AIの主役がGPUだけではないのは、大量の問い合わせをさばく推論の場面で、CPUも欠かせないからである。2026年のAI計算全体のうち、約2/3は推論が占めると予測されている。その推論では、CPUとGPUを組み合わせる構成が今後の標準になるとされる。こうした需要に向けて、AMDの第6世代EPYC「Venice」は、サーバー用CPUとして最大256コアを実現した。

AIがインフラを変えていると言われるとき、注目されるのは決まってGPUだ。NVIDIAのBlackwellやVera Rubinが話題をさらう一方で、サーバーを支えるCPUは地味な存在に見えるかもしれない。だがAMDは違う答えを出した——「CPUとGPUの役割の違い」を熟知した上で、両方を同時に強化する「2本柱」戦略を走らせている。

ひとことで言うと(初心者向け)

AMDが発表した最新サーバーCPU「EPYC Venice」は最大256コアを搭載しています。AIの計算はGPUが主役ですが、大量の問い合わせを同時にさばく「推論」の場面ではCPUも欠かせない存在です。AMDはCPU(EPYC)とGPU(Instinct)の2本柱でデータセンター市場を攻めています。

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構造で言うと(投資家向け)

EPYC Venice(第6世代・Zen6cコア)は最大256コアを実現し、x86サーバーCPUの世代交代を主導。AMD FY2025データセンターセグメント166億ドル(前年比+34%)。x86サーバーCPU金額シェアはAMD約41%(2025Q4、Mercury Research)でIntelを急追。AI GPU市場はNVIDIA約92%/AMD約8%だが、Instinct MI400(HBM4搭載予定)で対抗軸を構築中。AI推論の約2/3が推論フェーズとされ、CPU+GPUの混在環境が今後の標準となる。

なぜ、サーバーCPUに256コアが必要なのか

2022年末にChatGPTが登場して以来、世界のデータセンターは「いかに多くの問い合わせを、低コストで同時にさばくか」という課題に直面した。AIモデルをユーザーに届ける推論処理()は、学習()と比べてリクエストが細かく分散し、処理のばらつきも大きい。GPUは並列演算に長けるが、リクエストのルーティングやセッション管理はCPUの領域だ。

コアが多ければ多いほど、1台のサーバーで同時に扱えるスレッドが増え、仮想マシン(VM)の収容台数も増える。クラウド事業者にとって、サーバー1台あたりの「サービス提供密度」は直接コストに効く。256コアは単なるスペック競争ではなく、インフラ経済学への回答だ。

EPYC Veniceとは何か

EPYC Veniceは、AMDが2026年5月のCOMPUTEX 2026で発表した第6世代EPYCプロセッサだ。新アーキテクチャ「Zen6c」を採用し、最大256コアを1ソケットに収める。Zen6cの「c」はコンパクト(Compact)を意味し、高コア密度を優先した設計思想を示している。前世代のTurin(Zen5)が最大192コアだったのに対し、64コア分の増加を実現した。

世代コード名コアアーキ最大コア数
第5世代(2024)TurinZen5192コア
第6世代(2026)VeniceZen6c256コア

製造はTSMCに委託しており、AMDはファブレス()として設計に集中する。チップレット()技術を活用し、複数のコンピュートダイをパッケージ上で組み合わせることで、従来の単一ダイでは実現不可能なコア数を達成している。

AIの推論処理にCPUが使われる理由

Deloitteの分析によれば、2026年にAIの計算全体の約2/3は学習ではなく推論が占めると予測されている。エージェントAIや、外部の資料を検索してから答えを作る手法(RAG)が普及した結果、モデルへの問い合わせ回数が爆発的に増えているためだ。

推論はGPUだけで行われるわけではない。「エージェントAI時代のCPUの役割」でも解説したように、小規模モデルや、数値の精度を落として軽くした(量子化した)モデルはCPU上でも十分な速度で動作する。小規模なLLM(70億〜130億パラメータ規模)をバッチ処理する場合、専用GPUを確保するよりもCPUサーバーを活用した方が、コスト効率が高いケースも多い。

さらに、大規模なデータセンターでは推論と学習が混在する。GPUクラスタが学習を担う間、CPUサーバーが推論リクエストをさばく構成がむしろ合理的だ。256コアのEPYC Veniceは、この「推論サービングに強いCPU」という需要に真正面から応えている。

AMD Instinct MI400との「2本柱」戦略

AMDのデータセンター戦略は、EPYCとInstinctの2製品ラインが車の両輪だ。

CPU側(EPYC): 前述の通り、Venice(Zen6c)で256コアを達成。マルチソケット構成では1システムで512コアを超える構成も可能になる。

GPU側(Instinct): 前世代のMI350(TSMC 3nmプロセス・1,850億トランジスタ・288GB HBM3e)に続き、次世代MI400は4搭載を計画している。HBM4は現行HBM3eから帯域が大幅に増加し、大規模言語モデルの学習に必要なデータ転送速度を引き上げる。

AI学習用GPUの市場シェアはNVIDIAが約92%を占め、AMDのInstinctは約8%に留まる。ただしROCm(AMDのGPUソフトウェア基盤)の改善と価格競争力により、一部のハイパースケーラー(大手)がNVIDIAの代替として採用を始めている。

AMDのFY2025通期売上は346億ドル(前年比+34%)で、データセンターセグメントが166億ドルを占める。EPYCとInstinctの両方がこの数字を支えており、2本柱戦略の効果が財務にも表れている。

Intel Xeonとのシェア競争——逆転は近いか

サーバーCPU市場は長年Intelが支配してきたが、AMDが追い上げている。Mercury Researchのデータ(2025年Q4)によると、x86サーバーCPUの収益シェアはAMDが約41%まで上昇した。台数シェアでは約29%と低いが、AMDが高単価の高コア数製品で差別化していることを示す。

一方でIntelは、最先端の新プロセス「Intel 18A」を使ったXeon製品で反撃を狙う。消費者向けPC市場ではIntelがまだ70%超のシェアを持ち、顧客基盤の広さは依然として強みだ。

AMDが256コアで仕掛けたのは、単純なスペック競争だけではない。ハイパースケーラーがサーバー1台あたりの処理密度を重視する時代に、「最も多くのコアを詰め込んだCPU」を持つことは調達決定において強いセールスポイントになる。Intel Xeonが最大コア数でAMDを上回った時代は終わった。「AMDの企業全体の分析」でも触れたように、AMDのチップレット設計思想がこの逆転を可能にした。

この記事のまとめ

  • AMD EPYC Venice(第6世代・Zen6cアーキテクチャ)は最大256コアを実現し、x86サーバーCPUの世代交代を主導した。
  • AI推論の約2/3を占める推論フェーズでは、GPUだけでなくCPUも重要な役割を持つ。多コアCPUは推論サービングの低コスト化に直結する。
  • AMD FY2025のデータセンターセグメントは166億ドルで、EPYCとInstinct GPUの2本柱が成長を支えている。
  • x86サーバーCPUの金額シェアはAMDが約41%(2025年Q4)まで拡大し、Intelとの差は急速に縮まっている。
  • Instinct MI400はHBM4搭載を計画しており、AI学習・推論の両面でNVIDIAへの対抗軸を強化する。

この記事のまとめ

  • AMD EPYC Venice(第6世代)はZen6cアーキテクチャで最大256コアを実現し、x86サーバーCPUの新しい上限を塗り替えた。
  • AI推論の約2/3を占めるとされる処理は、GPU専用ではなくCPUベースのサービングも含むマルチ環境で動く。
  • AMD FY2025のデータセンターセグメントは166億ドルで、EPYC(CPU)とInstinct(GPU)の2本柱が成長を支える。
  • x86サーバーCPUの金額シェアはAMD約41%(2025年Q4)まで上昇し、Intelを急追する構図が鮮明になった。
  • Instinct MI400はHBM4搭載を計画しており、学習・推論の両面でNVIDIAに挑むAMDのGPU戦略の中核となる。
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よくある質問(FAQ)

Q.EPYC Veniceと第5世代EPYC「Turin」は何が違うのですか?+

コア数と製造プロセスが大きく異なります。Turin(Zen5)は最大192コアでしたが、Veniceは新アーキテクチャ「Zen6c」を採用し最大256コアを実現しました。コンパクト設計のZen6cにより同じダイ面積により多くのコアを詰め込んでいます。AI推論や大規模仮想化に向けたコア密度の向上が最大の特徴です。

Q.AI時代にCPUはなぜまだ重要なのですか?+

AI処理は「学習」と「推論」に分かれます。学習にはGPUの膨大な並列演算が必要ですが、推論(ユーザーの問い合わせに答える処理)では、リクエストを効率よく振り分けるサーバーのCPUも不可欠です。特に小規模モデルや多数の同時接続を低コストで処理する場面ではCPUが担う役割が増しています。

Q.AMD Instinct MI400はNVIDIAのGPUに勝てますか?+

AI学習用GPUの市場シェアはNVIDIAが約92%を占めており、短期での逆転は困難です。ただしMI400はHBM4搭載で最大メモリ帯域が大幅に拡大する見通しであり、価格競争力と特定ワークロードでの性能でNVIDIAの代替選択肢として採用が広がることが期待されています。

Q.IntelとAMDのサーバーCPU競争は現在どちらが優勢ですか?+

サーバーCPUの台数シェアではIntelがまだ多いものの、収益シェアではAMDが約41%(2025年Q4)まで拡大しました。EPYCシリーズが高性能・高コア数で採用を増やした結果です。Intelはメインストリームから最先端サーバーまで幅広いラインナップを持つ強みがありますが、AMDとの差は急速に縮まっています。

用語集

推論(インファレンス)/ inference
学習済みのAIを実際に使って答えを出す処理。質問に答える・文章を生成するなど、利用時の計算がこれにあたる。
学習(トレーニング)/ training
大量のデータからAIモデルを作り込む処理。膨大な計算力を一度に必要とし、巨大なGPUクラスタを使う。
ファブレス/ fabless
自社で工場を持たず、設計だけを行う会社。製造はファウンドリに委託する。
HBM/ High Bandwidth Memory
DRAMを積み重ねて広帯域にした高性能メモリ。AI半導体とセットで使われる。
チップレット/ chiplet
1つの大きなチップを、小さな複数のチップに分けて1パッケージに集める設計手法。歩留まりとコストを改善できる。
データセンター/ data center
大量のサーバーをまとめて置き、24時間動かし続ける施設。クラウドやAIの計算はここで行われる。
ASIC(カスタムチップ)/ Application-Specific Integrated Circuit
特定の用途だけに特化して作る専用チップ。汎用品より無駄がなく、決まった処理を安く・省電力でこなせる。

参考資料・引用元

  1. AMD Reveals Next-Generation EPYC 'Venice' Processors and Instinct MI400 at COMPUTEX 2026一次情報
    AMD Newsroom(2026-05)— 使用箇所: AMD EPYC Venice(第6世代EPYC, Zen6cコア, 最大256コア)とInstinct MI400(HBM4搭載予定)のCOMPUTEX 2026発表(要確認・一次URLは https://amd.com/newsroom にて最新プレスリリースを参照)
    https://www.amd.com/en/newsroom/press-releases.html
  2. AMD Reports Fourth Quarter and Full Year 2025 Financial Results一次情報
    AMD IR(2026-02)— 使用箇所: 2025年通期売上346億ドル(+34%)・GAAP粗利率50%
    https://ir.amd.com/news-events/press-releases/detail/1276/amd-reports-fourth-quarter-and-full-year-2025-financial-results
  3. AMD FY2025 Results (Segment Detail)一次情報
    AMD IR(2026-02)— 使用箇所: セグメント別(データセンター166億・クライアント&ゲーミング146億・組み込み35億ドル)
    https://ir.amd.com/news-events/press-releases/detail/1276/amd-reports-fourth-quarter-and-full-year-2025-financial-results
  4. AMD reaches 46% of server x86 CPU revenue調査会社
    Tom's Hardware (Mercury Research)(2026-02)— 使用箇所: 2025Q4 x86サーバーCPUシェア(台数約29%・金額約41%)・第5世代EPYC
    https://www.tomshardware.com/pc-components/cpus/amd-reaches-46-percent-of-server-x86-cpu-revenue-intel-still-controls-70-percent-of-the-consumer-pc-market-share
  5. AMD Instinct MI350 Launched: 3nm, 185B Transistors, 288 GB HBM3E報道
    Wccftech(2025)— 使用箇所: Instinct MI350仕様(TSMC 3nm・1,850億トランジスタ・288GB HBM3E)とMI400/HBM4
    https://wccftech.com/amd-instinct-mi350-mi355x-launched-3nm-185-billion-transistors-288-gb-hbm3e-fp4-fp6-2-2x-faster-blackwell-b200/
  6. NVIDIA Controls 92% of the GPU Market in 2025報道
    CarbonCredits.com(2025)— 使用箇所: 2025年DC GPUシェア(NVIDIA約92%・AMD約8%)
    https://carboncredits.com/nvidia-controls-92-of-the-gpu-market-in-2025-and-reveals-next-gen-ai-supercomputer/
  7. Why AI's next phase will likely demand more computational power, not less(2026予測)調査会社
    Deloitte(TMT Predictions 2026)(2026)— 使用箇所: 推論が全AI計算に占める割合 2023年約1/3→2025年約半分→2026年約2/3。推論特化チップ市場は2025年200億ドル超→2026年500億ドル超
    https://www.deloitte.com/us/en/insights/industry/technology/technology-media-and-telecom-predictions/2026/compute-power-ai.html
  8. AMD reaches 46% of server x86 CPU revenue — Intel still controls 70% of consumer PC market報道
    Tom's Hardware / Mercury Research(2026)— 使用箇所: 2025年Q4 x86 CPUシェア Intel 70.8%/AMD 29.2%・サーバー収益でAMD台頭
    https://www.tomshardware.com/pc-components/cpus/amd-reaches-46-percent-of-server-x86-cpu-revenue-intel-still-controls-70-percent-of-the-consumer-pc-market-share

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