCIeとNVLinkは、どちらもチップ同士をつなぐ技術ですが、「つなぐ距離」と「立場」が異なります。UCIeは同じパッケージ内のダイをつなぐオープン標準、NVLinkはパッケージをまたいでGPUを結ぶNVIDIAの独自規格です。
UCIe:パッケージ内をつなぐオープン標準
UCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)は、ダイ間接続の業界標準規格です。重要なのは、これが「物理層(PHY)」と「プロトコル層」を定めている点です。物理層とは、信号を電気としてやり取りする一番下の層——配線の電圧やタイミング、接続点の並べ方そのものです。プロトコル層は、その上でどんなルールでデータを運ぶかを決めます。UCIeはこの両方を標準化し、メーカーの違うダイ同士でもつなげるようにします。
データ速度は、UCIe 2.0で1レーンあたり最大32GT/s(ギガ転送/秒)、2025年のUCIe 3.0では48/64GT/sへと倍増しました(UCIe Consortium)。同じパッケージの中で、これだけ高速な信号を多数のレーンで並走させます(UCIe Consortium)。
NVLink:パッケージをまたいでGPUをつなぐ
一方、NVLinkはNVIDIAが開発した、GPU同士を直接つなぐ独自の高速接続です。こちらはパッケージの外、複数のGPUを束ねる役割を担います。第5世代NVLinkは、1基のGPUあたり1.8TB/sの帯域を持ち、これは18本のリンク×各100GB/sで構成されます(NVIDIA)。さらにNVLink Switchを使うと、最大72基のGPUを130TB/sでつなぎ、1つの大きなGPUのように動かせます。
つまり、UCIeはパッケージ内のダイをつなぎ、NVLinkはパッケージをまたいでGPUをつなぐ。役割の階層が違います。この「近くを密に、遠くを広く」という考え方は、データセンター全体のネットワークにもそのまま続いていて、「AIの学習速度を決めるのは、GPUより“つなぎ方”だった」で扱っています(NVIDIA)。
SerDes:データを1本にまとめる縁の下の力持ち
UCIeもNVLinkも、その内側ではSerDes(サーデス、Serializer/Deserializer)という回路が働いています。SerDesは、並列のデータを1本の高速な信号に変換(直列化)して送り、受け側で並列に戻す(並列化)回路です。配線の本数を減らせるため、限られた面積で高い帯域を出せます。
1レーンあたりの速度は世代ごとに上がり、初期の28Gビット/秒から、最新世代は224Gビット/秒級に達しています。この高速化を支えるのがPAM4という信号方式で、1回の信号で2ビットを送れるため、従来方式の2倍の効率になります(要確認:方式の詳細は各社実装で差がある)(SemiWiki)。
なぜ配線がAIチップの性能を決めるのか
配線がAIチップの性能を決めるのは、AIチップが「計算する部品」と「データを供給する部品」の集合体であり、その間を大量のデータが絶えず行き来するからです。
計算がいくら速くても、データが間に合わなければ計算回路は待たされ、性能は出ません。AIのやGPUは、計算ダイのすぐ隣に(積層メモリ)を置き、太い配線で結びます。この「計算とメモリをいかに太くつなぐか」が性能を決める構図は、「AIの性能を決めていたのは、GPUより「メモリ」だった」で詳しく扱っています。
ここで効くのが「バンプピッチ」です。バンプとは、ダイをつなぐ無数の微小な接続点(はんだの突起)で、その間隔をバンプピッチと呼びます。つまり、間隔が狭いほど、同じ面積に多くの配線を通せます。UCIeでは、標準パッケージで100〜130μm、先端パッケージで25〜55μm、ハイブリッド接合では1〜25μmと、用途に応じてピッチが定められています(UCIe Consortium)。狭くするほど「帯域密度」——単位面積あたりに通せるデータ量——が跳ね上がります。接合をさらに極微細化する技術は「ハイブリッドボンディングとSoIC」で扱っています。
そして、配線は電力の鍵でもあります。データを動かすこと自体が電力を消費するため、距離が短く接続点が密なほど、1ビットを送るのに必要な電力(pJ/bit)が下がります。AIチップの消費電力が問題になるいま、「計算をどう速くするか」と同じくらい「データをどう近く・省電力で運ぶか」が設計の中心になりました。こうした配線を高密度で実現する土台がなどの先端技術です。自社AIチップを設計する企業がこの実装競争に挑む構図は、「GoogleもAmazonも、AIチップを自分で作り始めた」で扱っています。
ダイ間インターコネクトは今後どうなるのか
今後は、配線の高密度化と標準化がさらに進みます。UCIeは2.0で3D積層(ダイを縦に重ねる)に対応し、3.0で速度を倍増させました。バンプピッチは1μm級のハイブリッド接合へ向かい、ダイ同士をほぼ「貼り合わせる」水準に近づきます。これにより帯域密度は2D・2.5D実装を大きく上回ります(UCIe Consortium)。
同時に、SerDesの高速化(224Gビット/秒級)と、NVLinkに代表されるパッケージ間接続の進化が並走します。配線・物理層・基板という、かつては「裏方」だった領域が、AIチップの性能と電力を決める主戦場になりつつあります。計算の速さを競う時代から、「データをどうつなぐか」を競う時代へ——その移行のただ中にあります。
この記事のまとめ
- **ダイ間インターコネクト(D2D)**は、パッケージ内でチップ同士を直接つなぐ高速配線で、チップレット性能の律速になる。
- UCIeは同じパッケージ内のダイをつなぐオープン標準の物理層(最大32GT/s、3.0で48/64GT/s)、NVLinkはパッケージをまたいでGPUを結ぶNVIDIAの独自規格(第5世代で1基あたり1.8TB/s)。
- SerDesは並列データを高速な直列信号に変換する回路で、最新世代は1レーン224Gビット/秒級。
- バンプピッチが狭いほど配線を多く通せ、帯域密度が上がる。狭ピッチ化が高帯域の鍵。
- 計算より「データをどう運ぶか」が性能と電力を左右する。配線はAIチップ設計の中心課題になった。
この記事のまとめ
- ダイ間インターコネクト(D2D)は、パッケージ内でチップ同士を直接つなぐ高速配線で、チップレット性能の律速になる。
- UCIeは同じパッケージ内のダイをつなぐオープン標準の物理層、NVLinkはパッケージをまたいでGPUを結ぶNVIDIAの独自規格。
- SerDesは並列データを高速な直列信号に変換する回路で、最新世代は1レーン224Gビット/秒級。
- バンプ(接続点)の間隔が狭いほど配線を多く通せ、帯域密度が上がる。狭ピッチ化が高帯域の鍵。
- 計算より「データをどう運ぶか」が性能と電力を左右する。配線はAIチップ設計の中心課題になった。
よくある質問(FAQ)
Q.ダイ間インターコネクトとは何ですか?+
ダイ間インターコネクト(die-to-die、D2D)とは、1つのパッケージの中で、チップ(ダイ)同士を直接つなぐ高速配線のことです。チップレット設計では複数の小さなチップを束ねますが、それらを結ぶ配線が遅いと全体の性能が出ません。基板を経由する一般的な配線より桁違いに太く・短く・省電力なつなぎ方を指します。
Q.UCIeとNVLinkの違いは何ですか?+
つなぐ距離と立場が違います。UCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)は、同じパッケージ内のダイ同士を数ミリで結ぶオープン標準の物理層です。NVLinkは、NVIDIAが開発した独自規格で、パッケージをまたいでGPU同士を結びます。UCIeはパッケージ内、NVLinkはパッケージ間、と覚えると整理しやすいです。
Q.SerDesとは何ですか?+
SerDes(サーデス、Serializer/Deserializer)とは、並列のデータを1本の高速な信号に変換して送り、受け側で並列に戻す回路です。配線(レーン)の本数を減らせるため、限られた面積で高い帯域を実現できます。1レーンあたりの速度が世代ごとに上がり、最新世代は1レーン224Gビット/秒級に達します。
Q.なぜ配線がAIチップの性能を決めるのですか?+
AIチップは計算する部品とメモリ、複数のダイを束ねた集合体であり、それらの間を大量のデータが行き来するためです。計算が速くてもデータが間に合わなければ部品は待たされ、性能が出ません。配線を太く・短くするほど帯域が上がり、データ移動にかかる電力も下がります。だから配線が性能と電力の鍵になります。
用語集
- チップレット/ chiplet
- 1つの大きなチップを、小さな複数のチップに分けて1パッケージに集める設計手法。歩留まりとコストを改善できる。
- ASIC(カスタムチップ)/ Application-Specific Integrated Circuit
- 特定の用途だけに特化して作る専用チップ。汎用品より無駄がなく、決まった処理を安く・省電力でこなせる。
- HBM/ High Bandwidth Memory
- DRAMを積み重ねて広帯域にした高性能メモリ。AI半導体とセットで使われる。
- CoWoS(コーワス)/ Chip on Wafer on Substrate
- GPUと記憶用のHBMなど複数のチップを、1枚の土台(インターポーザ)の上に並べて1つのパッケージにまとめるTSMCの先端パッケージング技術。
- パッケージング(先端パッケージング)/ advanced packaging
- 切り出したチップを基板に載せ、配線し、保護する工程。複数のチップを高密度につなぐ先端版もある。
参考資料・引用元
- UCIe Specifications (die-to-die PHY, protocol, data rates, bump pitch)業界団体UCIe Consortium(2025)— 使用箇所: UCIeの物理層(PHY)・プロトコル層の定義、データ速度(32GT/s、3.0で48/64GT/s)、バンプピッチ範囲(標準100-130/先端25-55/3D 1-25μm)、3D対応(要確認)https://www.uciexpress.org/specifications
- UCIe Consortium Releases 2.0 Specification Supporting Manageability, System Architecture and 3D Packaging業界団体UCIe Consortium(2024-08)— 使用箇所: UCIe 2.0の3D積層対応・2D/2.5D比での帯域密度と電力効率の向上、リリース時期2024年8月(要確認)https://www.uciexpress.org/
- NVIDIA Blackwell Architecture (Fifth-generation NVLink, NVLink Switch, NVL72)一次情報NVIDIA(2024)— 使用箇所: 第5世代NVLinkの帯域(GPUあたり1.8TB/s、18リンク×100GB/s)、NVL72ドメイン(72GPU・130TB/s)、最大576GPUスケールアップ(要確認)https://www.nvidia.com/en-us/data-center/technologies/blackwell-architecture/
- PAM4 SerDes technology for AI, hyperscale and data center connectivity業界団体SemiWiki(2024)— 使用箇所: SerDesの直列/並列変換の役割、レーンあたり速度の世代推移(28G NRZ→112G/224G PAM4)、PAM4が1シンボル2ビットでNRZの2倍効率(要確認)https://semiwiki.com/
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