水道水に含まれる微量のミネラルでも、ナノメートル単位の回路には大ダメージになる。だからチップ製造には「超純水」——不純物をほぼゼロにした、抵抗率18MΩ・cmの極限の水——が必要だ。洗浄は製造工程の約3割を占め、大規模なファブでは1日に数万トンを消費する。その水を作る設備と技術を持つ会社が、知られざる形で半導体サプライチェーンを支えている。
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超純水システムはファブの建設・稼働に不可欠なインフラで、高い参入障壁を持つ。栗田工業が世界シェア約2割で首位。2020年代のファブ建設ラッシュ(TSMC・Samsung・インテル)は装置・消耗品の継続需要を生む。微細化・多層化が進むほど洗浄回数は増え、超純水の使用量も増加する構造。保守・消耗品のリカーリング比率が高く、市況耐性は本体装置より強い。
なぜ水道水では駄目なのか——不純物1μgが抵抗率を変える
半導体の回路幅は現在、数ナノメートル(nm)単位で刻まれている。1nmは1メートルの10億分の1だ。この微細な世界では、ごくわずかな不純物でも回路の動作に影響する。
水道水にはカルシウム・マグネシウム・鉄などのミネラルイオン、有機物、微生物、溶存酸素が含まれている。これを洗浄に使えば、乾燥後に残留物が回路上に析出し、(正常品の比率)を直接下げる。
超純水の純度を示す指標は電気抵抗率だ。純水はイオンをほとんど含まないため電気をほとんど通さない——すなわち抵抗率が高い。栗田工業の解説によると、半導体工場で使われる超純水の抵抗率は18MΩ・cm以上。これは理論上の純水(18.2MΩ・cm)の極限に近い値だ。
| 水の種類 | 電気抵抗率の目安 |
|---|---|
| 水道水 | 0.002〜0.05 MΩ・cm |
| 実験用精製水 | 0.5〜1 MΩ・cm |
| 半導体用超純水 | 18 MΩ・cm 以上 |
鉄イオンが1μg(マイクログラム)混入するだけで抵抗率は約17MΩ・cmに下がる。数ppb(10億分の1)レベルの不純物でも検出できるほど精密な管理が求められる世界だ。
50mプール対耳かき1さじ——純度の実感
超純水の純粋さを直感的に示す例え話がある。
水道水1リットルに含まれる不純物の総量は、超純水ではドラム缶2〜数本分、別の表現では50mプール一杯分に相当する。逆に言えば、超純水には「耳かき1さじ分」ほどの不純物しか含まれていない。
この水準は「イレブンナイン(11N)」——純度99.999999999%——と表現されることもある。「「半導体は砂から始まっていた——純度99.999999999%の円盤「シリコンウェハー」ができるまで」」で触れた高純度シリコンのイレブンナインと同じ水準が、洗浄に使う水においても求められる。
超純水の3段製造——前処理・一次純水・サブシステム
超純水は一段階の処理では作れない。栗田工業の技術解説によると、製造は**前処理・一次純水システム・サブシステム(ポリッシャー)**の3段階で構成される。
① 前処理
水道水や工業用水から大きな不純物を取り除く。砂ろ過・活性炭処理・限外ろ過膜を組み合わせ、懸濁物質・塩素・有機物を除去する。
② 一次純水システム
逆浸透膜(RO膜)・イオン交換樹脂・脱気膜などを通して、溶解したイオン・有機物・溶存酸素を極限まで除く。電気抵抗率をMΩ・cmの水準まで引き上げる核心工程だ。
③ サブシステム(ポリッシャー)
使用場所の直前で行う最終処理。長い配管を通る間にわずかに混入した微粒子・有機物・生菌を除去し、18MΩ・cmを維持したまま洗浄に届ける。配管材料には超純水に溶け出さないフッ素樹脂(PFA)が用いられる。配管そのものが汚染源にならないよう、素材の選定から設置まで厳密に管理される。
製造工程での役割——洗浄と薬品希釈の2用途
超純水の主な用途は2つだ。
洗浄(リンス): ・・の除去の後など、各工程の合間にウェハーを超純水で洗い流す。残留薬液や微細なゴミ(パーティクル)を除去するためだ。「洗浄工程は全製造工程の約30%を占める」、最も頻度の高い工程の一つだ。
薬品希釈: フッ酸・アンモニア水など各種薬液を超純水で希釈して使用する。希釈に使う水に不純物があれば薬液の濃度や性能が変わってしまうため、超純水が使われる。
この2用途のために、大規模な300mmファブでは1棟あたり1日に数千〜数万トンの超純水を消費する。半導体工場は電力だけでなく水も大量に使うインフラであり、「AIデータセンターの水消費問題」と並んで、水資源の持続可能性という文脈でも語られるようになっている。
市場構造——栗田工業が世界シェア約2割で首位
超純水システムの設計・構築・保守は、高い専門知識を要する分野だ。
日経ビジネスの報道によると、栗田工業(日本)は半導体向け超純水システムの世界シェア約2割を持ち、世界首位とされる。TSMCやSamsung、インテルなど世界中のファブに超純水システムを納入している。
国内ではグループ会社のオルガノも同分野に強みを持つ。超純水製造から「洗浄装置」との連携まで、ウェハー洗浄工程全体を支えている。
参入障壁が高い理由の一つは「実績」だ。ファブ側は品質保証のために実績のあるサプライヤーを継続して使う傾向がある。一度採用されると、増設・新設でも同じサプライヤーが選ばれやすい。2020年代に入って世界各地でのファブ建設ラッシュが続くなか、超純水システム需要も増加が続いている。
まとめ
- 超純水は電気抵抗率18MΩ・cm以上、純度イレブンナイン(11N)という極限の水。鉄イオン1μgで抵抗率が低下するほど精密に管理される。
- 水道水との不純物差は「50mプール対耳かき1さじ」レベル。
- 製造は前処理→一次純水システム→サブシステムの3段構成。配管材にはフッ素樹脂(PFA)を使う。
- 洗浄と薬品希釈の2用途で使われ、大規模ファブ1棟で1日に数千〜数万トンを消費する。洗浄工程は全製造工程の約30%。
- 栗田工業が世界シェア約2割で首位。参入障壁が高く、ファブ建設ラッシュで需要は拡大傾向にある。
この記事のまとめ
- 超純水は電気抵抗率18MΩ・cm以上、純度イレブンナイン(11N)という極限の水で、半導体ウェハーの洗浄と薬品希釈に使われる。
- 鉄イオン1μgで抵抗率が低下するほど敏感。水道水との不純物差は「50mプール対耳かき1さじ」レベル。
- 前処理→一次純水システム→サブシステムの3段構成で製造し、配管はフッ素樹脂(PFA)を使用。
- 洗浄工程は全製造工程の約30%を占め、大規模ファブ1棟で1日に数千〜数万トンの超純水を消費する。
- 栗田工業が世界シェア約2割で首位。ファブ建設ラッシュで需要は増加傾向にある。
よくある質問(FAQ)
Q.超純水とはどんな水ですか?+
イオン・有機物・微粒子・細菌などの不純物を極限まで取り除いた、理論純水に近い水です。電気抵抗率が18MΩ・cm以上(理論純水は18.2MΩ・cm)という数値で管理され、純度は99.999999999%(イレブンナイン)とも表現されます。鉄イオン1μg(マイクログラム)が混入するだけで抵抗率が低下するほど、不純物に敏感な水です。
Q.半導体製造でなぜ超純水が必要なのですか?+
半導体の回路幅が数ナノメートル(nm)という超微細なスケールになっているからです。水道水に含まれるわずかなミネラルや有機物でも、乾燥後に残留すれば回路の短絡や断線を引き起こします。洗浄工程は全製造工程の約30%を占めており、それだけ多くの水が使われるため、超純水の品質がチップの歩留まりに直結します。
Q.超純水はどうやって作られますか?+
「前処理」「一次純水システム」「サブシステム(ポリッシャー)」の3段階で製造されます。前処理で砂ろ過・活性炭・限外ろ過膜で大きな不純物を除き、一次純水で逆浸透膜・イオン交換・脱気膜によりイオンや有機物を極限まで除去し、最後のサブシステムで使用点直前にさらに磨き上げます。配管にはフッ素樹脂(PFA)を使い、超純水に不純物が溶け出すのを防ぎます。
Q.超純水市場のトップ企業はどこですか?+
栗田工業(日本)が半導体向け超純水システムの世界シェア約2割で首位とされています。国内ではグループ会社のオルガノも同分野に強みを持ちます。参入障壁が高く一度採用されると継続されやすい構造で、世界各地でのファブ建設ラッシュが需要を押し上げています。
用語集
- ウェハー/ wafer
- 半導体を作る土台となる円盤状のシリコン。ここに多数のチップをまとめて作る。
- エッチング/ etching
- レジストに覆われていない部分の膜を、気体や薬液で削り取り、回路パターンを膜に刻む工程。
- 成膜(せいまく)・塗布/ deposition / coating
- ウェハー表面に、配線や絶縁体になる薄い膜を一様につける工程。液体を塗る『塗布』も含む。
- フォトレジスト/ photoresist
- 露光で回路パターンを写すために、ウェハーに塗る感光性の薬剤。これがないと回路を焼けない。
- 歩留まり/ yield ヨミ:ぶどまり
- 1枚のウェハーから取れるチップのうち、欠陥のない良品の割合。
参考資料・引用元
- 純水よりはるかに純度が高い超純水(水処理教室)一次情報栗田工業 KCRセンター(公式)(不明)— 使用箇所: 半導体用超純水は抵抗率18MΩ・cm以上・鉄イオン1μg/Lで17MΩ・cmに低下・イオン/有機物/生菌/微粒子を含まない理論純水https://kcr.kurita.co.jp/solutions/water-school/014.html
- 超純水製造装置のしくみ(水処理教室)一次情報栗田工業 KCRセンター(公式)(不明)— 使用箇所: 前処理→一次純水システム→サブシステムの3段構成・半導体製品の洗浄や薬品希釈に使用https://kcr.kurita.co.jp/solutions/water-school/015.html
- 半導体製造を支える超純水とは報道菅製作所(不明)— 使用箇所: 不純物量の50mプール例え(水道水ドラム缶2〜数本分・超純水耳かき1さじ分)・洗浄工程が製造工程の約30%https://agus.co.jp/?p=7369
- 世界の半導体企業支える栗田工業 「超純水」で世界首位報道日経ビジネス(2024)— 使用箇所: 栗田工業は超純水の半導体向け世界シェア約2割で首位https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00155/091800192/
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