RTX 50シリーズで採用されたGDDR7は最大32Gbps/pinと過去最速のグラフィックスメモリだ。それでもNVIDIA H200がHBMを選ぶ理由は、帯域密度・実装方式・コスト構造の三つの違いにある。

AIブームでメモリへの関心が高まるなか、ゲーム向けGPUとAI向けGPUでは使われるメモリが根本的に異なります。前者はGDDR7、後者はHBMです。この違いを理解することは、半導体業界の市場構造を読み解くうえで重要な視点になります。HBMの基礎は「AIの性能を決めていたのは、GPUより「メモリ」だった」で確認できます。

ひとことで言うと(初心者向け)

GDDR7はゲームGPUに搭載される最新世代のグラフィックスメモリ。AIチップが使うHBMとは実装方式が根本的に違い、HBMのほうが帯域密度がはるかに高い。ゲームにはGDDR、AIにはHBMという棲み分けが2020年代の主流です。

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構造で言うと(投資家向け)

GDDR7(JEDEC 2023標準化・最大32Gbps/pin・PAM4)はRTX 5090で512ビット×28Gbps=1.79TB/s実現。HBM3E(H200・141GB・4.8TB/s)は同GPU比で約2.7倍の帯域。GDDRはPCB横並び実装で低コスト・コンシューマ市場向け、HBMはTSV積層+シリコンインターポーザでAI/HPC向け。量産はSamsung・SK hynix・Micronの3社体制。

GDDRとDRAMの違いとは——グラフィックス専用に進化したメモリ

コンピューターのメモリはすべて(Dynamic Random-Access Memory)という基本技術の上に成り立っています。ノートPCに刺さる普通のメモリも、GPUに実装されるGDDRも、AI向けのHBMも、根っこはすべてDRAMです。

GDDRは「Graphics DDR」の略で、グラフィックス用途に特化したDRAMです。普通のDDRメモリが着脱可能なモジュール形式でマザーボードに装着されるのに対し、GDDRはGPUの基板(PCB)に直接はんだ付けされます。そのため抜き差しはできませんが、PCBに横並びに配置してGPUと短い配線でつなげるため、データ転送速度を高めやすい構造になっています。

GDDRの世代ごとの主要スペックを以下の表に示します。

規格最大速度バス幅/ダイシグナリング代表GPU
GDDR616 Gbps/pin32ビットNRZRTX 3090
GDDR6X24 Gbps/pin32ビットPAM4RTX 4090
GDDR732 Gbps/pin16ビットPAM4RTX 5090

GDDR7はGDDR6Xよりどれくらい速くなったのか

GDDR7の最大速度は32Gbps/pin(信号ピン1本あたり毎秒32ギガビット)で、GDDR6Xの最大24Gbps/pinに比べて約33%高速です(JEDEC標準JESD239・2023年標準化)。

速度向上の鍵は二つあります。一つは信号の送り方の進化、もう一つはメモリチップ(ダイ)1個あたりの配線の本数(バス幅)の変更です。

GDDR6XとGDDR7はいずれもPAM4(4段階の電圧を使い分けて信号を送る方式)を採用しています。従来の方式が1本の信号線で「0か1」の2値しか伝えられないのに対し、PAM4は4つの電圧レベルを使って「00・01・10・11」の4値を1度に送れます。つまり、同じ信号線の数でも理論上2倍のデータを転送できます。

注目すべきはバス幅の変化です。GDDR6/GDDR6Xがダイあたり32ビットのバス幅だったのに対し、GDDR7はダイあたり16ビットに絞っています。これにより1つのGPUに搭載できるメモリダイの数を増やせるため、そのぶん合計バス幅を拡大できます。RTX 5090は32個のGDDR7ダイを搭載して合計512ビットの帯域を確保し、28Gbps×512ビット÷8=約1.79 TB/sという帯域を実現しました。

なぜAI GPUはGDDR7でなくを選ぶのか

それでもAI向けGPUがGDDR7ではなくを選ぶ理由は、実装方式の根本的な違いにあります。

以下の表でゲーム用RTX 5090とAI用H200を比較してみましょう。

指標RTX 5090(GDDR7)H200(HBM3E)倍率
メモリ帯域約1.79 TB/s4.8 TB/s約2.7倍
総容量32 GB141 GB約4.4倍
バス幅512ビット5,120ビット10倍
実装方式PCBはんだ付けシリコンインターポーザ上のTSV積層—

H200のHBM3Eがなぜ4.8 TB/sという圧倒的な帯域を実現できるのでしょうか。答えはの方式にあります。HBMは、DRAMチップをTSV(シリコン貫通電極=チップを縦に貫く配線)で積み重ねた縦積みのメモリです。

そのうえでHBMは、GPUと同じシリコンインターポーザ(チップ同士を細かい配線でつなぐシリコン製の中継板)に載せられ、技術で実装されます。この中継板を介してGPUと数千本の配線で直結するため、バス幅が5,120ビット(RTX 5090の10倍)という値が可能になります。

GDDRをPCBにはんだ付けする方式では、基板の物理的な制約からバス幅を広げられる範囲に限界があります。数千本の信号線を引き回すにはシリコンインターポーザが不可欠で、これがHBMの本質的な優位性です。ただしシリコンインターポーザは高コストで、製造には高度な先端パッケージング技術が必要です。したがって、コンシューマGPUへの採用はコスト的に成立しません。

AI・HPCではデータを大量かつ高速に流し続けるやワークロードが中心で、メモリ帯域がGPUの演算速度と並ぶボトルネックになります。このためHBMの2.7倍超という帯域密度が直接的な価値を持ちます。

GDDR7を搭載した主な製品とサプライヤーは

2025年に登場したNVIDIA GeForce RTX 50シリーズがGDDR7の最初の大規模採用例です。RTX 5090は28Gbps×512ビットで約1.79 TB/sを達成し、ゲーム向けGPUとして歴代最大の帯域を記録しました。AMD Radeon RX 9000シリーズも同時期にGDDR7を採用しています。

GDDR7を量産するのはSamsung・SK hynix・Micronの3社です。

3社はいずれも2024〜2025年にかけてGDDR7の量産体制を整えており、コンシューマGPU市場ではGDDR6X→GDDR7の世代移行が進んでいます(要確認)。将来的にはモバイルGPUや車載向けへの展開も想定されていますが、搭載タイミングは各サプライヤーの増産ペースと製品ロードマップに依存します。

GDDRとHBMの市場は二極化する——用途別の棲み分けは続くのか

GDDRとHBMの棲み分けは固定化しており、今後も二極の構造は維持される見通しです。

コスト・汎用性ではGDDRが圧倒的に有利です。PCBに直接はんだ付けするだけで実装できるため、高価なシリコンインターポーザが不要です。GPUカードとして量販店で販売しやすく、ゲーム・モバイル・車載といったコンシューマ市場は引き続きGDDRが主流となります。

AI・HPCではHBMが不可欠です。「GPUが最強なのは「足し算を並列でやる」からだった」でも触れたように、大規模な学習・推論ワークロードではメモリ帯域がGPUの演算性能と並ぶ律速要因です。HBMの4.8 TB/s超という帯域密度はGDDRでは構造上実現できないため、AI GPUはHBMを選び続けます。

次世代のHBM4では帯域がさらに増大する方向にあり、「AIの性能を決めていたのは、GPUより「メモリ」だった」で詳しく解説しています。「HBM4でSamsungがシェアを奪い返す——SK hynix独占が崩れる構図」もあわせてご参照ください。なお本記事は投資助言ではありません。

この記事のまとめ

  • GDDRはPCBに横並びではんだ付けで実装。HBMはTSVで縦積みしてシリコンインターポーザ上に接続——実装方式が根本的に異なる。
  • GDDR7は最大32Gbps/pinをPAM4で実現。RTX 5090で28Gbps×512ビット=約1.79 TB/sを達成した。
  • AI GPU(H200)のHBM3Eは4.8 TB/sとRTX 5090比で約2.7倍——帯域密度の差が棲み分けを生む。
  • コスト・汎用性ではGDDRが有利。ゲーム・モバイル・車載にはGDDR、AI・HPCにはHBMという二極市場が固定化。
  • GDDR7を量産するのはSamsung・SK hynix・Micronの3社。コンシューマGPU市場はGDDR7世代へ移行済み(要確認)。

この記事のまとめ

  • GDDRはPCBに横並びで実装・HBMはTSVで縦積みしてインターポーザ接続——根本的に実装方式が異なる。
  • GDDR7は最大32Gbps/pinをPAM4で実現。RTX 5090で28Gbps×512ビット=約1.79 TB/sを達成した。
  • AI GPU(H200)のHBM3Eは4.8 TB/sとRTX 5090比で約2.7倍——帯域密度の差が棲み分けを生む。
  • コスト・汎用性ではGDDRが有利。ゲーム・モバイル・車載にはGDDR、AI・HPCにはHBMという二極市場が固定化。
  • GDDR7を量産するのはSamsung・SK hynix・Micronの3社。コンシューマGPU市場はGDDR7世代へ移行済み(要確認)。
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よくある質問(FAQ)

Q.GDDR7とHBMはどう違いますか?+

GDDRはGPUの基板(PCB)にはんだ付けで横並びに実装するメモリで、コストが低く汎用的に使われます。HBMはDRAMを縦に積み、GPUと同じシリコンインターポーザ(チップ同士をつなぐシリコン製の中継板)の上に近接実装する方式で、バス幅(配線の本数)が1024ビット以上と圧倒的に広く帯域密度が高い。ゲームGPUはGDDRでコストを抑え、AI・HPC GPUはHBMで最大帯域を確保するという棲み分けが定着しています。

Q.GDDR7はGDDR6Xよりどれくらい速いですか?+

GDDR7の最大速度は32Gbps/pinで、GDDR6Xの最大24Gbps/pinに比べて約33%高速です。どちらもPAM4(4段階の電圧を使い分けて信号を送る方式)を採用しますが、GDDR7はメモリチップ(ダイ)あたりのバス幅を従来の32ビットから16ビットへ半減させ、その分多くのダイをGPUに実装しやすくして帯域を拡大しています。

Q.GDDR7を搭載した主な製品は何ですか?+

2025年に発売されたNVIDIA GeForce RTX 50シリーズ(Blackwellアーキテクチャ)が代表例で、RTX 5090は28Gbps×512ビットで帯域約1.79 TB/sを達成しました。AMD Radeon RX 9000シリーズも同時期にGDDR7を採用しています。GDDR7はSamsung・SK hynix・Micronが量産しており、コンシューマGPU市場ではGDDR7世代への移行が完了しています(要確認)。

用語集

HBM/ High Bandwidth Memory
DRAMを積み重ねて広帯域にした高性能メモリ。AI半導体とセットで使われる。
DRAM/ Dynamic Random Access Memory
電源を切ると消える、高速な作業用メモリ。CPUやGPUが計算中のデータを一時的に置く。
推論(インファレンス)/ inference
学習済みのAIを実際に使って答えを出す処理。質問に答える・文章を生成するなど、利用時の計算がこれにあたる。
学習(トレーニング)/ training
大量のデータからAIモデルを作り込む処理。膨大な計算力を一度に必要とし、巨大なGPUクラスタを使う。
パッケージング(先端パッケージング)/ advanced packaging
切り出したチップを基板に載せ、配線し、保護する工程。複数のチップを高密度につなぐ先端版もある。
CoWoS(コーワス)/ Chip on Wafer on Substrate
GPUと記憶用のHBMなど複数のチップを、1枚の土台(インターポーザ)の上に並べて1つのパッケージにまとめるTSMCの先端パッケージング技術。

参考資料・引用元

  1. JESD239 — GDDR7 SGRAM Standard (Graphics Double Data Rate 7)業界団体
    JEDEC(米固体技術協会)(2023)— 使用箇所: GDDR7の業界標準規格(JESD239・2023年制定)。最大32Gbps/pin・PAM4シグナリング・ダイあたり16ビットバス幅を規定(要確認・JEDEC標準)
    https://www.jedec.org/standards-documents/docs/jesd239
  2. Samsung GDDR7 — Specifications and Development Announcement一次情報
    Samsung Semiconductor(2024)— 使用箇所: SamsungのGDDR7量産・仕様発表。最大32Gbps/pin・PAM4採用・ダイあたり16ビットバス幅(要確認・Samsung公式)
    https://semiconductor.samsung.com/us/consumer-storage/partner-portal/gddr7/
  3. GeForce RTX 5090 — Specifications一次情報
    NVIDIA(2025-01)— 使用箇所: RTX 5090のGDDR7スペック。32GB GDDR7・512ビットバス幅・28Gbps→帯域約1.79 TB/s(要確認・NVIDIA公式)
    https://www.nvidia.com/en-us/geforce/graphics-cards/50-series/rtx-5090/
  4. SK hynix GDDR7 — Product Overview一次情報
    SK hynix(2024)— 使用箇所: SK hynixのGDDR7量産体制。GDDR7はSamsung・SK hynix・Micronが量産(要確認・SK hynix公式)
    https://product.skhynix.com/products/dram/gddr7.go
  5. NVIDIA H200 Tensor Core GPU — Specifications一次情報
    NVIDIA(2024)— 使用箇所: H200のHBM3Eスペック。141GB HBM3E・帯域4.8 TB/s(RTX 5090の約2.7倍)(要確認・NVIDIA公式)
    https://www.nvidia.com/en-us/data-center/h200/

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